プジョー RCZ に試乗|Peugeot
Peugeot RCZ|プジョー RCZ
プジョーのクーペ RCZに試乗
独特なスタイリングのプジョーのクーペ、「RCZ」に試乗。2012年9月にパリモーターショーで、フェイスリフトしたこのクルマは、スポーツカーなのか、スペシャリティカーなのか、GTカーなのか。プジョーにとってRCZがどのような存在なのかを大谷達也氏が説く。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ABE Masaya
RCZとは何者なのか?
取材当日、あたらしいプジョー「RCZ」で私を迎えに来てくれた、OPENERS編集部のSは、首をひねりながらクルマから降りてきた。ワケを訊ねると「このクルマ、うまく理解できないんです」という。
「スタイリングは未来志向のスポーツカーでメチャメチャ格好いいけれど、乗り心地がよくて、ハンドリングはそれほどシャープじゃない。だから、あまりスポーツカーらしく感じられないんです」 彼はそう言葉をつづけた。
ああ、そういうことだったか。だとしたら、Sはちょっと誤解をしているなとおもった。以下、その理由を説明しよう。
RCZの源流を遡ると、2007年フランクフルトショーで発表されたコンセプトカー「308 RCZ」に辿りつく。
つまり、FWDのCセグメント コンパクトカーである「308」をベースにして、スタイリッシュなボディを被せたのがRCZの基本的な成り立ちなのだ。
言い換えれば、RCZはデザイン勝負のクルマなのだが、それだけにプジョーのスタイリングへのこだわりは強かった。
まず、全体のプロポーションが素晴らしい。エンジンが横置きされていることを利用して、クーペにもかかわらずキャビンを大胆に前進させ、その後ろにつづくデッキ(トランクルーム)を長く伸ばした。このフォルムは、なぜか私に戦前のグランプリカー、「アウトウニオン タイプC」を思い浮かばせる。
グランプリカーとは、1950年にF1規定が誕生する以前にモータースポーツの最高峰クラスと位置づけられていたレーシングカーのことだが、その設計を担当したフェルディナント・ポルシェ博士は、いまでいうミドシップレイアウトをはじめてモータースポーツの世界にもち込んだのだ。いわば、当時は時代の超最先端をいくクルマ。
もっとも、これはいまから80年も前の話で、もはや最先端でもなんでもないけれど、現代の最先端よりも半世紀ほど昔の最先端のほうがより未来的で先進的に感じてしまうのは、私ばかりではないだろう。
その証拠に、SFモノのアニメに登場してくるロボットやら戦闘機のデザインは、意外と半世紀ほど昔のハイテクがモチーフに使われていたりする。人間の感性とは不思議なものだ。
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プジョーのクーペ RCZに試乗 (2)
6つの“力こぶ”
話が横道に逸れたが、まずはこのキャビン フォワードなプロポーションがRCZの第一の魅力。そこに、合計で6つの“力こぶ”をつけることで、筋肉質なデザインを強調している。
この6つのうちの最初の4つは前後のフェンダー。タイヤを覆い隠すこの部分をこれだけ大きく盛り上げると、タイヤがしっかりと大地を捉え、そして力強く疾走していく様が想像される。
はっきりいって、自動車デザイナーなら誰もがやりたくなる手法だ。しかも、これが文字どおり“力こぶ”のように見えるので、強靱なサスペンションや爆発的な動力性能を有しているようにおもえる。とにかく、力強く、そして格好いい。
残るふたつがルーフ部分のふたつの膨らみ。エンスーだったら1950年代の過激なコンパクトスポーツカー、「フィアット アバルト 750 ザガート」をおもい出すにちがいないこの“ダブルバブル ルーフ”は、乗員のヘッドルームをギリギリ確保しながら、前面投影面積を減らして空力特性を改善するために生まれたデザイン。
RCZでは、おなじ手法を採り入れることで、クルマがぎゅっと引き締まって見える効果を生み出している。しかも、ルーフ上のふたつの膨らみをリアウィンドウまで延長させることで、このデザインを一層印象的なものとした。それにしても、リアウィンドウをこれほど複雑に湾曲させたクルマなど、これまで見たことがない。
そして、これら6つの膨らみを束ね、さらにはキャビンフォワードのプロポーションを強調するのにも役だっているのが、Aピラーからルーフ側面を辿ってCピラーへとつながる“アルミナム アーチ”である。このシルバーに輝くプレートにより、RCZのデザインは引き締まり、特徴的なクーペフォルムを強く印象づけることに成功している。
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プジョーのクーペ RCZに試乗 (3)
美しいデザインの内側
というわけで、RCZのデザインは見どころ満載だが、この造形が2+2の限られた居住空間を前提としていることはいうまでもない。
オトナ4人が寛いで座れるセダンタイプでは、ここまで引き締まったデザインにはならなかっただろう。つまり、2+2というある種の不都合さを受け入れられる人だけが、RCZの美しいスタイリングを手に入れることができるのだ。
いっぽう、クルマとしての成り立ちは前述のとおり基本は308とおなじだが、PSAとBMWが共同開発した1.6リッター 直噴ツインスクロール ターボエンジンは156psもしくは200psのハイパワーを発揮。ギアボックスは前者が6AT、後者は6MTのみとなる。
また、ハンドル位置も156ps版の右ハンドルにたいして200psは左ハンドルだけ。いずれにせよ、今回試乗した200ps版のほうが走りにこだわった仕様であることはあきらかである。実際のところ、こちらは0-100km/h加速で7.6秒となかなかの瞬足だし、峠を攻めれば低い重心を生かした走りが楽しめる。
でも、編集部Sがいったとおり、いかにもスポーツカーらしい、とびきりシャープなハンドリングじゃない。
なぜか?
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プジョーのクーペ RCZに試乗 (4)
だからこそ毎日乗りたい
それはRCZがハンドリングよりもスタイリングを味わうために生まれてきたクルマだからだ。
こう書くと、なんだかすごく安っぽくおもわれるかもしれないが、前述のとおり、RCZのスタイリングは相当こだわっているし、完成度も高い。しかも、これはあくまでも2+2を前提にしたデザインである。
キャビンスペースを犠牲にしなければRCZは生まれなかった。でも、おかげで飛びきり美しいスタイリングができあがった。RCZを実際に購入する人の多くは、そのデザインに惚れ込んだことが理由であって、必ずしもスポーティな走りを期待していたわけではないのではないか?
もう少し別の見方をしてみよう。
かりにプジョーがRCZに本物のスポーツカーのような走りが必要だと感じた場合、それを実現するのは不可能だったのだろうか? いや、サスペンションチューニングの魔術師ともいえるプジョーに、それができなかったとはおもえない。
では、なぜ現行型のRCZには、長距離ドライブをまったく苦にしない快適性が与えられたのだろうか?
単純な話、それが顧客から求められているとプジョーが判断したからにちがいない。スポーティなデザインだからといってガチガチの足まわりにしたら、乗り心地が悪いという理由で普段遣いを敬遠されてしまう。でも、そんなのは間違っている。美しいデザインだからこそ毎日乗りたい。RCZはそんなコンセプトに基づいてつくられたスポーティクーペなのだとおもう。
それでも「プジョーはRCZで本物のスポーツカーをつくれなかっただけじゃないの?」との疑いを捨てきれない皆さんに、ひとつ耳寄りな情報をお知らせしよう。
プジョーは1.6リッター直噴ツインスクロールターボエンジンの最高出力を270ps(!)まで高め、最低地上高を10mm落として運動性能の向上をはかった「RCZ R」を2014年に発売すると発表した。
やはりプジョーは「できなかった」のではなく、「敢えてそうしなかった」だけなのである。
おそらく編集部Sも、最初にRCZ Rに乗っていたら、何の疑問も抱かなかったことだろう。
Peugeot RCZ|プジョー RCZ
ボディサイズ|全長4,290×全幅1,845×全高1,360mm
ホイールベース|2,610 mm
トレッド 前/後|1,575 / 1,595 mm
最低地上高|120 mm
最小回転半径|5.4 メートル
重量|1,350 kg
エンジン|1,598cc 直列4気筒 直噴DOHC ターボ
圧縮比|10.5 : 1
最高出力| 147kW(200ps)/ 5,800 rpm
最大トルク|275Nm / 1,700 rpm
トランスミッション|6段マニュアル
ギア比|1速 3.538
2速 2.041
3速 1.433
4速 1.102
5速 0.880
6速 0.744
減速比|4.101
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソン ストラット
サスペンション 後|トーションビーム
タイヤ|235/40R19
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク
燃費(JC08モード)|13.2 km/ℓ
燃料タンク容量|55 ℓ
価格|426万円