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IMPRESSION
2020年11月27日
まさに背の高いアストンマーティン──アストンマーティンDBXに試乗|ASTON MARTIN
ASTON MARTIN DBX|アストンマーティンDBX
エモーショナルなスタイルでは競合から一頭地を抜いている
競合ブランドから次々とSUVモデルを投入されるなか、満を持してイギリスの老舗スポーツカーメーカー、アストンマーティンが投入したDBX。先発に対していかなるアドバンテージがあるのか? モータージャーナリストの小川フミオ氏が試乗した。
Text by OGAWA Fumio|Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko
まず特筆すべきはスタイリング
アストンマーティンの、ながらく待たれていたSUV、「DBX」がついに日本に入ってきた。高性能4リッターV8エンジンを、専用開発したシャシーに搭載。スポーツカーのような走りを持つ大型モデルだ。そしてカッコいい。
一言でいうと、キャラクターがしっかり立っている。運転が楽しめるSUVが好きな人。あるいはなによりスタイリッシュなSUVが欲しい人。あるいは高速リムジンみたいに使えるSUVが欲しい人。その人たちにぴったりなのだ。
DBXの開発にゴーサインが出たのは、2015年あたりという。ここにいたるまで、メーカーから途中経過を知らせる情報が、おりにふれて渡されてきたとはいえ、本当に出るのかな、とファンが不安がっていたのも事実。
はたして、登場のタイミングとしては、悪くなかったかもしれない。ベントレー・ベンテイガがフェイスリフトを受けて装備もアップデート化されたり、ロールスロイスがカリナンのおかげでユーザーの若返りに成功したりしているのが、高級SUVをめぐる昨今の動きだ。その時期に、“さらなる選択肢”が増えたのは、高級かつ高性能のSUVを求めている人に、おおいなる朗報といえる。
DBXでまず特筆すべきは、スタイリングだ。全長5039×全幅1998×全高1680mmのボリュウム感と、曲面を多用したエモーショナルな面表現とが、圧倒的な存在感をもつ。加えて、アストンマーティン車とすぐわかるグリルとヘッドランプの組合せ。
グリルは大きすぎるきらいもあるものの、今後、(ひょっとして)EV化が検討されているとしたら、おそらく強力なインバーターを積むだろうから、冷却のためにも大きな開口部が必要になるかもしれない。意外に理にかなったデザインといってもいい。
圧倒的な加速を誇る、AMGも開発に携わったV8エンジン
いまは、405kW(550ps)の最高出力と、700Nmの最大トルクを持つ3982ccのV8という内燃機の、圧倒的なパワーを楽しんでおいても損はない。現在アストンマーティン・ラゴンダ車のCEOを務めるトビアス・モアーズ氏の出身母体であるAMGも開発に携わったこのエンジンは、たとえばメルセデス・ベンツGLS580 4MATIC Sportsにも搭載されている。


GLS580 4MATIC Sportsは、ちなみに同じエンジンを積んでいるものの、360kW(489ps)と、パワーが抑えられている。あちらも、クルマとしての完成度は高い。それでも比較すると、DBXのほうが突き抜けている。
DBXは、メルセデス・ベンツ車に対して、悪路走破性を考えていないとはいわない。事実、日本に入ってくるモデルは、通常のサマータイヤに加えて、オールシーズンとスタッドレスと、ユーザーが選択できるようになっている。ほかの試乗リポートを読んでいても、砂漠とかがれきのある悪路でも悪くないようだ。それでも、キャラクターをより明確に、スポーティな方へと振り切っている印象だ。
加速性は圧倒的。まさに、背の高いアストンマーティンだと思った。1913年以来、スポーツカーに(ほぼ)専念してきた同社の魅力が詰まっている。たとえばDBSバンティッジに乗っている人がDBXを買ったら、違いは背の高さとパッケージだけか、なんて思うかもしれない、と想像した。
本社ですべての車両の開発責任を負う、ロータス出身のマット・ベッカー氏は、オンラインのプレゼンテーションに登場して、「ドライブモードセレクターで好みのセッティングが選べます」と語った。


自分が好きな組合せは、として、ベッカー氏が挙げたのは、ダンパーはGTモード、ステアリングもGTモード、変速はスポーツモード、そしてエグゾーストのサウンドエンハンサーもスポーツモードという設定である。
この設定は、リムジンとしても使えるほど後席スペースがたっぷりしているDBXに合っている。2200rpmから最大値に達するエンジンのたっぷりしたトルクと、ソフトではけっしてないが、重厚な乗り味が実現されているからだ。


一方で、スポーツ、あるいはスポーツプラスといったモードでは、かなりキャラクターが変わる。ツインターボエンジンは、弾けるような、というぐらい、アクセルペダルをわずかな踏みこみに反応してパワーを出す。ややクイックな設定のステアリングのおかげもあって、運転を楽しみたいときにぴったり。スポーツでも充分すぎるぐらいである。
待った甲斐がある仕上がり
駆動力は電子制御されている。ふだんは後輪の方が少し多めのトルク配分で、走り方や路面の状況に応じて変化していく。電子制御された「アクティブセントラルディファレンシャル」ギアと、後輪に組み込まれた「eデフ」というリミテッドスリップディファレンシャルギアが、最適のトルク配分で、コントロール性を高めているのだ。
電子制御ダンパーによって、ボディロールは、小さめのコーナーではしっかり制御され、車体はフラットに近い姿勢で曲がっていく。走り方で、いかようにも楽しめる。どの領域で100パーセントの達成度を目指して、丁寧にしつけられている印象なのだ。待った甲斐がある仕上がりといえる。
価格はベースモデルが2299万5000円。オプションは豊富だ。この価格帯で競合を探すと、404kWの4リッターV8のベントレー・ベンテイガV8(2142万8000円)、478kWの4リッターV8のランボルギーニ・ウルス(3068万1070円)、さらに、404kWの4リッターV8搭載のポルシェ・カイエンターボクーペ(2063万円)あたりが思いつく。


とりあえず、エモーショナルなスタイルでは、DBXが一頭地を抜いている。このクルマで遠出が出来たら、さぞかし楽しいだろうと思わせてくれるモデルだ。
Spec
ASTON MARTIN DBX|アストンマーティンDBX
- ボディサイズ|全長5,039×全幅1,998×全高1,680mm
- ホイールベース|3,060mm
- 車両重量|2,245kg(装備重量)DIN
- 重量配分|前54:後46
- アプローチアングル|22.2°(最大ライドハイト時:25.7°)
- デパーチャーアングル|24.3°
- 渡河深さ:500mm
- エンジン|3,982cc V型8気筒インタークーラー付ツインターボ
- 最高出 力|405kW(550ps)/6,500rpm
- 最大トルク|700Nm/2,200〜5,000rpm
- トランスミッション|9段 AT
- 駆動方式|AWD
- サスペンション前|前 ダブルウィッシュボーン 後 マルチリンク
- ブレーキ|前後 ベンチレーテッドディスク
- タイヤ|前285/40YR22 後 325/35YR22
- 0-100km/h加速|4.5秒
- 最高速度|291km/h
- 燃料消費率(EU複合モード)|6.98Km/ℓ(目標値)
- CO2排出量(NEDC複合モード)|269g/km(目標値)
- 車両本体価格|2,299万5,000円