ルノー、リッター100kmの小型PHVを発表|Renault
Renault EOLAB Concept|ルノー イオラブ コンセプト
リッター100kmの小型プラグインハイブリッドをパリで発表
ルノーは、パリモーターショーにおいて小型のプラグインハイブリッドカー「イオラブ コンセプト」を発表した。量産時のことまで見据えた、現実味の強い一台だ。
Text by HORIGUCHI Yoshihiro(OPENERS)
空力、軽量化、ハイブリッドで実現した低燃費
ルノーがパリモーターショーにて発表したのは、小型ハイブリッドカー「イオラブ コンセプト」。最新テクノロジーを満載したコンセプトでありながらも、生産時のコストを想定した、リアリティのあるモデルとなっている。
イオラブ コンセプトは、ガソリン1リットルで100kmを走行できる“リッターカー”を目指してつくられ、実際にその燃費はおよそ1ℓ/100km、CO2排出量22g/kmを達成している。
そのために、おなじセグメントにある「クリオ(日本名ルーテシア)」とくらべて、30パーセントもの空力性能の向上、400kgに達する車両の軽量化、そして「Z.E.ハイブリッド テクノロジー」と名付けられたコンパクトなハイブリッドエンジンの採用がおこなわれた。
革新的な技術で実現する高いエアロダイナミクス性能
フロントバンパーにそなわるアクティブスポイラーは、速度が70km/h以上になると車両周辺の空気の流れを抑制するために10cm下がる機構をもっている。また、リアバンパーには、40×10cmのエアロダイナミクスフラップがそなわる。こちらも70km/h以上になると6cm伸び、高速度において車体側面の気流がボディから早く剥離してしまう傾向を抑制する。
空気抵抗を小さくするために、ホイールも表面をフラットに仕上げた方が燃費には有利になる。しかしながらデザイン、そしてブレーキの冷却という面から考えると完全に覆ってしまうのは難しい。ルノーではその解として、ホイールに温度センサーを設置し、ブレーキの冷却が必要になるとカバーをずらして、外気を取り込むというアクティブホイールを開発した。
タイヤもミシュランと共同開発した、幅145mmの専用品をもちいる。デザイン面でも工夫がほどこされ、トレッドパターン(接地面)は横の拡がりを強調し、サイドウォールには軽やかさが表現されている。ルノーはホイールのベアリングも改善をほどこし、これだけでもCO2排出量が1g/km減じているという。
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販売時の価格まで考えた素材の採用
ボディの軽量化も細かくほどこされた結果、イオラブの重量は955kg。これは、ベンチマークとするルーテシアと比較すると400kgも軽いことになる。
そのために、ボディシェルには、重量やコスト、素材特性を考慮し、スチール、アルミニウム、マグネシウム、複合プラスチックなど多種の素材が、最適化して配される。
燃費を向上させるには、車体を軽くするのは必須の課題であるが、オールアルミニウムボディやアルミニウムとカーボンの複合を利用することは、すでにスポーツカーやラグジュアリーカーにおいて実用に供されており、ことさら目あたらしいことではない。しかし、これでは材料や製造のための熟練などにコストを要してしまい、最終的には、普及コンパクトカーとして販売するには見合わない金額になってしまう。
開発プロジェクトのリーダーが「お金をいくらでも払っていいというのであれば、軽量化は簡単なことなのです。でもそれは、ルノーのフィロソフィーに反します。私たちは、ごく普通に買えるようなクルマとなるような原価に配慮して設計たのです」と強調するように、イオラブ コンセプトは、未来の最先端テクノロジーショーケースではなく、ちかい将来の量産化までを考えた“コンセプトモデル”として成り立っている。
キャビンの前半部分には、1,200MPaから1,500MPaもの引っ張り強度を誇る超高張力鋼板を採用。後半にはアルミニウムをもちいるが、コストと性能に応じて3つの製法を使いわけ、強度を落とさずにボディの重量と走行中の慣性を減らすことに貢献している。
通常のスチールでつくると10kgになるところを、わずかに4.5kgに抑えられるため、ルーフにはマグネシウム合金が奢られる。マグネシウムをブロック状ではなく、シート状に製造する画期的な技術は、サプライヤーであるPOSCO社によるもたらされたものだという。
そのほか、グラスファイバーや長繊維を混ぜた繊維強化プラスチックが、ボンネットやキャビンフロアなどにもちいられている。フロントガラスにも、現在普及しているものより薄く30-50パーセントも軽い製品を採用。また、リアやリアサイドには、ガラスにかわりポリカーボネートが使われている。
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走るための装置も軽量化
走行のための機構の数々も、アルミニウムの採用で軽量化がはかられた。ルーテシアと比較すると、サブフレームで5.3kg、サスペンションアームで1.8kg、車軸まわりで5kg、リアアームで9kgを減じている。
コンチネンタル社によって開発されたブレーキシステムは、14.5kgも軽くなった。フロントブレーキのディスク面はスチールながら、ハブなどにはアルミを採用している。また、通常は走行中でもかすかに接触しているブレーキディスク面とパッドを完全に離し、摩擦抵抗をなくしている。それにあわせて、ドライバーがブレーキを踏みそうなシチュエーションを感知すると、パッドをディスク面に軽く触れて予備動作をおこなう制御を採用しており、制動力は変わらないかより速い反応が得られるという。
リアのドラムブレーキには電気式のオートマチックパーキングブレーキを内蔵し、従来のブレーキレバーやワイヤーを不要とすることで、1.3kgの減量に貢献している。
インテリアでも機能性を落とすことなく、軽量化がほどこされた。フロントシートは材質や形状を見直し、薄く軽量なものをパートナー企業と新開発。また、内装のプラスチックにも薄いものを採用。そのうえで特殊な製法により、内部に泡を取り込んで軽量化をはかっている。
これ以外にも、見えない部分の軽量化は随所に施される。たとえばエアインテークのダクトには、通常の比重0.96にくらべて0.09という非常に小さな比重のポリエチレンを素材に採用し、厚みこそ5倍になってしまうものの、その重量はわずか700gと、従来のものにくらべて2.3kgも軽くしている。
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安価で小型のプラグインハイブリッド
イオラブ コンセプトのパワートレーンには、30ものパテントをもつルノーオリジナルのプラグインハイブリッドを採用。合計6.7kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、モーターのみの走行でも航続距離60km、最高速度120km/hを実現。この数値は日常的に自動車を使うユーザーの、多くの使用範囲をカバーするという。
そのパワーソースは、最高出力57kW(75ps)、最大トルク95Nmを発揮する999cc 3気筒ガソリンエンジンに、最高出力50kW、最大トルク200Nmを発揮する永久磁石による小型モーターを組み合わせたもの。
このプラグインハイブリッドは、費用のかかる大がかりなシステムではなく、コストを抑え、かつ小型車にも搭載できるものとされ、ルノーでは2020年までには市販車に投入したいと考えているという。もちろん、これも、“手に届く超低燃費車を”というルノーの信念に基づいたものだ。
トランスミッションには、3段のセミAT(シングルクラッチ)を採用する。ルノーによると、このサイズのクルマが通常利用する速度域であれば、トルクのあるモーターとの組み合わせにより、3段でじゅうぶんにカバー可能な範囲だと説明する。また、とくに小型車に採用する場合おいては、CVTやデュアルクラッチよりも重量、コストの面でアドバンテージがあるという。
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普段使いはEV、休日の遠出はハイブリッドで
トランスミッションとパワーソースの組み合わせは、走行モードによって振る舞いがことなる。
通勤や買い物など日常での移動をメインにかんがえる、“ウィークデイ”モードは、モーターを積極的に使いゼロ エミッションを実現する。トランスミッションのふるまいは、60-70km/hまで1速で走行、それ以上になると自動的に2速になり120km/hまでをカバーし、いずれも積極的にモーターのみで走行。それ以上の速度になると、3速にシフトアップすると同時に初めてエンジンが加勢しハイブリッド走行へと移行する。
長距離走行も想定する“ウィークエンド”モードでは、最初からエンジンを始動し、パワーのあるハイブリッドモードで走行。そして、惰性走行(コースティング)時やブレーキング時には積極的に発電をおこない、モーターアシストのパワー源とする。
エコカーにもに所有するよろこびを
ルノーではイオラブに、エコカーを運転することに価値を感じてもらえるよう、リアルタイムなエコ情報をインフォメーションディスプレイに表示する機能を備える。また、自らが運転していると見ることができない、70km/h以上で走行中に働く特徴的な各種システム――スポイラーやフラップ、ホイールなどの装置は、停止していてもタブレットのボタンで作動させることができる。これも、スポーツカーのようにオーナーになる満足をエコカーにも、エコカーなりの方法で実現するひとつの手段だという。
イオラブ コンセプトは、素材、デザイン、そしてパワートレーンまで、徹底的な燃費向上の施策をおこなう一方、ルノーが提案する「普通の値段で超低燃費車を」という思想に合致するよう、大量生産時のコスト面までを「コンセプト」に盛り込んだ、地に足のついたモデルであり、今後、ルノーのあたらしい生産型“アフォーダブルなエコカー”の登場に期待が寄せられる。