松浦俊夫|“Living Legend” DJ Harvey来日インタビュー(1)
松浦俊夫|from TOKYO MOON 6月3日 オンエア
16年ぶりとなるミックスCDリリース!
“Living Legend” DJ Harvey来日インタビュー(1)
日曜の夜、上質な音楽とともにゆったりと流れる自分だけの時間は、おとなたちの至福のとき。そんな時間をさらに豊かにするのが、DJ松浦俊夫によるラジオプログラム『TOKYO MOON』──。彼が世界中から選りすぐったすばらしい音楽や知的好奇心を刺激するおとなのためのトピックスを、毎週日曜日Inter FM 76.1MHzにて19時からオンエア。ここでは、毎週放送されたばかりのプログラムを振り返ります。今週は、4月に16年ぶりとなる新作ミックスCDリリースした“Living Legend”、DJ Harvey(ハーヴィ)をお迎えしました。
Text by MATSUURA Toshio
オンエアにはなかった対訳を公開!
今回は、多様な音楽をバックグラウンドに1980年代より活動をつづけるニューハウス、バレアリック、ディスコダブシーンを代表するDJ&プロデューサー、DJ Harvey(ハーヴィー)をゲストに迎え、インタビューを敢行。96年以来となるミックスCDをリリースした経緯から、彼自身が影響を受けた音楽、また昨年の震災についてと、いろいろと語ってくれました。OPENERSでは放送時にはなかったインタビューの回答の対訳を掲載。音楽、人生、そしてひとを愛する彼の、生のソウルに触れてください。
REVIEW|TRACK LIST
01. Billy Paul / East -Re Adjustment by Diesel & DJ Harvey (Moton)
02. Disco Dub Band / For the Love of Money -Hard Left Mix By Harvey (disorient)
03. Locussolus / I Want It (P-Vine)
04. Locussolus / Throwdown (International Feel)
05. Idjut Boys / Implant (P-Vine)
06. Hawkwind / Space Is Deep (UA)
07. United Future Organization / Picaresque Eye -Latin Tempo Version (Nippon Phonogram)
08. Silver Apples / Lovefingers (Kapp)
09. Donna Summer / I Feel Love - Patrick Cowley remix (Casablanca)
松浦俊夫|from TOKYO MOON 6月3日 オンエア
16年ぶりとなるニューアルバムをリリース!
“Living Legend” DJ Harvey来日インタビュー(2)
「3.11直後のツアーは、なんとしても実現させたかったんだ」
──まさにツアー真っ最中ですが、各地のお客さんの反応はいかがですか?
江の島、京都、名古屋、岡山の4都市をまわってきたんだ。各地それぞれ反応はちがうけど、どの土地も大成功。とても盛り上がっていたよ。これを機に、またレギュラーベースで日本に戻ってきたいなとも考えているんだ。
──これまでに二度、つづけて来日されていますが、そのときに比べると今回は会場の数が少ないように感じるのですが、意図的に抑えているのでしょうか?
おっしゃる通り、22日間・16公演の前回に比べると、かなりリラックスしたツアーになっているよ。前回は3.11の直後だったこともあって、精神的にも、体力的にも、深みのある、すばらしいパーティだった。今回は数を減らして、ゆったり日本での時間を楽しんでいるよ。
──震災発生から一カ月も経っていないころにツアーを開催されましたよね。来日を予定していたアーティストやDJのキャンセルが相次ぐなかで、あえてツアーを敢行し、さらに東北での公演も決行された想いとは?
僕は震災後初の海外ゲストだったようで、どこの都市へ行ってもみんなとても歓迎してくれたよ。僕自身あのツアーは実現させたかったから、それが叶ってよかったと思っている。日本はあのとき、大きなできごとにショックを受けていて、また日本に住む多くの外国人も恐怖から母国へ帰っていっただろう。だから自分がここに来て、サポートできることをしたいと思ったんだ。仙台に滞在中は地震も経験したけど、パーティはすばらしかった。みんなはサバイバルと言っていたけど、生きるということ、生きているということに対する祝福を、パーティを通じて一緒に体験できたように感じているよ。
16年ぶりのニューアルバムはモダンでインディペンデントな仕上がり
──10数年ぶりとなるオフシャルのミックスCDを4月にリリースされました。長いブランクがあいたわけですが、なぜ“いま”だったのでしょう?
とくに大きな計画や理由があったわけではないんだ。その間にも非公式でプロモーション用のミックスを作ったり、僕のDJプレイやラジオのミックスを勝手に収録したブートレッグが大量に出回っていたしね。ミックスCDではなく、オリジナル作品としては2年ほど前にウルグアイの「インターナショナルフィール」というレーベルからロクソロスというユニットでリリースしているよ。
今回リリースを決めたのは、あたらしいものをクリエイトしたいという思いもあったし、友人であるDJやプロデューサーたちと一緒にミックスCDを作り上げたいと考えていたところ、レーベルが真剣にオファーをくれたこと、またプロモーションのプランもしっかりしていたことがきっかけになった。きっと“そういう時期だった”と、自分では感じているよ。僕の音楽はとてもワイドレンジだけど、今作はハウスミュージックベースのものが多く、モダンでインディペンデントなダンスミュージックに仕上がっていると思う。
──オーディエンスの反応は?
僕は普段から自分の作品に対するレビューは見ないタイプなんだ(笑)。いいことを言ってくれていたらいいな、くらいに思っているよ。ただ、今回の作品は日本でのリリースがメインだから、僕が読める英語のレビューはあまり出てこないかもしれないね。
──自身の音楽性について“ワイドレンジ”と表現されましたが、ジャンルや時代を超えたエクレクティク(折衷主義)なプレイをするさいに意識することとは?
僕はエクレクティクなプレイにしようと思ってしているわけではなく、すべてはオーディエンスのために選曲しているんだ。“先生”“Guru(グールー) ”などと呼ぶひともいるけれど、僕は自分のことを音楽のエンターテイナーだと思っているよ。まるでゲームのように、フロアのようすを見ながら彼らがなにを考えているかを読み、予期せぬ展開をみせる。いろんな音楽を聴くことは僕も好きだし、オーディエンスも望んでいると思うけど、あらゆるジャンルの音楽を混ぜることを意識しているわけではないんだ。僕はダンスDJだから、グルーヴをきちんと運ぶこと、そしてオーディエンスのエナジーレベルを高めることだけにフォーカスしているんだ。
松浦俊夫|from TOKYO MOON 6月3日 オンエア
16年ぶりとなるニューアルバムをリリース!
“Living Legend” DJ Harvey来日インタビュー(3)
音楽とは、ひとの気持ちに影響を与える強力な電磁波
──じつはずっと聞きたかったことがあったのですが、90年代後半、僕がU.F.Oに所属していたころ、リミックスしてもらいましたよね。ラテンジャズにアレンジされた音源を聞いてとても驚きました。なぜあのとき、ラテンジャズだったのでしょう?
どうしてだったのか、はっきりとは思い出せないけど(笑)。僕自身、あのころラテンジャズをよく聴いていたこともあるし、あとGilles Peterson(ジャイルス・ピーターソン)がよくラジオでラテンジャズを流していたから、“U.F.O=ラテンジャズ”というように自分のなかでコネクトしていた部分があったんだと思う。当時の僕は、ピート・ジーというキーボードプレイヤーと、フランク(当時はロビン・クレイトンの名で活動)というベースプレイヤー、そして僕がドラムを担当し、3人でジャズトリオを組んでいたんだ。僕はDJをする前はドラムをやっていたんだよ。3人での曲作りはライブテイクで、パーカッションはオーバーダブさせ、ボーカルを編集しながら長い時間ジャムをしていた。それが長い時を経て、クラシックになっていったんだ。
──長年の謎が解けてすっきりしました(笑)。話は変わりますが、DJでも楽曲制作でも、音楽以外のものからクリエイティブのインスピレーションを得ることはありますか?
人生そのものがインスピレーションになる。たとえば道を歩いていてセクシーな女の子とすれ違ったり、サーフィンをしたり、飛行機の窓から空や雲を眺めたり。恋に落ちたり、悲しくなったり……生活のなかにあるさまざまなできごとや感情を経験していくことがインスピレーションになっているんだ。
──音楽に興味をもった頃、自分をとりまく環境にはどんな音楽が溢れてましたか? また、みずから選んだ最初の音楽はなんでしたか?
1950年代、僕の母はロックを聴いてました。その後60年代にはトラディショナルジャズを聴くようになるんだけど、そのほかにも家ではいつもラジオが流れていたから、それでポップミュージックを聴いていた。最初に自分が選んだ音楽はビートルズ。それからCream(クリーム)やDeep Purple(ディープ・パープル)、Led Zeppelin(レッド・ツェッペリン)といったクラシックロックを聴くようになった。Sex Pistols(セックスピストルズ)なんかも聴いてたな。80年代になるとレゲエやヒップホップが出てきて、そこからダンスミュージックの革命がはじまり、イギリスにもシカゴハウスというものがやってきた。そのころ僕はダンスミュージックを作るひとたちの手伝いをしていたよ。
音楽的にもっともリッチだったのは70年代後半。パンクを聴きつつ、ビージーズを聴いたり、ディスコにも行ったし、サタデーナイトフィーバーがあった。ほかにもKraftwerk(クラフトワーク)やFela Kuti(フェラ・クティ)を聴いていたことは、いまもクリエイティブのインスピレーションになっているよ。
──この番組ではゲストに必ず聞く質問があるのですが、もしいま自分にとって大きな影響を与えた“人生を変えた一曲”をリスナーに聴いてもらうとしたらなにを選びますか? また、あなたにとって音楽とはひと言で言うと?
人生を変えた一曲……とても難しいな(笑)。おなじ曲でも毎日ちがった印象を受けるからね。最近で一曲選ぶとしたら、Donna Summer(ドナ・サマー)の「Love to Love you Baby」かな。ディスコ時代に大きな影響を与えた彼女が最近亡くなって……とても残念だよ。フロアでは追悼の意味を込めて、15分にもおよぶ「I Feel Love - Patrick Cowley remix」をよくプレイしているよ。人生はとても短いとあらためて思ったし、また過去と未来、自分の人生について考えるようにもなったよ。音楽についてひと言でいうと……“とても強力な電磁波”。ひとの気持に影響を与える電磁波って、とても変わったものだと思うんだ。
──ありがとうございました。
松浦俊夫『TOKYO MOON』
毎週日曜日19:00~19:30 ON AIR
Inter FM 76.1MHz
『TOKYO MOON』へのメッセージはこちらまで
moon@interfm.jp
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www.interfm.co.jp