Secrets behind the Success|連載第3回 「アウラニ」マネージング・ディレクター エリオット・ミルズさん
ビジネスパーソンの舞台裏
第3回|エリオット・ミルズさん(「アウラニ」マネージング・ディレクター)
「ディズニー×ハワイ」を成功に導いた男(1)
ビジネスで成功を収めた成功者たちは、どう暮らし、どんな考えで日々の生活を送っているのだろう。連載「Secrets behind the Success」では、インタビューをとおして、普段なかなか表に出ることのない、成功者たちの素顔の生活に迫ります。
第3回目のゲストは、昨年ハワイに誕生したリゾートホテル「アウラニ・ディズニー・リゾート&スパ コオリナ・ハワイ」(以下、アウラニ)を統括するエリオット・ミルズさん。ハワイの豊かな文化にディズニーのテイストが程よくブレンドされた、あたらしいハワイを体験できるスポットとして早くも話題となっている。そんなアウラニのマネージング・ディレクターとして、忙しい日々を送るミルズさんの素顔とは。
Photographs by NAKAMURA Toshikazu (BOIL)Interview & Text by TANAKA Junko (OPENERS)
ハワイの文化と訪れる人とをつなぐ場所
ハワイ・オワフ島の西海岸に、いま世界中から注目を集めているリゾートエリアがある。古代ハワイの王族たちの保養地だったことでも有名なコオリナ地区だ。ここには手つかずの自然が数多く残されており、オワフにいながらにして、ゆったりとした静かな環境を手に入れることができる。
2011年8月29日、ここコオリナに、ディズニーのあたらしいリゾートホテル「アウラニ」がオープンした。359の客室と481のヴィラ、プール、スパ、ダイニングなどの施設を有する8万5000平方メートルの敷地は、色鮮やかなコバルトブルーのラグーンに囲まれた美しいビーチに隣接。現在、ホテルの営業をつづけながら、プールとダイニングの増築を進めており、2013年春の工事完了をもってリニューアル・オープンする予定だ。
──オープンして約1年4カ月。これまでのアウラニを振りかえっていかがですか?
オープン以来、おかげさまで非常に好調な滑り出しを見せています。まずは、この流れを止めることなく、キープしていくことが第一の目標です。
──「ディズニー」と聞いてまず頭に浮かぶのは、ディズニーランドやディズニー映画から連想される夢と魔法の世界。各地のディズニーランドに併設されたホテルには、その世界観が余すことなく表現されています。いっぽうのアウラニは、そうしたテーマパーク内のホテルとはすこし趣が異なるそうですね。ミルズさんから見て、アウラニのどういったところがディズニーらしく、どういったところがディズニーらしくないとおもわれますか?
“夢と魔法の王国”でおもいきり楽しんだあと、その余韻にひたりながら過ごしていただくのが、ディズニーランドに併設したホテルだとすると、アウラニはゆったりとリゾートライフを楽しんでいただくためのホテルです。アメリカ本土には、「ディズニー・バケーション・クラブ」というタイムシェアのリゾート施設がありますが、アウラニはそうしたリゾート施設としての役割と、アクティビティーやショーなど、訪れた人を一瞬にして夢の世界へいざなうレクレーション施設の役割を兼ね備えた、まったくあたらしいタイプのホテルなんです。
ディズニーは「ストーリー・テリング(=人に物語を伝えること)」を得意とする会社で、そこで働く私たち自身も、自分たちが「世界一のストーリー・テラー(=話がじょうずな人)」 と自負しているところがあります。アウラニにもその要素が反映されているのですが、シンデレラや白雪姫といったおとぎ話を人に伝えるこれまでのアプローチとは異なります。今回は、雄大な自然が育んだハワイ独自の歴史や文化、そしてそこに宿る独自のスピリッツを、“物語”として後世に語り継いでいきたいという想いがありました。そこでわれわれは、地元の方がたの協力を得ながらハワイについて理解を深め、物語をすこしずつ形づくっていったんです。
──そして、そのできあがった物語を歌い上げていく舞台がアウラニだというわけですね。
はい。ディズニーの世界観をハワイにそのまま持ち込むのではなく、ハワイに根付く文化と訪れる人とをつなぐ、ある種のポータルのような場所をつくりたかったんです。これは、ディズニーにとってもはじめての挑戦でしたが、その結果、世界でも非常にユニークなコンセプトを持つホテルができたとおもいます。
ゆったりリゾートライフを満喫したい大人へ
──ミルズさんの年代の方がアウラニを訪れるとしたら、どんな楽しみ方をおすすめしますか?
そうですね。わたし自身が2児の父親ということもあるので、おなじように子ども連れで訪れる方を想定してお話しますね。まず、おすすめコースをまわる前に立ち寄っていただきたいのが、子ども専用のプレイハウス「アンティーズ・ビーチ・ハウス」です。ここではクラフト教室やフラレッスン、好みのキャラクターに仮装できるドレスアップ体験など、1日中いろんなプログラムがおこなわれているので、安心して子どもたちを預けることができます。
子どもたちを笑顔で送り出したら、アウラニのスパ「ラニヴァイー ディズニー・スパ」を体験してみてください。ここには、ジャグジーやサウナはもちろん、ハワイ伝統のマッサージ「ロミロミ」、タイ古式など、150以上もの極上のトリートメント・コースが用意されています。スパで極上の癒しを味わったあとは「オレロ・ルーム」へ。いわゆるラウンジバーのような位置づけのお店ですが、ここにはアウラニならではのユニークな娯楽があります。ハワイ語で“言葉”を意味する“オレロ”。お酒を楽しみながら、ハワイ語を学べるというのがコンセプトのお店なんです。ハワイに息づく大切な文化のひとつであるハワイ語に触れてみる、そんな時間を過ごすのも素敵だとおもいます。
──たしかにそんなリラックスした環境で言葉を学べるのはうれしいですね。ほかにおすすめはありますか?
それから、ホテルの目の前に広がったビーチもおすすめです。非常に美しいビーチで、おそらくオワフでは一番ではないかとおもいますよ。日が暮れたら今度はナイトショーの時間。オールドフラから創作フラまで、さまざまな踊りや歌が楽しめるハワイアンショー、人気のディスニー・キャラクターが登場するダンスタイムなど、ハワイの伝統とディズニーテイストを融合させた、アラウニだけのエンターテイメント「スターリット・フィ」は1日の締めくくりにぴったりな内容だとおもいます。
挙げればきりがないのですが、隠れ家風の大人用プールや、地元の食材にこだわったダイニングなど、アウラニはゆったりとリゾートライフを満喫したい大人にこそぴったりのホテルだとおもいます。
As to Disney photos, logos, properties:©Disney
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第3回|エリオット・ミルズさん(「アウラニ」マネージング・ディレクター)
「ディズニー×ハワイ」を成功に導いた男(2)
生粋のハワイアンがすすめるとっておきスポットとは?
──今度は生粋の“ロコ”(=ハワイアン)であるミルズさんに、ハワイのおすすめスポットをうかがいたいとおもいます。ハワイと言えば、世界有数のビーチリゾートですが、ミルズさんがハワイで一番好きなビーチはどこでしょう?
わたしはサーファーなので、どうしてもサーフィンをするのにぴったりの場所ということになってしまうのですが、故郷のハワイ島にある「Pueo's」というビーチが好きですね。
──では、ロマンチックな夕日を見たいとおもったときは、どこへ向かわれますか?
じつは、西岸に位置しているということもあって、アウラニのビーチの向こうに沈む夕日は格別なものがあります。いろんな夕日を見てきましたが、ここの夕日は本当にロマンチックですよ。この立地ならではの特権ですよね。
──せっかくハワイに来たのなら、ハワイならではの伝統的な料理を楽しみたいという方も多いとおもうのですが、ミルズさんのお気に入りのレストランはありますか?
わたしの妻がつくるものを除いてという話になりますが(笑)お気に入りはふたつあります。ひとつ目は、アウラニにある「アマアマ」です。ハワイ伝統の味にモダンエッセンスをくわえた、“パシフィックリムスタイル”の料理を提供しています。より伝統的な味を楽しみたいときには、オアフの「オノ・ハワイアン・フード」へ向かいますね。
──今日はばっちりハワイアンスタイルでまとめていらっしゃいますが、どういったところで買い物をされることが多いのでしょうか?
ハワイ島の「Sig Zane」というブランドのシャツを着ることが多いですね。オーナーと親しいということもあって、ちょくちょくお店に遊びに行っています。
As to Disney photos, logos, properties:©Disney
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第3回|エリオット・ミルズさん(「アウラニ」マネージング・ディレクター)
「ディズニー×ハワイ」を成功に導いた男(3)
家族が心のよりどころ
──ミルズさんは、大学時代から一貫してリゾート業界に身をささげ、現在はその最高峰のひとつであるディズニーで活躍されているわけですが、ご自身の経験から、ビジネスで成功を収めるためにはなにが必要だとおもわれますか?
基礎となる価値観を持っていることがとても大切だとおもいます。感覚的なものだけではなく、家族のように心のよりどころとなる存在が欠かせません。そうした後ろ盾があってはじめて、ビジネスをするうえで欠かせない、正しい判断を下すための価値観というものを築いていけるのだとおもいます。もちろん、勤勉さや努力、ときには忍耐も必要です。さらに、ディズニーではつねに革新的であるよう求められるので、いろいろなアイデアを出していく姿勢も。さらに付けくわえるなら、仕事でお付き合いのある方がたに対して、誠実であることも大切ですね。そういったことが相まって物事が前に進んでいきます。
──迷ったときや人生の節目におもいかえす、先輩や上司の教えはありますか?
「これ!」というものはないのですが、ビジネスや生きていくうえで基礎となる価値観のようなものは、自分の両親やメンター(恩師やすぐれた指導者の意)、人生でかかわってきた人たちから影響を受けて、できあがっていったものだとおもいます。わたしの場合、大きな決断をするときには、上司や部下にとって、あるいは自分の家族にとって、なにが一番正しいのかというのを基準にして物事を判断するようにしています。
──先ほどすこしディズニーの社風について話が出ましたが、入社後カルチャーショックのようなものはありましたか?
ディズニーに入って驚いたのはそのユニークなビジネスの進め方です。これまでに多くの企業がハワイに進出してきましたが、ディズニーはほかの企業とまったくちがう方法でハワイにやってきました。ご存じのとおり、ハワイは人口140万人ほどの小さな州で、ここで生活する人たちは伝統をとても大切にしています。ディズニーは、まずそうしたハワイに息づく文化を深く知る、ということからスタートしたんです。たくさんの時間とたくさんの人材を投入して。そして、ホテルのコンセプトからプログラムに至るまで、地域の住民やリーダーとの対話をつうじてつくりあげていきました。
“アウラニ”というのは、ハワイ語で“メッセンジャー”という意味があります。アメリカ本土に拠点を置くディズニーが、こうして準備に時間を費やして、ハワイの歴史や文化をきちんと伝えていこうとしている。それ自体が非常にユニークなんですね。「ハワイの文化を理解するには、アウラニにお越しください」──そう言えるようになるには、文化的な背景をきちんと伝えていかなければいけませんし、それをまず私たち自身が理解しなければいけませんから。でもディズニーには、その大きな責任を背負う覚悟がありました。非常に細かなところにも注意を払って、ハワイが持つ文化的な価値とディズニーテイストをうまく融合させた、これまでにないホテルを完成させたんです。
成功者とは、愛を分かち合い、愛を受け取ることができる人
──そのアウラニのマネージング・ディレクターとして、忙しい日々を送っていらっしゃるミルズさんですが、心身の緊張をほぐすために、なにかこころがけていることはありますか?
3歳の娘と生まれて6週間の息子がいますので、時間を見つけては子どもたちとビーチで過ごすようにしています。それから、30分とか1時間のまとまった時間が取れるときは、サーフィンをすることが多いですが、サーフィン以外にもいろんなマリンスポーツをします。どうしてかって? 海のなかにいると電話がつながらないですよね(笑)。
そして冬になったら、コロラドの方へ行ってスノーボードをします。山だと電波が届きませんから、これまた電話がつながらない(笑)。そういった自然のなかで時間をすごすことが、自分にとって一番のリラックス法です。
──では、電波が届いてしまう地上の生活で(笑)心を落ち着かせてくれるラッキーアイテムはありますか?
3歳の娘の写真を電話の待ち受け画面にしています。見ていると自然と笑みが出てくるんです。仕事の合間にふと緊張がほぐれる瞬間です。
──最後に、ミルズさんがイメージする成功者とはどんな方でしょう?
ひとことで言えば、「愛を惜しみなく与える人」ということになるでしょうか。それから、周りの人たちと愛を分かち合い、そして愛をきちんと受け取ることができる人ですね。
愛を惜しみなく与える人──ミルズさんがイメージする成功者は、くしくも彼の人物像をこれ以上ないほど的確にあらわしたものであった。人をもてなすリゾート業界で活躍する彼は、仕事ではもちろんのこと、プライベートでも、家族や周りの人たち、そして故郷であるハワイに対してつねに愛ともてなしの心を忘れない。そんな彼が、業界一二を争うホスピタリティーの高さで知られるディズニーとタッグを組んだいま、彼の愛ともてなしの心は、アウラニという拠点を介して世界中へ広がっていくことだろう。
エリオット・ミルズ|Elliot Mills
アメリカ合衆国ハワイ州、ハワイ島出身。セイントジョセフ高校を卒業後、ハワイ大学マノア校にて旅行産業経営学の学資を取得。また、コーネル大学ホテル経営管理学部のゼネラル・マネージメント・プログラムを終了。リゾート業界に20年以上のキャリアを持ち、ハワイ州カウアイ島やマウイ島、オアフ島のさまざまなリゾートホテルでの管理職を経て、マリオット・リゾートで総支配人を務めていた経歴を持つ。2009年5月より現職。合計359の部屋と481のディズニー・バケーション・クラブ・ヴィラを有するリゾートの日々の管理からリゾート内のすべての業務までを統括する。また、カピオラニ ウーマン&チルドレン病院にて役員も務める。