レクサス LS600hに試乗|LEXUS
CAR / IMPRESSION
2015年1月23日

レクサス LS600hに試乗|LEXUS

Lexus LS 600h|レクサス LS 600h

ビッグマイナーチェンジを敢行したLS600hに試乗

レクサス「LS」が誕生したのは今から23年前。1989年のことだ。それから3回のフルモデルチェンジを経て4代目の現行モデルが登場したのは2006年。登場から6年を経過し、フルモデルチェンジに匹敵するといわれたマイナーチェンジを敢行した「新型LS」。スピンドルグリルを得て外観は大きく変わった。ではその中身はどう変わったのか? レクサスのフラッグシップの、さらにその頂点に君臨する「600h」のドライバーズシートに大谷達也氏が乗り込んだ。

Text by OTANI TatsuyaPhotographs by MOCHIZUKI Hirohiko

敢えて個性を主張する道を選んだ

スピンドルグリルは、旧来の価値観と決別しようとする、レクサスの強い決意のあらわれではなかろうか?

ややアクが強すぎるといえなくもないこのデザインは、オリジナリティの高いものを評価する層には積極的にうけいれられるだろうが、無難なもの、伝統的なものに安心感を覚える向きからは敬遠されるかもしれない。しかし、レクサスはそれを承知のうえで、敢えて個性を主張する道を選んだ。その姿勢は、「できるだけ多くの顧客に受け入れてもらう製品づくり」に邁進してきたトヨタとは決定的にことなるものでもある。

レクサス「LS」のチーフエンジニアを務めた渡辺秀樹が語る。「より多くの人たちに支持していただける良品廉価を目指したのがトヨタ車です。けれども、レクサスはプレミアムブランドなので、それだけで終わるわけにはいきません。なぜなら、プレミアムブランドは、ある種贅沢なものであり、より個性的でなければならないからです」

Lexus LS 600h F Sport|レクサス LS 600h F スポーツ

Lexus LS 600h F Sport|レクサス LS 600h F スポーツ

とはいえ、長年トヨタ自動車に勤務してきた彼らに、いきなり「個性を追求しろ」というのは無理な話だ。1989年、初代「LS」とともにアメリカで産声を上げたレクサスは、それまで以上にクルマの根本に立ちかえった開発がおこなわれたとはいえ、クルマの評価基準、価値基準は従来のトヨタ車の延長線上にあったようにおもう。しかし、世界の名だたるプレミアムブランドと競合するなかで、レクサスはトヨタから次第に離れ、レクサス独自の個性を打ちだすようになっていった。

おなじ「LS」でいえば、2006年に誕生した4代目はヨーロッパ生まれのプレミアムサルーンと肩をならべる優雅なスタイリングを手にいれた。

しかし、インテリアデザインにはトヨタ的アイデンティティが散見されたほか、走りの味にかんして言えば「恐ろしく洗練されたクラウン」といえなくもなかった。いや、別にトヨタ的な価値観が悪いといっているわけではない。ただし、プレミアムブランドに不可欠な個性と贅沢さの追求に関していえば、まだ“良品廉価”という思想からじゅうぶんに抜けだしていないようにおもえたのである。

Lexus LS 600h F Sport|レクサス LS 600h F スポーツ

しかし、私のそうした認識は、最新の「GS」に試乗した瞬間、すっかり消え去った。骨太な味つけはヨーロッパ製プレミアムモデルを彷彿とさせるもの。しかも、走りの性能は表面的なものではなく、どこまで攻め込んでも破綻をきたさなかった。

まずはしっかりしたボディ剛性を確保、そこに正確に作動するサスペンションを取りつけ、丁寧なチューニングを施さない限り、この領域には届かないはず。

インテリアの質感、そして独自性もヨーロッパ車に引けをとらない。そしてフロントセクションは、あの特徴的なスピンドルグリルで飾られていた。「ああ、あのスピンドルグリルとともに、レクサスは独自の世界を持つ本物のプレミアムブランドに生まれ変わったのだなあ」 その感慨は、鮮烈な印象となって筆者の心に残った。

そしていま、レクサスのフラッグシップモデルである「LS」がスピンドルモデルを得てマイナーチェンジを果たした。しかし、社内ではフルモデルチェンジに匹敵する大規模な変更であったととらえられているらしい。事実、改良の手はボディ構造にまで及んだという。しかも、レクサス ブランドの走りを象徴するグレード“F SPORT”を「LS」として初設定するなど、新型「GS」に準じたモデルチェンジであることを予感させた。

果たして、新型「LS」はどこまで生まれ変わったのか? 筆者は、興味津々で試乗会場を訪れた。

Lexus LS 600h|レクサス LS 600h

ビッグマイナーチェンジを敢行したLS600hに試乗 (2)

まさに全方位的な進化

プレゼンテーションを受けて、これが聞きしに勝る大規模なマイナーチェンジであることが理解できた。一般的なスポット溶接よりも高い結合剛性を誇るレーザー溶接の、さらにその上をいくレーザースクリューウェルディングをレクサスとして初採用。さらに、面と面でボディパネルを結びつける接着ボディを、こちらもレクサスとしてはじめて採用した。

また、フロア部の左右をつなぐトンネルブレース、前後サスペンションメンバー・ブレース、パーティションレインフォースメントなどのパーツを大型化ないし強化し、トンネルブレースの変形量60パーセント低減とステアリング支持剛性20パーセント向上を実現したという。さらにサスペンションのパーツや仕様をこまかく見直したほか、エアサスペンションの制御を改良することによりボディの不要な動きを抑えたと主張する。

快適性の向上も抜かりなく、細かいところではホイールの一部に空洞を設けることでロードノイズの大幅低減を達成した「ノイズリダクション ホイール」を採用している。

もちろん、最新エレクトロニクスを用いたセイフティー システム、そしてインテリアのカスタマイズプログラムである「L-Select」などもさらに充実。彼らが主張するとおり、まさに全方位的な進化を果たしたのである。

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UFOに乗ったらきっとこんなかんじ

試乗したのは「LS600h“F SPORT”」。今回のモデルチェンジではじめて登場した話題の仕様である。

キャビンに乗り込んでドアを閉めると、気密性のあまりの高さからか、鼓膜がぐっと圧迫されたような感覚をおぼえた。エンジンを掛けても、バイブレーションやエンジンノイズはほとんど感じられない。無振動、無音の世界である。走りはじめて最初に驚いたのは、ロードノイズの圧倒的な低さだった。おそらくノイズリダクションホイールが効いているのだろう。路面とクルマが完全に隔絶されているような、不思議な感覚を味わった。

Lexus LS 600h F Sport|レクサス LS 600h F スポーツ

Lexus LS 600h F Sport|レクサス LS 600h F スポーツ

乗り心地は浮遊感に満ちたものだった。ただし、決してフワフワしているという意味ではない。なぜなら、フワフワというのは前後左右に常に揺れている状態を指すものだろう。ところが、あたらしいLSはボディがほとんど揺れることもなく、安定した姿勢を保ったまま走りつづける。その味わいは、ドイツ車によくある「フラット感が効いた」とは明らかにことなる。それよりは明らかにソフトな手触りで、クルマが路面から30cmほど浮いているような不思議な感覚なのである。あくまでもこれは空想の話だが、UFOに乗ったらこんな感じではないか、とおもえるような乗り心地だった。

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ビッグマイナーチェンジを敢行したLS600hに試乗 (3)

あたらしいLSのありかた

ハイブリッドシステムと組みあわされ、394psを発揮する5.0リッターV8エンジンは滑らかにパワーを生みだしてくれる。フルスロットルにすれば電気モーターのアシストがくわわって、いっそうパワフルに感じられるが、その際のパワーの出かたはあくまでもスムーズ。駆動系は電気式CVTとも呼ばれる方式を採用しているため、加速感もじつに滑らかだ。

ワインディングロードに足を踏み入れると、F SPORTを名乗るだけあってグリップレベルはおもいのほか高く、侮りがたいコーナリング性能を発揮した。攻めたてるとタイヤのグリップがすっと抜けてしまった先代とは大きくことなるセッティングだ。ステアリングの印象もしっかりしたもので、限界の7~8割程度であれば安心してコーナリングを楽しめる。

Lexus LS 600h F Sport|レクサス LS 600h F スポーツ

Lexus LS 600h F Sport|レクサス LS 600h F スポーツ

しかし、本当に最後の最後まで攻めこむと、サスペンションがボディを抑え切れていないような印象をおぼえた。これはあくまでも推測だが、もう少しダンパーの減衰力を高めてあげれば、この領域でのスタビリティを改善できるかもしれない。けれども、そうすれば日常的な領域での快適性が損なわれる恐れがある。まったく非日常的なコーナリング性能か、それとも日々経験する快適性を優先するか。おそらく、多くの日本人は後者を選択するだろう。

とはいえ、ヨーロッパのプレミアムモデルであれば、ここはスタビリティを優先したはずとのおもいも拭いきれない。この疑問を前出の渡辺チーフエンジニアにぶつけると、「LSはレクサスのフラッグシップモデルです。トヨタ ブランドだった「セルシオ」から乗りかえるお客様がいらっしゃるかもしれませんし、旧型の「LS」から新型に乗りかえてくださるお客様がいらっしゃるかもしれません。そういったことを考えて、「GS」とは少しことなる、「LS」独自の味を追求しました」との答えがかえってきた。

つまり、やろうとしてできなかったのではなく、意図的に快適性重視の味付けにしたということである。この点こそ、ハードウェア的にはヨーロッパ製プレミアムブランドに匹敵するレベルに到達しながら、日本車の個性を敢えて残した「あたらしい“LS”のあり方」を象徴しているようにおもう。

いずれにせよ、スピンドルグリルを得たレクサスが新次元に突入したことは間違いなさそうだ。

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Lexus LS600h|レクサス LS600h

ボディサイズ|全長5,090×全幅1,865×全高1,475 mm

ホイールベース|2,970 mm

トレッド 前/後|1,610/1,610 mm

車両重量|2,230 kg

エンジン|5.0リッターV型8気筒ガソリンエンジン

最高出力|290kW(394 ps)/6,400 rpm

最大トルク|520Nm(53.0 kgm)/4,000 rpm

モーター最高出力|165 kW(224 ps)

モーター最大トルク|300 Nm(30.6 kgm)

トランスミッション|電気式無段変速

駆動方式|4輪駆動

燃費|11.6km/ℓ(JC08モード)

価格|1,230万円

           
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