more trees|プロダクトデザイナー・深澤直人氏が語る新色「鳩時計」
DESIGN / PRODUCT
2015年4月23日

more trees|プロダクトデザイナー・深澤直人氏が語る新色「鳩時計」

more trees|モア・トゥリーズ

「鳩時計」カラーバリエーションリリース

深澤直人氏に訊く、「森を育むデザインクラシック(定番)」(1)

森林保全団体「more trees(モア・トゥリーズ)」は、これまでに国産材を利用した数多くのデザイナーズプロダクトを発売してきた。なかでも、プロダクトデザイナー・深澤直人氏が手がけた「鳩時計」は、2009年の発売以降、不動の人気を誇っている。そして今秋、モア・トゥリーズは、素材にトドマツを使用した、あらたな鳩時計を発表した。8月末におこなわれた深澤氏とモア・トゥリーズとのミーティングに潜入し、その誕生秘話に迫った。

Photographs by Shinya HiroseText by HIKITA Sachiyo(Fukairi)

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針葉樹で鳩時計を

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左がトドマツを使用した新作「鳩時計」

手にとりやすくプレゼントしやすいその手軽さ、やわらかな鳥のさえずりと、あたたかい木の風合い――鳩時計という誰もが知るプロダクトが、人々に長きにわたって愛されつづけているのには、なにか必然性を感じてしまう。

今回リリースされる、あたらしいカラーの鳩時計の素材には、トドマツを使用している。別名「北海道モミ」といわれ、なめらかな白色の木材だ。従来のクルミ素材のブラウン色と並べると、コントラストが美しく際立つ。

すでに発売されているクルミ素材にくわえてトドマツバージョンを製作された背景には、日本の森林の多くがスギやヒノキなどの針葉樹だという事実がある。つまり、モア・トゥリーズの目指す持続可能な森づくりには、針葉樹の有効利用が欠かせないのだ。「針葉樹で鳩時計を」というモア・トゥリーズの念願が、形になったのである。

長く愛される名品を作る

あらたな鳩時計と対面した深澤氏は、さまざまな角度から色合い、肌合いを丹念にチェックしたあとで、「いいじゃないですか」とほほ笑んだ。現在、鳩時計を取り扱っているのは40店舗、いずれも人気商品として打ち出されているという。深澤氏自身、「巣箱のような、特徴的でシンプルなデザインにしたことがよかったのかも知れませんね」と語った。

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また、深澤氏はモア・トゥリーズで企画したベンチの製作も手掛けており、そのシンプルな佇まいは変わらない。マックス・ビルやアルヴァ・アアルトのスツールが、今でも世界中で愛されているのは、簡単でシンプルな作りと美しいフォルムを同時に見せているからである。そういった意味で、「モア・トゥリーズ自体のコンセプトやイメージを打ち出しながら、人々に長く愛される、シンプルな名品を生み出していく必要があるだろう」と深澤氏は話す。

モノが求められるには、価格であったり、用途であったり、デザイン性であったりと、それなりの理由がある。実際、「間伐材だから」といって商品を買う人はごくわずかで、多くは「魅力的だから」「ほしいから」モノを買うのが当たり前だ。

そう考えたとき、鳩時計が求められる理由が見えてくる。「だれが作った」「どんなコンセプトがある」といった背景はさておき、それを「ほしい」とおもってもらえるかどうか――そこに、デザインの本質があるのだ。モア・トゥリーズの活動は、森づくりとモノづくりのサイクルが生まれてこそ意味がある。

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そういった点でも、鳩時計の人気が示唆するものは大きい。「魅力的なデザインは、間伐材と“もの”の相性が合わないとうまくいかないとおもいますよ」という深澤氏の心強い一言は、モア・トゥリーズのあらたなモノづくりへのエールとなったにちがいない。

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more trees|モア・トゥリーズ

「鳩時計」カラーバリエーションリリース

深澤直人氏に訊く、「森を育むデザインクラシック(定番)」(2)

プロダクトデザイナー・深澤直人氏。彼は、モア・トゥリーズの賛同人でもあり、これまでに国産材を使用したベンチや鳩時計をデザインしてきた。“Without Thought”=「思わず」をテーマとした数々のデザインワークは、日常に溶け込みながらも、ふと潜在意識のなかに適正な感覚を呼び覚ます力をもっている。モノと森と社会のサステナブルな関係性を作り出すデザインとは――あらたにリリースされる鳩時計を皮切りに、深澤氏のデザイン哲学を語ってもらった。

Photographs by Shinya HiroseText by HIKITA Sachiyo(Fukairi)

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木の魅力、プロダクトデザインの醍醐味

――新プロダクトをご覧になって、どのような印象を受けられましたか?

振り返って客観的にこのプロダクトを見ると「いいな」とおもいますね。もともと、この鳩時計は「巣箱」をイメージしてデザインしました。森や林があって……そこに巣箱を置くとなると、当然そこに生息している木を使うことになる。そうして考えると、今回のように素材を変えたバージョンを作っていって、ひとつひとつの森ごとにオリジナルの鳩時計ができたら面白いでしょうね。

そうして、さまざまな種類の鳩時計が増えていけば、モア・トゥリーズの活動がどんどん広がるだろうし、そういった活動が増えれば森も豊かになるでしょう。

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――プロダクトデザイナーとして「木を扱う面白さ・魅力」についてお聞かせください。

プロダクトデザインを抜きにしても、人間は基本的に木にたいしてフレンドリーなイメージをもっているでしょう。ただ、「かたちづくる」という点で考えると、木の性質・性格を理解していないと、簡単にいうことを聞いてくれない素材と言えます。木の性質をよく知り、それにあったものをつくることがとても重要になります。そういう意味合いでは、その木が育った場所で使うのが一番合っているとおもいます。

「木をみて森を見ず」という言葉がありますね。モノを作るときもおなじく、全体を見据えることが必須です。例えば、法隆寺は、ひとつの山全体を使って作られています。日影の木と日向の木を使い分けて、将来どのように木がねじれていくのかまで計算しているそうです。鳩時計もおなじで、いまはきれいに仕上げてあっても、数年経つと、まちがいなくどこかの面に段差が出てくるでしょう。そして同時に、そういったものが味になっていくのです。

また、木には木目という独自の美しさもあります。具体的には、並行の直線が並ぶ「柾目(まさめ)」と、鮭の切り身のようにカーブを描いた「板目」があり、鳩時計には、「柾目」を使用しています。「柾目」はピッチが少なければ少ないほど、冬が長く成長が遅いということで、高級だと言われています。

――「鳩時計」は発売以降、好調な売り上げを記録しています。やはり、プロダクトは「売れつづける」ことに価値があるのでしょうか?

価値があるというよりは、必然的にそうなるべきだとおもいます。「売るために作る」というより、「魅力があるから売れつづける」のです。すなわち「売れる」というのは、「すたれない」と同義なのです。右肩が上がるのではなく、左肩が下がらないということですね。

売れつづけるものは、作り方に関しても、使い方に関しても、シンプルで、恒久的です。その基本は、作り方、使い方の双方が「適正である」ことです。間伐材でも、その材料にもっとも適したものを作れば、すたれることはないでしょう。

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逆に言うと、単に間伐材だからというだけで物を作るのであれば、適材適所の法則からいうとまちがっています。

いまの家屋の住空間では、この鳩時計で使用されているような白木が露出していることはほとんどありません。しかし、京都のすだれやすのこのように、空間にひとつ、木があるだけでも自然をイメージすることができます。この鳩時計も、その空間に「ある」ということが、イメージを膨らませる、ひとつの「適正」をもっているのだとおもいます。

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「鳩時計」カラーバリエーションリリース

深澤直人氏に訊く、「森を育むデザインクラシック(定番)」(3)

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人・モノ・環境の関係性

――深澤氏は過去に、「プロダクトデザインは、人とモノと環境との良い関係性を具体化するもの」と語られています。では、今回の鳩時計が作る「関係性」とはどのようなものでしょうか?

プロダクトを作る段階で、鳩時計と聞いてすぐに「欲しくなったり、子どもや孫にあげたくなるものだな」とピンときました。そうすると「鳩時計は木でつくるのが一番」という考えも自然に浮かびました。この「気付き」がもっともで、必然的だと考えたのです。それは、僕のなかでも、きっと一般的にも、すでにその関係性が成り立っているということを示していると感じます。だからこそ、みんなも納得して買ってくれる。モノと人と環境の関係性が成立しているからこそ、「鳩時計」が人々に受け入れられつづけているのだとおもいます。

――その関係性が成立しているものを私たちは「クラシック」と呼んでいるのでしょうか。

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デザインの世界に「デザインクラシック」という言葉があります。日本の「クラシックバレエ」「クラシックミュージック」とは別の意味で、そのデザインが、時代を超えた定番・アイコンになったということを意味します。

つまり「殿堂入りしたデザイン」ということですね。僕らが死んでしまっても、数十年も使われつづけているものがあるとすれば、そこではじめて「デザインクラシック」になったと言えるのです。

デザイナーが生きているあいだにデザインクラシックになるかどうか、それは誰にもわかりません。そういう意味で私自身、自分の生命の時間を超えて、デザインし、モノを作っているのだとおもっています。

そしてこの考え方は、モア・トゥリーズのミッションと似ているとおもいます。未来を見据えた森づくりは、一種のデザインなのです。モノ自体は、必然的に姿を消す存在です。現在の先進的な技術的な背景をもってすると、「無」からデザインするという行為は少なくなっています。一方、10年前と現在とでは、身の周りにあるものはガラリと変わっているでしょう。

厚いテレビや、大きな電話が姿を消して、薄型テレビと携帯電話が当たり前になりました。しかし、本質的な機能は変わらずに残っています。環境の変化に合わせて進化をつづけることは、生きとし生けるものすべてにおける「必然の合理性」だとおもいます。

そして人々は無意識にそれを了承しているし、そっちにいくだろうとわかっているわけです。「これは自分が捨てればなくなるだろう」「これは自分が捨てて、誰かにあげてもずっと使われつづけるだろう」と。

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その循環を知りながら、私たちはモノと関わり合っていく。そうして私たちの世界が成り立っているのだとおもいます。

未来をかたちづくるデザイン

――「必然の合理性」による循環は、持続可能な社会の本質のように感じますね。

そうですね。「サステナブル」という言葉が広く使われるようになって久しいですが、やはり、いいものは捨てられずに、誰かが使っていきます。そうした循環のなかで、そのものの価値がさらに高まっていく。それがもっともサステナブルなかたちであり、重要なファクターでしょう。プロダクトも環境も社会に関しても、その根底にある循環の哲学は変わらないとおもいます。そもそも人間は、地球環境全体からエナジーをもらって生きています。

しかし、人間社会の発展のなかで、そのバランスに破綻をきたしてしまいました。そしていま、私たちはその破綻を修復し、治そうとしています。こういった気運が高まってくれば、活動が連鎖して、必然的に問題が解消していく方向に向かっていくでしょう。そうして、そもそもの「必然」に戻っていくのではないかとおもいます。

――とすると、「必然に戻る」ことは人間の生まれ持った力のように感じます。

必然に戻っていく力は、生まれ持った力というより、人間の「反省」でしょう。自分たちも環境の一部だから、環境を守っていかざるを得ないとわかってきたのです。自分たちが環境を駄目にしていると。

――では、私たちの「反省」のなかで、デザインはどのような役割を果たしているのでしょうか?

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私がデザインをするときは、まず、モノが生かされる時間があるとすればそれがどれぐらいなのか、どれくらいの人に使われるのかということを考えます。時間で言えば、1週間かもしれないし、50年、もしかすると100年単位かもしれない。人でも、10人か、100人か、はたまた1万人か。

これは、使われる時間が長ければいい、使う人が多ければいい、というわけでもありません。そもそも求められているものをかぎ分けて、適正にあったものをつくるというのが「デザイン」なのです。

そういった意味で、モア・トゥリーズもひとつの活動のように見えて、ひとつの「デザイン」といえるでしょう。森という一つの循環する生命体を作っているという意味では、「地球をデザインしている」ということなのですから。

深澤直人|FUKASAWA Naoto

1956年山梨県生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業後、セイコーエプソン社入社。89年渡米、現在のIDEO社に入社。独自の造形理論「張り」や、ディテールを突き詰めたデザインをつくり上げる。1996年IDEOジャパン設立のために帰国。「WITHOUT THOUGHT」といったワークショップを主宰、いままでの日本にはなかったかたちでのデザインコンサルティングに取り組む。2003年独立。ダネーゼ、マジス、ドリアデ、アルテミデ、B&Bイタリア、ヴィトラから作品を発表。2006年にはジャスパー・モリソンとともに「スーパーノーマル」という思想にちかい活動を開始する

「鳩時計」
素材|トドマツ
発売日|10月中旬~下旬予定
価格|3万4650円

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Tel. 03-5770-3969

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