INTERVIEW|fabric創設者 キース・ライリー インタビュー
INTERVIEW|「fabric」創設者 キース・ライリー
ロンドンから東京へ、キース・ライリーのあらたなる挑戦(1)
ロンドン中心部から少し外れた場所にあるクラブ、「fabric(ファブリック)」。連日深夜から朝まであらゆる音楽が鳴り響き、イギリスはもとより、世界各国からその研ぎすまされた音や空間を求めて、多くの人が訪れている。その「ファブリック」創設者、キース・ライリー氏がこれまで守りつづけてきた、ロンドンのみでの活動が拡大。東京を第二の拠点とするという。彼が考えるネクスト・ステージのビジョンとは?
Photographs by JAMANDFIXText by TOYODA Koji(OPENERS)
世界でもっとも注目されるロンドンのクラブ
イーストロンドンのスミスフィールド市場近くに、夜になるとたくさんの若者で溢れかえっている場所がある。深夜12時前にパブやバーが閉まってしまうロンドン。そこで閉め出された飲み足りない者たちや、音楽を渇望する者たちが吸い寄せられるように入っていく。とくに金曜日や土曜日の夜はお祭り騒ぎのようにその近辺が活気づく。そこが世界でもっとも影響のあるナイトクラブ、「ファブリック」だ。
最高の音楽、最高のサウンドシステム、最高の人々の融合で最高のクラブとなった「ファブリック」は、1999年にスタート。以来、ハウスやテクノはもちろん、ジャングル、2ステップやダブステップなど、ロンドンに生まれる独特なダンスミュージックの発信源にもなってきた。
「ロンドンでは、ほんとうにたくさんのユニークな動きやシーンがあります。ダブステップやディープなミニマルハウスはもちろん、いまだにテクノやヒップホップなどは人気がありますね。さまざまな音楽が生まれた1990年代から現在にかけての、あらゆるジャンルの音がつねに溢れかえっています。『ファブリック』では、そうしたすべての音楽に門戸を開放して、慈しんで、育てて、舞台を用意してきました。いま現在、成長し、変化をつづけているものをサポートすること。それが僕たちの使命だと思っています」
そう話すのは、当の「ファブリック」創設者であるキース・ライリー氏。30年以上にわたって、あらゆる手法であらたな音楽を発掘し、ロンドンをはじめ、世界のクラブカルチャーシーンを牽引してきた。
「過去5~6年ぐらいでいうと、とくにダブステップを使ったあたらしい動きがありました。でも、いまはダブステップをやっていた人間がふたたびハウスに戻り、ハウスのあらたな可能性を模索しはじめている。ロンドンのナイトクラブに遊びに行ったら、進化型ハウスミュージックを聴くことができるでしょう。音楽は生き物のようにとても流動的で、成長しつづけているものなんです」
ベースに流れるのは日本のカルチャー
「サポート ザ シーン」。キース・ライリー氏はロンドンのクラブシーンを鋭くも、暖かい眼で見守っている。そんな彼の活動のベースには、じつは日本のカルチャーから影響を受けている部分が多いのだという。
「僕のクリエイティビティにおいて、日本の文化は欠かせないものです。14歳の頃から日本のことが大好きで、坂本龍一さんに洗礼を受けました。彼はあたらしい次元の、たとえるなら“恵みの光”を僕に運んできてくれたんです。人生にどれほど大きな影響をおよぼしたか、いくら説明しても足りないぐらいです。そこで、僕は日本人のもつ目線と考え方を知りました。なにか特別なものを見据えているかのごとく、究極の繊細さをもち合わせたその感覚は、荒々しい西洋文化の中に身を委ねていたなかでとても新鮮なものに映りました。いま僕らが手がけているほとんどのモノやコトは、日本から影響を受けて学んだものを形にしただけなのです」
KEITH REILLY|キース・ライリー
ロンドンから東京へ、キース・ライリーの新たなる挑戦(2)
「ファブリック東京店」オープンは実現するのか?
今回初来日となるキース・ライリー氏だが、今後は頻繁に日本に訪れたいという。週末は必ず「ファブリック」に顔を出す生活をつづけ、多忙を極めている彼が貴重な時間をさいても来日したい理由とは?
「それは大好きな日本語を流暢に話せるようになるためです(笑)。というのは冗談で、じつは……日本に「ファブリック」のあたらしいオフィスを立ち上げたから。さきほどもいいましたが、日本の独特なモノの見方や考え方は、僕らの活動につねに影響を与えつづけています。だから、「ファブリック」が次のステージに進むための第一歩は、どうしても……東洋の日本からはじめたかった。東京にニューオフィスを構えることで、会社の立ち位置、ものの見方、理解の仕方……すべてにおいて、いうならば日本式のやり方というものを学んでいきたいのです。そうすることで、僕たちの意思がよりピュアなものに、よりいいものへと成長を遂げるのです」
人生のもっとも多感な時期に、日本に魅せられたイギリス人の少年が、長い時を経て、念願の日本を拠点に活動をはじめる。そんなひとつの夢を成し遂げたキース・ライリー氏に誰もが期待するのが「ファブリック東京店」のオープンだ。
「いまのところ、『ファブリック』が東京に出店する予定はありません。ですが、日本でのプロジェクトは進行中。今年の11月ごろに、ディーゼルとの大きなアートプロジェクトを開催する予定です。もちろん、将来的に『ファブリック東京店』のことも視野にいれていますが、まずは自然な形で、ゆっくりと日本の考え方を学び、着実に一歩一歩踏み進めることをやっていきたい。そうすることでもしかしたら、『ファブリック東京店』が実現するかもしれないし、別の形としてアウトプットするかもしれない。未来はどうなるかわかりませんが、日本という第二の故郷であらたなシーンをつくりたい。もうロンドンには戻りません(笑)」
世界のクラブシーンの第一線で活躍するキース・ライリー氏。そんな彼が日本のクリエイティブシーンにどんな一石を投じるのか? 今後もその動向に今後も注目していきたい。
KEITH REILLY|キース・ライリー
ロンドン在住。1979年に初のクラブとしてスタートした「The Cage」は、口コミだけで総勢2000人の人々が訪れ話題となる。その後、1999年10月にロンドンの東にあるスミスフィールド市場、その向かいに「ファブリック」が誕生。キースにとって音楽は生活の一部であり、レコードコレクションはじつに50万枚を超える。現在「ファブリック」は世界で最も影響力のあるナイトクラブのひとつと言われるまで成長した。2001年よりコンピレーションアルバムをリリースしており、シリーズ63作を数えている。OPENERSでのブログ(http://k-reilly.blog.openers.jp/)も好評更新中。
ファブリック
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