I WANNA BE A PHOTOGRAPHER　第1回

Bernard MATUSSIERE

ベルナール・マチュシエール　写真家

text by IIZUKA Hidemi

パリジャンとしての思想

パリジャンとはフランスはパリにて生まれた人達、またはパリで生活をしている人達をさす言葉だが、写真家ベルナール・マチュシエール氏はセーヌ川のサン・ルイ島で生まれ育ち、毎日セーヌ川を渡り、ノートルダム寺院を眺めながら学校に通っていた生粋のパリジャンである。

彼の父親はホテル・レストランガイドブック『MICHELIN』の調査員、母親はファッション雑誌『ELLE』の編集部員であった。日本で『ELLE』が創刊された当時のアートダイレクションを担当したのもベルナール氏の母親である。
この様な家庭や生活環境の中で生まれ育ったベルナール氏が、写真家となるいきさつや写真に対する思いや考え、そして生粋のパリジャンとしての思想を彼の作品を紹介しながら話していきたいと思う。

幼い頃の話はベルナール氏の自伝書が何時か出版される時にでも読んで頂くことにして、今回はベルナール氏が独り立ちし、仕事を持つようになった頃からの話をしたいと思う。

17歳の時、ベルナール氏の母親が勤める雑誌『ELLE』の写真現像ラボに見習い研修生として入社することになるが、写真の現像やプリント作業に関して特別関心はなかった。しかし15歳の時に母親から譲り受けたRolleiflexという写真機で、既に写真を撮ることがあったので特別抵抗はなくラボの仕事に興味を持った。

Rolleiflexとは四角い箱型の写真機で、その四角い箱形の上部分を覗くようにして写真を撮るので、お辞儀をしたように頭を下げながら撮影するものである。いかにもプロの写真家が使用する写真機と思わせるもので、Zeiss製レンズが搭載されていた。そのような写真機を持っていたベルナール氏の母親ではあったが、写真を撮ることにまったく興味はなく、ただ家族や子供達の記録写真を撮影するためだけに使用していた。

その時代のパリジャン達の間で家族写真の撮影はRolleiflexのZeiss製のレンズ、という流行があったかどうかは知らないが、家族写真を大切にしたい言う母親の思いがあったのは確かであった。

そんな時代のパリジャンがとても素敵に思えた。

SUTDIO MULLER/スタジオ・ミュレー

見習い研修から半年がたち『ELLE』の写真現像ラボの社員となる。
『ELLE』ということもありラボ作業の内容は様々だったようだが、多くの有名カメラマン達のプリントを担当することにより、白黒プリント技術の腕を磨いた。

『ELLE』の写真現像ラボの仕事をして1年後、当時『ELLE』の写真を撮っていた写真家Emile MULLER/エミール・ミュレー氏から「自分の写真スタジオとラボを作るんだが一緒にやらないか！」とベルナール氏は誘われた。

ミュレー氏は雑誌の写真や報道写真をよく撮る写真家で、スタジオ撮影やラボ作業に関しては全く経験はなかった。
このミュレー氏はフランスを代表する写真家の1人で、誰でもが知っているRobert DOISNEAU,Willy RONIS,Robert CAPA, André KERTESZなどと同時期に活躍した写真家で、1996年に他界している。

写真を撮ることにも興味を抱いていたベルナール氏は何の迷いもなくミュレー氏の誘いに応じ、1968年2年間勤務した『ELLE』のラボを退社することになる。