フォルクスワーゲン ゴルフ GTI に試乗|Volkswagen
Volkswagen Golf GTI|フォルクスワーゲン ゴルフ GTI
フォルクスワーゲン ゴルフ GTIに試乗
第7世代へと代替わりを果たした、フォルクスワーゲン「ゴルフ」は、ここ日本でも、高い評価をもって受け入れられている。しかし、ゴルフファンのなかには、日本仕様の1.2リッターエンジン搭載モデルと、1.4リッターエンジン搭載モデルを気にしながらも、すでに欧州で発表されている「GTI」を待っている向きもあるのではないだろうか? そこで、OPENERSは、ひと足はやく、あたらしい「GTI」を試した金子浩久氏に聞いてみた。カネコさん、今度のGTIってどうでした?
Text by KANEKO Hirohisa
タータンチェックのシート=GTI?
OPENERS編集部の鈴木さんから新型フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」について訊ねられた。
彼は、僕が5月にドイツとオーストリアでGTIに乗ってきたことを知っていた。帰国してすぐに書いた試乗記も読んでくれたという。
「GTIは、ゴルフ1.2や1.4と較べてどうなのでしょう?」
なるほど、GTIのベースとなるゴルフそのものもフルモデルチェンジを果たし、日本でも発表されたばかりだから較べてみたくなるのだろう。ゴルフの評判がとても高いから、それで十分ではと考える人もいるだろうし、日本仕様のGTIの仕上がり具合を見極めてからどちらにするかどうか決めようとしている人もいるらしいというのだ。
「カネコさんは、GTIと一緒にTSI 1.4やディーゼルのGTDにも乗られたんですよね? GTIにしか備わっていないものって何ですか? タータンチェックのシート生地やゴルフボール型のシフトレバーなどだけでないところを書いてください」
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フォルクスワーゲン ゴルフ GTIに試乗 (2)
GTIにしかないもの その1―エンジン
GTIにしか備わっていないものはいくつもある。まずはエンジン。
GTI専用の2リッターターボチャージド4気筒。先々代からつづく「EA888」という型式のものだが、いくつかの技術的な変更がくわえられた。
排ガスを冷却するEGRクーラーがシリンダーヘッドに一体化され、燃料供給方式がトヨタの「D-4」ユニットのようにガソリン直噴にマルチポイント噴射が併用された。どちらも、ドライバーが運転しながら直接に眼にするものでもなく、知らなくても困らないものだが、こうした絶えざるアップデイトと最適化の連続がGTIの歴史であり、本質である。
最高出力は220ps/4,500-6,200rpm、最大トルク350Nm/1,500-4,400rpm。それぞれ、先代GTIから10psと70Nmのパワー&トルクアップ。
さらに10馬力高く、電子制御式のディファレンシャルロックを備えた「GTI パフォーマンス」という高性能版が用意されているが、日本仕様では選べない。220psエンジンに6段DSGのみが日本仕様。6段MTはなし。
GTIにしかないもの その2―シャシー
シャシー側でGTIだけに備わっているのは、「XDS+(プラス)」だ。
先代のXDSを発展させたもので、適用範囲を拡げ、より正確性と敏捷性を向上させた。コーナリング中に内側タイヤのブレーキを瞬間的にかけることによってアンダーステアを減らそうというものだ。
XDSについては鮮やかな印象を持っている。
先代GTIがデビューした時に南フランス キャステレの山道を、それまでの基準を大きく上まわる速度と加速を以てハイペースで操縦することができたのはXDSの効果にほかならなかった。
上り勾配のコーナーをスロットルを開けながらクリアしていっても、アンダーステアでクルマが外に膨れていくことがない。その瞬間に内側前輪にブレーキが瞬間的に掛けられているはずなのだが、もちろん、そんなことは体感できず、狙った通りのラインをトレースできる。
アップダウンがキツく、様々な大きさの径を持つコーナーを先代GTIはほぼニュートラルステアを維持しながら駆け抜けていくのは痛快極まりなかった。
さらに、このほかにも、数々のドライバー支援システムやコンビニエンスシステムなどが採用されているが、多くは新型ゴルフで採り入れられたものだ。
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フォルクスワーゲン ゴルフ GTIに試乗 (3)
今度のGTI、進化は著しい
先代のゴルフ GTIはゴルフシリーズ末期に近いところで登場したが、今度のGTIは反対に一新されたゴルフシリーズからあまり時間を措かずに発表された。“ゴルフ7”と称される新型は一新されたシャシーと、MQBという革新的な開発生産方式によって長足の進化を遂げたが、新型GTIはその上に立脚しているから進化が著しい。
ドイツとオーストリアではGTIと1.4リッターエンジンを搭載するゴルフ、それにディーゼルの「GTD」を乗り較べた。GTDは日本に輸入されないが、3台に共通していたのはシャシー一新の効果の大きさだった。
アウトバーンに乗り入れ、時速150km前後の流れに入ってすぐにわかるのは静粛性と剛性感の高さだった。
エンジンノイズ、ロードノイズ、風切り音などは見事に遮断されて車内は平和そのものだ。速度無制限区間に入り、時速200kmを超えても、パッセンジャーと声を張り上げることなく会話ができたほど。試みに窓ガラスを下げてみると、モノすごい勢いで空気が流れていて、タイヤが路面に叩き付けられ唸りを上げていた。高速で走る際のフロアからの微震動もきれいにシャットアウトされている。
粘るパワートレイン
ゴルフ 1.4でも概ねそこにちがいはない。ちがうのは、やはりエンジンパワーの大小による加速力のちがいだ。日本の高速道路とは較べものにならないくらいに速度域が高いアウトバーンの速度無制限区間での中間加速力がGTIのほうがはるかに勝っている。
GTIのエンジンで印象的だったのは加速力とともにその粘り強さだった。
100km/h走行時のエンジン回転数は6速2,200rpm。多少の上り勾配であっても、6速のまま力強く加速していく。6段MT版にはメーターパネルに推奨ギアが表示されるが、燃費を稼ぐために、すぐに“シフトアップせよ”と指示される。 それは空手形ではなく、何らかの理由で減速し、その後加速していくような場合でも、シフトダウンの指示は運転している自分の判断よりも少なかった。
つまり、それほどフレキシビリティに優れるエンジンなのだ。スポーツカーのようにまわして面白いエンジンでは決してないが、このフレキシビリティの高さは日常的な使いやすさと燃費に大いに貢献することだろう。
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DSGモデルを試す
DSG版ではエンジンのフレキシビリティと併せて変速そのものがDSGによって自動化されているから、さらに完璧な変速マネージメントをおこなっていた。新型GTIのDSGそのものの進化点に言及はなかったが、改めてその賢さに感心させられた。
ノーマルモードでは燃費のためにスキあらばポポポンッとシフトアップし、変速もショックも小さいからこちらは気付かない。スポーツモードではエンジン回転を上まで引っ張り、多少のショックを許しながらも素早く変速する。アップもダウンもパドルを用いれば自由自在だ。
アダプティブシャシーコントロールシステムの「DCC」も3つのモードをいろいろと試してみたが、どれも常識の範囲内で納得のいく設定だった。
スポーツモードを選ぶとまずハッキリとサスペンションの上下動が抑えられるのがわかる。
そして、路面の段差や凹凸を乗り越えた時の上下動を抑える働きが強くなる。スポーティな感覚に切り替わるが、引き締まり過ぎるということはない。
GTI専用で追加されたコンフォートモードはすべてがその反対で、街中でスピードを出していなければソフトな乗り心地は快適だろう。高速道路では上下動の揺れ戻しが残る。
ノーマルモードだと、その中間だ。
DCCをオプション注文しなかった場合のダンパーの設定は「ノーマルモードにごく近いもの」(マンフレッド・ウルリッヒ氏、乗用車開発部門シャシーチューニングマネージャー)だそうだから、予算と使い途で決めて構わないだろう。
ステアリングからの手応えもちがっていた。もちろん、履いているタイヤの径が大きく幅が太いことにもよるのだが、ゴルフ 1.4に較べれば少し重く、その分ダイレクトに路面の様子を伝えてくる。
交通の流れをリードする動力性能を持ち、シャープなハンドリングとキビキビとした身のこなしはGTIの身上だ。それらが先代からレベルアップしているのが明瞭に感じられた。
どこも突出した部分がなく、とてもバランスが取れたスポーツ万能で成績も良い優等生のようなクルマであることは新型も変わりはない。
「GTIとは日常の中で使えるスポーティなクルマです。エクストリームなスポーツカーではありません。パフォーマンスのために犠牲にしているものはありません」(アルベルト・メルツォ氏、技術開発部プロジェクトマネージメント責任者)
シャシーが一新されたゴルフ7の実力があって、その優れた土台の上に最新デバイスを伴って構築されたのが新型GTIとなる。
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フォルクスワーゲン ゴルフ GTIに試乗 (5)
ゴルフ GTIの本質
整理すると、新型GTIとゴルフ 1.4 TSIに共通して、乗り心地がソフトで快適なこと、ハンドリングが滑らかなこと、静粛性が高いこと、微震動が遮断されていることなどに感心させられた。
ゴルフのフルモデルチェンジからあまり時間を経ないで登場した新型GTIには二重の進化を強く感じた。“リアリティのあるスポーティカー”というゴルフGTIの本質は初代以来、変わることがなかった。
MINIやフィアット「500」、フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」などは、車名こそオリジナルとおなじだが、オリジナルのエクステリアデザインがアイコニックであったことをいいことに、コンセプトも内容もちがうクルマを確信犯的におなじ名前と似たデザインで造っている。
そうしたクルマは挙げていけばほかにもある。
しかし、ゴルフ GTIはちがう。7代目となっても、ノーマルのゴルフに強力なエンジンを積み、それを活かすデバイスでスポーティで速い前輪駆動車をつくるというコンセプトをずっとつづけてきている。
そのコンセプトは、“新技術によって新型は旧型よりも必ず進化する”という思想が貫かれている。モダニズムである。
先代までの累計生産台数が190万台というのも、実用的なゴルフを速くスポーティに仕立て直すというコンセプトが支持されつづけてきた証しだろう。
GTIがどんなクルマか了解している人には新型の進化分を知って欲しいし、“ゴルフ 1.4とそんなにちがうのなら待ってみようか”という人には待ってみるのを勧める。待つ甲斐はあるとおもうからだ。
反対に、“GTIは良さそうかもしれないけれども、まずはゴルフ7から”という意見も首肯できる。メルツォ氏の言う通りに、GTIはゴルフ7の上につくりあげられたものであり、そのパフォーマンスは何かを犠牲にして生み出されているわけではないからだ。
新型GTIとゴルフ7は同心円を形成している。
Volkswagen Golf GTI|フォルクスワーゲン ゴルフ GTI
ボディサイズ|全長4,268×全幅1,790×全高1,442mm
ホイールベース|2,631 mm
トレッド 前/後|1,538 / 1,516 mm
重量|1,370 kg
エンジン|1,984cc 直列4気筒 DOHC ターボ
最高出力| 162 kW(220ps)/ 4,500-6,200 rpm
最大トルク|350Nm / 1,500-4,400 rpm
トランスミッション|6段オートマチック(6DSG)
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソンストラット アンチロールバー付
サスペンション 後|4リンク アンチロールバー付
タイヤ|225/45R17
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク(312x25mm) / ディスク(300x12mm)
0-100km/h加速|6.5 秒
最高速度|244km/h
燃費(NEDC値)|6.4 ℓ/100km
CO2排出量|148 g/km
価格|2万8,350ユーロから