POGGY’S FILTER|vol.16 小木“POGGY”基史の視点。大事にしているモノとコト「10足の靴」編
FASHION / MEN
2020年6月15日

POGGY’S FILTER|vol.16 小木“POGGY”基史の視点。大事にしているモノとコト「10足の靴」編

小木“POGGY”基史氏が興味を持つ様々な人たちをゲストに迎え、話を聞いてきた本企画だが、少し目線を変え、弊誌ディレクターの松本博幸によるインタビューで、小木“POGGY”基史という1人の人間を深堀りしていく。自身の私物を通して、POGGY氏がどのような視点や感覚でモノを選んだり、また、バイイングやディレクションに生かしたりしているのかを読者に感じてもらえれば幸いである。今回は、POGGY氏が所有する数あるシューズコレクションの中から、特に思い入れのある10足をセレクトしてもらった。

Interview by MATSUMOTO Hiroyuki(OPENERS)|Photographs by MAEDA Akira|Text and Edit by ANDO Sara

自分らしさを引き出してくれる、ただのクラシックに終わらないバーカーブラック

POGGY これは結構前にBARKER BLACK(バーカーブラック)で買った“SIDE GUSSET WINGTIP”。ラストが細身なのでクラシックなスーツにも合いますが、ただのクラシックではないスタイルに仕上げてくれるところが気に入っています。バーカーブラックの靴はほかに3足ぐらい持っています。僕の足はウィズが広いほうなんですが、このモデルはそんな僕でも履きやすいんですよ。

松本博幸(以下、松本)これはデザイン的にも締まって見えるね。バーカーブラックの靴って独特だよね。昔からあるスタイルをベースに、サイドゴアだったり、メダリオンの付け方だったりブラックジョークみたいなものを織り交ぜていて。コメディでいうとMonty Python(モンティ・パイソン)みたいな感覚というか。

POGGY ビスポーク系の老舗ブランドに比べるとデザイン性が強いですし、ユーモアに溢れているものが多いですね。確かに、普通だとこのモデルなら茶色ですよね。

松本 洒落たところだとバーガンディとかね。バーカーブラックはいつ頃から履いているの?

POGGY 2006年、UNITED ARROWS(ユナイテッドアローズ、以下、UA)にいる時にLiquor,woman&tears(リカー、ウーマン&ティアーズ、以下、リカー)というセレクトショップを社内ベンチャー制度でスタートしたのですが、日本で初めてバーカーブラックを展開したんです。ブランド自体は2005年に創業されています。

松本 なるほど。POGGYらしさを引き出してくれるブランドだったりするの?

POGGY そうですね。そば屋でカツ丼を頼む人っているじゃないですか。そういうところがあるんですよね、僕。

松本 (笑)
POGGY たとえばAlden(オールデン)だったら、定番のモデルじゃないのを買っちゃう癖があるというか。

松本 定番といわれているものはわかっていても、それ以上に自分のスタイルを固めるという意味で買ってしまう感じですかね。定番という定番はあまり持っていなかったりするのかな。

POGGY そうなんです。定番品も買うは買うんですが、そうじゃないものを手に取りがちですね。定番が似合う人がうらやましくもあります。

松本 リカーやUNITED ARROWS & SONS(ユナイテッドアローズアンドサンズ、以下、サンズ)を経て、今のPOGGYのスタイルやカラーに行き着いたんだと思うけど、そこに定番を合わせることはないの?

POGGY それはあります。靴だったり、どこかワンポイント的にですが。例えば、ラグジュアリーストリートファッションだと、全身ハイブランドを着て足元は最先端のスニーカーを合わせている人が多いじゃないですか。僕はそういうのが似合わないんですよ。

松本 セレクトショップで育ってきた背景があるからこそなんだろうね。いろんなものをミックスして取り入れているというか。

POGGY そうだと思います。クオリティやストーリーがありつつ、遊び心のあるものを常に追い求めているような気がします。そういうのって、2000年代前半まではあまりなかったんですよね。たとえばALPHA(アルファ)のMA-1だったら、昔ながらのシルエットしかなかったのが、2000年代半ばぐらいからセレクトショップが別注して細身のMA-1を作り始めて。

松本 その当時模索していたことが、今は当たり前になってきているよね。

POGGY バーカーブラックも同じで、イギリスの伝統あるノーザンプトンのシューズ工場を使いながら、メダリオンをスカルにしたり、昔ながらのモデルというものがあまり重要視されていなかった時にあえてクラシックなモデルを作っていたり。そういうところが面白くて好きですね。

松本 デザイナーの兄弟はアメリカ人なんだよね。

POGGY はい。Kirk Miller(カーク・ミラー)は、バーカーブラックを立ち上げる前にThom Browne(トム ブラウン)で働いていて、Derrick Miller(デリック・ミラー)はRALPH LAUREN(ラルフ ローレン)で働いた経験を持っていて、共にアメリカントラッドには造詣が深い。でも、ちゃんと遊び心もあるんですよね。松本さんもそうですけど、僕はそういう人たちが好きなんです。トラッドを学んできた人は「こうでなければだめ」みたいな厳格さがあるじゃないですか。今はだいぶカジュアルになりましたが、僕が初めてピッティへ行った2005年は、まだクラシコイタリアブースに緊張感が漂っていた時代で。壁を作られて、話も全然聞いてくれなかったんです。何回も通って、こちらが服好きということがわかるとようやく心を開いてくれて。

松本 それはどの世界でも一緒かもしれないね。仲良くなってようやくファミリーとして迎えてくれる。

POGGY そうなんですよね。ただ、そういうのともまた別で、昔ながらの洋服屋の「お前にはまだ早い」みたいなところが好きじゃなかったんです。

松本 確かに多かったよね。地方のトラッド系のセレクトショップなんかは特に入りにくいところが多かった。

ずっと復刻してほしかった念願のヴァンとリーガルのコラボシューズ

POGGY 2005、6年頃って、トム ブラウンがBLACK FLEECE BY Brooks Brothers(ブラックフリース バイ ブルックスブラザーズ)をスタートしたり、ライフスタイル雑誌『Free&Easy(フリーアンドイージー)』がアメリカに逆輸入されたり、J Crew(ジェイクルー)がリカーストアをオープンしたりと、アメリカの人たちがアイビーやヘリテージを再評価しだした時。アメリカ人も『TAKE IVY(テイクアイビー)』を読み始めるようになったりして。

松本 『テイクアイビー』を作ったのはVAN(ヴァン)だしね。

POGGY そうなんですよ!そのことに改めて気付いた僕はヴァンヂャケットさんへ行って別注のお願いをして、スイングトップなどを一緒に作りました。その後、ヴァン創業者の石津謙介さんの長男の祥介さんや、孫の塁さんにお会いしたりもしました。そういえば、ヴァンヂャケットの方がトラッドについて言った言葉が忘れられなくて。

松本 それはどういう?

POGGY トラッドは線で、クラシックは点だという話なんですけど。どんなにいいものでも、その一時代で終わってしまえばただのクラシックとして点のまま。古い世代の人たちの「若い世代に伝えたい」とか、若い人たちの「古き良きものを学びたい」という思いが、その点と点を繋げて線になる。その線こそがトラッドだっておっしゃってたんですよね。線の引き方って、時代によっても変わりますし、僕がずっと拒否反応を示していた「お前の来るところじゃない」みたいな感覚もそれはそれで格好良いのかもしれません。でもそれって線になり得る可能性を自ら閉ざしちゃっている気がするんですよね。

松本 線を引く人を選んでいるっていう可能性もあるかもしれないけど、そうだよね。

POGGY 今って、UNIQLO(ユニクロ)もクオリティが高くなって、閉ざす時代じゃないと思うんです。自分としては、そういうところがモノの選び方に表れているのかもしれません。今回、クローゼットを見返してみて気が付きました。

松本 なるほどね。で、これはいつ頃買ったものなの?
POGGY 2010年ぐらいですかね。持っている靴の中で、唯一、わりと全うなタイプのものかもしれません(笑)。リカーの時に、ヴァンがREGAL(リーガル)と別注していたのを知って、では、リカーもリーガルと何か一緒にできないかと持ちかけて、2008年にサドルシューズを別注することになったんです。

松本 そうだったね。

POGGY それから、1964年に発売されたコラボモデルのVAN REGAL(ヴァンリーガル)を復刻してほしいとずっと言っていたら、決まったので、UAでも一部取り扱わせてもらえることになったんです。当時のウィングチップ、チャッカー、ローファーとプレーントゥの4モデルをそのまま復刻したのは嬉しかったですね。

松本 結構なモデル数だよね。ヴァンのオリジナルのラスト(木型)があったのかな。

POGGY リーガルが持っていたのかもしれませんが、確認します(笑)。当時、リーガルにはよくしていただいていて、こちらもnonnative(ノンネイティブ)やPHENOMENON(フェノメノン)、GLAD HAND(グラッドハンド)などをご紹介したりしました。その頃の日本のブランドは、靴を作る背景がなくて、困っていたところが多かったんですよ。だから当時、リーガルとコラボしていたブランドが多かったと思います。

松本 ジャパニーズブランドに対するリスペクトっていうのがあったのかな。

POGGY そうかもしれません。それから軍の靴も作っていたなど、リーガルには歴史がありますよね。

松本 『テイクアイビー』もそうだけど、やっぱり日本が作ったっていうことにみんなびっくりしてたよね。

POGGY そうですよね。日本が戦争に負けて、先人たちがアメリカに追いつけ追い越せで技術を磨いて、研究して築き上げてきたものって本当にすごいなって思います。何もないところからのスタートだったわけじゃないですか。

松本 そうだよね。デニムなんかも生地を切って、糸を全部バラして解体して、糸の細さと合わせて、オンスがどれぐらいあるかまで細かく研究したっていうしね。それで実際に生機を織ってみて、製品染めと糸染めと両方試してみたりとかかなり分解してやってたって。すごいよね。

POGGY デニムといえばLEVI'S(リーバイス)の501とか、長い時間をかけて日本人が決めてきた定番が、2000年代初頭にアメリカに逆輸入された感じですよね。当時「アメリカ人がアメカジに気が付いた」ってよく言われてましたね。

松本 やっぱりそこに、デニムと同じく、リーガルがあったのかもしれないね。

POGGY 一工場でありメーカーだったのが、アイビーを通して、ひとつのアイデンティティを作ったのかもしれないですね。

オーソドックスだけど無骨すぎない、チャーチのモダンなプレーントゥ“SHANNON”

POGGY 2008年のリーマン・ショックが起きた頃、原宿の明治通り沿いにH&M(エイチアンドエム)やFOREVER 21(フォーエバー21)ができると、そこから先に人が来なくなっちゃった時期があったんです。UA原宿本店も例外ではなく、会社全体でどう対策を講じていくか考えていました。リカーには根強いファンがいましたが、本店も来店客数が落ちていたため残すことができなくて、惜しまれつつも閉店することになるんですけど。そこで、UA原宿本店を変えさせてほしいと改善策を提案して、2010年にサンズをスタートすることになったんです。

松本 “アンドサンズ”というネーミングはどういう思いでつけたんですか?

POGGY イギリスの古い会社によく、“○○アンドサンズ”ってあるじゃないですか。UAが培ってきたドレスを次の世代に伝えたいという願いを込めました。リカーは、ヒップホップファッションがテーマだったので、ミュージシャンが着るような派手なものだったり、面白いことだったりに目がいきがちで、基本が抜けちゃってたんですよね。会長の重松(理)さんがよくおっしゃるのですが、武道の教えで「守破離(しゅはり)」というのがあるんです。まずは師匠の教えを守ることによって型を身につけて、そこから自分らしさを表現して少しずつ師匠の教えから離れていく。型がなければただの型無しだけど、型があるから型破りができることを学びました。基本を一から勉強し直したいという思いで、UAのドレスチームに入り、ピッティへ行かせてもらった時期がありました。そんな時にJOHN LOBB(ジョンロブ)だったりChurch's(チャーチ)だったり、オールデンだったりを買って履いていました。

松本 サンズをやりだして、ドレスを学んで。今日持ってきてくれたラインナップの中でこのチャーチはかなりオーソドックスなタイプだよね。どこが気に入っているんですか?
POGGY オールデンの990も好きでよく履いていたのですが、そっちはThe Stylist Japan(ザスタイリストジャパン)のセットアップなど、ちょっとラギッドなスタイルの時に合わせていました。このプレーントゥは、それよりももう少しモダンな感じで履けるところが気に入ってます。これはレザーが無骨すぎないところがいいですね。

松本 レザーとの組み合わせもコバの張りもすごくいいよね。少し可愛く仕上がるというのかな。どんなスタイルにも合う靴だよね。イギリス靴の中では特に人気だしね。

POGGY そうですね。ただ、僕はリカーをやってる頃は、バーカーブラックみたいな質実剛健な靴しか知らなかったんです。

松本 バーカーはチャーチのように特別、“高級靴”ってわけじゃないもんね。

POGGY 確かPRADA(プラダ)グループになった頃、チャーチはより洗練されて都会的になっていったように記憶しています。この“シャノン”は、そのモダンさに惚れました。イギリスの靴って、一般的に硬いというイメージが強かったんですけど、ジョンロブなど、上質な革で作られたものは足馴染みがよくて、履くたびにしなやかさが出やすいものが多いんですよね。

茶色のスエードが珍しい、ジョンロブのストレートチップシューズ“BRACKLEY”

松本 やっぱりジョンロブは別格だよね。

POGGY ほかと違う特別な存在ですね。ロンドンへ行くと必ずセントジェームス通りのお店に寄るんです。昔ながらの木型を見ることもできるし、ものすごい歴史を感じますね。ジョンロブは“ウィリアム”も持っているのですが、今日は僕が唯一持っている茶系の靴にしようとこっちを持ってきました。

松本 持ってる靴は黒が多いの?

POGGY そうですね。シューズクローゼットを見返してみたら8割が黒でした(笑)。これは昔ながらのストレートチップで気に入っています。ジョンロブだとトゥが細くてモダンな印象になるじゃないですか。スエードでこの色っていうのもなかなかないですよね。
松本 そうだよね。このメダリオンがめずらしいよね。サイドの切り替えも面白いね。2枚革で作られているんだ〜。独特なデザインでいいね。

POGGY ピッティによく行っていた頃、シンプルにスーツを着たイタリアの60歳、70歳のおじいさんたちをよく見かけました。LIVERANO(リベラーノ)のスーツに、チャーチのスエードのオーセンティックなモデルなんかを合わせていてめちゃくちゃ格好良いんですよ。そんな彼らに影響を受けて、スエードの靴が欲しくなってこのジョンロブを買ったという話です。確かセールで買いました。難しい色だから残っちゃってたのかなと(笑)。

松本 スエードの質感といい、デザインといい、いいね。ジョンロブが持つ究極のクオリティが表れてて。

POGGYの刺繍が入ったジョージ クレバリーのベルベットスリッパ

POGGY ところで、NIGO®さんはスーツがお好きなんですけど、コラボレーションしてスーツを作るならUAでやりたいとずっと言ってくださっていて。2010年に重松さんからの依頼を受けて、まだA BATHING APE®(ア・ベイシング・エイプ)にいた頃のNIGO®さんと一緒にMr. BATHING APE® by UNITED ARROWS(ミスター ベイシング エイプ バイ ユナイテッドアローズ)というコラボレーションレーベルを立ち上げたのですが、それが一旦休止して、2014年にNIGOLD® by UNITED ARROWS(ニゴールド バイ ユナイテッドアローズ)という新しいプロジェクトをスタートしたんです。そのコラボでGeorge Cleverley(ジョージ クレバリー)とシューズを作っていた時、打ち合わせで何度かイギリスを訪れたのですが、会長のGeorge Glasgow, Sr.(ジョージ・グラスゴー・シニア)さんご本人が工房を見せてくれたり、接客してくれたり、「栗野(宏文)さんや重松さんがBEAMS(ビームス)にいた頃よく仕入れてくれたんだよ」などと教えてくれたりと良い関係を築けていました。彼の息子でCEOのGeorge Glasgow, Jr.(ジョージ・グラスゴー・ジュニア)はアメリカ・ロサンゼルスに住んでいるのですが、やんちゃで面白い人なので、彼ともすぐに仲良くなりました。そしてこのベルベットのスリッパをプレゼントしてくれたんです。

松本 お、これですね。

POGGY 「POGGYのロゴを送ってよ」って言われたので、SKATETHING(スケシン)さんが描いてくれたロゴのデータを渡したら、これを送ってきてくれて。

松本 自分を刺繍でシューズに入れてもらえるのは嬉しいね!

POGGY そうなんです。イギリス靴のスリッパはルームシューズ扱いなのですが、クレバリーのシグニチャー的なチゼルトゥが落とし込まれていて見事だなと。育ってきたセレクトショップのドレススタイルと、ストリートから派生するカルチャーが好きな自分のヒストリーが結びついた一足でもあるので、特に思い入れがある一足ですね。

松本 もともとクレバリーが好きだったの?

POGGY NIGO®さんが好きだったので、NIGOLD®でコラボすることになったのがきっかけですね。NIGO®さんの持っている靴のほとんどがクレバリーとジョンロブだと思います。
松本 ものすごいドレスの靴なのに、ぶっ飛んでる。このワンポイントのモール刺繍でぶっ飛ぶ感じがいいよね。ベルベットの生地にパイピングの美しさ、それにこの刺繍のデザインがいい意味でミスマッチしている。この刺繍自体がうまいからいいんだね。職人さんの仕事を感じられる靴だよね。履くの大変だね〜。絨毯で履く用に作られてるもんね。

POGGY 特別な時に気合いを入れて大切に履いています(笑)。映画の『キングスマン』に登場する靴がクレバリーだったりしますよね。実際の撮影では、ジョージ・シニアさんがキャストたちを採寸したそうです。『ファントム・スレッド』にはカメオ出演もされているんですよ

松本 そうなんだ!

POGGY 息子のジョージ・ジュニアのミーハーさがいい具合に次世代にちゃんと伝わってるんだと思います。ある時、来日していた彼とセクシーな社交場に行く機会があったのですが、「なんだここは!夢のようなところじゃないか!」ってめちゃくちゃ喜んでいました(笑)。

松本 (爆笑)

アーカイブをベースにしたドクターマーチンとサンズのコラボローファー

POGGY 中学生とか子どもの頃、父親の服を着たくなる時ってありませんでしたか?僕は父の、決してオシャレというわけでもない革靴を勝手に借りて履いていました。それがリーガルだったんですよ。

松本 うんうん。背伸びをしたい時期、あったなぁ。

POGGY それから、ヴァン全盛期だった60年代半ばに、アイビールックに身を包んだみゆき族が銀座にたむろしたことで苦情が入り、取り締まられてしまうじゃないですか。本当はアイビーリーグのエリートたちのファッションだったはずなのに、どこかで屈折して、不良が着る服のイメージになっていったのかもしれません。僕が小学生の頃は、なぜか地元の不良たちがヴァンを着ていたんです。小6の時にヴァンのスイングトップを買って着ていたら、絡まれて盗られたこともありました(笑)。

松本 (笑)

POGGY 「おまえ、なんかいいの着てんじゃないか」って(笑)。悔しさもありつつ、ヴァンとリーガルは自分の中で思い入れがあるブランドになりましたね。それから、僕がオシャレを意識して初めて買ったのがDr.Martens(ドクターマーチン)でした。高校生の時だったかと思います。サイドゴアを買って、8ホールを買って。ドクターマーチンって、ビルケンシュトックに近いというか、足の調子の良くない人のための靴というイメージがありますよね。

松本 そうだね。ドイツのマーチン博士が開発した、エアクッションソールを初めて搭載した靴だからね。

POGGY それが70年代、80年代のパンクの人たちが履いたことで音楽のカルチャーがそこに入っていって。もちろんクオリティがよかったから、今でもちゃんと残ってるんだと思います。

松本 このモデルは?

POGGY サンズでコラボさせてもらった時のものです。ドクターマーチンのオフィスに行って、数あるサンプルの中にあったひとつに目が止まったんです。確か90年代のモデルだったと思うんですけど、聞くと、それを復刻する予定だということだったので、それならサンズでもやらせてもらえないかとお願いしたんです。昔から好きだったブランドとコラボできたのですごく嬉しかったですね。
松本 これはどこを変えたの?

POGGY サンプルはこれとは全然違っていたんですよ。革をマットレザーカーフに変えて、ステッチも変えて、と細かいところをいろいろ変えました。黒のほかにグリーンも作ったんですけど、そっちはTyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)っていうアメリカ人のラッパーが気に入って履いてくれました。

松本 これはドクターマーチンにしては仕上げがきれいだね。エレガントだし。

POGGY そうですね。僕、高校生の時はバンドをやっていたんですけど、ロカビリーやファッションに詳しい先輩や友人がいたこともあって、GEORGE COX(ジョージコックス)やドクターマーチンをよく履いていました。

松本 当時どうだった?昔の編み上げの8ホールとか10ホールって硬いよね。

POGGY 当時はわざと汚して履いていました。黄色のステッチをマジックで塗って黒くしたり、ペンキで塗ったり加工して。

松本 真新しいマーチンはダサい感じがしたよね。でもその頃は歴史までは知らなかったんでしょ?

POGGY そうですね。ライブハウスなんかに出入りしている子たちが履いているイメージだったので、ファッションとして履いていましたね。

松本 なんとなく履き出して、仕事するようになってその歴史を知っていったんだ?

POGGY はい。それで、改めていい靴だなと思いました。

松本 エアクッションってよくできてるもんね。ヒールの幅だって、普通はこんなに取らないし。これはきれいに履いているね。あんまり履いてない?

POGGY それが履きやすいので、実は結構履いてるんですよ。レザーの質ですかね。レザーシューズって、それぞれの国の違いやカラーがありますよね。そう考えると、僕はイタリアの革靴をあまり持っていないことに気が付きました。

松本 それはなぜ?

POGGY イタリアだとデザインされすぎちゃっているのかもしれないですね。僕、コーディネート自体がくどいので(笑)、それだとやりすぎになっちゃう気がして。

松本 と言いつつも、このMANOLO BLAHNIK(マノロブラニク)に関しては?

マゼンタピンクが足元を鮮やかに彩るマノロブラニクの“WHITNEY”

POGGY 去年、表参道にお店ができたじゃないですか。ふらっと入ったら、意外とオーセンティックな形の靴があるんだなと知りました。それまでは、マノロブラニクってレディスの靴というイメージしかなくて。でも調べていくと、David Hockney(デヴィッド・ホックニー)も履いていたということなどを知り、衝撃を受けました。それから程なくしてロンドンのピカデリーにあるお店を訪れて、これを買いました。表参道店にはサイズがなかったんですよね。

松本 イタリアの靴はあんまり持っていないという中でメイド・イン・イタリー。ブランド自体はイギリスで、デザイナーご本人はスペイン人だけど。

POGGY 僕が思うに、イギリス人のマインドとして「これ以上崩しちゃいけない」みたいなのがあると思うんですよ。マノロの靴はそのバランスがちょうどいい気がします。

松本 それにしても鮮やかな色だね〜。

POGGY 僕、ピンクが好きなんですよ。サーフィン映画の『The Endless Summer(エンドレス・サマー)』のポスターのようなピンクとオレンジの色合いが好きで、そういったイメージでサンズのロゴを作ったぐらい。マノロのお店では、同じような色のローファーも買ったんですが、このストレートチップのほうが僕の足に合うのでよく履いています。

松本 メダリオンの感じもいいよね。一見普通のオーソドックスなんだけど、この細い木型に合わせてシングルソールにしてあって。靴自体はマッケイだよね?

POGGY そうですよね。イタリアだとコバがもっと張りますよね。

松本 バランスがいいなぁ。

POGGY 僕、黒人の方たちのファッションが好きで。彼らって色使いが上手じゃないですか。セレクトショップのドレスコーナーの人たちも昔はわりと色を使っていた気がしますが、今はベーシックな色がメインになってきていると思います。イギリスのAnderson & Sheppard(アンダーソン&シェパード)がやっているセレクトショップに行くと、上質なカシミヤニット一型で10色ぐらいカラーバリエーションがあるんですよ。その余裕が格好良いなって思うんですよね。マノロにも同じ余裕を感じました。

松本 Joe Casely-Hayford(ジョー・ケイスリー・ヘイフォード)も近いかな。彼も絶妙な色使いのスーツを作るよね。やっぱり贅沢な感じがするよね。心の豊かさが表れるというか。

POGGY サンズではなるべく色物をやるようにしているんですけど、どうしてもネイビー、ブラック、ベージュに流れちゃうんですよね。でも、やっぱりファッションには遊びや夢が必要だということを忘れたくないんです。

松本 自分でも身に着けるなど、そういう視点を大事にした上で、POGGYにとってバランスのいいデザインの靴っていうのがマノロなのかもしれないね。

POGGY 女性的な感じかもしれないですね。アガって買う、みたいな。昔はよくありましたよね?

松本 すごくあった!もしかしたら似合わないかもしれないけど買ってみるっていう、挑戦するようなあの感じはなんだろうね。特にファッションを生業にしている人って、新しい違う自分を探したり、常に変化を求めたりすることに期待するんだろうね。

POGGY そうですね。僕、最近スニーカーを履くことが多いんですよ。楽なのでついスニーカーに頼りがちになっちゃって。でも、革靴を履いた時の緊張感を大切にしたいと改めて感じています。

松本 ちゃんと姿勢を保ってくれるから革靴はいいよね。
POGGY 今回のコロナ禍で家にこもりがちになると、極限までだらしなくなってくるなぁと実感しました。ただ、そんな時だからこそ家の中でもオシャレをするのは大切だなと思いました。重松さんと仲の良い山口源兵衛さんの話があるんですけど……。

松本 京都の誉田屋源兵衛の?

POGGY そうです。源兵衛さんが“ハレとケ”について話をしてくださったことがあって。“ハレ”とは晴れ着の晴れで、晴れやかだったり、賑やかだったり、特別だったり、結婚式や七五三などのおめでたいこと、つまり非日常的であることを意味するんだそうです。それに対して朝起きて、ご飯を食べて、仕事に行って……というように、いつもと変わらない日常的なことを“褻(ケ)”というそうです。ケばかりの生活だと心が枯れて“ケガレ(汚れ・穢れ)”になってしまうという話が興味深くてですね。人間、たまには晴れ着を着ないとケガレてしまう、と教わったんです。

松本 良い話だね。

POGGY そうなんですよ。そういう意味でも、革靴を履こうと思いました。こういう時代だからこそ。

松本 だからこのマゼンタカラーのマノロみたいに、自分のアガるスタイルを大切にしてるんだね。逆に、POGGYにとってケの服ってのはあるの?家にいる時は?

POGGY 最近は光電子が入っているリカバリーウェアを着ています。

松本 血行が良くなるの?

POGGY 確かに調子が良い気がしますね。GOLDWIN(ゴールドウィン)のスウェットが着やすくて気に入ってます。でも、ステイホームしていると、本当にずっとそれでいる時もあるので……。

松本 だよね。ハレとケのバランスが重要だね。

POGGY 僕にとってのハレの日の靴が、これ。COLE HAAN(コールハーン)×NIKE(ナイキ)×Tom Sachs(トム・サックス)のウィングチップシューズです。

コールハーン×ナイキ×トム・サックスによる垂涎の一足“MISSION CONTROL SHOES”

松本 コールハーンがまだナイキのグループだった頃のモデル?

POGGY そうなんです。2012年にナイキと、トム・サックスというニューヨークを拠点に活躍する僕の大好きなアーティストが「SPACE PROGRAM: MARS(宇宙計画:火星)」というエキシビションを開催した時に登場したドレスシューズなんですが、かなりレアで数も限られていたと思います。

松本 よく買えたね!

POGGY ずっと探していたのですが、海外の友人が持っているのを知り、譲ってもらったんです。コールハーンとナイキの両ブランドの特色を活かした作りになっています。アウトソールに初期のナイキの代表的テクノロジー“ワッフルソール”を搭載していたり、サイドにスウォッシュが入っていたり、かかとに着脱しやすいタブが付いていたり。
松本 へぇ〜。タンに縫い付けられたナイキのタグも効いてるね。

POGGY NASAとか宇宙を常にテーマにしているトム・サックスらしく、シューレースはNASAが開発した素材を使用したものだったんですが、破れてしまったので替えちゃいました。

松本 クラシックさと新しさがいい感じに融合されていてモダンだね。

POGGY やりすぎない感じで絶妙なんですよ。男って、自分の好きなカルチャーとかが入っているとアガるじゃないですか。そういう意味でも最高峰の革靴の一つですね。ここぞという時にしか履かないようにしている、宝物の靴の一つです。

クラシックとストリートの融合!パレスとポロ ラルフ ローレンのオペラパンプス

松本 このシューズは?

POGGY 一昨年、ロンドン発のスケートブランド、PALACE SKATEBOARDS(パレス スケートボード)が、POLO RALPH LAUREN(ポロ ラルフ ローレン)とコラボレーションして話題になったじゃないですか。その時のコレクションですね。ストリートの人たちが、ハイブランドを目指しつつ小馬鹿にしながらもパロディ的にしていたのが、ラグジュアリーとストリートがコラボする時代になってきて。このパレスとポロのコラボは、ラルフ ローレンが関わっているので、トラッドな路線のものが多かったのですが、その中でも特にこの靴に惹かれて買ってしまったんです。自分がサンズを始めた当初、クラシックなブランドとストリート発のものが結びつくのを追い求めていました。たとえば、Stüssy(ステューシー)とINCOTEX(インコテックス)がコラボしたら面白いな、みたいな。この靴はまさにその感じがして。

松本 しかもオペラパンプスだもんね。スケートと思わせないところがすごいね。

POGGY そうなんですよ。結局スケートもグラフィティとかも自分のスタイルの追求なんですよね。だからそういう意味ではドレスの人たちと思想はすごく近いのかもしれません。それから僕、Malcolm McLaren(マルコム・マクラーレン)やMark Gonzales(マーク・ゴンザレス)のように、トラッドスタイルをベースにしているストリートアイコンが好きなんですよ。トラッドって若い人が着ればそれはそれで格好良いんですけど、年を取れば取るほど深みが増すスタイルじゃないですか。

松本 うんうん。ゴンズは年を重ねてからよりトラッドなスタイルでスケートをするようになったよね。

POGGY そんなイメージもあって、カジュアルスタイルにこういうオペラパンプスを合わせるのが好きなんです。
松本 しかもこれ、アッパーの部分がニットなんだ!

POGGY そうなんですよ。正統派なタキシードとかでもこれを履くだけで全然違うイメージになるので面白いんです。

松本 グリーンとか黄色とか、明るいネイビーとかのベルベットのタキシードにこれを合わせたら格好良いかも。そういうハズし方っていいよね。自分のための買い物も、バイヤー目線で見てることもあるの?お店で売りたいものとして選ぶことは?

POGGY 僕が好きなものと売れるものは違うと思うんです。合わせにくいものをあえて選ぶことも多いので。祐真(朋樹)さんもそうだと思うんですよ。僕のイメージでは、祐真さんって難しいアイテムを好むタイプだと思うんです。着こなすのが難しそうだけど、だからこそ着てみたい、みたいな。僕もそれに近いかもしれないですね。

トラッドなデザインにカラフルなペンキを飛ばしたトリッカーズ×コズのスエードローファー“JAMES”

松本 最後の一足はローファーですね。

POGGY これは昨年末に、サンズとUA原宿本店で限定発売した、スタイリストの安西こずえさんとTricker's(トリッカーズ)によるユニセックスのシューズコレクションからの一足です。去年の夏頃に、安西さんから「トリッカーズとコラボをすることになったんだけど、UAで何かできない?」とお話がありまして。ちょうどその時サンズで、Paraboot(パラブーツ)の“ミカエル”をピンク色でできたらいいよね、なんて話をしていたんですよ。オーセンティックな靴を作りたいけど、サンズで作るんだったら面白いものにしたいよね、とか言っていて。

松本 ピンクのミカエルか、面白そう。

POGGY 残念ながら実現するまでには至らなかったので、いいタイミングでトリッカーズのお話をいただくことができたと思いました。安西さんと一緒にやりとりしながら、このローファーのほかにサイドゴアブーツとウィングチップシューズと全部で三型作りました。

松本 アクション・ペインティングがいいアクセントになってるね。

POGGY “ジェームス”という定番のローファーなんですけど、本国の許可を得て、日本のペンキ職人のMSDTさんが丁寧に手作業でペンキを飛ばしているんです。本当はカーフレザーでやりたかったんですが、それだとペンキが落ちちゃうのでスエードになりました。

松本 職人の手作業ということは1点ずつ表情が違うんだね。そういう特別感っていいよね。

POGGY 絵を描くアーティストが、ペンキまみれでパーティに登場する格好良さってあるじゃないですか。そういうのを表現できたらいいよね、と完成したスペシャルなモデルです。ペンキの飛ばし方ひとつで表情が変わるのが面白くて。ちょっと蛍光色が入ると今っぽく見えたりして。しかもトリッカーズというイギリスの歴史ある靴に、こういったチャレンジングな試みをすることができたのが嬉しかったアイテムですね。
松本 もともとトリッカーズは好きだったの?

POGGY そうですね、結構色々なモデルを履いてきたと思います。

松本 POGGYにとってトリッカーズの良さはどんなところ?

POGGY 男臭いカジュアルスタイルに合うラストと、このコバの感じですかね。このローファーもCarhartt(カーハート)のダブルニーのワークパンツに合わせて履くのが好きです。

松本 トリッカーズって二面性を持っているブランドだなと思っていて。無骨なワークスタイルに合うシューズもあれば、美しいドレスシューズもある。ダブルソールを採用しているものもあって、ある意味、ジョンロブ的な素材の選び方をするなぁと。靴の作りは質実剛健なんだけど、それでいてエレガントなんだよね。

POGGY ジャーミンストリートのお店も一足一足、靴紐を結んでくれる昔ながらのオーセンティックな接客スタイルが格好良いですよね。今はこのローファーと、ストレートチップのオーセンティックなモデルを履いています。そっちはギリギリダサいところが気に入っているんです(笑)。

松本 革靴でいうとやっぱりトリッカーズが一番多いの?

POGGY ドクターマーチンかクラークスが一番多いかもしれません。ドレスシューズだと、確かにトリッカーズが多いのかなと思います。

松本 では、ブランドでいうと?

POGGY 当時、コラボもたくさんやっていたのでリーガルですかね。ドクターマーチンも多いと思います。

松本 話を聞いていると、POGGYはイギリスの靴が好きなんだね。

POGGY 言われてみれば、確かにそうですね。

松本 さっきの重松さんの型の話じゃないけど、基本があって、それが背景に流れているから、自分らしく進化したPOGGYのスタイルが出来上がっているんだね。

POGGY メンズのファッションウィークって、最初にピッティから入って、ミラノへ移動してパリに行くじゃないですか。ピッティとミラノにいる時ってスーツを着たくなるんですよね。でもそのまんまの感じでパリへ行くとなぜか恥ずかしい(笑)。パリは格好つけない格好良さが良しとされているじゃないですか。だから、パリの途中にロンドンへ行くと、めちゃくちゃアガるんですよね。イーストロンドンなんかへ行くとパレスとか最先端のストリートカルチャーもありつつ、ジャーミンストリートやサヴィルローのようなクラシックなカルチャーも残っていて。

松本 クラシックとストリートの両方が混在しているっていうのがポイントなんだね。

POGGY そうですね。アメリカにもそういうのはあると思うんですけど、イギリスの方がある意味クレイジーというか。ジェントルマンなんだけどぶっ飛んでる人ってイギリス人に多いじゃないですか(笑)。イギリスっぽい感性を自分らしいスタイルに落とし込むのが好きですね。
                      
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