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2025年6月17日
アルカンターラの次なる挑戦 ミラノデザインウィーク2025で見たラグジュアリー素材の革新
スーパーカーの内装材から多分野のクリエイティブ・パートナーへ
ミラノ本社でのプレゼンテーションにおいて、ロッリ氏はまず同社の歴史的経緯から説明を始めた。
「アルカンターラは70年代に発明された高級素材です。昨年は、アルカンターラが市場で使用され始めて50周年を迎えました」
アルカンターラは68%のポリエステルと32%のポリウレタンからなる素材。ポリエステルがシルクのような質感を、ポリウレタンが柔軟性を提供している。この巧妙な組み合わせにより、天然スエードを凌駕する耐久性と機能性を実現している。
また、一般的な生地と同様にロール状で供給することにより、必要な形状にカットして使用でき、廃材もほとんど出ない。この合理的なアプローチが、現在の環境配慮につながっている。
「50年前、アルカンターラはベルトーネによるランボルギーニ・ブラボーのインテリアに初めて使用されました。ベルトーネが新たにデザインしたスポーティなクルマで、エレガンス、パフォーマンス、耐久性を表すと言われたこの素材が採用されたのです。これはスポーツカーにおけるラグジュアリーな素材の象徴でした」とロッリ氏。
このランボルギーニでの採用は、その後の高級車市場でのポジション確立の礎となった。
「私たち独自の技術で作られたアルカンターラは、多くのハイエンドのお客様に使用されているユニークで革新的な素材であり、機能的で感性的な価値を持ち、非常に汎用性が高いのが特長です」
ロッリ氏が特に詳しく説明したのが、「複合製造」と呼ばれる新技術だった。昨今のカスタマイゼーションを求めるラグジュアリー市場のトレンドに対応するため、社内に複合製造部門を新設したという。
「素材の柔軟性と私たちのネットワークのおかげで、『複合製造』と呼ぶ新しい製造能力を発表しました」
この手法では、レーザー、刺繍、パーフォレーション、エレクトロウェルディング(電気溶接による接合)、エンボス加工など複数の複雑な技術を組み合わせ、すぐに縫製できる状態に加工した部品を顧客に提供する。作られた部品はラグジュアリーカーメーカーの内装に使用され、一つの拠点で製造から品質管理まで一貫して行うことで、高品質なソリューションを実現している。
「通常のサプライチェーンでは、複雑な製品を作るために多くの工程を経る必要があり、時間がかかり過ぎてしまいます。そこで私たちは、少量生産であっても、お客様の特別な要求にお応えできる専用の生産体制を整えました」
この取り組みは、従来の大量生産モデルから多品種少量生産への移行を意味している。昨今のカスタマイゼーションへのニーズに対応する柔軟性こそが、アルカンターラというブランドの核心なのだろう。