日本車のアニメ化を横目にかんがえる、スモールカーの行方――自動車ジャーナリスト 下野康史の5選
CAR / MOTOR SHOW
2015年5月11日

日本車のアニメ化を横目にかんがえる、スモールカーの行方――自動車ジャーナリスト 下野康史の5選

日本車のアニメ化を横目にかんがえる、スモールカーの行方

東京モーターショー5選――自動車ジャーナリストの場合

10月27日に一般公開がはじまった東京モーターショー。
自動車ジャーナリストの下野康史さんは、出展車のある傾向をかんがえながら、こんな5台を選んだ。
テーマは、スモールカー。

文=下野康史

「やらねばならないこと」と「やりたいこと」の狭間で

環境対策や安全性向上といった、早急に「やらねばならないこと」と、クルマのつくり手として、本音で「やりたいこと」。最近のモーターショーというのは、どこの国のショーであれ、そのふたつのせめぎ合いである。

今回の東京モーターショーも、基本はそうだったが、前回より“後者”がちょっと優勢に思えたのは、ショーの華が「日産GT-R」だったせいだろうか。
たしかにGT-Rは乗ってみたいし、こういうクルマがショーのスターであるのは、クルマ好きとしてはもちろんうれしいのだが。

ただ、GT-Rに限らず、「レクサスIS-F」や「三菱ランサーエボリューションX」、あるいは現実性の高いショーモデル、「レクサスLF-Xh」や「ホンダCR-Z」といった出品車をみていて、今回、強く感じたのは、「日本車のアニメ化」ということだった。

モーターショーを飾るクルマが、クルマの近未来を体現しているとすると、これからの日本車、とくに高性能なスポーティカーは、ドライブゲームに出てくる“なんだかわかんないけど、速そうなクルマ”みたいなのばっかりになっていくのだろうか。

なんてことはともかく、スモールカー好きとしては、主に全長4m以下のショーモデルをピックアップしてみた。

下野康史の東京モーターショー5選

1/5 RRであるある大事典
フォルクスワーゲン スペース・アップ!

日本市場のご愛顧にこたえて(?)、VWが送り出したワールドプレミア作品。「日産マーチ」より短い全長(3680mm)で、室内の広さをとことん追求した4座5ドアワゴン。
興味をソソるのは、こう見えてもRR(リアエンジン・リアドライブ)であること。水平対向といわれるエンジンをお尻の床下に積んでいる。
FFの場合、“エンジンの上”は有効利用できない。その点、RRなら、上に荷室や客室をつくれる。「スマート」や「三菱 i」をみてもわかるとおり、RRレイアウトが、じつはスペースアップに効く、ということをあらためて示す1台。水平対向4気筒のRR(「ビートル」)で礎をなしたVWならではの習作。

2/5 デッカくなっちゃったあ!
スマート・フォーツー

モーターショー初日が発売日でもあった新型「スマート・フォーツー」。初代のオリジナルモデルと比べると、三菱との共同開発による新型3気筒エンジンは、598ccターボから999ccノンターボに。
泣いても笑ってもふたり乗りは変わらないが、ボディは16cm長く、4.5cmワイドになった。幅を4cm削って軽自動車の規格に収めた日本専用モデルは、もはや金輪際不可能に。
乗ればおそらく、旧型よりいろんな面で洗練されているはずだから、販売は伸びるかもしれない。全長2720mmといえば、依然、世界一のチビッコには違いない。けれども、2台買ったオーナーの本音も言わせてもらおう。バッカじゃねえの、スマートでっかくして。

3/5 御商売IQ高し
トヨタiQコンセプト

ほどなく市販化といわれるトヨタ版スマート。デカいレクサスを売るには、一方でこういうのもつくらないといけない世のなかである。
ただし、こっちはFFで、新型スマートより26cm長く、12cm広い。そのかわり、全長3mをきる短躯でも、狭いながらリアシートをつくったのがミソ。たとえ子ども用でも、うしろにプラス2シートを備えるのは、間違いなく商売にはプラスでしょう。
有効なバンパーを設けるとなると、生産型でこのカタチがどこまで保たれるか、興味がもたれる。しかし、影絵でみたら、スマートそっくり。

4/5 未来はプヨプヨしているか
ホンダPUYO

高性能車だけじゃなく、こういう荒唐無稽なショーカーも、すっかりアニメだ。オウプナーズの編集担当いわく「あ、あのオバQ?」。
ま、カッコはともかくとして、おもしろいと思ったのは、ボディ外板がシリコンでつくられていること。車名のとおり、指で押すと、プヨっとヘコむ。クルマが危険なのは、ひとつには“硬いから”である。金属以外の柔らかい素材でつくるというのは、たしかにこれからアリなんじゃないかと思う。ぼくも、轢かれるなら、新型「フィット」よりプヨのほうがいい。ブースにボディと同じ素材の“触れる見本”が置いてあるので、お試しあれ。

5/5 M3よりいいかも
BMW 135iクーペ

今回のショーで、いちばん乗ってみたいと思ったのは、じつはコレ。全長4m以下じゃなくって、スイマセン。ほどなく日本でも発売される「1シリーズ・クーペ」の高性能モデル。
1シリーズ・ハッチバックより12cmストレッチしたノッチバック2ドアボディに、「335iクーペ」とおなじ直6・3リッター直噴ツインターボを載せる。
カッコはさりげないけど、どうかんがえたって、モンスターでしょう。快適志向に走りすぎた新型「M3」は、ガッカリだったからなあ。
いまの3シリーズが大きくなりすぎたとお嘆きのかたも、気になるはず。

プロフィール
下野康史(かばた・やすし)

オウプナーズで「ジドウシャ是是非非論」を寄稿する自動車ジャーナリスト。今回のモーターショーではフィアットがブースを出展せず、イタリア発のコンパクトカー、新型「フィアット500」をみられずじまいだったのが残念。

NEW CREATOR’S FILE Vol.6<br>TaKa  [photographer]

           
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