991台の限定モデル ポルシェ911Rに試乗|Porsche
Porsche 911R|ポルシェ 911R
991台の限定モデル ポルシェ911Rに試乗
カレラの皮を被ったGT3 RS
ことし3月、ポルシェが991台限定で発売した911の限定モデルが「911R」だ。外見は911カレラから大きな変化がないが、中身には911GT3 RS譲りの4リッター6気筒エンジンにはじまり、カーボンブレーキや後輪操舵の標準採用、リアシートの削除やサイドウィンドウのポリカーボネート化などの軽量化まで、徹底的にパフォーマンスが追及されている。そんな現代の「羊の皮を被った狼」を、河村康彦氏がインプレッション。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
911のなかでも究極の1台
スポーツカーと聞けば、即座にポルシェを連想する ―― 世の中には、そんな人が“ごまん”と存在するはずだ。
もちろん、そうしたステータスの獲得に至ったのは、それなりの理由があってのこと。
長年に渡り、自らが理想とするスポーツカーを具現させてきたという歴史的な背景。そして、それらが実際に常にライバルをリードする内容を携えてきたという疑いようのない実績。いずれにしても、ポルシェに付随をする現在の名声は、「生まれるべくして生まれてきた」という表現がぴったりであるはずだ。
一方で、ポルシェという名を耳にしたとき、半ば反射的に思い浮かぶであろうスポーツカーの姿は、多くの人にとって決して「ボクスター」や「ケイマン」ではなく、「やっぱり911」であろうことも容易に想像ができる。
もちろんこのブランドは、これまで911のみを作ってきたわけではない。それどころか、このところのベストセラー モデルは「カイエン」 ―― といった声も聞かれるように、昨今の収益の過半を占めるのは、「スポーツカーではなくSUV」という現実もあったりする。
そうは言っても、ラインナップに属する全てのモデルがすべからく911をリスペクトし、そのDNAを色濃く継承しようという姿勢を明確にしていることは、例えば発表なったばかりの新型「パナメーラ」のルックスが、「これまでのモデル以上に911の雰囲気を強く受け継いでいる」ことなどからも明らかなのだ。
初代モデルの誕生以来すでに半世紀以上の時を歩み、そうした時間の経過とともに進化を遂げてきた最新のバージョンは、今でも最新・最高峰の一級スポーツカーとして世界の市場で認められる ―― そんな911シリーズのなかにあっても、ある意味“究極の1台”と紹介できそうなのが、ここにとり上げる「911R」というモデルなのである。
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カレラの皮を被ったGT3 RS (2)
軽量、改良、希少性
車名末尾の“R”の文字は、基本的にはRacingに由来をした頭文字。が、このモデルの場合、そこには“Reduce”、“Refine”、そして“Rare”と、さらに3つの意味も込められているという。
これまでのホッテスト モデル「911GT3 RS」をベースに、そこから譲り受けたカーボン(CFRP)製のフロントフードやフロントフェンダー、マグネシウム製ルーフやリア/リアサイドの樹脂(ポリカーボネート)製のウインドウなど、最先端技術を用いた軽量素材をふんだんに採用。そんな“材料置換”による軽量化を行うことができる背景には、通常用いられるものに対して大幅なコストアップが避けられない材料を、ためらうことなく使うことが許されるという理由も大きいことは間違いない。
加えれば、GT3 RS比でマイナス50kgとさらなる軽量化を実現できたのは、「ケースは7段PDKと同じでも、内部は専用設計」という6段MTの採用も寄与をしてのこと。
セラミック コンポジット ブレーキ「PCCB」やトルク ベクタリング メカ付きのLSDなど、走りにまつわるハイテクアイテムを標準装備するのは、誰もが納得できる点であるはず。一方で、かくも徹底した軽量化にフォーカスをしながら、リアのアクティブ ステアリング システムまでを標準化した点には疑問を抱く人もいるだろう。
位相反転式の電子制御によるこのシステムは、複雑な構造ゆえ相応の重量増を免れない。実際、システム重量はおよそ7kg。リアシートを取り払い、窓を樹脂化までして軽量化に勤しんだモデルにとって、これは“忸怩たる重さ”とさえ言っていいはずだ。
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カレラの皮を被ったGT3 RS (3)
オンロード重視のセッティング
こうして、せっかくの軽量化効果が相殺されてしまうことを承知の上で、敢えてリアのアクティブ ステアリング システムを採用した理由 ―― それを、シュトゥットガルト本社をベースとした今回のテストドライブに同行してくれた担当エンジニア氏は、「そうまでしてでも使う価値があると判断したから」と回答してくれた。
カレラ系よりも幅広のワイドボディに、GT3 RSに先行搭載された最高出力500psを発する4リッターの自然吸気エンジンを搭載。さらには、前出PCCBやリアのアクティブ ステアリング システム等々、採用するメカニカル コンポーネンツとしては、すでにGT3系で培われたアイテムをフル搭載する911R。
一方で意外なことに、このモデルは「サーキット走行にはフォーカスをしていない」とも言い切るのが興味深い点でもある。
昨今、ポルシェがニューモデルのローンチ時に好んで発表をするニュルブルクリンク旧コースでのラップタイムも、「このモデルでは計測をしていない」と言う。GT3系ではアイコン的存在である巨大な固定式のリアウイングも、「あれは高速でのスタビリティを稼いでサーキットでのラップタイムを短縮するのが目的で、オンロードでの俊敏性を重視する911Rには必要のないもの」と、前出エンジニア氏は説明をする。
実は、リアのアクティブ ステアリング システムを残したのも、この“俊敏性”というポイントに重きを置いた結果という。
ある意味、“可変ホイールベース機構”としての効果を持つこのメカニズムには、GT3系とは異なった専用のチューニングを実施。それは「走行状況によって様々に変わるため、ひと口に“速度が何km/hではどう作動する”とは説明できない」とのこと。
いずれにしても、これこそが“究極のドライビング プレジャー”の実現に、大きな役割を果たしているという判断なのだ。
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カレラの皮を被ったGT3 RS (4)
GT3系を凌ぐほどのコンペティティブな世界観
軽量化のため、カーボンファイバー製の骨格を用いた彫りの深いバケットシートが装着され、リアシートは省略をされているものの、ロールケージが張り巡らされているわけでもなく、また今回の取材車にはオプション アイテムのナビゲーション システムが装着されていたこともあり、インテリアは“至って普通の911”という風情が漂う仕上がり。
が、そんな雰囲気を一変させたのは、911シリーズの流儀通りダッシュボードのドアサイドにレイアウトされたシリンダーに差し込まれたキーを捻り、エンジンに火を入れたときだった。
遮音材が省略されたことに加え、レスポンス重視のため採用されたシングル マス フライホイールが増幅させるベアリング音が、そもそものエンジン音に加わってキャビン内に充満。結果、アイドリング状態にもかかわらず、GT3系を凌ぐほどのコンペティティブな世界観がそこには演出されるのだ。
もっとも、いざスタートをしようとクラッチペダルを踏み込むと、踏力やストローク感はカレラ系と変わらない印象だし、この時点で前出ベアリング音も消えるので、キャビン内は平和さを取り戻すことに。
さらに、ちょっと硬めだが短いストロークで1速ギアを選択して、慎重にクラッチペダルをエンゲージ。と、4リッターという“大排気量ユニット”が発するトルクはすでにアイドリング時でもそれなりで、アクセルペダルを踏み込むまでもなく、911Rのボディはスルスルと、何の神経質さもなくスタートを切ることになる。
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カレラの皮を被ったGT3 RS(5)
強力無比かつ官能的
速度が増すにつれ、パチパチと路面の小石などを拾う音が盛大に耳に届くのは、これもまた軽量化のために通常であれば装着をされるフェンダー内部のインナー ライナーが省略されているゆえ。
一方で、同時に驚かされるのがそのコンフォート性の高さ。
フロントが35パーセント、リアが30パーセントという偏平率の20インチの硬派なハイグリップ タイヤ(ミシュラン「パイロット カップ2」)を履くにも関わらず、走行中でもメモ書きが可能なほどのフラットさが確保されるのは、もはや「望外の快適さ」とコメントをするしかない出来栄えなのである。
同時に、「ドライバーの一挙手一投足がそのまま増幅も減衰もされず、クルマの動きとしてダイレクトに反映される」と、そんなフレーズが当てはまる挙動こそは、このモデルの真骨頂。
もちろん、GT3 RS譲りの心臓が、100パーセントドライバーの意志に従って操作をされるMTを介して生み出す動力性能は、「強力無比」でかつ「官能的そのもの」という印象。本来は、回転数が高まるにつれてフリクションが悪さをするはずなのに、むしろ5,000rpmを超える付近から、パワー感もサウンドもよりシャープさを増していく感覚も、このモデルならではの貴重な財産だ。
アクセルオンでのレスポンスとともに、オフ時の回転落ちがすこぶる鋭いことも、またこの心臓ならではの特徴。それゆえ、スロットル ブリップ機能が、ダウンシフト時のエンジン回転合わせを完璧にこなしてくれるのには助けられた。そんなこの機能は、スポーツ モード選択時だけでなく、通常モードにも欲しくなる。
確かに、絶対的な加速力では、シフト時のロスが皆無な2ペダル仕様にかなうはずはない。サーキットのラップタイムでは、巨大な羽根でボディを無理矢理路面に押さえつけるGT3系の後塵を浴びるのも確かだろう。
けれども、シフトやクラッチミート時のミスがそのまま挙動に反映されるという、常識的に考えれば“ネガティブな点”も含め、「人間が操っている感」がより色濃く味わえるのは、このモデルのほうであるというのは疑いのない事実。
となれば、「何も、限定販売に留めることは無いのに ―― 」と思わずそんなことを言いたくなってしまう、911Rなのである。
Porsche 911R|ポルシェ 911R
ボディサイズ|全長 4,532 × 全幅 1,852 × 全高1,276 mm
ホイールベース|2,475 mm
トレッド前/後|1,551 / 1,555 mm
車両重量|1,370 kg
エンジン|3,996 cc 水平対向6気筒
ボア×ストローク|102.0 × 81.5 mm
圧縮比|13.2
最高出力|368 kW(500 ps)/8,250 rpm
最大トルク|460 Nm/6,250 rpm
トランスミッション|6段MT
駆動方式|RR
最小回転半径|5.55 メートル
ブレーキ 前|φ410×36mm ポルシェ セラミック コンポジット ブレーキ(PCCB)
ブレーキ 後|φ390×32mm ポルシェ セラミック コンポジット ブレーキ(PCCB)
サスペンション 前|マクファーソン ストラット
サスペンション 後|マルチリンク
タイヤ 前/後|245/35R20 / 305/30R20
最高速度|323 km/h
0-100km/h加速|3.8 秒
0-200km/h加速|11.6 秒
燃費(NEDC)|13.3 ℓ/100km(およそ7.5km/ℓ)
CO2排出量|308 g/km
トランク容量|125 リットル
限定台数|991 台
価格|2,629 万円