クルマと服、デザインというクリエイションにおいて―服飾デザイナー 加賀清一の5選
クルマと服、デザインというクリエイションにおいて
東京モーターショー5選――服飾デザイナーの場合
デザインは、いまやクルマというプロダクトのなかの、もっとも重要なファクターのひとつ。
ファッションデザイナーは、クルマのデザインをどうみるのだろうか。
10月27日に一般公開がはじまった第40回東京モーターショーで、
服飾デザイナーの加賀清一さんと、各社のブースをみてまわった。
構成=有吉正大(本誌)
約20年ぶりのモーターショー
「モーターショーにきたのは約20年ぶり。この前は晴海で行われていたときでしたから」
幕張メッセの入り口で興奮ぎみに語るのは加賀清一さん。独創的なデザインで国の内外から高い評価を得ている服飾デザイナーだ。
加賀さんの愛車遍歴は、マツダのロータリーエンジンモデル「コスモスポーツ」にはじまり、オリジナルの「Mini」やコックピットむき出しのスポーツカー「ロータス・スーパーセブン」(免許取りたての知人にかわって慣らし運転)、ハイドロサス搭載の「シトロエンXM」と個性的なモデルばかり。
かなりのクルマ好きでいらっしゃる?
「クルマはずっと好きでしたが、はじめて自分の意思で買った新車が3年ぐらい前の『メルセデス・ベンツCクラス』。それ以外はたまたま手に入った中古のクルマに乗っていただけなんですよ」
はじめての新車で、なぜベンツを?
「世界でもっとも古い自動車メーカーのひとつじゃないですか。長い歴史をもつメーカーのクルマを体験して、そこにどんなことが詰まっているのか、たしかめたかったんです」
広い会場の端から順にブースをまわる。某国産高級ブランドにはいまいちピンとこなかったようだが、アウディのブースで加賀さんの足がとまった。
「アウディ、カッコいいですよね!」と目を輝かせ、1670万円のスーパースポーツ「R8」に乗り込む。ステアリングを握り、インパネやシフトレバーなどに手を伸ばしているときの顔は真剣だけど、失礼ながら、おもちゃ遊びに集中している子どものようにもみえた。
その隣には、バウハウス・デザインと称された斬新な意匠を纏う「アウディTTクーペ」の現行型(2代目)が飾られている。
「服のデザインをするときに、クルマからアイディアをもらうこともあるんですよ。たとえばタイヤハウスの丸みを随所にちりばめたTTをみて、ボタンの丸みから洋服をデザインしたこともありました」と、今度はデザイナーの顔になって話してくれた。
服飾デザイナーとして、クルマのデザインをどうみますか?
「ぼくは、なにかルールや決まりがあってデザインするということに興味があるんです。たとえばクルマなら、2ドアのほうがデザインの自由度は高いかもしれませんが、ドアが4枚あるという条件でどうかたちづくるかということのほうが、つくり手の腕もよくわかる。洋服のデザインもおなじだと思います」
注意深く観察し、みずから体験し、その奥にどんな秘密が隠されているかを探ってみる――加賀さんとブースをまわりながら感じたことは、クルマを愛でるという気もちと、つくり手としての強い意識だった。
服もクルマも、デザインという名のクリエイションにおいては、かわりはないということなのかもしれない。
加賀清一の東京モーターショー5選
1/5 ポルシェはポルシェのまま
ポルシェ911 GT2
ポルシェといえば、むかしからの憧れのクルマですよね。
若いころ、はじめてこのカタチをみたときは「タイヤが大きい!」という印象を受けましたが、あれから何十年もたつのに、ポルシェはポルシェのまま。それでも新しさを感じるということは、とてもスゴイことだと思います。
洋服もそうなんですが、あるカタチを守りながら新しさを出すのは、ひじょうに難しいことなんです。
2/5 アルマーニの服
アウディR8
アウディ傘下、ランボルギーニの「ガヤルド」とは親戚関係にあるらしいですが、ランボルギーニがファッションショーのキャットウォークでモデルがまとう奇抜な服なら、アウディはすぐに街で着られるアルマーニの服のようなもの。だれが乗っても似合いそうな、商品としての完成度があります。僕はアウディのほうを選びますけどね。
3/5 羊の皮をかぶった狼
メルセデス・ベンツC63 AMG
自分がCクラスに乗っていることもありますが、全長4.5m程度のボディに、よく6.3リッターV8という大排気量エンジンをつめこんだなあ、と感心します。457ps、0-100km/h加速4.5秒、最高速は250km/hという高いパフォーマンスをもちながら、外見はコンパクトでデザインも控えめ。まさに羊の皮をかぶった狼ですね。
メルセデス・ベンツという老舗メーカーが、こういった極端に尖ったモデルを出し続けるという姿勢に共感。
4/5 変わらぬ“らしさ”
シトロエンC6
以前、XMに乗っていましたから、シトロエンにも興味があります。そのXMの系譜にあるビッグ・シトロエン、C6にも、各所に“らしさ”が散見されます。リアにいくにしたがってすっと締まるデザインなどはそのいい例。ポルシェとおなじで「新しさのなかにある変わらないもの」があります。
5/5 ほしい!
ロータス・エリーゼSC
いやあ、これはほしいですね!
ライトウェイト・スポーツカーのロータスはずっと憧れの的。いまのクルマ(メルセデス・ベンツCクラス)の次は、こういうクルマもいいかも……でも妻からは絶対反対されますけどね。「こんな狭い車内なんて!乗り降りも不便!」と(笑)。
コンパクトなボディにスパルタンな意匠。まとまり感があり、これ見よがしなところがない。いつかは乗ってみたい1台です。
プロフィール
加賀清一(かが・せいいち)
1950年東京生まれ。服飾デザイナーとして、現在カジュアルウェア「PATRICK BY TASUKI」をはじめさまざまな服飾ブランドのデザインを手がけている。
ちなみに奥さまは元セレクトショップの店長、ご子息は電子機器メーカーでプロダクトデザインにかかわり、お嬢さんは大学でデザインを学んでいる。ファッショナブルでデザインコンシャスな一家です。