欧州で試す、メルセデス・ベンツの新SUV「GLE」|Mercedes-Benz
Mercedes-Benz GLE Class|メルセデス・ベンツ GLE クラス
Mクラス改めGLEとなったメルセデスのSUV
欧州で試す、メルセデスの新SUV「GLE」
1月のデトロイトショーにおいて、「Mクラス」の後継モデルとしてデビューした、メルセデス・ベンツのミドルサイズSUV「GLEクラス」。日本への導入よりひと足先に、オーストリアの街中から山道、さらにオフロード専用コースまでくまなく試した小川フミオ氏は、GLEクラスに、メルセデスのモットーを裏切らない性能を見出したという。
Text by OGAWA Fumio
タイプと車格を組み合わせたあたらしい名称
SUVブームの嚆矢ともなったのが、メルセデス・ベンツの初代「Mクラス」だった。1997年にデビューした初代は、ゴツさをいっさい排したスタイリッシュなボディをもち、運転感覚も乗用車のよう。米アラバマ州の工場で生産され、当初から伸張していた米国市場を主要ターゲットに設定したマーケティング優先の開発も、時代に合わせて進むメルセデス・ベンツという企業の姿を印象づけるものだった。
2015年1月にデトロイトでおこなわれた北米自動車ショーで発表された新型における、もっとも大きな変化のひとつは、モデル名の変更だ。Mという名称はなくし、「GLE」と呼ばれるようになった。“GL”がSUVのラインナップを意味し、さきに日本市場に導入されている「GLA」からはじまり、6月に発表された「GLC」は「Cクラス」に対応するその上のライン。そして「Eクラス」にあたるのが、今回のGLEだ。頂点にするであろう「GLS」も予定されているという。
GLEの特徴として、従来のスタイリングイメージを引き継ぎつつ、環境対応技術と、安全技術をアップグレードしたことがあげられる。なかでも注目は、今回オーストリアで試乗できたプラグイン ハイブリッド、「500e 4MATIC」の新設定だ。
ラインナップは、ガソリン車が「GLE 400 4MATIC」(245kW、480Nmの2,996ccV6搭載)、「GLE 500 4MATIC」(320kW、700Nmの4,663ccV8搭載)。ディーゼル車は、後輪駆動の「GLE 250d」および四輪駆動の「GLE 250d 4MATIC」(150kW、480Nmの2,143cc4気筒搭載)、「GLE 350d 4MATIC」(190kW、620Nmの2,987ccV6搭載)だ。今回からディーゼルはたんに“d”というサブネームが数字の後につく。
メルセデスAMGによる高性能仕様も2台用意されている。「GLE 63 4MATIC」(410ps、700Nm)がひとつ。その上に「GLE 63 S 4MATIC」(430ps、760Nm)が設定されている。AMGモデルは、通常50対50のトルク配分を後輪60と、スポーティな操縦性を念頭に置いた設定だ。変速機もAMGスピードシフトと呼ばれる、変速タイミングが通常より早いスポーティなものとなる。
プラグインハイブリッドをあらわす“e”のサブネームをもった「GLE 500e 4MATIC」は、2,996ccのV6(85kW 、480Nm)に、電気モーターを組み合わせたパワートレイン。
システム全体のトルクは650Nmにも達し、さらに加速のためにエンジンとモーターを使うブースト機構も備える。駆動系は、フルタイム4WDシステムの4MATICが組み合わされる。
「わが社初のプラグインハイブリッドのSUVであり、V8なみのスムーズで洗練された走りと、3リッター車程度の燃料消費にとどまります」。音楽の都ザルツブルグからそう遠くない試乗会場において、メルセデス・ベンツの開発担当者はそう胸を張るのだった。はたして全長4.8メートルを超える大ぶりな車体のGLE 500e 4MATIC、そこまでよく走るのだろうか。それが走り出すにあたって興味の焦点だった。
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1パーセントの要望にこたえるこだわり
新型メルセデス・ベンツGLEシリーズは、さきに触れたように、パワートレインのバリエーションが豊かだ。開発総責任者のドクター・トマス・ウェバーは多品種展開のコンセプトについて、「ファミリーのなかに多くのバリエーションを持つのがわが社の方針」と端的に説明してくれる。「たしかに欧州において従来のMクラスの半数以上がディーゼルエンジン搭載車でした。オーストリアに限って言えば、ほぼすべてがディーゼルです。でも中国ではガソリン車しか売れません。なので駆動、エンジン、サイズなど、多くを揃えるのが成功のカギと認識しています」。
そのなかでGLE 500eの設定は、環境適合性を高めるところにある。走行キロあたりのCO2排出量はわずか78から84グラムという。GLE 500 4MATICでは最大269グラムだから、だいぶ差がある。欧州委員会が設定したCO2排出量の規制値は、2020年の時点で走行キロあたり95グラムなので、プラグインハイブリッド車は楽々ハードルを超えている。
「GLE 500e 4MATICはいちおうオフロードも走ることを前提に開発したモデルであり、そこには渡河も含まれています。そのため、多くの試験を繰り返しました」。前出のドクター・ウェバーは語る。「そのなかで、GLE500e 4MATICはいい条件が揃っていたのです。水にさらされると危険な高電圧バッテリーは車内に搭載されていますし、電気モーターは変速機のハウジングのなかに収まっています。耐振動性がもっとも大きな課題でした」。
「Mクラスのデータからみると、GLEになっても顧客の多くはオフロードを走らないだろうというデータはあります」。ドクター・ウェバーは言葉をつづける。「プラグインハイブリッドを含めて、GLEでオフロードを走るのは、購買客の1パーセントから2パーセントぐらいと見積もられています(笑)。しかしかといって、手を抜いていい理由にはなりません。悪路を走ることをスポーツと考えている顧客もいますから、走破性の高さは手を抜けない項目なのです」。
引き継いだものは、走行性能だけでない。スタイリングも、従来のMクラスを彷彿させる。とりわけ独特のスタイルを持つリアクォーターピラー。この部分だけで、一目でMクラスに連なるモデルと知れる。「Mクラスはモデル忠実度の高い顧客を多くもっています。つまり、Mクラスでないと、という人たちです。そのため、今回フルモデルチェンジですが、あえて従来のイメージを残しています」。プロダクトマージメントでSUVを担当するシモン・トーマス氏は、そう答えてくれた。
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洗練されたプラグインハイブリッドの走り
メルセデス・ベンツ肝いりのGLE 500e 4MATICの実際の走りはいかなるものだろう。オーストリアの市街地から山中にかけてが試乗コースだった。
このモデルは、積極的に電気モーターを使う設定だ。フル充電なら30kmはモーターのみで走行可能となっている。実際にアクセルペダルの踏み込みを極力抑えながら走ってみると、信号での発進停止あり渋滞ありという一般的な走行状況で20kmはカバーできた。バッテリー残量が20パーセントを切ると、自動的にエンジンが始動するが、そのあとはエンジンとモーターを織り交ぜながらのハイブリッド走行をして燃費は100km走るのに必要なガソリンは5リッター未満、つまりリッターあたり20km以上と出た。
日本でも、2014年導入ずみの「S 500 プラグインハイブリッド」で、すでに実績をあげているメルセデス・ベンツ。GLEでも、モーターとエンジンの移行はきわめてスムーズで、振動も騒音もほぼ感じられない。エンジン回転計か、モニターでのエネルギー フローチャートで確認しないと、どのパワートレインで走行しているか、にわかに判断がつかないほどだ。洗練されているのだ。
電気モーターだけでも、速度が低い市街地ならじゅぶんに実用可能な低速域でのトルクがある。1,600rpmから最大トルクを発生しはじめるエンジンが回れば、軽快といってもいいぐらい、俊敏な加速を味わうことができる。7段のオートマチック変速機は、上のギアで燃費をかせぐいっぽう、走行状況から、ドライバーに痛痒感を与えないトルクバンドをうまく使ってくれるのだ。
乗り心地はしなやかといってもいいほどで、ハンドルもウルトラスポーティでないものの、切ったときに車体が動く反応速度にかったるさはない。加速といい減速といい、さらにブレーキのフィールといい、ドライバーに違和感をおぼえさせるようなものはない。これこそ、このモデルの最大の美点だ。女性にもファンが多いのは、走らせているとうなずけるのである。
「大きな車体のSUVは家族のこととかを考えて必要だが、環境のことも考えたいと言う顧客がいる。GLEは全体として燃費をよくして、CO2排出量も下げているが、なかでもGLE 500e 4MATICは、そういう顧客のためのものです。メルセデス・ベンツの技術開発部門のトップ、ドクター・トマス・ウェバーの説明である。
「あたらしい世代に変わったというイメージ的な牽引役にもなっています。では「Gクラス」にもプラグインハイブリッドを設定するのか、と訊かれると、おそらく答えはノーです。燃費はよくしていきますが、販売台数が多いクルマではないので、あえてここまで手をつける必要はないと考えています」
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オール オア ナッシング
1パーセント。ドクター・ウェバーはGLEでオフロードを走る人の割合をそう定義した。つまり通常なら無視していい数だ。しかしメルセデスは、SUVと謳ったからには、オフロード性能にも手を抜けないことを、オーストリアのオフロードコースで実証してくれた。
GLEのために用意されたのは、山の斜面を使ったオフロードコースでの走行だ。ふだんから、スポーツ走行を楽しむ人たち向けに開発されたモータースポーツパークの一部で、小さなサーキットもあるし、ヘリパッドと、レストラン設備を備えたロッジも建つ。しかしお遊びかというと、わざわざ足を運んでくる人のためには手を抜けないだろう。オフロードもかなりの急勾配のアップ アンド ダウン、岩が敷き詰められた低ミュー路の下り、斜めになって走行する斜面、そうとう楽しめる内容だ。
「ここでもっとも安全に走るコツは――」インストラクターのドイツ人が話す。「GLE(350d)を信用し、多くをクルマにまかせることです」。まず驚いたのは、座席から下の路面が見えない悪路などでは車内で360度モニターの画像を頼りにすればいいことだった。カメラからの情報を処理して、車両とその周囲がバーズアイビュー(上から見下ろす画像)として展開するのだ。ドライバーはウィンドスクリーンごしでなく、モニターさえ見ていれば、不安感なく、オフロード走行ができる。
大きな穴が空いているモーグル走行では、3輪から接地性が失われても、電子デフロックが作動し、1輪だけで脱出できる。でんぐり返って落ちそうな急勾配の下りでは、ドライバーはステアリングホールに手を添えているだけで、加速もブレーキングも車両が自動におこなってくれる。GLEの本気ぶりがよくわかった。
「オール オア ナッシング」というのが、昨今とみにメルセデス・ベンツが強調する同社の伝統的なモットーだ。すべての道を走れなければGLEは無意味、と解釈してもいいだろうか。おそらく問題ないだろう。それだけの完成度だった。