連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」について語る
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2015年1月23日

連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」について語る

連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」について語る

代官山蔦屋書店の自主企画「代官山BOOK DESIGN展」が、5月25日(日)まで開催中だ。国内外で2013年に発行され、蔦屋書店で販売している書籍の中から、印刷、レイアウト、装丁の視点で、アート・デザイン売場のコンシェルジュが選定。厳選した30冊を、展示・販売している。

Text by YANAGIMOTO Koichi

2013年発行の“グッドデザイン・ブック”を紹介する展覧会

日本ではなじみが薄いが、ヨーロッパでは毎年前年に発行された書籍の中から「最も美しい本」を選定するイベントは、昔からおこなわれている。

特にスイスやオランダ、ドイツは世界的に知られている。この3カ国に共通しているのが、過去にプロテスタントが盛んだった国なのだ。プロテスタントでは聖書に忠実である事が最も重要であったことから、聖書を普及させること、それがすなわちキリスト教を広げる大きな手段であった。

ドイツのヨハネス・グーテンベルグが、1455年に世界で初めて活版印刷で制作した書籍も旧約・新約聖書であった。そういった理由で、スイス、オランダ、ドイツでは特に印刷・出版が盛んな国となり、キリスト教の勢力が弱まって以降も、印刷は発展をつづけた。


連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」 05

Rijks Museum

19世紀末頃には印刷会社がアーティストやデザイナーのパトロンとなり、芸術活動を支えながら、芸術家達が望む印刷技法を開発していった。オランダでは中小の印刷会社組合が週報を発行し、毎年クリスマスの特別号では、その年に話題のデザイナーにコンセプトから編集・デザインまでをすべて監修させ発行する機関誌があり、戦前から現在まで続いて刊行されている。

もちろん、このような環境はデザイナーの活躍の場も広がってくる。イルマ・ボームはそういったデザイナーのひとりだろう。今回の「代官山BOOK DESIGN展」でも選書されているし、オランダのベストブック・オブ・ザ・イヤーではここ10年以上常連になっている。

イルマ・ボームは昨年、10年近くの改修が終わりリニューアル・オープンした、ライクス・ミュージアム(アムステルダム国立美術館)のアートディレクターとして任命され、トレードマークからガイドチラシ、包材、ミュージアムグッズに至るまで手がけたのだが、最も気になるのがこの美術館の写真集だ。

通常、美術館そのものの写真集というとコレクションしている名画が美術館のロケーションの中で紹介されているカットを想像するが、イルマはコンセプトの中で解体中の廃墟のような美術館写真のカットを多用。美術館のリニューアル自体が、まるでコンセプチュアルアートのように1冊の本になっている。今回の展示でももちろん、選書されている。

連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」について語る

10%ずつ大きくなっていく本

もう1冊、イルマ・ボームの書籍が選定されている。それはイルマ自身が手がけた、プロジェクトをまとめた作品集だ。実はこの作品集は2010年に初版が発行され、昨年発行されたものは2版目にあたり、前回からの3年分の仕事を追加した内容になっている。

もちろんイルマのことだから単純な本は出さない。4.5×5.5cmという極小サイズでありながら、800ページを越えるボリュームなのだ。

連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」 09

Biography in Books

連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」 10

しかし、これだけで驚いてはいけない。今回の2版はサイズが10%ほど大きくなっている。印刷の事を少しでもご存知の方はお分かりかと思うが、印刷には製版という元版が必要で印刷コストを考えると、同じ版を流用して増刷すれば無駄が無い。しかし、イルマはあえてサイズを変え、非効率ながら全く違う版を制作し2版目を制作した。厳密にいうと2版目ではなく、全く同じような本を新しく作ったというのが正しいだろう。

さらに彼女は、今後増刷する度に10%ずつ書籍の大きさを拡大していき、マトリョーシカのようなシリーズにしたいと言っている。このような書籍ばかりなので、彼女の手がけた書籍は発行部数も少なく、コレクターズアイテムとなっている。既に2010年版は、当時販売されていた金額の10倍近い金額に高騰しており、2013年版も必至だろう。

連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」 11

連載・柳本浩市|第35回 「代官山BOOK DESIGN展」 12

話を「代官山BOOK DESIGN展」に戻そう。ブックデザインはアートやデザイン本に限ったことではない。今回は新書のシリーズものや文芸本、絵本、料理本なども選書されている。通常、書籍は書かれている内容を目当てに読んだり、購入したりするものだが、印刷や造本といった本来と違った文脈で本の魅力に“気づき”を与えてくれる展覧会といえる。会場の展示什器も選定のポイントとなったディテールに、焦点がいくような凝ったつくりであるところも興味深い。もちろん選書された書籍は全て購入可能で、その他スイス、オランダ、ベルギーなどのイベントで選書された書籍や図録なども同時に販売している。

「代官山BOOK DESIGN展」
会期|2014年5月1日(木)~5月25日(日)
会場|代官山 蔦屋書店 2号館1階アートギャラリー
時間|7:00~深夜2:00(営業時間)
Tel. 03-3770-2525
http://tsite.jp/daikanyama/event/003605.html

トークイベント1|中島佑介(limArt・POST代表)×田中義久(Nelhol)
開催日|5月16日(金)
トークイベント2|柳本浩市(Glyph) ×番場文章(代官山蔦屋書店)×三條陽平(代官山蔦屋書店)
開催日|5月25日(日)

場所|代官山 蔦屋書店 1号館2階イベントスペース
時間|19:30~21:00
参加方法(要予約)|代官山BOOK DESIGN展図録(300円)ご購入の方
店頭予約|代官山 蔦屋書店2号館1階アートカウンター
電話予約|03-3770-2525
定員|先着70名(予約定員に達し次第終了)

           
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