特集|OPENERS的ニッポンの女性建築家 Vol.4 成瀬友梨インタビュー
DESIGN / FEATURES
2015年3月6日

特集|OPENERS的ニッポンの女性建築家 Vol.4 成瀬友梨インタビュー

Vol.4 成瀬友梨インタビュー (1)

これからの都市でのすまい方

縮小の時代といわれ、経済は萎縮し建築も新築は建ちづらくなっているといわれている昨今。若い建築家たちはあたらしい視点から社会をみつめ、いまの時代にしかできないアプローチで都市、そして建築というものに向きあっている。成瀬・猪熊建築設計事務所の成瀬友梨さんは、集まって住むことやシェアという問題にコミットしながら、提案型のアプローチでさまざまな取り組みをつづけている女性建築家だ。絶妙なバランス感覚で社会に切り込んでいくその視点の先にあるものについてじっくりと話をうかがった。

インタビュアー、まとめ=加藤孝司

建築を仕事にする

──建築をこころざしたきっかけを教えてください。

小さいころは建築をつくるというと、工事現場の職人さんたちをイメージし、建築家という職能があるということは意識したことがありませんでした。ただ、そのころから母親が美術館に一月に一度くらいの頻度で連れて行ってくれて絵画や彫刻を見るのが好きでしたし、泥遊びをしたり、絵を描いたり、縫物をしたり、料理をしたり、自分の手でなにかをつくることが好きな子どもでした。

──子どものころから建築家の萌芽があったわけですね。

出身は愛知県ですが、名古屋と岐阜のあいだくらいに位置する、都会にも田舎にもなりきれないところに住んでいました。高校生のころ、どうしても地元を出てひとり暮らしがしたくて、東京に来たのですが、街を歩くと衝撃の連続でした。というのは東京って坂とか階段が非常に多い、地形が起伏に富んでいるんですね。私は濃尾平野の出身ですから、たとえば渋谷のようにものすごく街中なのに坂だらけという状況が珍しくておもしろくて、外を一日中歩いていても飽きないほど、東京という街が楽しくてしかたありませんでした。

ただこれから自分がなにをやっていこうかというのはずっと悩んでいました。手を動かしてなにかをつくることは好きだけど、絵を描いたり、彫刻をつくったりして食べていくような自信もないし、訓練も積んでいませんでした。そんなとき、仲のよい先輩に建築学科というところがあって、いろいろなものをつくることができておもしろそうだよ、とアドバイスをもらって、実際に建築学科を見学に行き、模型やら図面やらを見せてもらって、内容は理解していないけれどわくわくして、建築学科に進むことにしました。

それから、もうひとつ強烈なきっかけがあって、高校生のときに修学旅行で広島のピースセンター(平和資料館)に行ったのですが、そこで建築のもつパワーに圧倒されました。その後東京に出てきて、代々木の体育館と東京カテドラル聖マリア大聖堂を見て、それがおなじ設計者(丹下健三氏)によってつくられていることを知りました。そして世の中にこういうすごいものをつくる職業があるんだと感動しました。

──それが現代建築との出会いということですね。

衝撃的な出会いでしたね。

建築家|成瀬友梨 03

ROOM101(2006年)

──それは神社やお寺のようなかたちではなく、広島のような祈りの場所というか、ある種、崇高なものを人間が現代でもつくり得るんだという驚きですか。

そうですね、建築が存在することでそのまわりの空気がピンと張りつめたり、風も吹いていないのに空間が動き出しそうな感覚を覚えたり、奈良や京都の古い建物を見てそんな体験をすることはあっても、いわゆる現代建築についてははじめての経験でした。

──建築を見ていいな、というひとはたくさんいると思うのですが、それを誰かがつくったというところに思いを馳せたり、そこから実際に建築を勉強してみようというところにいくひとはそう多くはないと思います。そう思うようになったところに成瀬さんの独自の感性があったのかなと思うのですが。

もともとなにかをつくるということには執着していたので……。ただ建築を勉強しはじめたころはかたちや空間に興味が集中していて、実際に建築を建てることや建築を使うひとのことをリアルに想像できていたかどうかは……微妙だなと思います。だからちゃんと仕事として、建築と向き合っていこう、と思うまではだいぶ時間がかかりました。

──そのころつくっていたのはファッションに近い感じのものですか?

というよりも、ただ設計をして模型をつくることが楽しくて楽しくて仕方なかったですね。でも建築の勉強をはじめて2年も経つと、なにかとてもひとりよがりなことをしているのでは? なんのために建築をつくるのだろう? と迷ってしまって……。大学で悶悶と悩んでいても仕方ないので、現場を体験してみようと建築家の方の事務所にオープンデスクやアルバイトに行きはじめました。

そのなかでとても影響を受けたのがSANAA(妹島和世氏と西沢立衛氏による建築ユニット)のおふたりでした。そこではものすごい時間をかけてひとつの建築について考えていること、膨大な数の検討模型をつくっていることを知りました。妹島さんと西沢さんのような世界的な名声のあるひとが、こんなにも地道に時間をかけて仕事をしているんだというところを見たときに、尊敬の念と同時に、ある意味とても穏やかな気持ちになりました。つまり自分が設計をしながら悩んでいた時間なんて笑ってしまうほどに短くて、実際の建築の現場では、みんなもがき苦しんで時間をかけているからこそ、すばらしい建築ができるんだと。それがわかって、ようやくきちんと建築というものと向き合う心の準備ができたのだと思います。

──それが6年くらい前のことですね。

そうですね。大学を出たあとに、修士、ドクターと進んだのですが、そのころに友人がマンションのインテリアの仕事を紹介してくれました。最終的にできたものを自分の想像以上にクライアントが住みこなしているのを見て、建築を仕事としてやっていこうとはっきりと決めました。

Vol.4 成瀬友梨インタビュー (2)

これからの都市でのすまい方

 

建築と生活のあいだをつなぐ

──「ひとへやの森」(2008年)というワンルームのプロジェクトがありました。これはとても印象に残っていて、いいプロジェクトだと思いました。

これは、“あたらしい賃貸のワンルーム”というテーマのコンペで提案したものです。いわゆる20~30平米くらいのマンションに、玄関、キッチン、ユニットバス、収納など必要なものを入れていくと、プランのバリエーションが出尽くしているのでは、と思いました。そんななかで、ワンルームでなにが問題なのか、ということを考えなおそうとしました。

ワンルームでは生活にまつわるモノが部屋中にごっちゃにでてきてしまいます。それを隠すのではなくて、出したままでも居心地の悪くないような部屋にしたいと思っていました。

「ひとへやの森」では、空間を壁で仕切るのではなく、部屋に対して大き過ぎるくらいの木のようなかたちをしたオブジェをいくつも部屋の中に配置しました。生活用品を木の枝の部分に掛けたり、根もとに置いたりすることで、そこに住んでいるひとらしい空間になればいいと思いました。

──空間というのは、ただ広いだけだとその広さは感じられなくて、モノが置かれることで途端に空間の広さが感じられるようなことがありますね。

「ひとへやの森」の場合は、どうしようもなく狭い空間をいかに広く感じさせることができるか、を考えていました。木のかたちをしたオブジェを入れる前はすごく狭い部屋だったのですが、木が入って、モノを置いていったら急に空間が広く感じられました。モノが増えることで広く感じるって、おもしろいことですよね。

──世の中の経済の面から新築はなかなか考えづらいという現状があります。するといまあるものをどう使うかといった、既存の建築における空間からインテリアとのあたらしい関係を考えることも、いま建築家がやるべきことのひとつだと思います。そのあたり建築家の仕事としてのバランスをどうお考えですか。

建築家|成瀬友梨 07

ひとへやの森(2008年)

建築家の仕事としてインテリアは、いまとても要請のあることだと思います。「ひとへやの森」では、家具より大きくて建築より小さなものをつくりました。
この「木」は、部屋のスケールと比べるとかなり大きいのですが、枝をところどころ重ねるなどして入れています。たんに空間に対して不釣り合いに大きな木を入れてしまうと、かえって部屋がごちゃごちゃした印象にしかなりません。ですので、たくさんのスタディを繰り返すなかで、この部屋のスケールを拡張するような大きさを見つけました。

インテリアであっても、外部にいるような開放感というか、外にまでつながっているような広がりを意識して設計しています。それはもしかすると建築家ならでは、なのかもしれませんね。

──建築もインテリアもそうですが、完成したときがいちばん美しくて、実際に日常が入ってくると途端に収拾がつかないものになってしまうことがあります。それがその空間をつくるひとと使用するひととの意識を分けてしまうのかなと。いくらいい容れものをつくってもらっても、そこに生活の道具がなければ生活をすることはできません。「ひとへやの森」をはじめて見たとき思ったのは、いわゆる生活のなかでどうしても増えたり、表面に出てきてしまうモノの存在も意識しながら、つくられているのかな、ということでした。

そうですね。生活をしていて自然と出てきてしまうモノは引き受けたいなという思いがあります。いま集合住宅の設計をしているのですが、そのクライアントもとても荷物が多い方です。さまざまな色やスタイルをもったモノたちが一緒に置かれても、ごちゃごちゃと汚く見えてしまうのではなく、生活の活気があって賑やかになる、その背景となるような建築がつくれたらいいなぁと思います。

──成瀬さんたちのアイデアには、生活にまつわるものたちと共存しながら、一緒に生活をつくっているような印象がありますね。いま集合住宅というお話がありましたが、もう少し具体的に教えていただけますか。

まさにはじまったばかりのプロジェクトなのですが、クライアントのお住まいと賃貸からなる、トータルで200平米ほどの5戸の集合住宅になります。基本的にフローリングと白い壁の空間ですが、結構大きなつくりつけの家具を最初から入れています。家具はいまのところたんなるホワイトキューブの空間にならないようにおなじ白ではなく、木の質感を活かしながらつくろうかなと思っています。スケール的にも素材的にもつくりつけの家具たちが、建築とクライアントの持っている家具やモノたちをつなぐような存在になればと思っています。

Vol.4 成瀬友梨インタビュー (3)

これからの都市でのすまい方

 

現代の「集まって住む」を考えなおす

──先日、成瀬・猪熊建築設計事務所としておこなった展覧会にシェアの問題を建築の側面から扱った「集まって住む、を考えなおす。」(2010年9月)がありました。

最近の世の中の気分として「シェア」というキーワードがあります。街全体を見わたしても、大雑把にいえばその空間を大勢のひとたちでシェアしているわけですが、そこに暮らしている我われはことさらそのことに意識的ではありません。僕が暮らしている東京の下町も、いまでは大きなマンションがたくさん建っていて、昔みたいに、暮らしや遊び場を共有しているという意識はあまりありません。そのように昔ならほとんどのひとが共有していたシェアの意識が、失われていったのは事実だと思います。建築家として若い世代である成瀬さんたちがいま「集まって住むことを考えなおす」というところの意義はどこにありましたか。

たとえばカーシェアリングとか、若い人たちに自分のクルマを持たなくてもいいと思うひとが増えているというように、所有に対する意識が変わってきていると思います。いわゆるバブル世代はいかにオシャレなワンルームマンションに住んで、いいクルマに乗って、というのがあったと思うのですが、現代の私たちの世代はちがうのでは、と思います。クルマや住まいを所有したいという欲求よりはむしろ、ひととのつながりを財産と思うというか、そこに価値を見出しているひとが増えているのではと感じています。

そんな時代の空気を感じて、「集まって住む、を考えなおす」という展覧会を開催しました。

これはまさにシェアハウスのプロジェクトにかんする展覧会でしたが、もとになっているのは一般的な集合住宅のプロジェクトでした。延べ床面積1000平米程度の集合住宅の提案で、土地も買って新築で賃貸住宅となると、採算を合わせることができませんでした。土地の値段がとても高い場所だったのです。そこでコストを下げるような設計に変えて事業収支を出し直したのですがそれでも合わなかったので、シェアハウスにして提案してはどうかと思ったのです。

シェアハウスは、キッチンやトイレ、シャワーなどを共有しますので、ワンルームマンションのように各部屋につけるよりは数が減ります。新築でつくっても施工費が下げられますし、家賃も周辺のワンルームと同等くらいに設定でき、個室の面積が小さくなるぶん、戸数も増え、家賃収入は上がります。そこで試しにシェアハウスの設計をして、事業収支を出してみたら利回りが合い、プロジェクトも無事動くことになりました。

──シェアハウスにはどんな利点がありますか?

最初は経済的な観点からシェアハウスを新築でやるとおもしろいなと考えていたのですが、暮らし方も、従来のワンルームマンションと比較すると、大きなちがいがあります。隣に誰が住んでいるかもわからないような状態から、ラウンジで顔を合わせてゆるくて気軽なコミュニケーションをとることができる。シェアハウスのなかにはウェイティングリストがあるほどの人気物件もあるそうです。これはただ安さを求めているだけでなく、他者との接触から刺激を求めているということだと思います。

そんな時代背景を考えると、これまでの“nLDK”という過去の形式的な住宅のスタイルに収まらなかったひとたちが、ワンルームマンションに住んでいたけれど、シェアハウスはそれに対するオルタナティヴというか、住まい方のあたらしい選択肢のひとつになってきたのでは、と考えています。

建築家|成瀬友梨 10

「集まって住む、を考えなおす」(2010年)

──どんなひとたちにニーズがあるんですか。

年齢層としては25歳から30歳前半の方が多いそうです。なかでも多いのが若い女性でのひとり暮らし。なぜなら、みんなで暮らしたほうが安心だからです。それから海外留学中にシェアを経験して、帰国後もおなじように暮らしたいと考えるひと。地方から出てきて即シェアハウスに移るひともいますが、数年ひとり暮らしをして、より刺激的な生活を求めてシェアハウスに移るひともいます。晩婚化が進むとさらにこの傾向は進むでしょうね。

──シェアハウスは、都会を中心に顕在化しています。その都市については、これだけの家やオフィスビルが高密度に隣り合っているのに、そこで生活する人間のほうは、建物とおなじように、空間をきちんとシェアできているのか? そんなことを考えてしまいます。それが都市に対しても、ひとに対しても、目にみえるかたちで顕在化しているのがシェアハウスなのかな、といま思いました。

そうですね。

──それは、これまで僕らが何世代かにわたって保持してきた、私有意識の問題に触れることなのかもしれません。現代では、必要なものは個人で買う、という以外に、誰かと共有する、という選択肢が拡がっていますが、これも我われの意識もがなにに対しても多様になってきた証左だと思います。

シェアするものとして、私はクルマを思い浮かべるのですが、ほかになにかありますか?

──最近また人気があるのが、貸本ですね。みんなの共有の知識として、本屋さんの店先などでシェアしているところがありますね。シェアハウスなどでも、共有するスペースがあれば、そこに本や道具を置いてシェアをするようになっていくかもしれません。そうすることでシェアをしているひと同士が、知識や知恵も共有することができるようなことがあればおもしろいと思います。

その可能性は広がっていくと思います。実際シェアハウスでは、さまざまな仕事をしているひとが一緒に住んでいますので、ラウンジは異業種交流というか、情報交換の場所になっているようですよ。

Vol.4 成瀬友梨インタビュー (4)

これからの都市でのすまい方

建てるものそのものから提案する

──それは現代の住宅や、建築のあり方、そこでの暮らし方への模索にも繋がりますね。

そうです。「集合住宅を考えてください」と言われたら、素直に集合住宅を設計しますよね。それで事業収支が合わなければ、もしかしたら諦めてしまうかもしれません。でも私たちは、自分たちで「そもそも」に立ち返るというか、建てるものそのものから提案することが、建築家の職能として大事なんじゃないか、と考えています。

──それで、シェアハウスの展覧会でありながら、事業収支にまで踏み込んで展示されていたのですね。

建築家は一般的には容積率いっぱい面積をとって、何平米くらいのワンルームをいくつとか、そういった要望や問題をクリアすることを仕事にしてきました。でも、「そもそも」から提案する場合、お金とセットでなければ提案にならないですし、実際そういった仕事は増えていると感じています。

──アトリエ系といわれる個人の設計者はデザインが優れ、組織系の設計事務所や大手ゼネコンなどは収支計算、量やスピードに優れる。という図式があると思うのですが、個人の設計者といえども、経済的な領域にも踏みこんでいくべきだという強い意識を、成瀬さんたちから感じます。

それはありますね。事務所としては提案型でやっていきたいので、足りない知識やスキルをどう補っていくかが大事になってきます。また、自分たちに足りないものを得意としているひととタッグを組む一緒ことで、仕事の幅も広がりますから、自分たちだけではできなくても、諦めることはありません。

Vol.4 成瀬友梨インタビュー (5)

これからの都市でのすまい方

デザインの前提条件から考える

──最近発表された、「イエタグ」について教えてください。

昨年春に日本科学未来館で「地球マテリアル会議」という展覧会があったのですが、そこで私たちは木造の建築廃材から紙をつくって展示をしました。その紙からつくったのが「イエタグ」です。

木造建築を壊して生まれた廃材を、捨てるのでもなく、燃やしてエネルギーに変えるのでもなく、紙として再生させ、それをさらに商品に変えるという、そのすべてのフローを提案しています。かつて家だったものが、もう一度家のかたちになっている、ちょっとお茶目な作品です。いくつかならべると町みたいになります。本やノートにいくつか挟むと、そこにも町並みが生まれます。私たちがこれまでつくった、もっとも小さな作品です。ここでもいままでになかった考え方そのものから生み出すということに取り組んでいます。

──最近興味をもっていることがあったら教えてください。

建築の設計以外ですと、書くことですね。現在『住宅特集』という雑誌で連載させていただいている「住宅物語」はかなり真剣に、でも楽しんでやらせていただいています。

──書くことで考えることですね。

建築家がつくった住宅を訪れて、そこで生活をしている家族のインタビューをもとに物語を書き、そこに漂っている空気感とか、どのようにその建築が使われてきたのかというのを描きだしていこうという、一風変わった企画です。

──いくつか読ませていただいたことがあるのですがとてもおもしろいです。

ありがとうございます。これはできるだけ「私」が出ないように書いています。建築のなかの日常を、イメージとしては私がカメラになったつもりで書いています。私は文章のプロではないので、巧さでは小説家にはかないません。だから、建築をやっている人間にしか書けない視点で建築を文字にできたらと考えています。

たとえば、とても小さな空間にモノがたくさん置かれている家を取材したときは、置かれているモノの名前や、聞こえてくる音などを延々と羅列することで、その場の密度感を伝えようとしました。また別の取材では、天井がとても印象的だったので、日の光に照らされて刻々と変化する天井のようすと、その下で展開される住人の生活を交互に描きました。取材した建築に影響されて、文章の構造が変わってくるというのが、自分でも驚きで、とても楽しんで書いています。

建築家|成瀬友梨 16

イエタグ(2010年)

──そこでは書くことが成瀬さんの建築にどのように反映されてきているのでしょうか。

建築の設計に直接結びつくのか、正直まだよくわかりませんね。ただ、シェアハウスやイエタグなど、ほかのプロジェクトとおなじように、さまざまな可能性のあることのひとつとして「書く」があるということです。

当たり前のことですがこの連載をとおして、建築って設計したときだけのものではなくて、長く使われ愛されていくのは、大きな価値だなぁと心から思います。そんな建築をつくっていきたいですね。

──街のなかに建物はもう充分すぎるくらいにあるなかで、耐久性の問題もあってこれからも建築は社会的にも要請されつづけると思います。そこでは勢いにまかせてただつくるだけでなく、社会に寄り添うかたちでの同時代的な考えをもった建築家としてのスタンスがこれまで以上に問われる時代になると思います。今後建築家として成瀬さんはどのように設計していこうと思っていますか?

リノベーション、新築問わず、時代や社会のニーズに見合った建築を提案できる事務所でありつづけたいと思います。

また、東京だけでなく地方の問題を考えることもとても大事だと思っています。実際パートナーの猪熊はビルディングランドスケープの山代悟さんたちと一緒に出雲の古い造り酒屋の再生に取り組んでいます。

どんな仕事であっても、デザインの前提条件から考える、手間も時間もかかることですが、そこに真摯に向き合って生きたいです。本当に世の中に必要で、たくさんのひとによろこんでもらえるものは、そんなところから生まれてくると信じています。

──今後のご活動を楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。

(2010年10月19日 幡ヶ谷の成瀬・猪熊建築設計事務所にて)

建築家|成瀬友梨 24

Photo by Takashi Kato

成瀬友梨|NARUSE Yuri
1979年愛知県生まれ。2007年東京大学大学院博士課程単位取得退学。2005年成瀬友梨建築設計事務所設立。2007年より、猪熊 純氏とともに成瀬・猪熊建築設計事務所。2009年~東京大学助教。主な作品に、ROOM101(2006年)、ひとへやの森(2008年)。主な展覧会に、「Hiroshima 2020 Design Charrette」(2010年)、「集まって住む、を考えなおす」(2010年)。主な受賞に、グッドデザイン賞(2007年)、WORLD Space Creators Awards 大賞(2007年)、INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARDS (2009年)ほか
http://www.narukuma.com

           
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