6代目SLクラス 海外試乗 |Mecedes-Benz
CAR / IMPRESSION
2014年12月12日

6代目SLクラス 海外試乗 |Mecedes-Benz

Mercedes-Benz SL-Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

メルセデス・ベンツ SLクラス海外試乗記

12年ぶりにフルモデルチェンジしたメルセデス・ベンツ 「SLクラス」。日本での発表も記憶にあたらしい、この6代目SLクラスにスペイン、マラガにて試乗した島下泰久氏のインプレッション。

Text by SHIMASHITA Yasuhisa

徹底した軽量化

12年ぶりにフルモデルチェンジした新型メルセデス・ベンツ SLクラスは、今年1月にアメリカはデトロイトで開催された、北米国際自動車ショーにて世界にはじめてお披露目された。筆者もその場に立ち会っていたのだが、じつのところその時の印象は、なんだかピンと来ないな……というものだった。

大きなラジエーターグリルを戴くフロントマスクは、いまのメルセデス・ベンツらしいけれど、全体の雰囲気は先代からそう離れてはいない。いままでのSLが、つねに次の時代を切り拓くような、おっとおもわせるスタイリングをまとっていたことをおもうと、ちょっと保守的に過ぎるんじゃないか? と感じたのだ。

しかしながらあたらしいSL、中身はきわめて革新的だ。なんと、そのボディシェルはアルミニウム製へと一新されているのである。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

部位によって肉厚の異なるパネルや押し出し成形材、様ざまな方式の鋳造部品を使い分けることで、このアルミ製ボディシェルは、仮にスチールだけを使った場合より約110kgの軽量化を実現するのみならず、剛性そして振動特性も大幅に向上させているという。

なお、Aピラーには横転時などの安全性と、視認性に関わる細さの両立のために高張力スチールチューブが内蔵され、燃料タンク後方のカバーにはマグネシウムが使われている。アルミ化自体が目的なのではなく、狙った性能の実現のための適材適所が徹底されているのである。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

ほかにも様ざまなところで軽量化が徹底されたことで、車両重量は大幅に軽減されている。SL500は先代より125kg減の車重1,785kgを実現。SL350は1,685kgで、こちらは実に140kgも軽くなっているのだ。ボディサイズが全長50mm、全幅57mm大きくなっていること、快適性、安全性、環境性能等々における12年分の進化が込められていることを考えればなおのこと、すばらしい成果だと言えるだろう。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

パワートレインも一新された。SL500が積むのはV型8気筒4.7リッター直噴ツインターボユニット。最高出力435ps、最大トルク700Nmというスペックを誇る。そしてSL350はV型6気筒3.5リッター直噴ユニットを搭載。こちらは最高出力306ps、最大トルク370Nmとする。いずれもギアボックスは7G-トロニックで、アイドリングストップ機構も標準装備である。

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メルセデス・ベンツ SLクラス海外試乗記(2)

心躍るインテリア

今回、スペインはマラガ周辺でのテストドライブに供されたのは、そのうちのSL500。まずはシャシーにアダプティブダンピングシステム(減衰力可変ダンパー)を装備した標準仕様のキーが手わたされた。

早速クルマに乗り込むと、インテリアの雰囲気の良さに心が躍った。事前の印象では、同じように円形空調ダクトを採用しているSLS AMGやSLKと似た感じとおもっていたのだが、実物はダッシュボードからドアトリムにかけて滑らかな線と面で構成されていて、格段に艶やか、上質なのだ。全面に貼られたナッパレザーの高級感も、それを後押ししている。スペース自体も、肩まわりで37mm、肘まわりで28mm余裕が増しているという。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

シート背後には蓋付きの収納が左右にひとつずつ。上に書類ケースぐらいは置いておけそうだが、セキュリティを考えれば荷物はラゲッジスペースに入れておくべきだろう。

おもしろいのは、トランクリッドの開閉が足でバンパーの下をキックするようなジェスチャーでも可能なこと。両手が塞がっていても開け閉めできるのはラクで有り難い。このハンズフリーアクセス、最近のドイツ車がこぞって搭載しはじめているが、SLは足で開けるだけでなく閉めることもできるのが特徴だ。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

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すでにあたたかかった3月のマラガ。バリオルーフは最初から開けて行く。この電動開閉式ハードトップルーフのメカニズムも改良されて、今や開閉所用時間は20秒を下まわる。

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メルセデス・ベンツ SLクラス海外試乗記(3)

乗り心地、絶品

走り出して数十メートルもしないうちに、こみ上げてきたのは感動である。あたらしいSL、快適性が際立ってすさまじく高いのだ。サスペンションの動きにはまるでフリクションが感じられず、路面からの入力を至極スムーズに受け止め、そしていなす。

COMFORTモードではソフト過ぎると感じられるほどだが、SPORTに入れればしなやかな中にビシッと落ち着いた乗り味が得られる。いずれにせよ、あまりの快適ぶりに、まちがえてABC(アクティブボディコントロール)装着車に乗ったのかとおもったほどだった。

快適なだけでなくフットワークも爽快だ。電動アシスト化されたステアリングは切り込んだ瞬間から遅れなくレスポンスして、思い通りにクルマの向きを変えることができる。軽量化、トレッドの拡大、そしてボディ剛性の向上が効いているのだろう。静的ねじれ剛性の数字は先代の16800Nm/degから19000Nm/degへと向上している。実はこれ、SLS AMGをも凌ぐ数字だという。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

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これだけ快適ならば、ABCはなくてもいいかもしれない。標準仕様に乗って、そんな風に感じながらつづいてABC付きへと乗り換えたら、おもわず言葉を失った。その乗り心地、すばらしいノーマルすら霞むほどの絶品だったのである。こちらのタイヤは1サイズ大きな19インチだったのに……。

ストローク感は輪をかけてしなやかで、それでいて大きな入力も底付き感無く受け止めてくれる。姿勢はつねにフラットに保たれ、陳腐な言い方をすれば魔法の絨毯のようだ。いや、先代だってそんな風に感じられたのだが、新型はおなじような味わいを、一段も二段も高いレベルで仕上げているという感覚なのである。

ノーマルもまったくもって悪くない。すばらしいとすら評していいほどである。しかしながら、ABC付きのシャシーの完成度は期待と想像のさらに上を行っていたというわけだ。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

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SLにとってあたらしいエンジンは、爽快な加速感をもたらす。実用域でのトルクは分厚く、速度の上昇は軽やか。しかも、そのまま踏み込んでいけばトップエンドまで至極スムーズにまわりきって、あっという間に超高速域へと誘う。参考までに0-100km/h加速は4.6秒と、先代より実に0.8秒も短縮されている。しかし加速に強引さがなく、むしろ軽やかなのは、やはり軽量化の恩恵だろう。

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メルセデス・ベンツ SLクラス海外試乗記(4)

オープンが正装か

さすがに夕刻が近づいてくると、風が冷たくなってきた。とはいえ、電動昇降式のドラフトストップのおかげもあり、風が巻き込んで頬をなぶるようなことはない。

70km/hでも、200km/hでも騒音が増えるだけで室内があくまで平和に保たれるのは、連綿と受け継がれているSLの美点だ。しかもシートヒーターはもちろん備わるし、首筋に直接、温風を吹き出すエアスカーフもあるから、真冬だってオープン走行を満喫できるだろう。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

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では天気が悪いときは? SLKで初採用された、ガラスルーフの濃淡を一瞬で切り換えることを可能とするマジックスカイコントロールを選んであれば、ルーフを閉めても室内を明るく保つことができる。それでいて炎天下等では、光を遮ることもスイッチひとつで簡単にできる。これは選択したいオプションだ。

あれだけの剛性感を味わわせていたボディだが、ルーフクローズ時にはやはり一段と硬さが増す。ただし、足元から入る騒音はやや大きめに感じられた。やはりSL、オープンが正装ということなのだろう。

新型SLには、ほかにも目をひくあたらしい仕掛けがいくつもある。たとえばオーディオ。新採用のフロントベースシステムは、低音用ウーファーを前席の足先に設置している。

アルミボディに設けられたスペースを活用しているのだが、剛性の高いボディへのマウントが、ドアよりも音響特性上、有利なのは明白。オープン時でもコンサートホールのような音場を得られるというのがメーカーの弁である。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

マジックビジョンコントロールと名付けられたワイパーシステムもおもしろい。これは従来、車体側からガラスに向けて噴射していたウォッシャー液を、ワイパーアームに噴射口を設けることで、ワイパーブレードの直前に供給するようにしたもの。

ウォッシャー液がガラスにかかった次の瞬間には拭き取られるため、従来のように一瞬視界が遮られることがないし、払拭能力も高まる。しかしなによりのメリットは、オープン走行時にウォッシャー液が飛ばされて、室内に入り込んでくることがないということだろう。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

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期待以上だった

そんな新機軸を試しながらの試乗を終えたときには、なんだか放心してしまった。あたらしいSLは、やはり期待以上にSLだった。乗り心地も、スポーツ性も、すべてにおいての話である。従来やや薄れていたSLという車名の本来の意味である“Super Leicht”つまり軽量設計という要素が、それらすべてに効果を及ぼしているのだ。

Mercedes-Benz SL Class|メルセデス・ベンツ SLクラス

試乗ルートの終点にずらりと並んでいた初代から現行型まで歴代すべてのSLの列にくわわった新型は、そのなかでまったく見劣りすることのないオーラを発散していた。

とくにリアビューは、その微妙に垂れたテールエンドが、あのガルウイングで有名な300SLとオーバーラップして神々しくすら見えた。最初、ピンと来ないなんておもったこと、そうなるともう恥じるしかない。

フラッグシップ。あるいはアイコン。この世に数多あるクルマのなかで、そんな風に形容していいクルマというのは、じつはそれほど多くはないはずだ。新型メルセデス・ベンツSLが、その資格を有するモデルであること。それには、もはや疑う余地などないだろう。

なお、日本でも新型SLは3月18日に、すでに発表されている。日本ではSL500が「SL550ブルーエフィシェンシー」、SL350が「SL350ブルーエフィシェンシー」として販売される。走り慣れた日本の路上での再会がいまから楽しみである。

           
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