連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第18回「ドルフィンホテルと羊男の世界」
Design
2015年9月11日

連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第18回「ドルフィンホテルと羊男の世界」

The Way We Live with “STYLE”

暮らしノート 第18回 ブティークホテルACE

ポートランド「ドルフィンホテルと羊男の世界」

EACH MORNING WE ARE BORN AGAIN.
WHAT WE DO TODAY IS WHAT MATTERS MOST.
「ひとは毎日生まれ変わる。 そして、今日何をするかがもっとも重要なんだ」
上記はロサンゼルスのホテル、ACEのブログ(http://blog.acehotel.com)にあった一節です。

Text & Photographs by Yoko Ueno Lewis(Aug. 2015)

リアルで変化に富むコミュニティのために

ACEホテルのウェブサイトのトップ“welcomeメッセージ”にはこう書かれています。

「ACEホテルは、ひとつ一つの個性のコレクションであり、感性に反応する感覚派のために、多種多様、かつ包括的な存在感をつくり上げています。

ACEホテルはたんに再生プロジェクトの成果として存在しているのではありません。ホテルそのものを、新鮮かつ、エネルギッシュに、さらにひとを感じる存在として生かしつづけるために、あらたに、こうあるべきという姿に、いわば、“書き換えている”といえます。

ACEホテルは、リアルで変化に富むコミュニティのために、つねに魅力的でありたいと願っています。そして、ホスピタリティとは、思いやり、つまり、決して媚びることではなく、 他人の幸せや共感といっしょに生きることにたいする、ほんとうの意味での気づかいであるとかんがえます」

Yoko Ueno Lewis|ホテルACE

Yoko Ueno Lewis|ホテルACE

神聖ともいえる領域の徹底度

すでに日本でもたくさんのファンがいるACEです。

そのユニークさのキーは、 スタイリングのコンセプトと美意識の徹底度が100%というすごさです。ACEのスタイルがいいとか悪いとか、好きとか嫌いとかいう以前に、その徹底した表現への執着、絶対にブレない、妥協しない、その徹底度のすごさは、ほとんど神聖ともいえる領域です。

ここまで徹底して、表現したい環境を、グラフィックツールはもちろん、内装をつくるデザイン、そのかたちや色や素材を通して具体化できるという、このソフト徹底優先のパワーがすごいのです。1920年代や1930年代の古いホテルやビルを徹底改装して、生まれ変わらせ、さらに彼らがこうあるべきという表現のプロジェクトのすばらしい成功例といえます。

元からあって、そのまま受け継いだものはほとんどフレームだけで、ほとんどがあらたに付けくわえられ、塗り替えられ、コーディネイトされたものだということでした。あらゆるエレメント、内装のための資材から、部屋に置くソープや、バスローブにいたるまで、ひとつの価値観と美意識で束ねられ、その束をさらにひとつ一つの部屋ごとに、異なる素材やツールで拡張していくという手法です。ひとつとして、おなじインテリアの部屋はなく、さまざまな仕掛けが凝らされています。

Yoko Ueno Lewis|ホテルACE

Yoko Ueno Lewis|ホテルACE

羊男に出くわす気分が味わえるホテル

お客さまのために、お客さまに快適に過ごしていただくために……。

これはホテル経営やホテル存在の根本的価値観であるとおもってきましたが、ACEはここがちがうのです。ホテル側がこうありたい、このようにしたい、それが優先なのです。

このACEワールドとしての表現が、たとえば、ハルキ(村上春樹)ワールドのように、すべてにおいて優先してしまうという趣向です。ドルフィンホテルの不思議次元から飛び出す羊男が、廊下やシェアバスや朝食のテーブルの下や客室のベッドのヘッドボードのうしろにひそんでいて、わっと脅かしてはさっと走り去る……、このようにして、羊男に出くわす気分がACEでは味わえるのです。

ウェブサイトも同様、タブロイド版のようなレイアウト。一般性や汎用性とは関係のない世界としてのルールでつくられていて、そのルールがどこから来ているのか、方向性をもたないタルムートや曼荼羅のようでもあり、ポートランド在住の羊男たちのクールなゲームなのか、いずれにしても、ある感覚世界に存在するルールであることは間違いないとおもいます。

Yoko Ueno Lewis|ホテルACE

Yoko Ueno Lewis|ホテルACE

感性豊かな人びとのコミュニティとしてのホテル

強烈でブレないコンセプトとスタイルを、すべてにおいて徹底させる第一級のクリエイティビティは、おそらくゆるぎないチームワークでなされたものでしょう。

デザイン、インテリア、 フィニッシュワーク、コーディネーション、施工、現場監督はもちろん、徹底して話し合われて、選択して、計画したプロジェクトの強固さが手に取るように伝わってきます。

できれば「すべてのひとによい」という最大公約数または最大公倍数をねらうコンセプトや事業が多いなか、このドルフィンホテル、いえ、ホテルACEには、ここにしかない強いメッセージが存在しています。今後は、このようなホテルが増えていくのでしょうか?

伝統的なハイクラスの五つ星ホテルにたいして、ボヘミアンタッチ、ヒップホップなACE的なホテル、あるいは、シンガポールの洗練されたスタイリッシュなホテルLLOYD’S(http://lloydsinn.com/)、
イングランドのホテルAt the Chapel(www.atthechapel.co.uk)などのような、感性豊かな人びとのコミュニティとしてのホテルが今後、たくさん登場してくると思います。

快適さや高級感、値ごろ感だけでホテルを選ぶことから、自分のスタイルやテイストに近いことで刺激を受けたい、コミュニティやメンバーのひとりとして手軽なホテルライフを味わいたい、そういうホテルの使い方や宿泊にたいする価値観が台頭してきていると実感します。

デザイン&プランニング
Yoko Ueno Lewis(ヨウコ・ウエノ・ルイス)

ウェブ&ブログ|www.yokoueno.com

http://lookslikegooddesign.com/wooden-products-by-yoko-ueno-lewis/

オンラインショッピング|http://kaunis.jp/handle_uenoyokolewis.php

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