
DESIGN /
FEATURES
2025年6月17日
アルカンターラの次なる挑戦 ミラノデザインウィーク2025で見たラグジュアリー素材の革新
サステナビリティとメイド・イン・イタリーの価値
技術力への自信と同様に印象的だったのは、環境配慮への取り組みに対する同社の先進性だった。ロッリ氏は2009年という早期からのカーボンニュートラル認証取得について説明する。
「私たちがこの取り組みを始めたのは2009年で、当時はまだ誰もカーボンフットプリントについて考えていませんでした」
現在EUで義務化が進むサステナビリティ報告についても、16年前から自主的に継続している。こうした先進的な取り組みは、偶然ではないだろう。原材料レベルでも、リサイクル資源やバイオ由来の原材料を使用した製品開発に取り組んでおり、フェラーリ「プロサングエ」の内装などで既に商品化を実現している。
ロッリ氏との対話で頻出したキーワードが「メイド・イン・イタリー」だった。単なる産地表示を超えた意味合いで使われている。
「『メイド・イン・イタリー』の重要性は、世界最高峰であるラグジュアリー産業や皮革産業で働く地元のサプライヤーやパートナーを活用する機会があるということです」
地元サプライヤーとの柔軟な連携により、継続的に新しいアイデアを生み出し、製品開発に活かす体制。これが同社の創造性を支えているのだろう。
創業50年を迎えた今、同社は自動車内装材の枠を超えて多分野への展開を加速している。今回のミラノデザインウィークでの展示は、そうした方向性を示すものでもあった。
ロッリ氏は企業のビジョンについて語る。
「美しく、スタイリッシュで、触れたくなるようなものを求める時、アルカンターラが真っ先に思い浮かぶ。これが私たちのビジョンです」
続いて登壇したデザインオフィスのシルビア・ディ・アンセルモ氏は、技術革新の実際について説明した。
「私たちは、お客様のご要望にお応えしながら作る方法と、私たちの方から提案する方法、つまりオンデマンド(受注生産)とオンプロダクト(企画提案)のいずれにも対応しています」
この二極化した戦略の背景には、顧客との特殊な関係性がある。
「私たちは顧客にインスピレーションを提供する一方で、顧客からもインスピレーションを受け取る、興味深い関係性を築いているのです」
シルビア氏によると、6人のデザイナーで構成されるチームが昨年約130回のプレゼンテーションを世界中で実施した。
「ヨーロッパ、中国、アメリカなど世界中のお客様に私たちの新作をご覧いただいています」
年間サンプル制作数は、自動車関係で約40-50サンプル、ファッション関係で年2回のコレクションあたり約20サンプルとなっており、自動車分野での圧倒的な存在感に加え、ファッション分野での着実な展開が読み取れる。
シルビア氏が詳しく解説したのは、同社独自の加工技術群だった。パーフォレーション技術では素材の品質の高さが顕著に現れるという。
「アルカンターラは素材の密度が均一で安定しているため、穴あけ加工をした際の切断面が非常にきれいに仕上がります」
創業50年を迎えた今、同社は自動車内装材の枠を超えて多分野への展開を加速している。今回のミラノデザインウィークでの展示は、そうした方向性を示すものでもあった。
環境配慮への早期取り組み、さまざまなクリエイティブ表現を可能にする製造技術、顧客との協創体制。これらの長期的戦略により、アルカンターラは次の50年に向けた道筋を描いている。
素材の可能性を追求し続ける企業の歩みは、これからも続いていくのだろう。