新型アウディ A1 スポーツバックの実力を試す|Audi
Audi A1 Sportback 1.0 TFSI|アウディ A1 スポーツバック 1.0 TFSI
侮れない1.0リッターの3気筒エンジン
新型アウディ A1 スポーツバックの実力を試す
アウディのエントリーモデル「A1」。これまで搭載されていた1.4リッター直列4気筒直噴ターボエンジンからスイッチし、メインエンジンという主役に躍り出たのは1.0リッターの直列3気筒直噴エンジンである。たかが1リッターの排気量、95ps最高出力と侮るなかれ。スペックの数字だけを並べれば、あきらかにグレードダウンなのだが、それが走りのパフォーマンスに直結しないのがクルマという工業製品。じつはなかなかの出来ばえである。3ドアモデルでは、歴代アウディの中でもっともリーズナブルな250万円を切る価格設定も魅力である。
Text and Photographs by SAKURAI Kenichi
軽さこそが正義
アウディのエントリーモデルとして2011年に日本へ上陸した「A1」に、アウディ初の直列3気筒直噴ターボエンジンを搭載する「1.0 TFSI」がラインナップされた。
歴史を遡ればアウトウニオン時代に「1000 Sp」という3気筒モデルはあったが、アウディ ブランドでは初となる3気筒エンジンだ。これまでのA1では、日本導入当初に積まれていた最高出力122psの1.4リッター直列4気筒直噴ターボがメインエンジだった。一気にダウンサイジングが進んだという印象も決してまちがいではない。
今回の直列3気筒直噴ターボエンジンは、その車名からもわかるように、総排気量は999cc。最高出力95ps(70kW)/5000-5500rpm、最大トルク16.4kgm(160Nm)/1500-3500rpmというスペックを得ている。これは、先代となる直列4気筒の1.4リッター直噴ターボエンジンよりマイナス27psではあるが、27psのビハインドを運転中に感じるシーンは極めて少ない。数字だけを並べれば、グレードダウンの感は否めないのだが、それが不思議と走りのパフォーマンスに直接影響しないのがクルマの面白いところでもある。
理由はじつにシンプルだ。車両重量がこれまでの1.4リッターモデルよりも80kgほど軽く仕上げられているからである。新旧両車を並べた限りでは装備類にほとんど変更がないため、つまりその80kgのほとんどが1気筒分減ったエンジン(と補器類)によるものと考えても、あながちまちがいではないのだ。
フロントオーバーハングのウェイトが減ったメリットは、レスポンスや的確なステアリングフィールとなって体感可能だ。これはもう、走り出して、最初のカーブ(もちろん交差点でもいい)を曲がった瞬間に理解できる。
とにかく頭が軽く、ノーズがスッと内側に入る感じがじつにスポーティで気持ちいい。まるで乗り心地のいいスポーツカーを運転しているような感覚を味わえる。
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侮れない1.0リッターの3気筒エンジン
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アウディ流のセオリー
パワーでグイグイ路面を蹴飛ばすスポーツカーではないが、まるで英国のライトウェイトスポーツカーをドライブしているフィーリング――とでもいえば伝わりやすいだろうか。とにかくフロントを起点にボディ全体が軽く、ステアリングを切れば切っただけクルマがリニアに動くその感覚は、これまでのA1とはまったくことなっている。新採用の機械式電動パワーステアリングも完成度は高い。
エンジンフードをのぞき込めばわかるが、姉妹車のフォルクスワーゲン「ポロ」にはあるバッテリーがA1にはない。そう、単にエンジン重量が軽くなっただけでなく、ポロとはことなり、バッテリーをリアに積むという重量配分に対するアウディ流のこだわりも、こうした走りに大きな影響を及ぼしている。
クルマをとにかく軽くつくる。重量物はできるだけホイールベースの内側に収め(A1の場合横置きエンジンのFFなので、エンジンは前輪車軸上により前にあるが)、そして静止重量バランスを前後可能な限り均一に配分するというクルマづくりのセオリーとこだわりがきちんとアウディ車の設計に反映されているのである。
これはほんの一例だが、パワートレーンやプラットフォームを共用する姉妹車でも、アプローチはかようにことなっているのだ。装備や仕上げがいいからプレミアムブランドなのではない。もちろんそうしたファクターは重要だが、走りをより楽しくするための設計レベルでのこだわりもまた、アウディがプレミアムブランドたる所以なのである。
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数字では判断できない魅力
走り出せば、マイナス27psを意識させないトルク感ある走りが味わえ、ターボエンジンではあるが、高回転までよどみなくまわる爽快感もプラスされる。厳密に新旧を比較すれば、ワインディングの登りタイトコーナーの立ち上がりでは、アンダーパワーを感じるシーンも1リッターユニットにはあるだろうが、軽さがそれを補ってくれるため、楽しさという点では互角以上の戦いを見せる。
おもわずパドルシフトが欲しくなるほどの俊敏性をタイトコーナーの連続する山道で楽しめたといえば、そのスポーティな走りを理解してもらえるだろうか。
史上最強のリーズナブルプライスを実現するため、タイヤは205/55R15から185/60R15に変更されているが、55から60偏平にグレードダウンされた影響は、今回試乗した限りではそれがワインディングであっても、高速走行シーンでも皆無。反対に乗り心地や一部のウェット性能、タイヤ交換の際の価格では有利に働くため、むしろホイールサイズがおなじならば、60を歓迎してもいい。見た目のスポーティさが若干スポイルされるが、それはあくまでも比べれば、の話である。「いまどき60タイヤ?」と訝る向きもおられるだろうが、こちらもまたパワー同様、数字だけでは判断できないのである。
新型エンジンとして登場しただけに、このご時世もっとも気になる燃費面でも当然1.0リッターエンジンの方が良く、メーカー発表値でのJC08モード燃費は、これまでの1.4リッターのもっていた17.8km/ℓから、アウディ史上トップとなる22.9km/ℓに向上。ハイオク仕様ながら、これはコンパクトカーを選ぶユーザーにはうれしいデータだ。
しかしそうしたメリットよりもなによりも、3気筒エンジンのA1の魅力として強く感じたのは、繰り返しになるが、前述のワインディングでの身のこなしである。
小さいながらも内外装の質感は、プレミアムブランドのアウディそのものといえるクオリティで文句なし。エクステリアではヘッドライトやLEDテールランプ、前後バンパーのデザインを変更し、シングルフレームグリルではワイドなデザインを採用するなど、細部のリファインを実施。
全長が20mm長くなったのは、こうしたデザイン面でのブラッシュアップによるもので、室内長や、荷室容量に変更はない。
インテリアではアルミニウムルックやハイグロスブラックの仕上げを増やし、全体的に洗練された印象をあたえる。
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侮れない1.0リッターの3気筒エンジン
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プレミアムは高価さだけを意味しない
エンジンのダウンサイジングと、A1 1.0 TFSI(3ドア)で249万円から、A1スポーツバック(5ドア)で269万円からという、プレミアムブランドであるアウディがエントリー250万円切りのプライスを実現したことが、まずはニュースだが、それ以上に軽いエンジンとボディがもたらす走りにも注目してほしい。
アウディといえば、ル・マンやWECなどでの活躍が有名だ。「軽さこそが正義」であるレーシングカー由来の技術力と走りへのこだわりが、エントリーモデルにも息づいていることを、A1に乗ればきっと気づくはずだ。
そして同時に豪華な内装や高価なパーツを使いさえすればプレミアムブランドを名のっていいわけではないことも、アウディというブランドに触れればきっと理解できるはずである。
Audi A1 Sportback 1.0 TFSI|アウディ A1 スポーツバック 1.0 TFSI
ボディサイズ|全長 3,985 × 全幅 1,745 × 全高 1,440 mm
ホイールベース|2,465 mm
トレッド 前/後|1,475/1,470 mm
重量|1,140 kg
エンジン|999 cc 直列3気筒 DOHCインタークーラー付ターボ
ボア×ストローク|74.5 × 76.4 mm
圧縮比|10.3:1
最高出力| 70 kW(95 ps)/ 5,000-5,500 rpm
最大トルク|160 Nm(16.3 kgm)/ 1,500-3,500 rpm
トランスミッション|7段AT(Sトロニック)
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|トーションビーム
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ディスク
タイヤ 前/後|185/60 R15
トランク容量|270 ℓ
価格│269万円
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