キース・ヘリング作品とのコラボで発信する、印傳屋上原勇七の新たな挑戦とこれから(前編)
FASHION / FEATURES
2021年12月23日

キース・ヘリング作品とのコラボで発信する、印傳屋上原勇七の新たな挑戦とこれから(前編)

上原伊三男専務インタビュー(前編)

日本の伝統的な柄を漆であしらった鹿革の工芸品である印伝。16~17世紀頃にインドから日本へ伝わり、甲州印伝の技法を確立したのが上原勇七であった。1582年の創業から家長代々その名が受け継がれ、このたび現代表取締役社長の上原重樹氏が14代目を襲名する予定だ。今回はその実弟にあたる伊三男氏に、本コラボの経緯から印傳屋のこれからについて話を伺い、生産現場へも足を踏み入れた。

Photos by NORIYO  Text by KAWASE Takuro

甲府駅から徒歩15分ほどの場所に構える印傳屋上原勇七本店の二階にある印傳博物館。江戸時代に作られた希少な印伝や漆器を数多く収蔵する。
コロナ禍の今、日本の伝統産業がポップアートに着目した理由
過去にはティファニー、グッチ、アスプレイといった世界的なラグジュアリーブランドからのオファーでコラボが実現しました。今回は印傳屋からのオファーとなりましたが、それは積極的に仕掛けたいという意図があったのでしょうか?

コロナ禍の煽りを受け売り上げが低迷し、社内に重苦しいムードが漂いました。世の中全体にもある種の閉塞感があったと思います。おこがましいかも知れませんが、そうした状況を打破し、社内のムードを明るくするためにも、自分たちが動かなければという想いに駆られて今回は私どもからのオファーとなりました。

コロナ禍における自粛要請に関しては、飲食や旅行業界ばかりが取り上げられましたが、アパレルや服飾雑貨も相当な被害を被りましたね。

我々も例外ではなく、特に昨年4月から6月の緊急事態宣言で店舗を閉めざるを得ない状況でした。直営店はもちろん取引先も含め、休業における損失は過去に例を見ないほどで、一時は大変厳しい状況でした。こうした状況下において、我々の方から世の中に向け、前向きなメッセージを発信したいと考えたからです。
専務取締役の上原伊三男氏。
キース・ヘリング作品に白羽の矢を立てた理由はどこにあるのでしょう?

誰もが分かるポップなモチーフとインパクトのある色使いですね。閉塞感が漂う現在の日本に明るい未来があることも提示したかったので、特に若い方にも受け入れられることを念頭に置きました。その点でもキース・ヘリング作品は、アートにそれほど詳しくない方でも作品自体は広く認知されているのでアピールしやすいと考えたからです。

ポップアートという側面から考えれば、村上隆さんなど日本人アーティストも候補に上がったのでしょうか?

実は村上さんとは以前にコラボしたことがありました。伝統的な和柄を継承しながらも、時代に即したモチーフが求められることは我々も常に意識しております。特に若い顧客にアプローチするための新しいチャレンジは欠かせませんし、進化し続ける姿を皆さんに見ていただきたいのです。
数量限定で10月末から販売が開始されたキース・ヘリング コレクション第一弾。小銭入れ、札入れ、カードケース、キーホルダー、ポーチがラインナップ。価格は3,080円〜3万4,100円。

© Keith Haring Foundation. www.haring.com. Licensed by Artestar, New York.
ポップでポジティブなメッセージを日本の伝統技法で表現
今回のコラボレーションにあたって最も苦労した点とは?

キース・ヘリング財団との契約でした。当然ながら英語でやりとりをするわけですが、膨大な量の契約書に目を通さなければなりません。プロの力を借りながら詳細まで確認し、英文のニュアンスまで汲み取りながらひとつひとつ契約内容を理解していく作業は非常に苦労しました。契約完了後は比較的スムーズでしたが、商品やデザインなど数々の監修をクリアする必要がありますので、構想からサンプル商品が完成までに約1年かかりました。

コラボレーションにあたって印傳屋が重視していることとは?

目新しさや一時的な話題作りのためではなく、継続的な取り組みであることです。旧来のお客様にも受け入れられ、新規のお客様にも手に取っていただけることが大切です。キース・ヘリング作品の起用に関しては、昔からのお客様から賛否の声があるかも知れないという不安がなかったわけではありません。しかしながらいざ蓋を開けてみると、若い方はもちろんのこと年配の方まで幅広く受け入れられたので安堵しました。
これまでの印伝では見られない鮮やかなブルーは特に印象的ですね

新しいチャレンジですので、インパクトを重視しました。第一弾となるドッグモチーフはその点を意識してデザインしております。元々は同一方向しかないモチーフを両方向に配置し直して、縁取りに漆付けを施しています。さらにファスナーテープにはブルーとのコントラストが際立つオレンジを組み合わせたこともポイントです。第二弾となるブラックの方は、多様なモチーフが混在する作品をそのまま採用し、ベージュの漆付けをしました。こちらもやはりファスナーテープにアクセントとなるレッドを使いました。
躍動感あふれるモチーフを型紙に落とし込み、キース・へリング特有のチョークのような質感に仕上げた顔料を均一に刷り込む。
熟練した職人の手によって、均一でムラなくキース・へリングが描いたモチーフが鹿革に施される。
気温や湿度による変化に細心の注意を払いながら、独自に調合した漆を練る。
漆付けによってベージュの色が加えられる。
レイヤーのように伝統技法を駆使して、無地の鹿革に新たな魅力が吹き込まれる。
11月末に発売された第二弾。キース・へリングの作品でも人気の高いモチーフが詰まっており、縁取りの白い部分は樹脂製の顔料を、ベージュの部分に漆をあしらっている。

© Keith Haring Foundation. www.haring.com. Licensed by Artestar, New York.
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