HYKE|新ブランド「HYKE」で再始動した二人
FASHION / WOMEN
2015年4月7日

HYKE|新ブランド「HYKE」で再始動した二人

HYKE|ハイク

4年ぶりのコレクションで再開!

吉原秀明氏と大出由紀子さんに聞く(1)

デビューコレクションの展示会を見た感想は、「これが女性のクローゼットに揃っていたら、なんと幸せなことだろう」──2009年春夏シーズンを最後にブランド「green(グリーン)」の活動を休止していた吉原秀明氏と大出由紀子さんが、ついに活動を再開。新ブランド「HYKE(ハイク)」が今シーズン立ち上がった。今シーズン一番のトピックスといっても過言ではないデビューコレクションについて迫った。

Text by KAJII Makoto (OPENERS)Photographs by HARA Emiko

3年間のインターバルの意味

──いよいよ秋冬シーズンがはじまりますが、ブランドを再開された理由は?

吉原秀明 greenの活動休止を決めたときに、2~3年で再開したいという思いがありました。今回、活動を再開するにあたって、大きな心境の変化がありました。greenは中途半端な状態ではつづけられないという気持ちで休止しましたが、その状況はあまり変わっておらず、以前の考え方のままなら今再開することはなかったと思います。3年という月日を経て、子育てという時間的な制約があるなかでも精一杯、今やれることを表現しようという気持ちになり、活動の再開を決めました。

──休止されていたときのファッション情報との接し方は?

吉原 green時代は仕事漬けの日々で、ブランド休止後は、子どもの世話で大変で、ファッション情報と触れる機会は自然と減りましたね。ふたりで服の話もあまりしていないし、リーマンショックや震災などもありましたし。

──ブランドを再開するときに不安はありませんでしたか?

吉原 服作りに対する感覚的なものよりも、もの作りの職人さんやメーカーとのコミュニケーションの方が不安でしたね。green時代は、大きな流れのなかで、一つのチームとして関係性を成熟させた結果としていいもの作りができていたので、ブランクが心配でした。green時代には服作りに自信をもっていましたが、ブランドの成長するスピードが速かったので、“もっとこうしたい”と、より一歩進むことの難しさを感じていました。

──では、インターバルがあったことは良かった?

吉原 そうですね。今回のデビューコレクションでは、思い切ってスケールを絞り込んでつくりましたが、今の自分たちにとってそれは自然なことで、よかったなと思います。職人さんや工場も以前の7~8割が一緒に取り組んでくれてホッとしています。
また、しばらくファッションのことを考えない時間を過ごすなかで、少しずつ服への興味がわき上がってきて、40代の今、10代、20代のころに感じた感覚に近いものを感じることができたのも、自分にとっては大きな財産だったと思います。

HYKE|インタビュー 01

HYKE|インタビュー 02

HYKE|インタビュー 04

今の自然体の自分たちを表現する“HYKE”

──吉原さんと大出さんの役割は?

吉原 企画は一緒にやっています。ブランディングやウェブサイトなど、クリエイティブディレクションは私で、サンプリングや生産などもの作り全般は大出が担当です。お互い意見交換しながらの仕事ですね。

──ブランド名の「HYKE(ハイク)」の意味は?

吉原 “HYKE”は私たち家族のファーストネームのイニシャルをならべたものです。今回、あたらしいブランド名を考えるときに、できるだけ自由な気持ちでデザインがしたかったので、コンセプトをあらわしたり、デザインに直接影響するような意味のある名にはしたくありませんでした。シンプルに自らのアイデンティティをあらわすことが良いと思いました。
全盛期の“green”をイメージされるとギャップが生まれると思い、ゼロからの意思表示として、今の自然体の自分たちを表現するために新ブランド“HYKE”としてスタートしました。

──デビューコレクションはウィメンズのみですね。

吉原 私たちはデビュー以来、ウィメンズでコレクションを作りつづけています。今回の再開でも、やはり核となるウィメンズをしっかり作りたいと思いました。

HYKE|ハイク

4年ぶりのコレクションで再開!

吉原秀明氏と大出由紀子さんに聞く(2)

8月7日(水)より13日(火)まで、伊勢丹新宿店本館1階のザ・ステージにてポップアップストアを展開するHYKE。今シーズンのインスピレーションソース“NAVY”を基調としたデビューコレクションにくわえ、伊勢丹リ・スタイル限定のアイテムも販売される。

“NAVY”がしっくりくるデビューコレクション

──デビューコレクションの展示会の反響はいかがでしたか?

吉原 活動休止期間としては3年ですが、新作発表としては4年ぶりのコレクションとなります。展示会では、「待っていたよ」、「長かったね」とか、「思ったより型数があってよかった」という声もいただきました。型数自体は休止時の半分ぐらいになっているのですが……。現在はgreenとおなじスケールで立ち上げることができないので、ゼロからまた少しずつです。

──日本生産にもこだわっているとお聞きしましたが。

吉原 そうですね。生産は一部のアイテムを除き基本的に日本です。いいもの作り、こだわったものを楽しんで作ってくれる職人さんと一緒に取り組んでいきたいという思いはあります。

──今シーズンのテーマを教えてください。

吉原 HYKEでは、シーズンテーマは設定せず、インスピレーションソースをダイレクトにならべてそれをミックスした作り方をしています。デビューコレクションでは、色の“NAVY”と、“U.S. NAVY”を掛け合わせて、ネイビーカラーと、マリンスタイルを意識したデザインになっています。
U.S. NAVYのスタイルに対して、歴史やデザインの変遷などを考察し、そこから素材、パターン、付属などをそれぞれ素材として分解してから組み立て直しデザインしています。

HYKE|インタビュー 05

HYKE|インタビュー 06

HYKE|インタビュー 11

本当に自分たちがやりたいことは何だろう?

──展示会を拝見したときは、おふたりらしいデザインとカラー展開だなと思いました。

吉原 ブランドとしてコレクションをつづけていくと、どうしても出発点から遠ざかってしまいます。今回は休止期間をはさんで、本当に自分たちがやりたいことは何だろうというのを表現しました。

──テーマを決めると窮屈ですか?

吉原 シーズンテーマを設けて、その世界観を追求することも一つの考え方ですが、過去その方法でコレクションを発表していて、何かこのままでは目の前の壁を越えられないような感覚を感じていました。HYKEではあえてテーマを作らず、自由な状態でいろいろな要素を組み合わせることに挑戦してみたいと考えています。

──ファッション関係者やファンは、コレクションやメンズにも期待されると思いますが、デビューコレクションはウェブでの発表でしたね。

吉原 休止期間に、スマートフォンやウェブなどが急速に普及・浸透していることを感じていたので、HYKEでは初めて動画でプレゼンテーションをしました。公開するとスマホからのアクセス数が多く、新鮮で面白く感じています。あたらしい取り組みはしていきたいですね。

HYKE|ハイク

4年ぶりのコレクションで再開!

吉原秀明氏と大出由紀子さんに聞く(3)

見慣れたデザインのアイテムなのにとても新鮮に感じるのは、大出由紀子さんのトレンチコートについてのこんなコメント──「今回のトレンチコートはgreen時代のものよりも少し上品な雰囲気で作りたかったので、ステッチにこだわり、以前は3センチ間に針を9本打っていたものを、3センチ間に13針にしたことで、見た目にも全然ちがいます」。ステッチについて熱弁をふるう大出さんを見て感動さえ覚えた。

今シーズンはこの素材で、このバランスで出したい

──HYKEではgreenと比べてサイズ感は変わっていますか?

大出由紀子 サイズ感はあまり変わっていません。ただ、一般に“ベーシック”といわれるものでも、サイズ感の中心がミリ単位で動いたり、ボトムスとの兼ね合いがあったりして変化はあります。今回は、ボトムスが細めのシルエットを提案しているので、上物は以前より大きめがしっくりきます。細身のシャツも以前より大きくしていますが、それが今の普通です。
わかりやすくいうと、greenを休止した2009年は、細くて長いシルエットでしたが、今シーズンは太くて短い感じ。「今シーズンはこの素材で、このバランスで出したい」と考えたアウトラインに注目してください。

──太くて短いというと、ボックスシルエットということですか?

大出 極端ではないですが、そうですね。たとえば、ボックス的なシルエットにするためには、てろっと落ちるウールギャバジンでは表現できないので、横張りする生地のサキソニーやサージを選んで、それを堅仕上げにする加工をくわえたりしています。そうして、全体的に大きく、緩く、シルエットを考えています。

──green時代から定評あるトレンチコートもありますね。

大出 今回は、英国軍のオフィサーが着ていたデザインがソースです。green時代とおなじ、ポリエステルコットンの糸をギャバで織って、撥水加工をほどこしたHYKEオリジナル生地を使用しています。

HYKE|インタビュー 13

HYKE|インタビュー 17

HYKE|インタビュー 22

オリジナル素材を使ったアイテムに注目

──今回とくに注目してほしいアイテムは?

大出 CPOですね。素材をふわっとさせないために、メルトン素材を強めに圧縮して、締まった状態で加工したHYKEオリジナル素材を使っています。見た目にはメンズライクですが、着るとしなやかな素材に注目してください。

──コートのバリエーションも注目ですね。

大出 ダッフルコートは、トグルと水牛のボタンを白く塗装しています。一重仕立てのダッフルで、フードの立ち上がりに工夫しているので、かぶった感じも楽しんでください。また、ピーコートもHYKEオリジナル素材で、メルトンを薄く掻(か)いたビーバーという素材を使用。掻くことで光沢が生まれ、肌触りも良く、張り感があるのが特徴です。

──解説ありがとうございます。では、長い間、待ちわびていたファンへ。

吉原 私たちのコレクションをお待ちいただいていた方々には、この休止期間は大変長い時間に感じたと思います。このたび、ようやく活動を再開することになりました。2013年秋冬よりはじまるHYKEのコレクションを楽しんでいただければうれしく思います。

問い合わせ
HYKE(有限会社ボウルズ)
Tel. 03-3780-1239
http://www.hyke.jp

           
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