パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Auto
CAR / MOTOR SHOW
2022年12月2日

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Auto

知的なショーのチャンス

同様に興味深かったのは、欧州で「クアドリシクル」と呼ばれている軽便車の再定義である。従来このカテゴリーのパワーユニットは、500ccの汎用ディーゼルエンジンが最もポピュラーであった。
運転には原付き免許を要するが、以前は免許不要で運転できたため、フランスではそれを示す「サン・ペルミ」と呼ばれてきた。加えて、普通免許の更新が難しくなった高齢者や、交通違反などで免許停止中のドライバーの代替交通手段というイメージがつきまとっていた。
いっぽう今回のショーでは、そのサン・ペルミをBEV化し、より個性的かつ意味あるデザインにすることで、次世代モビリティの一選択肢とする試みが数々みられた。
スイスを本拠とし、イタリアで製作するマイクロモビリティ・システムズ社の自信作は、伝説の軽便車「イセッタ」を彷彿とさせるBEV「ミクロリーノ」だ。以前からコンセプトカーをジュネーブで展示しながら市場の反応を伺ってきた彼らが今回パリ参加を決意した背景を、幹部は「欧州内でフランスはサン・ペルミの重要な市場だから」と説明する。
「イクシーヴィー」
イタリア・トリノでデザインされ、すでに中国で生産が開始されている「イクシーヴィー(XEV)」も、従来のサン・ペルミとは一線を画したモダンなスタイルをまとう。デザインを主導したのは中国メーカー「JAC」のトリノ・スタジオでシニア・デザイナーを務めていたイアン・グレイ氏と、同じくJAC出身のアドヴァ・ヨゲフ氏である。3Dプリンターを駆使することで複雑な形状を達成するとともに、カスタマイズの多様性も実現している。さらに今回は、カートリッジ式電池を搭載するバージョンも公開した。
キロウ バニョール
もうひとつの好例は、「キロウ(Kilow)」というスタートアップによる「バニョール(Bagnole:フランス語でオンボロ車)」である。Moins c’est mieux(少ないことは、より良いことだ)というキャッチコピーは、まさにモダニズム建築家ミース・ファン・デル・ローエが遺した「Less is more」に通じる。
もうひとつのコピー「もっと遅く、もっと短距離を」のとおり、満充電からの航続可能距離は70km(オプションで140km)、最高速度も80km/hにとどまる。フランス人のクルマ好きが好むフレーズが「plus vite , plus loin、 (より速く、より遠くへ)」への強烈なアンチテーゼであろう。
キロウ バニョール
価格は9999ユーロ(約146万円)からだ。デザイナーのレオ・ショワセル氏は1990年生まれ。「免許を取得して最初に運転したのは1994年のオリジナルMINIで、その後さまざまな車歴のなかでポルシェ911にも乗った」と振り返る。そして自動車メーカーのデザイナーを8年務めた。クルマとその世界を知った彼が達した、ひとつの境地なのである。
かくも意欲的なデザインの新作が数々並んだ背景には、冒頭のようにクルマのあり方を根本から見直す必要に迫られた都市があったのは明らかだ。そうした意味で今回のパリは、きらびやかなだけのコンセプトカー披露とは一線を画する、ある種知的なショーに生まれ変わるチャンスと興奮を秘めていた。
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