柳本浩市|第13回 寺山紀彦氏にオランダデザインを聞く(中編)
Design
2015年5月15日

柳本浩市|第13回 寺山紀彦氏にオランダデザインを聞く(中編)

第13回 寺山紀彦氏にオランダデザインを聞く(中編)

studio noteを主宰する寺山紀彦さんの発想に迫る第2回は、彼が修行を積んだオランダデザインの巨匠、リチャード・ハッテンの事務所の話から――

Text by 柳本浩市

仕事は18時にきっちり終わり。仕事中はみな18時以降のことを考えているんです(笑)

寺山 当時のリチャード・ハッテンの事務所は、リチャード以外ではスタッフがふたり、インターンがひとり。

課題の与え方は、突然リチャードが僕に近づいてきて、「ちょっとこれ考えてみて。明日プレゼン」とかいきなりで(笑)。「ちょっと前に言ってほしかった……」と思いながら、いつも徹夜してつくっていましたね。それでOKもらったり、ダメだったり、厳しかったですね。

柳本 リチャードのところでは、スキルを学んだ感じ?

寺山 そうですね。僕は主にコンピュータ作業を担当していました。3Dをよくつくりました。考え方もスキルも学べて、なによりもリチャードをはじめスタッフが働いている様子を見ることができたのが大きかったです。

仕事は18時にきっちり終わり。仕事中はみな18時以降のことを考えているんです(笑)。

柳本 オランダは時間に厳しいんですよね。僕がオランダのあるデザイナーに会いに行ったとき、「クオリティ」ということばをたびたび使うんですが、そこに時間も含まれていました。

だから1分早くても、遅くてもダメ。ピッタリがクオリティ。このデザイナーを迎えにクルマがきたんだけど、そのときも時間がピッタリで。オランダってゆるいようでいて、きっちりしているんですよね。あと最近は大分よくなったけど、オランダはごはんが美味しくなくて……。

食事といえば、オランダのデザイン系事務所はランチをみんなで食べますよね。

よく建築家のひとたちって「同じ釜の飯を食べる」っていう表現を使うんです。

かつて丹下健三氏も弟子たちと一緒にごはん食べていたそうです。こうしたスタイルもオランダから日本に入ってきたんじゃないかと思うんです。

東京駅しかり、日本の近代建築はオランダから学んでいるところが大きいから。研修にもたびたび出かけているので、建築だけでなく事務所での食事のスタイルも導入したんじゃないかと。

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寺山 たしかに向こうの事務所では、みんなで食べていましたよ。

柳本 ピート・ヘイン・イークの事務所にも大きなジャムのビンがあって、パンが積み上げられていて。ランチになるとテーブルに集まって、パンを手に取り食べはじめる。

寺山 オランダ人は料理もあまりしないんですよ。パンとチーズだけとか、安くすませて。倹約家も多いですしね。

柳本 だけど家にはお金をかける。

寺山 そうなんですよね、なぜか(笑)。ショールームみたいな家に住んで。

つくるもののスケール感が大きかった毎日

柳本 ところで、リチャードの事務所のあと、MVRDV(オランダのロッテルダムを拠点とする建築家集団)の事務所に行った経緯は?

寺山 リチャードの事務所にショッピングモールの設計の依頼がきて、規模が大きいということもあり、リチャードが親しくしているMVRDVが担当することになったんです。僕は日本で建築をやっていたこともあり、出向した感じでしたね。

柳本 そこでの経験はどうでしたか?

寺山 面白かったですよ。国際コンペを同時に8つくらいやっていて。オフィスの様子といえば、MVRDVの3人がスタッフをアドバイスしながらまわり、それをこなしていくという感じでした。やはり3人とも考え方が面白い人で。つくるもののスケール感が大きかった毎日でしたね。

柳本 アイントホーフェンでの話に戻りますが、リチャード以外だと、ハイス・バッカーからの影響は受けた?

寺山 ハイスは大先生で、ちょっと別格な感じでしたね。とにかく厳しい。また作品の好き嫌いもはっきりしていて、嫌いな作品だとプレゼン中も聞いていない(笑)。

だけど好きな作品になると前のめりになるんですよね。僕の作品はハイスに酷評をうけたこともありますが、一度気に入ってもらえて、学年も飛び級させてくれたこともあります。

柳本 ユルゲン・ベイはどうですか?

寺山 すごくいい先生でした。「ダメ、ダメ」ってぜったいに言わない。「なんでこうなったの?」って聞いてくる感じで。物腰は柔らかいけど、感覚は鋭い方でした。

柳本 話していると哲学的すぎてわからない(笑)。無駄話をしているのか、凄い話をしているのかがわからないほど、感覚的な方でしたね。ちなみにヘラ・ヨンゲリウスは?

寺山 ヘラは僕がインターンのときに、アイントホーフェンに来ていたんです。

聞いた話によると、厳しい先生でクラスの3分の2以上、単位が取得できなかったそうですよ。

(後編につづく)

寺山紀彦(てらやま のりひこ)
デザイナー。1998年中央工学校、2001年KIDI(Kanazawa International Design Institute)プロダクト科卒業。
翌年オランダDesign Academy Eindhoven入学、在学中にStudio Richard Hutten、 MVRDVへ研修、2006年卒業。
同年にstudio note立ち上げる。

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