POGGY’S FILTER|vol.12 後藤愼平さん(M A S U)
FASHION / MEN
2019年12月17日

POGGY’S FILTER|vol.12 後藤愼平さん(M A S U)

ブランドタグが取れても20年後、30年後に「良い服だな」って思える洋服の力

POGGY 古着をそのまま作り直すのではなく、ちゃんとデザインを入れて、クオリティも伴っていて……。後藤さんのクリエイションには本当にすごく衝撃を受けましたね。

後藤 古着がずっと好きだったっていうのもあるんだと思います。ライラにいた時に、昔のデザイナーズブランドのアーカイヴピースをたくさん見ることができて。だから、自然と自分の目線が上がっていったのかもしれません。クオリティが高いことが最優先というか、大前提というか。その中に面白さみたいなのを入れられたら良いなと思ってやっています。

POGGY 基本はメンズでしょうか?

後藤 そうですね。でも、個人で買っていく女性の方も多いです。ベルベットのダウンとかラビットファーのニットといった素材も使っているんですけど、いわゆる男っぽい素材とか、女っぽい素材とかいうのを、あんまり気にしないで使っています。ユニセックスで着て欲しいというわけではなくて、新しい男性像としてこういう素材を着て欲しいなっていう感じです。レースっぽい素材を使ったジャケットとかもそうですが、そういった新しさを感じられるものをやってみたりいろいろとチャレンジしているところです。

POGGY 他にも周りに20代のデザイナーっていますか?

後藤 ロンドンでやっている子とか、東京でもパラパラとはいるんですけど、そんなにたくさんいるわけじゃなくて。もっと同世代のデザイナーがいたら良いなと思いますね。

POGGY 20代でブランドをやっているのって、ストリート系の人たちのほうが多いですよね?

後藤 そうですね。ストリート系のほうがやりやすいからだと思うんですけど。もっと、テイラードジャケットを毎シーズン作ってるとか、そういうブランドが増えてほしいですね。
POGGY アトリエに90年代とか2000年代頭の『ミスター・ハイファッション』が置いてあるっていうのもいいですね。

後藤 あの時代って、それぞれのブランドが際立っていて、ブランドの方向性というかやりたいことみたいなものがすごくはっきりしていて。その強さやアティチュードに惹かれています。そういう部分を参考にしていますね。

POGGY さっき見ていた『ミスター・ハイファッション』に、COMME des GARÇONS(コム・デ・ギャルソン)とYohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)の合同ショー(注:1991年開催)についての記事があったのですが、後藤さんはまだ生まれていなかったわけですよね。

後藤 そうですね。リアルタイムで見てみたかったっていうのもありますけど、逆に知らないからこそ「何がすごかったんだろう?」っていうのを、引いて見ることができるというか。ギャルソンとヨウジの合同ショーあたりから、メンズファッションが自由になっていったように見えて。他にもいろんな要因があったとは思うんですけど、そういう流れを、未来から過去を見ている感じですね。

POGGY 将来的にファッションショーをやってみたいと思いますか?

後藤 やりたいって漠然的な思いはあるんですけど、必ずしもそれがベストな表現かっていうのも、まだわからないので。まずは映像だったり、インスタレーションだったり、できることからやっていきたいと思っています。そして来るべきタイミングが来たら、ショーをやりたいと思っています。逆にPOGGYさんに聞きたいんですけど、ファッションショーの意義というか、これからも今の形って続いていくのでしょうか。どう思われますか?

POGGY やっぱり、ショー会場でしか味わえないことっていうのはありますよね。毎シーズン、ものの10数分に命を懸けているデザイナーのクリエイションだったり、その雰囲気で感じられるのはファッションショーしかないから、それはそれで意義があると思いますね。でも、今の時代、全く違う表現の仕方っていうのももちろんあって。例えば、ComplexCon(コンプレックスコン)とかみたいに、ファッションだけじゃなくて、アート、トイ、音楽とかそういうのが一緒になって、ミラノコレクションとかパリコレクションとは違う時期にお客さんに楽しんでもらうっていうのも、今は一つの流れになっていますよね。ファッションショーはファッションショーで絶対的に素敵なものだし。でも、そうじゃないやり方も、今はそれはそれで全然ありなのかなって。けど、「M A S U」って、いい意味で今どきっぽくないから、そういうのともまたちょっと違うのかなっていう気もしますけど。
後藤 慎重っていうか、別に時代に逆行したいわけじゃないですけど、別の道であったり、ちょっと道を外れるやり方っていうのもあるんじゃないかなと思いますね。僕が「M A S U」のデザイナーになったばかりの最初のシーズンって、それこそストリートがすごいことになっていて。その時にブランドをストリートのほうに合わせることも、多分、ビジネスとしてはやらないといけなかったのかもしれません。でも、最初にそれをやってしまうと、そこから身動きがとれなくなるし、それに、どの時代でも評価してもらえるようなものでないと、多分、今は生き残れないなと思って。そういう意味でも今どきっぽくはないですよね。

POGGY 普遍的っていうのを大切しているようにも感じますね。

後藤 そうですね。デザインで一番大事にしているのが、いつ見ても良いと思えるもので、そうじゃないと絶対に作りたくないですね。そういう基準で「これは省こう」とか、「このデザインやめとこう」みたいなこともやっています。ヴィンテージになりえる服っていうか。ブランドタグが取れて、20年後、30年後に誰かの手に渡った時も、「これ良い服だな」って思えるような、洋服の力っていうのを信じています。普遍的っていうのは、多分、そういうことなのかなって思います。

POGGY 今後、「M A S U」で、レディスとかもちゃんとやれば、なんか良さそうな感じもしますね。

後藤 それも考えているんですけど、女性の心理が全然わからないので(笑)。

POGGY でも、そういうのは、あんまり狙わないほうがいいですよね。

後藤 そうですよね。僕がレディスらしいレディスを作ろうと思っても、大失敗しそうなんで。ただ、メンズブランドがレディスを始めるのとかって、タイミングがすごく難しいなと思っていて。

POGGY それは、特に「レディスを始めた」って言わないでやったほうが良いかも。女性って、値段の問題もありますが、古着屋に行っても、着たいものがあればサイズがちょっと合わなくても買ったりするし。そういった、サイズが合わないところがあっても、好きなのがあれば着て欲しいみたいスタンスで始めるのがいいかも。それで声が大きくなってきたら、本格的に展開すればいい。

後藤 普段はサイズがSまでしかないけど、XSとかもっと下まで置いたりとかですかね?

POGGY いや、最初はサイズも別に気にせずに。

後藤 自然と広げていって。声が大きくなったらで良いんですかね。

POGGY でも、その時のことを想定して、準備だけはしておいて。

後藤 そうですね。貴重なアドバイス、ありがとうございます!
後藤愼平|GOTO Shinpei
1992年生まれ。2014年文化服装学院を卒業後、国内外の希少なヴィンテージピースを数多く所有することで著名なヴィンテージショップLAILAに入社。LAILAの自社ブランドSEVEN BY SEVENの立ち上げメンバーとして2015-16秋冬から2018春夏まで企画、生産として携わる。M A S Uのデザイナーとして2018年秋冬コレクションより本格始動。
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