EYE of GYRE|建築家 永山祐子展「建築から始まる未来」開催
DESIGN / ARCHITECTURE
2015年4月3日

EYE of GYRE|建築家 永山祐子展「建築から始まる未来」開催

EYE of GYRE

~ 豊島×横尾忠則、宇和島×束芋×ほしよりこ~ 永山祐子展「建築から始まる未来」開催

今夏開催した「AT ART UWAJIMA 2013」を語る(1)

今夏7月24日から8月22日まで、愛媛県宇和島市にある「木屋旅館」と、宇和島きさいやロードに出現したギャラリー「SITUATIONALLY」を舞台にした、あたらしいアートプロジェクト「AT ART UWAJIMA 2013」が開催された。NPO法人SO-ENが主催し、リバースプロジェクトが企画協力したプロジェクトである。またギャラリー「EYE of GYRE」にて、豊島横尾館と木屋旅館にフォーカスした永山祐子展「建築から始まる未来」が11月24日(日)まで開催されている。

Text by KAJII Makoto (OPENERS)Photographs by OMOTE Nobutada

木屋旅館全体が、一つのインスタレーション作品に

「木屋旅館」は1911(明治44年)創業。後藤新平や犬養 毅、司馬遼太郎、吉村 昭、五木寛之などが愛用した明治時代の旅籠の面影が残る木造2階建てで、1995(平成7年)に惜しまれつつ廃業した。昨年春に、あたらしい滞在型の観光名所として再生され、建築家の永山祐子さんがリノベーションを手がけて話題となった。

新生「木屋旅館」は、2階客室の床面の一部にクリアアクリル板が貼られ、1階共用部から吹き抜けのように見せるなど、水平に広がる建物に、垂直の広さをプラス。また2階のアクリル部分をロールスクリーンで覆い、LEDでゆるやかに色を変えて、町並みに表情をくわえるなど、モダンな情景があらたに生まれた。

リバース・プロジェクト|木屋旅館 04

リバース・プロジェクト|木屋旅館 06

今回開催された「AT ART UWAJIMA 2013」では、その木屋旅館を舞台に、永山祐子さんと現代美術家の束芋(たばいも)さん、漫画家のほしよりこさんによって、サイトスペシフィックなコラボレーション作品を展示。3人の女性で“木屋旅館全体を一つのインスタレーション作品とする”希有な作品を創り上げた。

リバース・プロジェクト|木屋旅館 07

リバース・プロジェクト|木屋旅館 09

「木屋旅館には束芋さんの映像イメージが合いそうだと思いました」(永山)

永山祐子 官民のプロジェクト、木屋旅館のリノベーションを手がけたことで宇和島との関係ができました。このプロジェクトは町おこし的な側面もあり、設計の段階から、なにかアートイベントをやりたいと思っていました。豊島(てしま)の「豊島横尾館」を手がけたことで刺激を受けた影響もあります。

それで、木屋旅館には束芋さんの映像イメージが合いそうだなと思い、リノベーションが完成した昨年秋に、束芋さんを遊びに行こうと誘ったのがきっかけです。遊びに行くと言いながら、映像を投影するプロジェクターも持っていきました(笑)。

束芋 宇和島は私の大親友のふるさとでもあり、以前から一度ぜひ行ってみたいと思っていました。行く前は、島だと思っていましたが(笑)。永山さんと木屋旅館に泊まって、地元のおいしいものを食べたり、いろんなところに行ったりして、とても興味の湧く場所でした。

永山祐子 そういうことがあって、昨年の秋に、瀬戸内国際芸術祭2013と関連づけて、今年なにかやろうという動きになりました。豊島横尾館などを運営する福武財団の方にご相談していたのですが、宇和島市の市長さんにも構想をお話したところ賛同してくださって、主に福武財団と宇和島市からの助成金を受けて始動しました。

EYE of GYRE

~ 豊島×横尾忠則、宇和島×束芋×ほしよりこ~ 永山祐子展「建築から始まる未来」開催

今夏開催した「AT ART UWAJIMA 2013」を語る(2)

木屋旅館のエントランスを入ってすぐ、2階を見上げる形で、アクリルを通して見える場所に投影されるのは、束芋さんの映像作品「木屋の染み」の小タイトル「押入の鮫」――ほしよりこさんのオリジナルストーリー「小説『そういうことがずっと続く』そして、抽斗に入っていた手紙」をもとに創作された映像作品は、現在も観ることができる。

「空間、体験、時間のレイヤーを物語で表現しています」(永山)

永山祐子 「AT ART UWAJIMA 2013」は、木屋旅館と、アーケードにつくったギャラリー「SITUATIONALLY」の2カ所を拠点に開催しました。木屋旅館では、ほしよりこさんの小説をもとに創作した、束芋さんのオリジナル映像を展示。アクリルの床に映像が映り込んだり、映像がガラスに反射して増幅し、空間の中でいろんな見え方をしたり、欄間(らんま)の中に映像が映って物語になっていたり、とても不思議な空間に仕上がりました。

束芋 それは“欄間の影”のようなイメージで、宇和島の風景と木屋旅館のストーリーのプロローグ的なものでした。

永山祐子 ほしよりこさんの小説は、木屋旅館を舞台に、空間のなかでひとが動いて、ひとの心理が細かく描かれているもの。木屋旅館に滞在した人たちをテーマに、空間、体験、時間のレイヤーを物語と映像で表現しました。

木屋旅館では昼間は一般公開していたので、地元の人たちが大勢観に来てくれて、自分たちが日常だと思っていた場所にアートが入っていることを体験してもらいました。日本家屋にアート作品があることで、身構えずに観られるし、展示場所として上手く伝わるものになったのかなと思います。

束芋 ただ、小説を書いてもらうことからスタートしたので制作期間が短くて、駆け抜けるように作りましたね。

リバース・プロジェクト|木屋旅館 16

リバース・プロジェクト|木屋旅館 17

「イベントと町が繋がって、あたらしい文化を積み上げていく」(永山)

永山祐子 今回の「AT ART UWAJIMA 2013」には、地方再生・活性化というテーマもふくまれていました。産業での再生は難しいかもしれませんが、祭りなど独特の文化が残されている日本の地方の良さは、残していくべきだなと感じましたね。

束芋 そうですね。私も地域再生は懐疑的でしたが、海外では、廃れた地方にコミュニティができて、アートで町がよみがえっていくのは自然発生的で、よくある事例です。

永山祐子 ただ、アートはすぐ結果が出ないものですが、今回は、市長さんをはじめ、宇和島の人たちが100%以上の力を出してくれて、自然に盛り上がっていきました。木屋旅館では、“言葉と空間と映像”が驚くほどぴたっとはまって、とても完成度の高いものができあがりました。来場した人たちが驚いてくれたのもうれしかったですね。

束芋 旅館というハードと、言葉と映像というソフトのコラボレーションでしたが、町をふくめた内外のコラボレーションになっていましたね。

リバース・プロジェクト|木屋旅館 23

リバース・プロジェクト|木屋旅館 28

永山祐子 私は建築家として、建物を作ったあとも考えていきたいと思っています。これまで、建築は箱を作って終わりという時代もありましたが、私はつねに、完成したあとのソフトはどうなっていくのだろうという不安があります。つまり、「建物というハードは何を可能にしてくれるのか」に興味があります。

今回は、木屋旅館に、束芋さんの力も借りての試みでしたが、イベントが町と繋がって、あたらしい可能性を感じました。建築は町に対しての大きなアクションだし、自分が作ったものがどう意味をもつかは、これからも自問自答しつづけると思います。今回の「AT ART UWAJIMA 2013」では、地方における古い文化の上に積み上げるあたらしい文化創出の可能性、それによって何が変わるのかを考える良い機会になりました。

永山祐子展「建築から始まる未来」
会期|2013年11月24日(日)まで開催中
時間|11:00~20:00 入場無料
会場|EYE of GYRE
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F

今回の展示に合わせ束芋と永山祐子のトークセッション「建築 × アートの可能性」の開催を予定
司会|生駒芳子
日時|11月17日(日)17:00~18:00
場所|EYE of GYRE 聴講無料 事前申込不要

リバース・プロジェクト|木屋旅館 21

永山祐子建築設計
http://www.yukonagayama.co.jp/

木屋旅館
http://kiyaryokan.com/

SO-EN
http://www.uwajima-soen.com/

           
Photo Gallery