more trees|あらたな森の可能性を探って━━more trees5年間の歩み
Lounge
2015年4月23日

more trees|あらたな森の可能性を探って━━more trees5年間の歩み

more trees|5周年記念パーティレポート

あらたな森の可能性を探って――more trees5年間の歩み

2007年、「もっと森を」をコンセプトに設立された森林保全団体「more trees」。それから5年。呼びかけ人である音楽家・坂本龍一氏と仲間たちは、日本ひいては世界の森に息吹を吹き返すべく、一歩ずつ着実に歩を進めてきた。12月5日に開かれた5周年記念パーティには、more treesの理念に共鳴し、活動を支えてきた約150人が出席。坂本氏も全国ツアーの合間を縫って駆けつけ、5年半の歩みを振り返った。

Photographs by JAMANDFIXText by TANAKA Junko (OPENERS)

rumors|通販サイトへ

団体設立のきっかけはTシャツのスローガン!?

東京・白金台のアダムエロペ・ビオトープ。ところ狭しと会場を埋め尽くしているのは、プロダクトデザイナーやファッションディレクター、森林コンサルタントなど、普段なかなか見ることのない取り合わせの面々。ヒノキのいい香りが漂う枡(ます)を片手に、なにやら真剣な面持ちで前方を眺めている──

more trees|5周年記念パーティレポート 02

more trees|5周年記念パーティレポート 03

その視線の先にいたのは、more trees代表の坂本龍一氏。more treesの設立5周年を記念して催されたパーティでのひとコマだ。「ある日、Tシャツのスローガンを考えていたときに“No Nukes, More Trees(=核をなくして、もっと森を)”という言葉が頭に浮かんだんです。これがmore treesをはじめることになったそもそものきっかけで……」と切り出した。とくに「もっと森を」という言葉には、考え方のちがいや国のちがいを越えて人びとに訴えかける力があることを実感したという。

「でも実際に森のなかに入って、そこに腰を据えている方たちと焼酎を交わしたときにおもいました。『これは生半可な気持ちじゃできない、すごいことをはじめちゃったな。スローガンどころの騒ぎじゃない』ってね(笑)。苗を植えても、70年ほどかけてようやく成木(せいぼく)になるという世界ですから。ちょっとビビリましたけど、こればっかりは途中で投げ出すわけにいきません。大変な道ではあるけれど、ぼくたちの意志を継いでくれる若い人たちを育てていくということも含めて、あらたな森の可能性を探ってきました」

森づくりプロジェクト「more treesの森」

組織自体は2007年の7月に設立したものの、more treesの活動が本格化したのは11月下旬のこと。高知県梼原(ゆすはら)町で、森づくりプロジェクト「more treesの森」第1弾をスタートさせたのがきっかけだった。それから5年のあいだに「more treesの森」の数は、北海道から九州まで全国に11カ所、海外ではフィリピンキリノ州に1カ所と、計12カ所にまで拡大した。

more trees|5周年記念パーティレポート 04

more trees|5周年記念パーティレポート 05

現在、more treesの活動の軸となっているこの森づくりプロジェクトだが、なにも植林活動のことだけを指すわけではない。ところ変わればニーズも変わる。森は生息する地域と深く結びついているため、まずは各地域の現状と必要な“処置”を把握することからすべてははじまるのだ。たとえば、森林資源が豊富な日本だが、じつは国土の25%を占めるのは人工林。そして、その大半は長年放置されてきたため、間伐(=適当な間隔で木を伐採すること)を中心とした整備が求められている。いっぽう海外では、急激に森林が姿を消しているため、まずは森林資源の減少を食い止めるためのアクションと、同時に植林によってあらたな森を育てていくことが求められているといった具合に。

大切なのは、それぞれの森が持っているポテンシャルを最大限に引き出すという姿勢で保全活動に取り組むこと。more treesでは、自分たちの地域に生息する森を、誰よりも愛し誰よりもよく知る地域住民をこのプロジェクトの主役と位置づけ、つねに彼らと協働しながら森づくりを進めてきた。スライドを見ながら、12カ所の「more treesの森」を振りかえった坂本氏は、各地の市長や村長、住民たちとのさまざまなエピソードを語り、会場を沸かせた。「いろんな方に支えていただいた5年間でした。そして、more treesの森をとおして、さまざまな地域の方たちとの深い関係も築くことができました。その輪はまだまだ広がりつつあります。なんといっても、森づくりというのは息の長い話ですから、腰を据えて末永く取り組んでいきたいとおもっています」

都会と森の距離をどうやったら近づけられるか

そう語る坂本氏の傍らで感慨深げな表情を浮かべていたのは、more trees事務局長の水谷伸吉氏。坂本氏とともに「more treesの森」をはじめ、カーボンオフセット(※)の推進や国産材を利用したものづくりなど、more treesのさまざまなプロジェクトを取り仕切ってきた中心人物だ。

※more treesのカーボンオフセットサービス=主に経済活動によって排出されるCO2を、森林が吸収する量でオフセット(相殺)すること

more trees|5周年記念パーティレポート 06

more trees事務局長の水谷伸吉氏

「都会と森、都会と農村など、距離があるもの同士をどうやったら近づけられるか。そのことをつねに念頭に置いて、more treesのプロジェクトを進めてきました」と語る水谷氏。伐採された木材を活用しておこなうものづくりもそのひとつだ。「健全な森をつくるためには、間伐や下草刈りによって出てきた木材を活用して販売するという、循環のサイクルを生み出さなくてはいけません。仮に活用のめどが立たなければ、間伐した木材は山に放置され、森本来が持つ回復機能を阻害してしまうことになります。more treesがものづくりをする理由。それは、森からやってきた木材を製品に変えて、それを都会で販売するという、この循環のサイクルを実現するためなんです」

これまでに発表した製品は、深澤直人氏デザインの木製のベンチや鳩時計、熊谷有記氏デザインのブローチ、清水慶太氏デザインの万年カレンダー、小林幹也氏デザインのフレーム棚など、プロダクトデザインの第一線で活躍するデザイナーたちが手がけたものばかり。2011年には、木製の携帯「TOUCH WOOD」で、相性が悪いと言われていた木材と精密機械の両立を実現。おもちゃから日用品まで、さまざまなラインナップを取りそろえ、森のめぐみとともにあらたな可能性を追求しつづけている。

そしてこの5周年記念パーティの場で発表された新製品が、緒方慎一郎氏デザインの「かさね重」だ。木目が細やかで美しいことで有名な鳥取県智頭町の智頭杉をぜいたくに使い、サイズのことなる5種類の重箱に仕上げた。その美しいたたずまいに、パーティの参加者たちは感嘆の声をあげていた。

more trees|5周年記念パーティレポート 07

「スティックモビール」

more trees|5周年記念パーティレポート 08

「りんごのけん玉」

more trees|5周年記念パーティレポート 09

智頭杉を使った重箱「かさね重」

パーティ会場だったアダムエロペ・ビオトープの1階では、そんなmore treesの木製品がすべて見られるポップアップ・ショップ「more trees exhibition at Biotop ―wonder forest 森から生まれるプロダクト―」を開催中。12月25日(火)までの期間限定なので、ぜひこの機会に一度訪れてみてほしい。

more trees exhibition at Biotop ―wonder forest 森から生まれるプロダクト―
日程|~12月25日(火)
営業時間|11:00~20:00
会場|アダムエロペ・ビオトープ
東京都港区白金台4-6-44
Tel. 03-3444-2421

more trees|モア・トゥリーズ
more treesとは、文字通り「もっと木を」という呼びかけではじめられた地球規模の森づくりプロジェクト。坂本龍一氏をはじめ5人の発起人と、その呼びかけに賛同した世界各国の100人以上の人びとによって設立された。人工林が危機的状態にある日本国内では間伐を促進し、急速に森林が減少している海外では植林をおこなっている。

rumors|通販サイトへ

           
Photo Gallery