NOOKA|連載・マシュー・ワォルドマン|Vol.29 「注目のミュージシャンTEEELL(Jim Smith)にインタビュー」
セカンドアルバム「University Heights」が、彼自身のレーベルSynthemescよりリリース
Vol.29 TEEEL(Jim Smith)にインタビュー
TEEEL(Jim Smith)は、ニュージャージーの作曲家、プロデューサーであり、エレクトロの音楽レーベル「Synthemesc Recordings」のオーナーでもある。シンセサイザーと80年代のニューウェーブに影響を受け、TEEELは自身の音楽を、まるで長い映画を観るかのように捉え、そして執拗に聴く者の頭から離させない。シンセサイザーとギターが据えつけられた、古いモーグ(シンセサイザー)の広告に囲まれた、ブルーグリーンの小さな部屋で音楽を創り出し、催眠的なシンセポップから、幻想的なディスコミュージック、陰鬱なエレクトロニカまで、広い範囲の音を紡ぎだす。
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Text by Matthew Waldman
技術進歩主義者にとって完璧なポップ・サウンドトラック
彼が決定的に認知されたデビューアルバム「AMULET(Moodgadget Records)」は、FMラジオ局「KEXP」でフューチャーされたとともに、ブログの世界でも大きな反響を呼んだ。そして、セカンドアルバム「University Heights」が、彼自身のレーベルSynthemescよりリリースされたばかりだ。最近では世界最大の音楽コンペティション「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」に出演したことで、より露出を増やし、リミックスやライブパフォーマンス、そして新曲をきっかけに、彼にとって、2012年という年は大きな転機となりつつある。
Matthew あなたはどのように自身のインスピレーションとモチベーションを保っているのですか?
Jim 正直なところ、僕は生活全体にインスパイアされつづけています。僕は自分が集中することすべてに対して、とても情熱的で、そして少しだけ固執しています。リーフレットをデザインするときや、新曲のレコーディング、また、家で家事をするときにも、いつも僕は完璧を求めようと努力しています。だからこそすべてのものや、誰に対してからも、僕はインスピレーションを得ていると思うのです。
僕の友人たちは、成功したアーティストやミュージシャンが多く、お互いに刺激をあたえあっています。僕は基本的にテレビを見ませんし、ニュースやスポーツも見ませんが、でも、1日に最低1本は映画を観ようと心がけています。僕は映像や音響、また美術を愛していますし、それらの要素すべてが結びついて、映画はおなじように僕にインスピレーションをあたえてくれます。たまに、映画の途中で、アイデアを自分の頭のなかから解放するためにスタジオに駆け込むこともあります。
Matthew あなたの音楽は、技術進歩主義者にとって完璧なポップ・サウンドトラックだと思います。ところで、音楽のチャートにおいて、何があなたを幸せにしてくれると思いますか?
Jim 僕は、まったくチャートに対して注意を払っていません。それは、多くの群衆がまだ知らない偉大な音楽が、じつはチャートの上位以外にこそ存在している、と考えているからです。僕は人びとがまだ気づいていない、そんな神聖な音楽を楽しんでいます。たくさんの変わった音楽を聴いていくなかで、あたらしいアーティストを発見することや、古い楽曲や映像を見つけることは、僕にとって、とても楽しい体験です。ちなみに僕の音楽にかんしては、映画により依拠しています。「ドライヴ2」や「死霊のはらわた」のリメイクとか?? 僕は映画を観るとき、本当にサウンド・デザインや楽譜に集中しています。
ウェブ上のレーベル「Synthemesc」の戦略とは
Matthew 一部の人びとが音楽産業が瀕死の状態と言っているなかで、あなたは最近自身のレコードレーベルを立ち上げましたね。その戦略を教えてください。
Jim レーベル「Synthemesc」は、アーティストの共同体というものに、より近いヴィジョンをもっています。私たちがウェブ上のレーベルであるからこそ、アーティストは自身の作品の発表に対しての自由をもち、楽曲に対してすべての権利を保持することができます。
僕は、お金を産み出すためにレーベルをはじめたわけではありません。正直なところ、限られた聴衆に向けられたアンダーグラウンドのシーンにおいては、MP3のセールスというものはそれほどお金にはならないのです。シェアサイトの使用によって、人びとは以前のように音楽に対してお金を使うことはありませんから。
ただ、だからこそ一新することが求められているのです。音楽はその循環から逃れるべきです。アーティストたちは露出を得ることができ、相互にプロモーションしあい、サポートしあう。私たちは、すべての楽曲や、ラジオ局やブログ、さらにより多くのものをお互いにシェアし、あらたな考え方を提示していきます。そして、そのことはすべてのアーティストにとって、より懸命に挑戦していくモチベーションをあたえてくれるのです。そこには政治もドラマもありませんが、すべてのアーティストは、精神的には同様の楽しさを共有しています。この考え方を基にすれば、失敗するわけがありません。
Matthew 僕もチャートという存在には落胆している一人ですが、けれども、たまにあたらしい風を感じることができます。あなたはアメリカのくだらないアイドルたちだらけのチャートのなかで活動する「Fun.」や「Arcade Fire」をどう思いますか? たとえば、音楽チャートではまったく見つけることができませんが、僕は「Prince Rama」が大好きです。聴いたことがありますか?
Jim そのとおりですね! 僕は「M83」が本当に成功していて、スタジアムでのライブチケットも完売している事実を、とても好ましく思っています。ちなみに彼のアルバムは昨年から個人的に一番好きな作品です。また、とても聴ける機会は少ないですが、この前「Crystal Castles」の曲をラジオで聴いたときは興奮しました。「Metric」やほかのあらたなインディーズバンドが、シンセサイザーをより使うようになったことも楽しんでいます。また「Gotye」はとても今を表現していると思います。
正直なところ、いくつかのポップ中心のラジオ局で流れる音楽でさえ、その裏には偉大なエレクトロのプロダクションがあります。チャートの世界にも、まだ何か得られるものは存在しているのです。僕はPrince Ramaをまだチェックしていませんが、早速聴いてみます。ありがとう!