アウディ RS Q3に試乗|Audi
Audi RS Q3|アウディ RS Q3
RS初のSUVモデル
アウディ RS Q3に試乗
フルラインナップの揃うアウディのなかでも、モータースポーツなどを手掛けるクワトロ社がエンジニアリングをほどこし、とりわけスポーティなクルマに冠されるのが「RS」モデルだ。その名前を戴く初のSUVモデルとして、今年3月に日本でも販売を開始した「RS Q3」に渡辺敏史氏が試乗。コンパクトSUVのRSはどのような仕上がりか、また、なぜQ3にRSを導入したのかという点から、その方向性を読み解く。
Text by WATANABE Tosifumi
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko
拡大するRSモデル
クルマ好きの読者の方であれば「クワトロGmbH」という会社名、一度は耳にしたことがあるかもしれない。市販車におけるスペシャリティモデルの開発や架装、そしてレース活動全般をエンジニアリング面でサポートするアウディの子会社であり、その立ち位置はBMWにおける「M」や、メルセデス・ベンツにおける「AMG」のそれにほどちかく――といえばなんとなく概要がおわかりいただけるだろうか。
そのクワトロGmbHの本気仕事の凄まじさを知るに、我われともっとも距離の近いプロダクトといえば「RS」の称号をいだく銘柄だろう。その名自体は90年代前半から存在するものの、クワトロGmbHの存在を広く世に知らしめたのは、02年に登場した「RS6」だったと個人的には思う。
コスワースと共同開発した450psのV8ツインターボを独自に架装した「A6」ベースの車台に搭載するそれは、強烈なパワーを受け止める幅広大径のタイヤを収めるべく、激しく膨らんだオーバーフェンダーを纏う、たたずまいからして獰猛極まりないモデルだった。
素人目には一見普通のA6にもみえながら、放つパワーは当時のポルシェ「911ターボ」をもあっさりと上まわるわけだから、恐らく世界各地で幾台ものスポーツカーがRS6に食い散らかされたことは想像に難くない。そういう、ちょっと猟奇的なほどのキャラクターがRSラインにはよく似合う。それはベースとなるアウディのクールなイメージが巧く反映されての、他銘柄にはない個性ともいえる。
そのクワトロGmbHも、MやAMGの戦略を横目で見ながら、RSモデルのバリエーションを慎重に拡大しつつある。この「RS Q3」は彼らにとって初のSUVベースであり、「TT RS」につぐ2つ目の横置きエンジン搭載車――と、販売面での間口の広さにくわえて、彼らのあたらしい方向性を知るにはうってつけの1台だ。
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RS初のSUVモデル
アウディ RS Q3に試乗 (2)
TT RS譲りの心臓に専用の上質な内外装
RS Q3に搭載されるエンジンは、直列5気筒の2.5リッター。そもそも米国仕様向けに用意されたエンジンにクワトロGmbHが徹底的に手をくわえてスポーツユニット化したそれは、TT RSに搭載されているものと基本的には同一で、最高出力は310ps、最大トルクは420Nmと若干控えめに躾けられたぶん、より低回転域で最大トルクを発生するセットアップへと変更されている。
ドライブトレインは油圧式アクチュエータにより多板クラッチの連結をコントロールすることで、前後のトルク配分を電子制御で瞬時かつ微細にコントロールする「クワトロ」システム。このモデル用に専用チューニングが施されたそれは、オンロードでも充分に後軸側からのフィードバックがもたらされるなど、RSらしいキャラクターの形成に一助している。
このパワー&ドライブトレインをもって0-100km/hを5.5秒で加速、最高速は250km/hに達するというから、その動力性能は数多のホットハッチをも凌ぐほどだ。
そのパワーを受け止めるブレーキシステムは、モノブロックの対向ピストンキャリパーが奢られる。さらに特徴的なのはフロント側の18インチベンチレーテッド ディスクにウェーブタイプを用いていること。もともとは自転車やオートバイの世界から派生したそれは、放熱性と耐塵性に有利と、オンロード指向ながらSUVの出自というRS Q3のキャラクターには見合ったものといえるだろう。
サポートの高いスポーツシートにはダイヤステッチの加飾が施されるなど、RS Q3専用の設えを随所に与えられたインテリアは、BOSE製のプレミアムオーディオも標準で配されるなど、装備的な面での不足はまったくない。専用の意匠やホイールを纏ったエクステリアも含め、コンパクトSUVとしてみればその上質感は別格としても問題はないだろう。
それらをもっての718万円という値札は、RS銘柄としてはもちろん最安であり、仕様を勘案すればベースとなるQ3に対しても納得できる範疇といえる。
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アウディ RS Q3に試乗 (3)
立派なRSファミリーの一員
ドライブセレクターをもっともおとなしい「コンフォート」モードにしていても、RS Q3は標準車に対してぐっと引き締まった硬質な乗り味をドライバーに伝えてくる。転がり感の濁りなさはムービングパーツの精度が高められていることに起因しているのだろう。アシストをガンガン効かせた昨今のアウディのインターフェースのタッチに比べると操作系は明らかに重く、女性にとってはやや扱いづらいかと思うほどだ。つまり常速域でのフィーリングは、いかにもRS銘柄らしく、いにしえからのドイツ車の剛質な手応えを前面に押し出している。
可変エキゾーストバルブの採用で独特の5気筒サウンドがことさら強調されてはいるものの、エンジンのパワー感は全般的にフラットで、感情をことさら荒立てるものではない。
普通に扱っている限り、必要なときに求めたぶんのちからを確実に紡ぎ出す実直型とさえいえるだろう。そこからアクセルをグッと踏み込むと、ターボラグも感じさせずグイグイと速度を乗せていく、その際の力強さはさすがにRSの名に恥じないものだ。
が、それ以上に感心させられるのは、アンダーステアをしっかり打ち消しながら盤石の安定感を携えるシャシーのセットアップだ。ここでも際立つのは後輪側へと間髪いれずに大トルクを伝えるハルデックス4WDの素性、それと巧みに連携する電子制御デバイスのできの良さである。
さすがにサスが踏ん張り切る大舵角の低速コーナーでは上屋の動きも大きくなるが、中高速コーナーでの異様なニュートラル感とスタビリティはとてもCセグメントがベースとなっているSUVとは思えない。アクセルを踏み込みながらのコーナリングでは時にオーバーステア側の挙動すらみせる、もはや「クワトロ」において横置き型ドライブトレーンのネガは完全に解消されたと思って差支えないだろうスポーティネスをRS Q3は備えている。
クワトロGmbHの手掛けるモデルとして、RS Q3はトータルバランスを重視した仕立てになっていることはまちがいない。エンジニアリング的な狂気に満ちた過去のモデルを知る向きには、綺麗にまとまりすぎていて物足りないと感じることもあるだろう。が、静的にも動的にもベースモデルとはまったくちがう高い質感が貫かれているという点においては、立派にRSの系統にある。
RS Q3はクワトロGmbHがRS銘柄に託する「動体としての究極のクオリティ」を今後さらに重視していく、文字通りそのエントリーにあるモデルということになるだろう。もちろん、そこから広がる特別なアウディの世界は、驚くほどに深遠だ。
Audi RS Q3|アウディ RS Q3
ボディサイズ|全長 4,410 × 全幅 1,840 × 全高 1,595 mm
ホイールベース|2,605 mm
トレッド 前/後|1,585 / 1,590 mm
最低地上高|150 mm
重量|1,700 kg
エンジン|2,480cc 直列5気筒 直噴DOHC インタークーラー付ターボ
ボア×ストローク|82.5 × 92.8 mm
圧縮比|10.0 最高出力| 228 kW(310 ps)/ 5,200-6,700 rpm
最大トルク|420 Nm(42.8 kgm)/ 1,500-5,200 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(Sトロニック)
駆動方式|4WD
サスペンション 前/後|マクファーソンストラット / 4リンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク
タイヤ 前/後|255/35R20
0-100km/h加速|5.5 秒
燃費(JC08)|11.5 ℓ/100km
CO2排出量|202 g/km
トランク容量|356-1,261リットル
価格|732 万円