第38回 森山大道個展『北海道』(その2)
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2015年4月17日

第38回 森山大道個展『北海道』(その2)

ラットホールギャラリー

第38回 森山大道個展『北海道』(その2)

前回に引きつづき、『北海道』展のオープニングに際しておこなった、森山大道さんとの対談の模様をお伝えします。いまだからこそ語られる森山さんの言葉から、今回の個展と写真集が、このタイミングで出るべくして出たものだということがわかってきました。(北村信彦)

北村信彦/HYSTERIC GLAMOURPhoto by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)

30年経って、ようやく積極的に見ようと思えた写真たち

北村 10数年前には実現しなかった「北海道」の発表ですが、考えてみるとこの10年、森山さんは国内、海外ふくめ相当いろいろ撮られてますよね。

森山 そうですね。新宿を撮り、大阪を撮り、ブエノスアイレスを撮り、ハワイも撮りました。でも、そういう精力的に動きまわった10年間があったからこそ、いまあらためて北海道だと思えたんでしょうね。いまなら、積極的に見返して、いま思うカタチのものができるんじゃないかと。だからというわけじゃないんですが、やっぱりベタ焼きを見直してみると、当時『アサヒカメラ』のために選んだ僕のセレクトが、いかにヤワだったかを感じましたね。そのときは、そのとき思い込んだイメージしか見えてなくて、ずいぶん目こぼしをしてたな、というのが実感です。30年も経つと目もフラットになるし、フレキシブルになりますね。

第38回 森山大道個展『北海道』(その2)

北村 そういう意味でも、いまのタイミングというのはちょうどよかったんじゃないですか。

森山 ほんとにタイミングがよかったです。ハワイも終わって、ちょうどこれから、また東京を撮りはじめようという時期ですから。

北村 ハワイの展覧会も、もちろん見せてもらいましたが、僕としては軽い嫉妬もあったんです。でも、今回この「北海道」展がここでできて、本もつくらせてもらってほんとによかったな、と思っています。

600ページ超というボリュームが気持ちを楽にしてくれた

──今回の写真のセレクトには北村さんも入っていたんですか?

北村 いえ、森山さんに一切おまかせしました。だから実際に目にするのは今日がはじめてなんです。本も今日ここに来る前に1時間ぐらいかけてじっくり見て北海道の旅をしてきたばかり。じつは本になる前にラフがあったんですが、あえてちらっとしか見なかった。やっぱり出来上がったものをインフォメーションなしに見た方が新鮮だと思って。

──で、ご覧になっていかがでした?

第38回 森山大道個展『北海道』(その2)

北村 たとえばこれまで僕らが見てきた「新宿」にしろ「大阪」にしろ、街そのものが被写体としてファンキーな場所じゃないですか。だけど30年前の北海道と聞くと、もしかしたら日本の原風景というか、日本の田舎独特のもの寂しさみたいなものが漂っちゃうのかな、なんて思っていたんです。でも、できあがった本を見て、やっぱり森山さんだな、と思いましたね。弾けてました。もちろん当時の森山さんの気分も映り込んでいるわけですが、それが30年という時間を経ることで、マイナスな気分がいっさい排除され、新鮮な写真群になっていたのが印象的でした。

森山 そうですね。当時出してたら、またちがうものになったでしょうね。おなじ写真の見え方がちがうということもありますが、600何十ページという、ちょっと信じられないくらいのボリュームになったことで、心情的なこだわりみたいなものを挟む余地がほとんどなくなった。つまり今回は、30年前、僕が3ヵ月かけて撮ったものを、片っ端から入れることができるというシチュエーションだったということです。だから、本をつくるうえで気持ちが楽でしたね。もちろん、本に相対する気持ちというのはいつにも増して強かったんですが、反面とても楽でした。気持ちのフットワークが軽いというか。当時つくっていたらきっと、コレもあり、アレもあり、というふうにはいかなかったでしょう。心情的なものに絡めとられて、もっとムーディになっていたかもしれません。

北村 場所柄、しっとりしやすいですしね。

森山 どうしても北の風景というのは、ある種ムーディになりやすいんです。しかも、北海道にいたあの時期というのは、僕のなかでトーンダウンしていた時期でしたから。あの3ヵ月間、僕は毎日の決めごととして、とにかくサラリーマンのように毎朝写真を撮りに出るということだけを決め、気持ちが乗ろうが乗るまいが撮って回りました。だから、撮っててそんなに高揚もしないし、かといって行く前に思い込んでたような気持ちでもなく、なんかこう、わりと機械的に写してたようなかんじでした。逆にいまになって見ると、そういうのがよかったんじゃないかという気がしています。

第38回 森山大道個展『北海道』(その2)

森山大道個展『北海道』
2009年2月8日(日)まで開催中
ラットホールギャラリー
12:00-20:00(月曜休)

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Tel. 03-6419-3581
http://www.ratholegallery.com

           
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