第37回 森山大道個展『北海道』(その1)
ラットホールギャラリー
第37回 森山大道個展『北海道』(その1)
ラットホールギャラリーでは、2009年2月8日(日)までの日程で、森山大道個展『北海道』を開催しています。
今回の作品群は、今からちょうど30年前の1978年に撮られたものを中心とした未発表作品約70点から構成されています。当時森山さんは、日々の生活への一種の肉離れを起こし、次第に“ここではないどこか”へ逃れたいと感じるようになっていたといいます。そこで北海道行きを決意した彼は、札幌に3ヵ月間アパートを借り、北海道中を撮影してまわりました。しかし、そのとき撮影された膨大なネガはその後、ほとんどプリントされることなく眠りつづけていたのです。今回、そのネガをあらためて発掘、660ページを超える写真集『北海道』の出版とともに本個展の開催となりました。
また、個展のオープニングに際し森山さん本人から、当時の思いや、いま発表することの意味など、興味深いお話の数かずを聞くことができました。「ネズミの穴」では、今回から4回にわたり、オウプナーズ編集部を交えておこなった、その対談の模様をお伝えしようと思います。(北村信彦)
北村信彦/HYSTERIC GLAMOURPhoto by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)
30年間ダンボールのなかで眠っていた、幻の北海道
北村信彦 今回の作品は、ほとんどが30年前に撮られたものなんですよね。
森山大道 はい、1978年です。5月、6月、7月と3ヵ月、札幌にアパートを借りて撮りました。
北村 そのときは、すぐに写真集なり個展なりで発表するつもりはなかったんですか?
森山 ええ。まったくそういう前提はなかったですね。ただ『アサヒカメラ』に取材費と称してアパート代を出してもらっていましたので、3回ほど掲載しました。でも、それ以降はプリントにすることすらプツッと途絶え、フィルムのままダンボールのなかで眠っていました。
いまやらなかったら、一生やらなかったかもしれない
──1998年に『アサヒグラフ』に連載され、その後単行本化された『犬の記憶 終章』のなかでは、この写真群を本にするには、まだ自分で自分にうまく説明がつかない、と書かれていましたが、今回の個展と写真集の発表は、そこに説明がついたと解釈していいのでしょうか?
森山 じつは10年ちょっと前にも、本にしようよという話はあったんです。だから、そのときすぐにプリントしておけば本になったんですが、正直いうと僕の気持ちのなかで、もうちょっと放ったらかしておきたいというのがあったんです。熟成させるとかそういう意味じゃありません。30年前の北海道には、とても寂しい思いで行きましたから、なんとなくネガを見返してみたいという気持ちにならなかったんです。別に確たる理由があったわけではないんですが、妙なひっかかりがどっかにあって、なんとなくそのまま時間が過ぎていったというかんじですね。
ようやくやろうと思ったのは、ここで前回の個展(『it』)をやってしばらく経ってから、綿谷 修さんに「もうずいぶん時間も経ったし、そろそろ北海道やりませんか」と声をかけてもらったのがきっかけでした。僕もさすがに、ここで出さなかったらもうやらないなと思ったので決心したんです。そういう意味では、とてもいいタイミングで声をかけてもらったと思っています。
北村 あらためて30年前のネガをプリントしてみて、どう感じました?
森山 もちろん、見ればそのときの状態とか気持ちとかが蘇りますから、ある種の懐かしさは感じました。でも、実際ネガに写っている事物そのものは、30年も経つとほとんど忘れちゃってるんです。だから、まったく新しい世界を見るような感じで自分の写真を眺めることができました。膨大なベタ焼きをずっと目で追っていくと、見知らぬ自分がいたり、見知らぬ街があったり。なにか全然別のものを見るような不思議な感覚でしたね。
森山大道個展『北海道』
2009年2月8日(日)まで開催中
ラットホールギャラリー
12:00-20:00(月曜休)
RAT HOLE GALLERY & BOOKS
東京都港区南青山5-5-3-B1
Tel. 03-6419-3581
http://www.ratholegallery.com