Mercedes-Benz|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL 発表&試乗会レポート
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2015年3月31日

Mercedes-Benz|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL 発表&試乗会レポート

Mercedes-Benz|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL

未来見はるかす、あたらしいスポーツドライビングの船出

先日、日本への上陸が話題となった「メルセデス・ベンツ SLS AMG」のスポーツカーとしての機能も兼ね備える、電動バージョンのプロトタイプが登場した。

文=河村康彦写真=メルセデス・ベンツ 日本

0-100km/h加速、4秒を誇るスーパーガルウイングEV

乗り降りのたびに注目をされること請け合いのガルウイング式ドアがアイキャッチャーの最新スーパースポーツカーが、2009年のフランクフルト・モーターショーで喝采を浴び、先ごろ日本への上陸が話題となった「メルセデス・ベンツ SLS AMG」だ。じつはこのモデルには、電動バージョンが当初から発表をされていた。なんだ、メルセデスもEVか……と軽く受け流すなかれ。EVやハイブリッドと耳にすれば、条件反射的に「あ、エコカーね」とイメージを馳せる日本の常識からすると、このEVはかなりの異彩をはなつ。

なにしろそれは、最高出力は533psで最高速度250km/h。0-100km/h加速も発売済みのガソリンバージョンが誇る3.8秒に匹敵する、れっきとしたスーパースポーツカーなのである。末尾に「E-CELL」がくわえられたこのモデルは、じつは現時点では走行可能な車両は世界に1台というプロトタイプ。が、開発陣は「これをショーカーで終わらせるつもりはない」と明言する。すなわち、あくまでも市販化を前提としたプロトタイプ。その発売時期は、この先数年のうちという発表。もうあとほんの少しで、世界初のガルウイングEVを手に入れられるときがやってくるというわけなのだ。

ヘッドライトをLED化したりフロントグリルの幅を拡大したりと、外観上もささやかなリファインがおこなわれたE-CELL。プロトタイプということもあって派手な”蛍光イエロー色”に彩られたなんともインパクトのあるルックスを見せつけてはいるが、基本的なスタイリングはガソリンバージョンと同様だ。

アルミ・スペースフレーム方式というボディの骨格も同様の構造。ただし、収められるメカニカルコンポーネンツとそのレイアウトは当然大幅に異なる。4WD化を図ったうえで各輪当あたり1基があてがわれる駆動用モーターは、リダクションギアと一体化されたうえで左右輪用を1組にしたドライブユニットとして、前後それぞれのアクスル中央部にマウントされる。三菱アイミーブ用のちょうど3倍に相当する48kWhの容量のリチウムイオンバッテリーは、フロントカウル前方、センタートンネル部、シート背後という3カ所に分散して搭載。これは、重量配分の最適化が主目的という。

ガルウイングをもったスーパーEV|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL|03

興味深いのはフロントサスペンションで、あらたにドライブシャフトをとおす必要が生じたこの部分は、ガソリンバージョンのダブルウィッシュボーン式からレーシングカーのごとくストラットユニットを水平配置としたプッシュロッド式のマルチリンクタイプへとフルチェンジ。パワーステアリングは電動油圧式、空調用コンプレッサーは電動式等々と、エンジンによる動力をえられない補器類も軒並み変更されている。

滑走路での試乗という貴重な体験

たった1台の貴重な車両を用いてノルウェーで開催された国際試乗会は、まずは民間航空機の離着陸の狭間を見計いつつローカル空港の滑走路を借り切っておこなう(!)という、ゼロ発進加速の体験からスタートとなった。と言っても、昨今のローンチコントロール・システムを装備した2ペダル式トランスミッション車のように、「スタビリティ・コントロールを解除して左足でブレーキペダルを踏み込み、同時に右足でアクセルペダルを床一杯まで踏んだあとに、ブレーキをリリースしてスタート」などといった”儀式”はまったく必要ない。スタートボタンを押して走行システムを起動させ、あとはアクセルペダルを踏み付ける……と、これだけの操作で、100km/hに到達するまでわずかに4秒という加速がえられてしまうのがこのモデルなのだ。

当然ながら、スタート前に全身を包み込むエンジンサウンドもこのモデルではまったく存在をしないので、むしろ絶対的な加速力そのものよりもそうしたフィーリングのちがいの方が強く印象に残るといってよい。

もっとも、回転力がゼロに近いほどに強力なトルクを発するという電気モーターの特性によって「ドン」と背中を押されてスタートをしたあとは、タイヤが発するノイズと風切り音が高まっていくのみというシーンは、率直なところ少々味気なくもある。

ガルウイングをもったスーパーEV|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL|05

とくに、ダイナミックなエンジンサウンドを聞き慣れたこれまでのAMG車のオーナーにとっては、これは物足りない瞬間だろう。E-CELLにかぎらずスポーツモデルの場合は、「EVでいかなるサウンドチューニングをおこなうか」はかなり難しい課題になると思う。

ガルウイングをもったスーパーEV|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL|06

ガルウイングをもったスーパーEV|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL|07

そんな発進加速体験のあとには、おなじ滑走路上でパイロンスラロームにトライをする機会も用意をされた。詳細スペックは公表されないものの「200kgほど増す結果になった」という重量もあってか、SLS AMG特有の身軽さは幾分ダウンをしたといわざるをえない印象だ。が、一方で徹底的に”ゼロロール”という感覚は、「バッテリーやモーターなどの重量物を低くレイアウトすることで、23mmの重心高の低下を実現させた」というコメントが素直に納得できるもの。SLS AMGは、ガソリンバージョンでもトランスミッションをエンジンから離して後部に置くリアトランスアクスル方式を採用し重量配分の最適化を図っているが、EVとなればそうした重量配分意識のレイアウトの自由度がさらに増すのが福音だろう。

滑走路上でのトライのあと、80kmほどの距離の一般道をテストドライブ

ステアリングホイールにはガソリンバージョンと同様デザインのパドルが備わるが、その働きは「ブレーキ回生力の選択」というもの。右の"+"側を引くと回生力が弱まっていき、左の"-"側を引くと逆に回生力が強まって、エンジンブレーキ力を調整するのと同様効果をえることができる。コンソール上のダイヤルは3段階にプリセットされた出力モードを選ぶもので、ここでマニュアルモードを選択するとアクセルOFF時の回生力はゼロとなり、その先いかような回生力をえるかは、すべてがドライバーのパドル操作に委ねられることになる。そんな一般路の走行シーンで難儀をさせられたのは、じつは意外にも直進性が乏しい事だった。フリクションが大きいステアリングは、切り込んだステアリングをみずからもどそうという能力が極端に弱く、中立位置がとてもわかりにくかったためだ。

ガルウイングをもったスーパーEV|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL|09

ガルウイングをもったスーパーEV|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL|河村康彦

こうして、いくつかのフィーリングに課題を残してはいるが、そこはまだ市販化までに数年を残したプロトタイプゆえの問題でもあるはず。そしてなによりも、そうした未完成な段階のモデルをあえてテストドライブに供するという事柄に、AMGが語る「将来のスポーツカーのあたらしい方向性を探るために開発した」というコメントの”本気度”というものを印象づけられる結果にもなったものだ。

なるほど、大出力を発生するモーターの採用でいかに"電費"が嵩んだとしても、そこにチャージする電力を風力・水力や太陽光といった自然エネルギーで発電するという前提に立つかぎりは「エミッション・フリー」という金看板を手にすることができるのがEVの強みというもの。今の時代、大排気量エンジンの搭載などよりもはるかに環境フレンドリーなイメージを発信できることが、さいきんさまざまなスポーツカーブランドがこうした”スーパーEV”に興味をしめす大きな理由でもあるわけだ。

ガルウイングをもったスーパーEV|メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL|10

           
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