PORSCHE|ポルシェ カイエン S ハイブリッド & カイエン・ディーゼル 試乗
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2015年4月7日

PORSCHE|ポルシェ カイエン S ハイブリッド & カイエン・ディーゼル 試乗

PORSCHE|ポルシェ カイエン S ハイブリッド & カイエン・ディーゼル 試乗

カイエンならではの走りを誇る2台の“グリーンカー” (1)

ポルシェが発表した数台のグリーンカーのうち、とりわけカイエンはステアリングを握る者の心を躍らせる。すでに新型でもハイブリッドSが発表されているが、それに先だって現行型カイエン S ハイブリッドとカイエン・ディーゼルの2台に試乗する機会に恵まれた。「グリーンカー・テストドライブ」での、それぞれの乗り心地について、モータージャーナリスト 島下泰久がレポートする。

文=島下泰久写真=ポルシェジャパン

フォルクスワーゲン、アウディと共同開発したハイブリッドシステム

昨年12月に開催されたロサンゼルス・モーターショー内で行なわれたプレス向けイベント「グリーンカー・テストドライブ」に、興味深い1台があった。ポルシェ・カイエンSハイブリッドがそれだ。

ポルシェ初のSUVとして、いやポルシェ初の2ドアスポーツカーではないモデルとして衝撃的なデビューを果たし、瞬く間に厚い支持を集めたカイエンのデビューから8年目となる今年、いよいよ登場の新型カイエンにはハイブリッドモデルが設定されることがすでに発表されている。今回ステアリングを握ることができたこのカイエンSハイブリッドは、そこに使われる予定のコンポーネンツを現行モデルのボディに搭載したテスト車である。

当初はトヨタから供給されると噂されていたポルシェのハイブリッドシステムだが、結局彼らが選んだのはフォルクスワーゲン、そしてアウディと共同でまったく別のシステムを開発するという道だった。その概要は、V型6気筒3.0ℓのスーパーチャージャー付きエンジンと、8速ATのあいだに電気モーターを挟み込むというもの。バッテリーは実績のあるニッケル水素タイプを荷室のフロア下に搭載している。

既存のエンジンとATを利用すること、専用の車体を用意しなくていいという意味では形式はメルセデス・ベンツSクラス・ハイブリッドに近い。しかし大きくちがうのは、こちらにはエンジンと電気モーターのあいだにクラッチが存在しているということ。両者を切り離すことができるため、つまりエンジンを停止して電気モーターだけで走行することも可能なのだ。

運転席まわりの景色はベースとなったカイエンSとほとんど変わらない。唯一、眼前のメーターパネルとナビのモニターにハイブリッドシステムの動作状況が表示されているぐらいだ。

高速域で音もなく滑走する

イグニッションキーをひねると、まずはエンジンがかかり「READY」ランプが点くが、程なくしてエンジンは停止する。ATセレクターをDレンジに入れてアクセルを踏み込んでいくと、ここでもまだエンジンはかからず、しかしクルマは静かに動き出す。普通に加速していくと、エンジンが始動するのは15km/hを超えた辺り。エンジンにとってもっとも効率が悪い、ごく低回転域で走り出すこの領域をモーターに託せるのが、ハイブリッドが燃費向上に効くひとつ目のポイントである。

ちなみにモーター走行時にも、室内の空調は効いているし、パワーステアリングやブレーキブースターも動作を止めることはない。これらはすべて電動化されていて、エンジンがかかっているかどうかに関係無く動作するのである。なお、それにともなうフィーリングの変化はほとんど気にならなかった。ハイブリッドで難しい、減速エネルギーを電気として回収して蓄える回生ブレーキと油圧ブレーキを組み合わせているがゆえのブレーキのコントロール性の悪さも皆無と言っていい。

その先の加速にもまるで不満はない。車重は140kg増えているというが、スーパーチャージャーの威力でエンジンの最高出力は333psに達し、そこに電気モーターの52psがくわわったうえに、8速ATがそれを余さず使い切るのだ。それも当然だろう。

適当なところでアクセルを緩めて巡航に入る。するとカイエンSハイブリッドは即座にエンジンを停止させ、再び電気モーターだけでの走行に移る。これがふたつ目のポイントで、このシステムは必要ないと見るやすぐ、頻繁にエンジンを停止させることで燃費を稼ぎにいく。このエンジン停止は140km/h近くまでおこなわれる。高速域でエンジン音が聞こえないまま、滑るように走る様は新鮮だ。

リッターあたり約11.2km、実現なるか!?

ここから再度、加速に移ろうとアクセルを踏み込むと、一瞬にしてエンジンが再始動する。まだ熟成の余地ありと感じさせるのは、この再始動したエンジンと電気モーターのあいだのクラッチが繋がる瞬間に若干のショックがともなうところ。このシステムの制御のもっとも難しい部分だ。

しかし問題と言えるのは、これぐらい。ポルシェらしい、あるいはカイエンらしいスポーティな走りの性能を犠牲にするどころかさらに引きのばされている。V型6気筒エンジンでありながら「S」の名が与えられていることからも、それは想像できるはずである。なお、 アクセル全開時などにエンジンと電気モーターの出力をフルに動力性能に充てて最高のパフォーマンスを引き出す“ブーストモード”的なモードは今回のテスト車には付いていなかったが、市販車にはおそらく用意されるはず。また可能な限り電気モーターだけで走行をつづけるEVモードも設定される可能性は高い。

それでいて肝心な燃費も、まだ正式な値は当然出ていないが、2007年に最初のテスト車が出来たころには8.9ℓ/100km、つまりリッター当たり約11.2kmを目標値としていたから、実現すればこの手のモデルとしては相当に優秀な数値と言っていいだろう。

登場はもう間近。しかもおなじシステムはパナメーラにも搭載されることがすでに決定しているポルシェのハイブリッド、市販型のステアリングを握る日が楽しみだ。

PORSCHE|ポルシェ カイエン S ハイブリッド & カイエン・ディーゼル 試乗

カイエンならではの走りを誇る2台の“グリーンカー” (2)

カイエンGTSをも凌ぐ最大トルク

ポルシェ・カイエンSハイブリッドのテスト車に試乗することができたロサンゼルス・モーターショーの「グリーンカー・テストドライブ」には、もう1台別のカイエンが用意されていた。背後に回ってエンブレムを確認しても「Cayenne」としか書かれていないこのモデルは、しかしれっきとした“グリーンカー”。現在はヨーロッパでのみ販売されているカイエン・ディーゼルである。

ポルシェにディーゼル。そう聞くと違和感を覚えるというひとのほうが、きっと多いのではないだろうか。じつはポルシェ自身も、ほんの数年前まではそうだった。ヨーロッパで販売されるSUVのほとんどがディーゼルエンジン搭載車だったにもかかわらず「ポルシェには高回転型のガソリンエンジンこそがふさわしく、ディーゼルを積むつもりはまったくない」と、デビュー当時にはCEOまでが断言していたのだ。

しかし世の中は変わった。一昨年のガソリン高騰はパフォーマンス志向のユーザーにすら燃料代のことを考えさせた。またディーゼルはスポーティなエンジンであるという認識もますます広まってきた。それを踏まえてポルシェもついにカイエンにディーゼルを設定したのである。

ただし、本来は販売地域は今のところヨーロッパだけで、北米では売られていない。今回のテスト車も、よく見るとドイツのナンバープレートが付いたヨーロッパ仕様であった。

その心臓はV型6気筒3リッター直噴ディーゼル・ターボ。最高出力は240ps/4000~4400rpmとカイエンV6をやや下回るが、最大トルクは550Nm/2000〜2250rpmとカイエンGTSをも凌ぐ。トランスミッションは6速AT。気になる燃費は9.3リッター/100kmという。リッター当たり、ざっと10.8kmである。

街中でもっともスポーティなカイエン

エンジンを掛けるとディーゼル特有の振動や騒音はそれなりに感じられるが、不快なほどではない。それどころかいざ走り出せば、そんなことなど忘れてしまうだろう。とにかくトルクが充実していて、アクセルペダルを深く踏み込むまでもなく2トンを超える重い 車体がグッと前に出るのだ。

その後の加速も強力。高回転域は4,500rpm過ぎまでしか回らないが、そこまでの勢いはまさに弾けるようで、矢継ぎ早にシフトアップを繰り返しながらみるみる速度を上げていく。0-100km/h加速が8.3秒とカイエンV6を凌ぐのも納得である。

ディーゼルと言えば高速移動の多いヨーロッパ、とくにドイツ向きと思われがちだが、実際のところは街中でもその特性はプラスに出る。低回転域からすぐにトルクが出るのでじつはガソリンエンジン以上にピックアップが良く、すぐに加速態勢に入れるのだ。個人的には、カイエンにディーゼルは似合わないなんてまったく思わない。むしろカイエンを街中でもっともスポーティに走らせることができるのは、このディーゼル仕様かもしれないと思えるほどだ。

ハイブリッドとディーゼル。カイエンはふたつのエコ・パワートレインを用意しようとしている。いずれも想像以上のカイエンとのマッチングは上々。まちがいなくパワフルな走りを実現し、そして燃費に優れるという特徴を有する。

ではスポーティさはどうかと言えば、あらためて言うまでもないだろう。もともとカイエンはSUVのなかでも飛び切りスポーティなモデル。そこにパワフルなパワートレインが積まれるのだから、走りの楽しさが失われているわけがないのである。

おそらく日本に導入される可能性が高いのはハイブリッドだけだろう。しかし本音を言えば、両方選べたらいいのに…と思ってしまう、完成度の高い2台であった。

ポルシェジャパン
http://www.porsche.com/japan/

           
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