Secrets behind the Success|連載第2回 レバレッジコンサルティングCEO 本田直之さん
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2015年6月22日

Secrets behind the Success|連載第2回 レバレッジコンサルティングCEO 本田直之さん

ビジネスパーソンの舞台裏

第2回|本田直之さん(レバレッジコンサルティングCEO)

ノマド型ビジネスのすすめ(1)

ビジネスで成功を収めた成功者たちは、どう暮らし、どんな考えで日々の生活を送っているのだろう。連載「Secrets behind the Success」では、インタビューをとおして、普段なかなか表に出ることのない、成功者たちの素顔の生活に迫ります。

Photographs by NAKAMURA Toshikazu (BOIL)Interview & Text by TANAKA Junko (OPENERS)

第2回目のゲストは、レバレッジコンサルティングCEOの本田直之さん。シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループのJASDAQ上場に尽力。現在は、日本とアメリカに拠点をかまえ、日米のベンチャー企業への投資事業をおこなう傍ら、「少ない労力で多くの成果をあげること」を目的にした、レバレッジマネジメント(※)のアドバイスをおこなっている。その独自の経営ノウハウを説いたレバレッジシリーズをはじめ、著書は38冊、累計部数は200万部を超える。また、“仕事=遊び”をモットーに、ワインスクールの講師や、経営者を中心としたトライアスロンチーム「Team Alapa」の主宰も務めている。東京とハワイを拠点に、複数の仕事を流動的にこなす“ノマド型”ビジネスマン、本田さんの素顔の生活に迫る。

※レバレッジマネジメント=外部の知識、外部の経験、外部の労力、外部の資金、外部のネットワークの効率活用、強みのさらなる強化、仕組みづくり、オートメーションなどを効率的に活用し、「いかに少ない労力で大きなリターンを得るかという経営の仕組み」を構築して、企業成長のためのアドバイスをおこなう。

縛られないで生きるためには、自分で全部責任を取らなくちゃいけない

――本田さんはいまでこそ、世界中を旅しながら複数のビジネスをこなす“ノマドライフ”を送っていますが、もともとはひとつの企業に勤める会社員でした。著書(『ノマドライフ~好きな場所に住んで、自由に働くために、やっておくべきこと~』/2012年/朝日新聞出版)のなかで、ノマドとは「『どこでもビジネスができる』という感覚。自分が行く先々で、あるいは行き先をからめながら、いろいろなところでビジネスを起こすイメージ」と定義されています。会社員だった本田さんが、ノマドに移行したきっかけはどんなものだったのでしょうか?

言葉は後づけのようなところがあるんですが、いろんなものに縛られないで生きたいというのは、学生のころからあったんです。とはいえ、会社員のときに縛られないで生きるっていうのは無理な話なので、それをどうやって縛られない方に持っていくかっていうのを、試行錯誤しながら、いろいろやってきたという感じですね。

――やはり、会社員をしている人は、そういった生活に憧れを持ちながらも、実際に行動に移すのは難しいという人が多いとおもうのですが、そこから次のステップに近づくためには、どこからスタートすればいいでしょうか?

Secrets behind the Success|本田直之 02

できないとおもってしまっているか、できない状況なのにやろうとするか、そのどっちかのケースが圧倒的に多いとおもうんです。縛られないで生きるためには、自分で全部責任を取らなきゃいけないし、そのための力を自分が持ってないといけない。あとは、考え方も大事です。闇雲(やみくも)にやっても難しいですから。できないとおもってあきらめる人も、できるのにあきらめる人もいるのは事実です。一番よくないのは、準備もしていないのに、いきなりはじめてしまうことですね。ぼくも、実際に行動に移すまで、それこそ学生時代から15年ぐらいかけて準備を進めてきました。

――本田さんは、ハワイに住みたいというおもいが先にあって、それに向けて準備を進めてきたという感じですか?

ぼくの場合は、ハワイというか島に住みたいというのが先にありました。子供のころ、うちの父が沖縄に単身赴任していたんです。遊びに行ってみたら、海がすごくきれいで、空は青くて抜けていて、人もゆるくて、ご飯もおいしい。一種の洗礼を受けたんですね。そのときには深く考えていなかったんですけど、おそらく原体験として、「島っていいな」というのはあったとおもいますね。そういう場所を求めて、大学3年のときに1ヵ月間フィジーに滞在したんです。海がすごくきれいなところで、ダイビングをするには最高でした。ただ、住むとなったらピンとこなかったんですね。翌年はハワイに1ヵ月滞在したんですが、そのとき「ここだ!」とおもいました。直感でピンときたんです。それからは、ハワイに住むためにどうすればいいかってことを考えはじめました。それが21歳のときのことです。

いたいときにいたい場所にいて、やりたいことができること。それが、ライフスタイルを豊かにする

――いまはそれを実現して、ハワイと東京の2ヵ所を拠点にされていますが、やはりハワイにも東京にも拠点を持つというのは、本田さんにとって重要ですか?

「家というのは、ひとつしっかりしたものを持っていればいい」っておもっている人が多いですよね。でも、家族が使うスペースというのは限られているので、ぼくだったら、ひとつ立派な家を持つよりは、自分のライフスタイルや仕事、いろんなことをふくめた拠点が自分の好きなところにある方がいい。そうすると、純粋にハワイだけってことでもないし、日本だけってことでもない。移動しながら生活する――そんなふうに、自分のいたいときにいたい場所にいて、やりたいことができるっていうのが、よりライフスタイルを豊かにするとおもうんです。

――実際に2ヵ所に住むようになって、ライフスタイルや仕事に変化はありましたか?

そうですね。「移動しながら生活する」っていうことは、仕事も選んだり絞ったりする必要がありますよね。やれないこともたくさんでてきます。たとえば、つねにどこかにいるとか、人をたくさん雇用するとか。そういうものを削り落としていくプロセスが必要でした。いわば「選択」と「集中」です。そのおかげで、ずいぶん無駄はなくなりましたよ。ほんとうに自分が快適な、ハッピーなことだけにフォーカス(集中)できるようになったんです。それに、場所によって人も文化も違うので、移動するたびに自分をリセットできるんです。いろんな場所を行き来するというのは、頭のストレッチになっているとおもいます。クリエイティビティが上がって、自分のビジネスにも生活にもプラスになっています。

Secrets behind the Success|本田直之 03

――もともと、そういった効果を期待してはじめたことだったのでしょうか?

いや、はじめる前にはまったく予期していなかったですね。まわりにそういった生活を送っている人がいなかったので、それこそ手探り状態でしたよ。参考になるような本もなかったですしね。2004年に本格的に準備をはじめてから、3年ぐらいかけてじっくり準備を進めていきました。

―― “その道の先輩”のような人はいましたか?

特定のだれかというわけではないんですが、アメリカに留学していたときに、そういう生活を送っている人が結構いたんです。夏は涼しいコロラドに住んで、冬はフェニックスに住んでという具合に。そのときですね。拠点がひとつじゃなくてもやっていけるとおもったのは。そこで、退職した人やお金持ちの人だけじゃなくて、普通の人がそういう生活を送っているのを目の当たりにしてからは、マンハッタンで立派な家を買って贅沢な生活をするより、いろんな場所に拠点がある方が、自分がつねに快適な状態でいられるし、ライフスタイルも充実するとおもったんです。

――なるほど。とはいえ、複数の拠点を持つというのは、日本ではまだまだ一般的ではないので、とてもコストがかかるイメージを持っている人が多いとおもうのですが。

意外と、その方がコストを安く抑えられるんですよ。かわりにできないこともいっぱいありますが、どっちを取るかですよね。全部を手に入れようとするから、一歩を踏み出せなくなって、ハッピーじゃなくなってしまうんだとおもいます。必要なのは、ほんとうに自分がやりたいことはなにか、求めているものはなにかを選び抜く力です。もちろん勇気がいることだとおもいます。この先どうなるかはわからないし。だけど、(もしノマドライフを送りたいなら)やってみる価値はあるんじゃないかとおもいます。いまはどこでも生活できるし、どこでも仕事できる時代です。ぼくが準備をはじめたころは、こんなに環境が整っていませんでした。iPhoneはもちろん、携帯もなかったし、そのころは、ここまで技術が進化するとは想像もできなかったんです。ぼくの場合は20年近くもかかってしまいましたが、いまはもっと短い期間で実現できるのではないでしょうか。

ビジネスパーソンの舞台裏

第2回|本田直之さん(レバレッジコンサルティングCEO)

ノマド型ビジネスのすすめ(2)

自分のスタイルに合ったものを選ぶ能力が必要

――本田さんがもっとも大きな影響を受けた、人生の先輩と呼べる人はいますか?

人生の先輩と呼べる人はいっぱいいますが、ひとりだけ「この人!」というのはないんです。それぞれがそれぞれに素晴らしいなとおもうので、ひとりに絞る必要はないんじゃないかなとおもっています。ぼくは、仕事もひとつだけっていうのは考えられないんです。いろんなビジネスを進めていくなかで、それぞれがミックスして、相互作用するところがおもしろいと感じています。

――それでは、大切にしている格言のようなものはありますか?

(6月に出たばかりの)あたらしい本に『Less Is More』というタイトルをつけたんですが、これがいま自分のなかで一番しっくりくる言葉です。“Less Is More”というのは、モノがより少ない状態が豊かさにつながっていく。より少なくすることで、より幸せになっていくという哲学のようなもの。もともとは、ミース・ファン・デル・ローエ(※)というドイツ出身の建築家が提唱した、無駄のないシンプルな建築を指す言葉です。そういう意味では、iPhoneも“Less Is More”ですよね。“ガラケー”に比べると、機能は優れているのに、ボタンもないし、シンプルでマニュアルいらず。いまは、プロダクトにしても考え方にしても、そっちの方向に時代が進んでいるとおもいます。

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※ミース・ファン・デル・ローエ=1886~1969年。ドイツ生まれの建築家。近代建築様式の代表者の一人で、鋼材・ガラスによる高層建築を提唱。バウハウスの最後の校長を務めたのち、米国に亡命。 (出典:デジタル大辞泉)

―― “Less Is More”というのは、レバレッジマネジメントにもつうじる考え方なのでしょうか?

“Doing More With Less”っていう、行動に対する部分でより少ない労力で大きな成果をあげようっていうのが、もともとレバレッジの考え方なんです。それがだんだん進化してきて、行動だけじゃなく、モノとかも全部含めた、“Less Is More”という考えがしっくりくるようになってきたんです。

―― “Less Is More”という言葉は、本田さんの働き方や生き方を象徴しているように感じるのですが、どのような道のりを経て、“より少ないことが豊かさや幸せにつながる”という考えに行き着いたのでしょうか?

もともと、モノよりは自分の経験とか環境の方が大事だとおもっていたんです。よりオーガニックに生きるというか、モノをたくさん得たとしても幸せにはなれない。そんなおもいを、年々強めていったという感じですね。もしハワイで、ものすごく飾り立てた生活をしていたらカッコ悪いんです。その一方で、ラグジュアリーなブランドを身につけて、ニューヨークに住みたいという人もいます。必要なのは、自分のスタイルに合ったものを選ぶ能力、つまり審美眼だとおもいます。

かつて「いっせーのーで」って、みんなおなじモノを追い求めて買ってという時代がありました。年収1千万円になったら、こういうクルマに乗って、こういうところに住んで……という決まりきったイメージのもとに。それが昔ながらのマーケティングだったわけですが、もうしっくりこないんです。いまはいろんな選択肢があります。昔の幸せの価値観でゴールを目指していくと、ハッピーじゃない人がたくさん出てきてしまうとおもいます。自分にはなにが必要かということを、きちんと考えて選択する。そういったことが大切な時代になってきたのではないでしょうか。

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――昔とおなじやり方は通用しなくなってきていると。

周りの環境が大きく変わってきているので、おなじやり方でやっても仕方ないとおもうんです。いまは経済が成長しなくなり、かつてのように右肩上がりではなくなりました。インターネットやモバイルでビジネスが急速に進化して、効率的にビジネスができるようになりましたよね。距離が短くなったり、国際電話がリーズナブルになったりという、物理的な変化もありました。ぼくが留学していたころは、1ヵ月の電話代が10万円というような時代だったんです。それが、いまや携帯やパソコンをつかえば無料でできますからね。エアラインもLCC(格安航空会社)が出てきて、バスみたいな感覚で海外に行けるようになりました。だからこそ、いままでの考え方にとらわれる必要はないんじゃないかとおもいます。ものすごく環境が変わってきているわけなので。

つねに頭を柔軟な状態にしておきたい

――そうですね。いまの時代でしたら、2ヵ所に拠点を持ちたいとか、ノマドライフに移行したいとおもったら、すぐに実行できるのかもしれません。でも、まだそうした周りの環境が整っていなかった時代に、本田さんをそこに向かわせたものってなんだったのでしょうか?

そうしたいという気持ちかな(笑)。だけど、20年前には、ここまでいろんなことができるようになるとはおもっていませんでした。ある程度お金を貯めて、50歳ぐらいまでにハワイに移ったら、居酒屋でもやろうとおもっていたんですよ(笑)。それが、10年以上早く実現したのは、環境がよくなったおかげだとおもっています。

――そうだったんですか。いまの姿とは全然ちがいますね(笑)。

テクノロジーの進化だったり、環境が変わるのに合わせて、自分がやれることだったり、いきたい方向っていうのも増えてきたんです。あまりにも決めつけすぎると、動きにくくなってしまう。たとえば、ぼくが「お金を貯めて50歳ぐらいで居酒屋をするんだ」って決めつけてしまっていたら、こうはなっていなかった。「絶対にこの仕事をやるんだ」っておもっていても、その仕事がなくなったり、もっとあたらしくておもしろい仕事に出合ったりすることもあります。だからこそ、柔軟に生きることが大切だとおもうんです。

つねに頭を柔軟な状態にしておきたいんですね。固まってしまったら、そこでストップしちゃうとおもうので。いま、大学とかで積極的に講演をしているのも、芯の部分がしっかりしている学生たちと話をするためなんです。教えにいくようで、じつは教えてもらいにいっています。彼らは生まれてきたときに、“モノ至上主義”がすでに終わりを迎えていたので、考え方が一歩先に進んでいる。「いまの若者は草食系」とか「物欲がない」とか言われてますけど、彼らこそ生まれつきの“Less Is More”世代。時代に合っているとおもうんです。親の世代とか、いろんな大人を見てきて、「あんないろんなモノを買って一生懸命やっているけど、幸せそうじゃない」っていうのが頭に刷り込まれています。だけど、必要なモノやこだわっているモノにかんしては徹底的にこだわる。そんな彼らから学ぼうとしないで、「あいつらダメだ」とか「欲がないよね」とか言っている人たちは、もったいないことをしているとおもいます。

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第2回|本田直之さん(レバレッジコンサルティングCEO)

ノマド型ビジネスのすすめ(3)

体を動かすことによって、あたらしいアイデアがどんどん浮かんでくる

――つねに頭を柔軟な状態にしておきたいというお話でしたが、頭を柔らかくするために、ほかにも工夫していることはありますか?

トライアスロンやサーフィンなどのスポーツをつうじて、利害関係のない仲間となにかに向かって努力することでしょうか。大人になると、そういった機会ってなかなかないじゃないですか。お金が絡んできたり、ビジネスが絡んできたりしてしまって。それに、大人になると、チャレンジングなことも、だんだん少なくなってくるとおもうんです。ある程度なんでもうまくできるようになって、ほんとうにギリギリの状況でなにかにチャレンジするっていう機会がなくなってきてしまう。スポーツはそういったことを日常的に体験できますし、体を動かすことによって、あたらしいアイデアがどんどん浮かんできて、クリエイティビティが上がるんです。

――トライアスロンは、ハワイではじめたスポーツなのでしょうか? その一番の魅力とは?

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そうですね。正確には、ハワイで再開したスポーツです。25歳のときに1度トライして以来、それっきりだったのですが、40歳になったのを機に「もう1回ちゃんとやろう」とおもってはじめました。トライアスロンは、スイム、バイク、ランという3つの競技からなる複合スポーツなので、いろいろ考えながらやらなきゃいけない。そこでもクリエイティビティが必要になってくるんですね。マラソンだったら、足の速い人が断然有利なわけですが、3つ競技があることで、飛び抜けて足が速い人でなくても勝つ可能性があるんです。

――そのあたりは、本田さんの働き方とも相通ずるところがありますね。

ひとつだけのことをするのが昔から苦手で、いろんなことを同時にするのが好きだったんですよ。大学時代も、アルバイトはひとつだけじゃなくて、つねに3つぐらいを掛け持ちしていました。そのころは、理由まで深く考えていなくて、単純にそっちの方が楽しいとおもってやっていたんですけどね。いろんなことを並行して進めていると、あっちでやったことをこっちに持ってくるとか、こっちでやったことをあっちに持っていくということができる。いま考えると、(いまの働き方のベースになっている)そういったことを学ぶいい機会になったとおもいます。

ひとつのことを突き詰める美しさもあるとおもうんですが、道はひとつだけじゃないとおもうんです。ぼくの場合、学校では「ひとつのことに集中できない」って言われていましたけど(笑)。それを鵜呑みにして直していたら、きっといまごろつまらない人生を送っていたでしょうね。だけど、これはいろんな個性が認められるようになってきた、いまだから言えること。これが80年代だったら「なに言ってるんだ?」って言われていたとおもうんです。画一的に生きることが、なによりも大切だった時代でしたから。いまはすごくいい時代になったとおもいます。

好きなことに携わっているという前提があるからうまくいく

――本田さんの著書『ノマドライフ』のなかにあった「遊びと仕事の垣根をはずす」という言葉が印象的だったのですが、「垣根をはずす」というのは、具体的にどういうことなのでしょうか?

職業にもよるので、「無理そうだな」っていう仕事もあります。まず最初に、会社員の人は会社選びが、起業家の人はビジネス選びが重要になってくるとおもいます。いまは、会社員でも“仕事=遊び”みたいになっている会社もあります。パタゴニアなんかはその代表ですよね。会社には「今日は波がよかったから、サーフィンやってきていいよ」という雰囲気が根付いています。創業者のイヴォン・シュイナード氏が山登りをしながらおもいついたアイデアが、素晴らしいプロダクトを生み出したという、創業時のエピソードをきちんと胸に刻んでいるんですね。自分たちがつくったプロダクトを、自分たちで楽しんで使った上で「ほんとうにいい!」とおもったものをカスタマーに届けています。それはまさに、遊びが仕事で、仕事が遊び。垣根がないんですね。

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パタゴニアのような会社がいま、どんどん増えてきています。日本だったら、スタートトゥデイなんかがそうです。働いている人たちは、みんな服が好きで好きでしょうがない。一見効率が悪いみたいですけど、すべてを自社でまかなっています。そのうえ、代表の前澤友作さんは「1日6時間労働でいい」ってことを公言しています。普通のビジネスの常識とは全然ちがうやり方をしているけど、みんな好きなことに携わっているという前提があるからうまくいくんです。

――本田さんにとっては仕事と遊びはイコールなのでしょうか?

イコールというか区切りがないんです。だから、もうつねに楽しいわけなんです。逆にそうじゃないものはやらない、と決めています。全然お金にならないこともやっていますし、やらないって決めたもののなかには、お金だけで考えるとやったほうがいいことはいっぱいあります。結局はどっちを求めるかだとおもいます。だけど、やっぱり目先のお金を求めるといいことはないんですよね。長い目で見ると、お金にならないものがどこかでビジネスになることもあるし、ならないこともあります。

インターネットビジネスもそうだとおもいます。たとえば、グーグルにしても、単なる検索エンジンなので、お金をとっていないわけです。もし、1件検索するのにいくらでってしていたら、ユーザーは増えないわけですよ。フェイスブックなんかもそうですが、とんでもない額のお金を払ってでも、ユーザーが使いたいものを無料で提供する。それだと、仕掛人もユーザーも楽しいですよね。そうやって楽しんでつづけていたものが、気づいたらビジネスになっている――いまは、そんなふうにライフスタイルそのものがコンテンツになる時代だとおもいます。

ビジネスパーソンの舞台裏

第2回|本田直之さん(レバレッジコンサルティングCEO)

ノマド型ビジネスのすすめ(4)

これからはもっと移動しつづけようとおもっている

――「ライフスタイルそのものがコンテンツに」というお話が出ましたが、ここで本田さん自身のライフスタイルについて迫っていきたいとおもいます。最初に、現在の生活の拠点であるハワイと東京でのお気に入りのレストランをそれぞれ教えてください。

ハワイには、『サイド ストリート イン(Side Street Inn)』という、ぼくが愛して止まないレストランがあるんです。ローカル(地元の人)が集う場所で、外から見ると、ものすごく入りづらい怪しげなところにあるんですけど(笑)、料理は最高です。ここに行くと、いつも「Kauai Golden Ale」というハワイの地ビールを飲んで、ポークチョップとキムチフライドライス、あとガーリックソイビーンズというガーリックで和えた枝豆のような一皿を頼みます。もともとは単なるスポーツバーだったんですが、料理がおいしくて有名になった店です。

『サイド ストリート イン ホパカ ストリート』
1225 Hopaka St. Honolulu, HI 96814
Tel. 808-591-0253
営業時間|14:00~02:00
http://sidestreetinn.com/

――それでは、東京でお気に入りのお店は?

東京でお気に入りなのは『鮨さいとう』です。食べることが大好きなので、世界中を回っていろんなものを食べるんですけど、やっぱり寿司だけはどこを探しても、日本のレベルに匹敵するところはありません。日本に帰ってきたときは、「自分の一番好きな寿司屋に行きたい」という気持ちになりますね。鮨さいとうは、お店ができて間もないころから足しげくかよっていて、こよなく愛しているお店です。いまや、ミシュランで三ツ星を取って有名店になってしまったので、予約も取りづらくなってしまいました。本音をいえば、できれば星を取らないでほしかったんですけどね(笑)。でも若い大将の齋藤さんががんばった結果だから、それはそれで素晴らしいことなんですけど。

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――とっても愛着を持たれているお店なんですね。

そうですね。ちなみに、ここは7席しかないお店なんです。ぼく寿司屋って席数が多いとダメだとおもっているので。ここでもやっぱり“Less Is More”なんですよ。彼のお店が好きなのは、7席で完全にまかなえて目が届くからなんです。これを10席にしてしまうと、商売はよくなるかもしれないけど、どうしても内容が薄くなってきてしまう。商売的に考えれば、20席とかにしたら売り上げはあがるとおもうんです。だけど、ほんとうにそのお店を好きな人は離れていってしまう。

7席という座席数を齋藤さんが守っているのは、とても素敵なことだとおもいます。食べ物屋でどんなにいいものを提供してても、態度が悪いのはやっぱり嫌じゃないですか。昔は寿司屋ってそういうものだったとおもうんです。お客が「すいません」って言わなきゃいけない雰囲気があって。そういうのって間違っているとおもうんです。どんなにおいしいものを提供しても、「間違ったらどうしよう」って緊張しながら食べていると精神的に満たされなくて、味覚も落ちるとおもいます。齋藤さんは、そういった“昔ながらの寿司屋の大将”とは全然ちがって、人柄が素晴らしい方なんです。

――味そのものだけでなく、大将の人柄がお客を引きつけている。

まさに。もちろん、はじめてお店を訪れた人にも平等に接しています。常連ばっかり相手にして、はじめての人がかわいそうみたいなのは嫌ですからね。ぼくの場合も、何年も通いつづけているけど、お客の数が増えてきたので当然入れてくれないんですよ(笑)。「なんとかしてよ」って言っても、席が7個しかないから、そこはつねに平等なんですね。だからこそ「すごい素敵なお店だな」っておもうんです。うまくいってほしいと心から願っている、大切なお店です。最近は断られつづけていますけど(笑)。

『鮨さいとう』
東京都港区赤坂1-9-15 自転車会館1F
Tel. 03-3589-4412
営業時間|12:00~14:00
17:00~23:00
日曜・祝日定休

――ワイン好きが高じて、いまではワインの講座もお持ちの本田さんですが、思い出すだけで、顔がほころんでしまうぐらい思い出深いワインの味はありますか?

1990年、ジョルジュ・ルーミエの「ミジュニー」(マグナムボトル)です。感動的な素晴らしいワインでした。

――どちらで飲まれたんですか?

8年ぐらい前、ぼくの友達であり、師匠でもあるワインの先生が、ワインを飲む会に持ってきてくれたんです。口にした瞬間、感動が押し寄せてきて……いまでも忘れられない一瞬ですね。

――日本とハワイ以外では、ホテルに泊まられることも多いとおもうんですが、とくに印象に残った朝食はありますか?

南仏コートダジュールのエズにある「シャトー・ドゥ・ラ・シェーブル・ドール」の朝食はよかったですね。ここの朝食がなぜ素晴らしいかっていうと、なによりロケーションが抜群だったんですよ。エズという街は、山の突端のところにあり、外敵から守るために城壁で囲んで、外から入ってこれないようにしてつくった“鷹巣(たかのす)村”と呼ばれている街なんです。いまだにそのときの街並みが残っているんですね。そんな崖の上に建っているホテルなので、海の眺めが素晴らしく、朝の風がすごく気持ちいいんですよね。

――ほかにも、世界中にお気に入りの場所がありそうですね。

Secrets behind the Success|本田直之 13

食事で言うと、もっとも感動した街はスペインのバスク地方の北側にあるサン・セバスティアンです。人口17万人くらいの街なんですけど、ミシュランで三ツ星を取った店が3つあって、二ツ星の店がふたつに、一ツ星の店がふたつもあるという“食の街”なんですよ。バスクってもともと料理がおいしい地域ではあるんですが、そのなかでもサン・セバスティアンは飛びぬけて素晴らしい。ここでは、ミシュランを取ったお店ももちろん素晴らしいんですが、バル(居酒屋)街が有名なんです。どのバルに行ってもおいしい。一晩で4軒はしごするというのを2日間連続したのですが、感動的でした。食べるのが好きな人には絶対にオススメです。

――昨年出合ったレストランのなかで、もっとも感動したのは?

取材で北欧を訪れたんですが、そのときに出合ったストックホルムの『フランセン・リンドベリ(Frantzn/Lindeberg)』というレストランです。レストラン・マガジンから、毎年「世界のベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)」というランキングが発表されているんですけど、今年になって、圏外から20位まで急上昇してきたお店なんです。たしかに、このお店だけのためにストックホルムに行きたい気持ちになる、とんでもないお店でしたよ。

二ツ星にしてはカジュアルなお店で、北欧らしく料理もすごくシンプルなんですが、お客を驚かせる趣向がなされているんです。たとえば、パンの材料が登場したとおもったら、それが発酵して目の前でパンができあがるみたいな……。時代の流れとして、分子料理みたいな、いじくりまわしてなんだかわからないものから、食材を生かした料理に移行しつつありますよね。北欧では野菜がとてもおいしいので、40種類ぐらいの野菜が入ったバスケットがバーンって出されるんですけど、これがめちゃくちゃうまいんですよ。先ほどのランキングではいま、北欧が上位にあがってきています。

『フランセン・リンドベリ』
Lilla Nygatan 21, 111 28 Stockholm, Sweden
Tel. +46 (0)8 20 85 80
営業時間|18:00~01:00
日曜・月曜定休
http://www.frantzen-lindeberg.com/

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――ほんとうにグルメでいらっしゃるんですね! そういった食も含めて、いま生活の中で一番時間もお金も投資しているモノはなんでしょうか?

旅かな。動くこと、移動すること。旅の中にはトレーニングやレースもふくまれてきます。食べることが好きなので、食も入ってくるし。これからは、旅が単なる買い物とか観光とかじゃなくて、ライフスタイルの中に入ってくる時代になるとおもいます。北欧に行ったときに印象的だったのが、北欧の人たちがみんなモノの代わりに、旅をすごい大事にしているって言っていたことです。衣食住の中で、住は大事にしているけど、衣食は低くて、旅がすごく高い。住・旅・食・衣みたいな感じですね。これからは、時代がそういった方向に進んでいくのではないかとおもいます。

――では、本田さんのこれからについて聞かせてください。

そうですね、これからはもっと移動しつづけようとおもっています。もっといろんなところに行こうと。ここ5年ぐらいは、1年のうちの2ヵ月ぐらいをハワイと東京以外の場所で過ごしていたんですが、これからはこの割合をもっと増やして、まだ行っていないところも含めて、どんどん足を運ぼうとおもっています。

――「次はここに行きたい」という計画はもう決まっていますか?

7月から9月にかけて、ギリシャを含めた南側のヨーロッパを回って、「なぜ破綻したのか」というところを探ってこれたらとおもっています。あとは、ロシアにも行ってみたいですね。


かつて、バリバリ働くビジネスマンと自然を愛する“アウトドアマン”は別べつの文脈で語られたものだった。しかし、自らの「こうありたい」という欲に真摯に向き合い、遊びと仕事の垣根を取っ払ってきた本田さんの姿を見ていると、もはや“ビジネスマン≒アウトドアマン”という構造は過去のものだと感じずにはいられない。ビジネスで成功を収めながら、自然を愛し、自然のなかで日々の生活を送る。本田さんは、そんなあたらしい価値観を持った次世代の成功者のひとりと言えるのではないだろうか。「やっていることを伝えて、少しでもプラスになれば」と記した著書から垣間見える彼の“生きざま”は、これからもわたしたちに刺激を与えつづけてくれることだろう。

本田直之|ほんだ なおゆき
レバレッジコンサルティング代表取締役社長兼CEO。明治大学商学部産業経営学科卒業。サンダーバード国際経営大学院経営学修士(MBA)修了。シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループの経営に参画し、常務取締役としてJASDAQへの上場に導く。現在は、日米のベンチャー企業への投資事業をおこなうと同時に、少ない労力で多くの成果をあげるためのレバレッジマネジメントのアドバイスをおこなう。東京、ハワイに拠点を構え、年の半分をハワイで生活するデュアルライフを送っている。その独自の経営ノウハウを説いたレバレッジシリーズをはじめ、『本田式サバイバル・キャリア術』(2009年/幻冬舎)など、著書の売上は累計200万部を越える。上智大学非常勤講師。“仕事=遊び”をモットーに、ワインスクールの講師や、経営者を中心としたトライアスロンチーム「Team Alapa」の主宰も務めている。

           
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