マシュー・ワォルドマン Vol.02 Bicycle Story
Vol.02 Bicycle Story
まず自分の昔話からスタートしてしまい申し訳ない。
もちろん生まれたばかりの頃から、気難しかった訳ではなかったと思うけれど、育った環境の影響で僕は様々なことを困難に感じるようになった。30代から始めたセラピーとヨガのおかげなのか、年齢と経験を重ねると共に大分落ち着いたけれど、一番大きな転機となったのは友人からの一言だった。
「Misery is easy, happiness is hard work.(不幸になるのは簡単、幸せになるには努力が必要)」。簡単に言うと、朝起きたときに機嫌が悪いからといって、何もしなければ後味の悪さはずっと続いてしまう。何かアクションを起こさないと、その悪い気分がさらに悪化してしまうかもしれない。自分で自分を幸せにしたいのであれば、ポジティブなことを考えないといけないし、そのためには行動もしなければならない。それを言われた日から、僕の人生は幸せなものへと姿を変えた。
僕が自分を幸せにするのは凄く簡単で単純なこと。それは自転車に乗ること。
東京に出張に行けば無印良品の自転車に乗る。ニューヨークにいるときは、キャノンデールのマウンテンバイクに乗っている。大げさではなく、自転車に乗らないとストレスは溜まるし、暗くなり、短気になってしまう。だから雨でも雪でも乗る。自転車に乗るとどんな街でも綺麗に見える。健康にもいいし、クリーンだし、ホントいいことしかないでしょう?
自転車文化は街によって違う。自転車の街と言えば、北京とアムステルダムがまず思い出される。東京も自転車に優しい街だと思う。でも、残念ながらニューヨークはまだまだそうではない。不親切なタクシードライバーが一番酷いけれど、僕たち自転車乗りに対しても警察は口うるさい。駐輪する場所が少なく安全ではないことも問題だ。2007年、ニューヨーク市内では交通事故で23人の自転車利用者が死亡。2000年から2007年の自転車利用者は77%増加している。
ニューヨークの自転車文化に関することを少し紹介しよう。
ブルームバーグ ニューヨーク市長のおかげでライダーにとって、少し良い風が吹き始めた。まだまだ危ないけれど、道路に自転車の専用ラインが増え、マンハッタン内の公園も年々完成に近づいている。何よりニューヨーク市の素晴らしいスカイラインと眺めを、自転車に乗っている時こそが最も気持ちよく感じることができると思う。
街中で自転車を漕いでいると、道路の横や電灯に固定された真っ白の自転車が置いてある。これは「GHOST BIKES」と呼ばれていて、その場所で交通事故で自転車乗りが亡くなった記念彫刻であり、知らせでもある。近づくと、亡くなった人の顔写真、名前、生年月日、亡くなった日、事故の状況などがカードに書かれているのが分かる。
駐輪の問題も最近話題になった。オフィスビルに駐輪所がないと通勤者は増えない。これから全てのニューヨークの公共建築に安全な駐輪スペースを用意しないといけないだろう。これは政治だけでなく、都市全体で行動しなければならない。そして、最近二つのコンペが行われた。David Byrneの作品と、Cooper Hewitt CityRacks Design Competition。とてもかっこいいデザインで個人的にも好きだけれど、実際にあらゆる場所に設置できるかどうかは微妙だと思う。今は本当に話にならないぐらい駐輪スペースが足りないから。
ニューヨーク市の自転車文化は複雑だ。通勤派、トレンド派、メッセンジャー派、運動派、気まぐれなゲリラ派…。メッセンジャースタイルはもうファッションとなって、今さら説明する必要はないでしょう? トレンド派はY-3の服を着て、高くてキレイな自転車に乗る。マンハッタンで滅多にお目にかかれないのは、親子、買い物をするおじいさんやおばあさん、そして子どもたち……。街がもうちょっと自転車乗りにやさしくなったら増えるかな?
「GHOST BIKES」参考
http://nymag.com/news/features/47819/