ターボになった911GTSを試す|Porsche
Porsche 911 GTS|ポルシェ 911 GTS
ターボになった911GTSを試す
ポルシェ「911カレラS」とスポーツモデル「911GT3」のあいだを埋める911GTSが、2017年1月に改良された。ベースとなる最新911シリーズにならい、エンジンを小排気量としながらターボ化した最新GTSに、河村康彦氏が試乗。細分化された911ファミリーのなかでの、GTSモデルのポジションを紐解く。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
長い時間が生み出したグレード体系
最も「ベーシック」な底辺となるグレードに、それよりも1段階ハイパフォーマンスな「S」のグレード。さらには、「GT」あるいは「R」といった記号が与えられる飛び切りスポーティな”役付き”のモデルに、それ自身がひとつのブランドと神格化をされているフラッグシップの「ターボ」グレード等々。
こうして今やあまりに種類が多く、ひと口で紹介をされてもそれぞれの違いがよく分からない――と、あるいはそんな人も少なくないかも知れないのが現在のポルシェ「911」のラインナップだ。
1964年に誕生をした初代モデルから数えると、ボディ最後端の低い位置に水平対向6気筒のエンジンを搭載するという大原則を死守しながら、軽く半世紀以上という歴史を刻んできたポルシェ911。
前出のようにさまざまなグレードが輩出されてきたと同時に、“元祖”であるクーペ以外にもカブリオレやタルガといった複数のボディタイプを並行して存在させるのも、このモデルならではの特徴だ。それは、さまざまな要望を持つユーザーとともに長い時間を生き抜いてきたという、ほかには類を見ないスポーツカーゆえの、「歴史の重み」そのもののひとつの現れと言ってよいのかも知れない。
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時代とともに変わり続ける911シリーズ
水平対向の6気筒エンジンやリアエンジンのレイアウトといった、“基本的DNA”と紹介することができる固有の設計部分とともに、搭載する心臓が自然吸気式かターボ付きかによっても、シリーズ中の立ち位置の大別が可能だったのがこれまでの911シリーズ。
ところが、2011年に登場した991型と呼ばれる現行モデルに対して、2015年に実施をされたマイナーチェンジを機に、ベーシックなカレラ シリーズが積むエンジンにもターボチャージャーを装着。これにより、「911の伝統の1つが失われてしまった――」と、そう評価をする向きも皆無ではないようだ。
けれども、時代の要請とともに絶え間なく変わり続け、だからこそ誕生以来つねに“世界最高峰のスポーツカー”という立ち位置を失うことがなかったのが、このモデルであることも忘れるわけにはいかないもの。
実際、空冷エンジンが水冷へと変更された時や、4WDモデルが加えられた際にも批判の声が聞かれたものの、そうした“反対勢力”の声に負けることなく、自らが正しいと考えた道を進んで来たからこそ名声を保つことができているのは、今の成功を見れば明らかだろう。
かくして、かつては「自然吸気エンジンを搭載したシリーズ中で、最もホットでハイパフォーマンス」と紹介することができた「GTS」の記号の持ち主にも変革の時がやってきた。
カレラ シリーズに行われたリファインと同様、とうとう911GTSにもターボ付きの新世代エンジンが搭載されることになったというわけだ。
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GTSらしさを踏襲
「S」グレード用をベースにチューニングが加えられた、より高出力のエンジンを搭載。ポルシェ車ならではの“走りのオプション”の一部を標準装備へと格上げし、ポルシェ他モデルのGTSグレードと整合性の採れたドレスアップも実行することで、コスメティック面でもより独自の存在感をアピールする────これまでの各GTSで採用されてきた手法は、この最新の911でも踏襲をされている。
最高450psというエンジン出力は、ベースのSグレード用比では30ps、3.8リッターの自然吸気だった従来型GTS用エンジン比でも20psの上乗せ。過給機付きとなったゆえ、最大トルク値にいたっては従来型比で110Nmも増したのもトピックだ。
RWDモデルと4WDモデルでは後者により幅広の“ワイドボディ”が与えられるのが911の流儀。が、GTSの場合はRWDモデルにも、これが採用されている。
低められたフロントエプロンとより高い位置までせり出すリアスポイラーは、揚力を低減するために効力を発揮。スモーク処理が施されたテールライトや中央部に寄せられてブラック化されたテールパイプ、センターロック式のホイールなどがGTSならではのエクステリアの特徴。
一方インテリアでは、アルカンタラが多用された仕上げがさらなるスポーティさととともに、よりゴージャスな雰囲気を醸し出すことになっている。こうして、“ひと味違う個性”が光るのが、GTSのルックスでもあるのだ。
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欲張りな人に
遥か南アフリカはケープタウンの街を基点に開催された試乗会では、サーキットセッションをクーペのGTS、一般道セッションをタルガ4GTSでテストドライブ。日本同様にクルマは左側通行の国を、ドイツ本国から持ち込まれたシュツットガルトナンバー付き左ハンドル車で走行するという稀有な経験をすることとなった。
前述高出力化されたエンジンに加え、迫力のサウンドを放つスポーツエグゾースト、走行モードの一括変換を可能とするスポーツクロノパッケージなどを標準採用するGTSグレード。今回テストを行ったモデルには、アクティブスタビライザー「PDCC」やセラミックコンポジットブレーキ「PCCB」、そしてリアアクスルステアリングなど、さらなる“走りのオプション”がフル装着状態だった。
そんな硬派なスペックを並べるモデルながらも、まずはタルガ4GTSでスタートをすると、それが何とも快適な走り味の持ち主であることに驚かされることに。実はこのモデルで最初に走りはじめたのは、日本から遥々26時間も移動をして現地ホテルへと到着した直後。
ところが、疲労困憊であるはずの身体が「乗れば乗るほどに癒されていく感覚」には心底驚かされた。GTSを名乗る911には、こうした優しい一面も備わっているのだ。
一方、サーキットで乗ったクーペで驚かされたのはその絶対的な速さ。さすがに立ち上がりシーンでは離されるものの、コーナーではインストラクターが駆る先導車の911ターボSにすら肉薄をするスピードの持ち主だ。
実は、そんな“フルオプション”状態のクーペの新型カレラGTSはニュルブルクリンクの旧コースを7分26秒で駆け抜けるという。これは、従来型のタイムを一挙に12秒もする驚愕の速さだ。
「GT3」系の派手ないで立ちは好みではないし、「ターボ」ほどの完全無敵ぶりも望まない。けれども、時にはサーキットでの本格スポーツドライビングを楽しんでみたい────そんな欲張りな人には、まさにうってつけのグレードが、このGTSという記号の持ち主なのである。
Porsche 911 Carrera GTS|ポルシェ 911 カレラGTS
ボディサイズ|全長 4,528 × 全幅 1,852 × 全高 1,284 mm
ホイールベース|2,450 mm
エンジン|2,981cc 水平対向6気筒ターボ
圧縮比|10.0
最高出力|331 kW(450 ps)/ 6,500 rpm
最大トルク|550 Nm / 2,150-5,000 rpm
トランスミッション|7段AT(PDK)
駆動方式|RR
最高速度|310 km/h
0-100km/h加速|3.7 秒
0-160km/h加速|7.9 秒
価格|1,750万円
Porsche 911 Targa4 GTS|ポルシェ 911 タルガ4 GTS
ボディサイズ|全長 4,528 × 全幅 1,852 × 全高 1,291 mm
ホイールベース|2,450 mm
エンジン|2,981cc 水平対向6気筒ターボ
圧縮比|10.0
最高出力|331 kW(450 ps)/ 6,500 rpm
最大トルク|550 Nm / 2,150-5,000 rpm
トランスミッション|7段AT(PDK)
駆動方式|4WD
最高速度|306 km/h
0-100km/h加速|3.7 秒
0-160km/h加速|8.4 秒
価格|2,116万円