三原康裕が語る“KOGEI”の魅力 |MITSUKOSHI
Sponsored日本橋三越本店本館6F美術フロア
魂のこもった作品があるところ
三原康裕、“KOGEI”の聖地を訪れる
伝統工芸から絵画まで、世界的にも価値のあるさまざまな作品を販売している日本橋三越本店本館6F美術フロアに、三原康裕が訪れた。老舗百貨店が誇る“KOGEI”の数々に、世界的ファッションデザイナーは何を感じ、何を考えたのだろうか。
Text by OGAWA FumioPhotographs by Jamandfix
さまざまな作家が自分の“今”を表現している
海外でも評価が高い日本の伝統工芸。なかでも人間国宝をはじめ超がつく一流の作家の作品を集めているのが日本橋三越本店本館6Fの「美術工芸サロン」だ。伝統工芸から国際的な価値をアピールする「KOGEI」への躍進が謳われるいま、その魅力を堪能しない手はない。「Maison MIHARA YASUHIRO」の三原康裕氏も伝統工芸の魅力を強く意識する一人だ。
三原康裕氏と伝統工芸。シャープな着想と大胆な造形力に裏打ちされたシューズに代表される三原氏のデザインと、日本で連綿と続いてきた金工や陶芸の作品とは銀河系何個かぶんのへだたりがありそうだ。しかしじつは美術大学出身の三原氏は在学中から京都など長い歴史を持つ伝統工芸の工房に泊まりこみ研修を受けた経験も持つ。仕事のうえでも織物などの職人と話すこともあり、作品が生まれてくる背景にもよく通じている。
三原氏にとって、それゆえ、日本橋三越本店本館6Fの「美術工芸サロン」は強く興味を惹かれる場所だ。足を踏み入れてまず口にしたのが、ここは聖地ですのひと言である。
「さまざまな作家が自分の“今”を表現しています。しかも大胆に。ウケを狙っているのでなく、自分の表現を追い求めている姿勢は明確です。かといって、自分だけの世界に閉じこもって“芸術”を追究しているような自己完結性もありません。ちゃんと一般に開かれています。だから作品には血が通ってるように思えるし、作家の体温を感じます。そんな作品が並んでいるここは、いってみれば聖地ですよ。すごい力を持つ作家ばかりで、その人たちを集めて、作品を作ってもらっている(日本橋三越本店美術部)スタッフの力にも感心します」
日本橋三越本店本館6Fの美術フロアは1907年にスタート。以来、才能ある日本在住の作家たちの作品を扱ってきた。絵画、彫刻、オブジェなどに加え、陶芸、漆芸、金工、木工、竹工、人形、ガラスと対象とする作家と幅はとても広い。加えて6階の展示スペースは「日本でトップクラス」の床面積で、三原さんの言葉を借りるならまさに「聖地」の趣なのだ。
日本橋三越本店本館6F美術フロア
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三原康裕、“KOGEI”の聖地を訪れる (2)
本物の工芸作品のみが放つオーラ
日本橋三越本店本館6Fの美術工芸サロンとデザイナーの三原康裕さん。一見だいぶ異質な組み合わせだけれど、じつは意外性のある出合いこそ大事なのかもしれない。伝統工芸がKOGEIの名の下に海外でも評価される作品を生み出していこうという気運を見せるなか、異なる分野で世界的に活躍するアーティストの評価はおおいに参考になるはずだ。
三原さんの評価は、はたして、とても高い。
「これほどレベルの高い作品がこれほど多く並んでいるのは驚くべきことです。実物を眼にして、いかに自分が無知だったか思い知らされました。図録やインターネットでは魅力が十分に伝わっていないことを実感しますね。サイズを含めた造型、彫りや釉薬による表面の質感、そしてもっとも大事な雰囲気。すべて実物を眼の前にしてこそ感動できるものだと、あらためてよく分かりました」
三原さんが「これはすごいですね」と言ったひとつは、第63回日本伝統工芸展新人賞受賞作家である高橋奈己(なみ)さんの新作だ。東京在住の高橋さんは鋳込み技法で白磁を手がける。イタリアで創作活動をしていた時期もあるそうだが、ナイフや彫刻刀でえぐったようなラインと大胆な造型の輪郭線とのコンビネーションが、とても強い力で観る者の目を惹くオリジナリティの持ち主だ。
「壺など、えぐられたような線は硬質であるにもかかわらず、まるで内部には植物のように水が詰まっているような充溢した生命感があります。手の感覚なのでしょう。絶対に3Dプリンターでは作れないはず。それが性的といってもいいぐらい、いい意味でなまめかしさを感じさせます。本物のオーラはすごいですね」
さらに驚くような作品との出合いもあった。
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三原康裕、“KOGEI”の聖地を訪れる (3)
美に対しての強い執着心を感じさせる
日本橋三越本店本館6Fの美術工芸サロンで驚くような出合いを体験したデザイナーの三原康裕さん。高橋奈己さんの白磁に次いで、京都で作陶する加藤清和さんの作品に注目した。加藤清和さんは古田織部瀬戸十作13代目・治兵衛氏を祖父に、初代靖山氏を父に持つ人で、三彩の陶器を制作する。
三原さんが目をみはったのは、その色彩の豊かさと美しいパターンだ。三彩は中国から渡来した陶磁器で歴史は古い。鉛で白,銅で緑,鉄で黄と釉薬を用いるところに特徴がある。加えてコバルト釉の藍色も使われる。奈良時代に日本にもたらされて定着したというが、いまも新しい表現が生まれているところに三原さんは大いに注目する。
「加藤さんの作品、大好きです。完璧に模様をコントロールできない釉薬の性質を逆にじつにうまく使っていると思います。計算できないところまで計算しているような、美に対しての強い執着心を感じさせますね。作品によっては左右対称性を意識していると思わせるものもありますが、もちろん完全に対称にはなりません。その意識に僕はとても感心します。自然界に完全に左右対称のものはまずないんですよね。蝶の翅(はね)だってじつは左右で異なっているんですよ。そんなことを感じて、観ていると引き込まれそうになります」
田島正仁(しょうに)さんの作品には「完全にコントロールされた色に感動します」と三原さん。九谷焼で使われる五彩のうち赤を抜いた独特の表現で評価の高い作家である。
「筆を使っての表現が、いってみれば宇宙のようですね。ものすごい深みがあります。光と影も強く感じさせますね。僕たちのいる世界の想像を超えるブラックホールのようにすべての概念がマヒしてくるほどです。ミニマムな造型ですが、それゆえにというか、グラデーションを非常に巧妙に使っての表現は、僕にコンセプチュアルアートを連想させてくれました」
三原康裕さんは、ひとつ思い出したものがあります、と言う。
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三原康裕、“KOGEI”の聖地を訪れる (4)
芸術性が高いとか低いとかは重要ではない
日本橋三越本店本館6Fの美術フロアを回ったファッションデザイナーの三原康裕さんは、さらに別のフロアで開催の「第63回日本伝統工芸展」(2016年10月3日まで。以降全国巡回)にも足を運んだ。
「芸術性が高いとか低いとかは、ここに出展している作家たちにとってはさして重要ではないのではと思いました」
ネクタイをしめたスーツ姿の来場者が多いフロアで、やや異質のかっこうをした三原氏。人の流れの中をすいすいと泳ぎまわるように作品を観て回ったあと、上記の感想を口にした。
「伝統的な技法の中にストイックなまでの自己表現が追い求められていることこそ、作家たちにとって重要なんでしょうね。(コンセプチュアルアートの先駆者である)フランスのマルセル・デュシャン(1887年7月28日 - 1968年10月2日)がかつてあるインタビューの中で「芸術家は創作活動に一種の中毒性があり、それが原因で作っているだけだ」と言っていましたが、僕はそれを連想しました」
有名とか無名とかを判断基準にしているだけでは、わざわざ美術工芸サロンや「日本伝統工芸展」に足を運ぶ意味の半分ぐらいしかないといえるかもしれない。ここで三原氏が語ってきたように、じっくり作品を観て感動的な体験をするべきなのだ。もちろん作品の質の高さは、100年以上、日本在住の作家とつきあってきた日本橋三越本店の担保があるが。
「さきのデュシャンはやはり「価値を決めるのは第三者」ということを言っていますが、まさにその通りだなぁと思いました。先入観を捨てて作品に触れることで、若いアーティストたちも大いに触発されるものがあるはずです」
「魂のこもった作品が間違いなくここにあります」と三原康裕さんは言うのだった。
第63回 日本伝統工芸展
9月21日(水)~10月3日(月)
日本橋三越本店 本館・新館7階ギャラリー(入場無料)
10:30〜19:30(最終日は18:00閉場)
日本工芸会
http://www.nihonkogeikai.or.jp/
日本橋三越本店本館6F美術フロア
東京都中央区日本橋室町1-4-1
TEL:03-3241-3311(代表)
営業時間:午前10時30分~午後7時30分
http://mitsukoshi.mistore.jp/store/nihombashi/floor/main_6f/art/