あらたなルノーのデザイン戦略を読み解く|Renault
Renault|ルノー
TOKYO DESIGNERS WEEKにルノーが出展する意味
あらたなルノーのデザイン戦略を読み解く
ルノー・ジャポンが、先週末からはじまった「TOKYO DESIGNERS WEEK 2014」に初めてパビリオンを構えた。会場内では「ルーテシア」のボディにプロジェクションマッピングをおこない、ルノーのあらたなデザイン戦略を見て触れて、そして体感できるインスターレーションをおこなっている。今回、開催にともない来日したルノー デザイン アジア スタジオ代表のクリストフ・デュポン氏へのインタビューを通じ、ルノー新デザインのフィロソフィーなどをたずねた。
Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki
TOKYO DESIGNERS WEEKに初出展したルノー
2014年11月3日(月・祝)まで開催中の「TOKYO DESIGNERS WEEK 2014」は、“日本最大級の総合クリエイティブイベント”を謳う。そこにルノー・ジャポンが出展。プロジェクションマッピングを駆使して、ルノー デザインに触れる、というユニークな展示で人気を集めている。
「ルーテシア」と「キャプチャー」が好調のルノー。かたやコンパクト4ドアハッチバック、かたやコンパクト クロスオーバー。全長4メートルほどの凝縮感のある車体に、意外なほどスペース効率のよい室内が組み合わされた、優秀なパッケージングが特徴だ。
もうひとつ、ルノーが強調するのは、スタイルである。「どの角度から見ても鋭い角(エッジ)や攻撃的な印象はなく、ただ思わず手を触れたくなる官能的な曲線だけで構成されたクルマ」とルノーではパンフレットで謳いあげる。
青山・絵画館前の会場では「Touch! New Renault Design」と壁面に書かれた、印象的な黒一色で塗られたブースが用意されている。なかでは、水をテーマにした「触れるプロジェクションマッピング」という約3分のショー。白いルーテシアの車体に、水をモチーフにしたさまざまな映像が投影される。くわえて、キネクトの技術を用い、手を触れるとそこから波紋など、あらたな映像が展開される。
「自然界に直線は存在しないというのが、ルーテシアとキャプチャーのスタイルの重要なテーマ。このショーで水をモチーフにしたのは、ルノー デザインの主張を視覚化したかったからです」。ルノー・ジャポンのマーケティング部でチーフプロダクトマネージャーを務めるフレデリック・ブレン氏はそう説明してくれた。
この展覧会にタイミングを合わせて、さきのパリ自動車ショーで発表された新型エスパスなどを手がけたデザイナー、クリストフ・デュポン氏が来日。ルノー デザインについて語ってもらう機会を得たのだった。
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ルノー デザイン アジア スタジオ代表 クリストフ・デュポン氏にうかがう
──まずご自身のこれまでの歩みを語っていただけますか。
クリストフ・デュポン氏(以下、デュポン) 1965年にフランスで生まれました。米国のアートセンター カレッジ オブ デザインでトランスポートデザインを勉強しました。88年にルノーに入社。アドバンスデザインスタジオに勤務して、「ルード」(88年)のエクステリアデザインを手がけたのが最初の表だった仕事です。
──そのあとルノーを退社していますが。
デュポン 95年、デザインツールで知られるエイリアス ウェーブフロントに転職しました。そしてしばらくフリーランスとして働いたあと、2001年、ルノーに再入社して、デザイン開発プロセスに、デジタルツールをどう組み合わせていくかに取り組みました。
──エイリアスでの経験が役立っていますね。
デュポン 04年からは、ルノー バルセロナ デザイン スタジオで、小型車デザインのディレクターを務め、「トウィジー」「セニック」「ラグナ クーペ」などを手かけました。07年には韓国のルノー サムスン自動車デザインスタジオ代表として「SM3」「SM5」「QM5」といったモデルを送り出しました。
──経営破綻したサムスン自動車の株式をルノーが買収したからこその仕事です。
デュポン 09年から本社スタジオに戻り、「ロガン」といったエントリーカー、2014年10月のパリ自動車ショーで発表された新型「エスパス」、それに大型セダンやSUVのプロジェクトにおけるデザイン開発のマネジメントを担当しています。
──パリ自動車ショーのルノーブースでは、エスパスはかなりの注目度でした。ほとんど近づけないぐらいでした。
デュポン いまはルノー本社を離れて、14年9月から、韓国にあるルノー デザイン アジア スタジオ代表に就任。中国のルノーデザイン開発におけるマネジメントをおこなっています。
──TOKYO DESIGNERS WEEK 2014の印象はいかがですか?
デュポン 多様性と創造性があふれていますね。ルノー・ジャポンによる「Touch! Renault Design」も、ルーテシアに象徴的にあわられているルノー デザインのスピリッツをうまく表現してくれていると感心しました。ルノーにとってデザインはとても重要なので、この機会にそれを多くのひとに伝えるのはとてもいいことだと感じています。
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クルマはひとを中心につくらなくてはいけない
──ルノーはいまデザインをどのようにとらえているのでしょう?
デュポン 端的にいうと、企業の文化と哲学を表現するものです。09年からルノー デザインを統括しているローレンス・ヴァン・デン・アッカーは、人生を “The Cycle of Life”とコンセプト化し、6つのステージに分けました。ひとがひとと出合い恋に落ちる“Love”からはじまり、ふたりで冒険に出かけるステージが“Explore”、家族をもつ“Family”、それから“Work”、5番目が暮らしを楽しむ“Play”、そして知恵を増していく“Wisdom”。これら6つのライフステージにあわせて順次ニューモデルを投入していくのが、ルノーの戦略です。ルーテシアはLove、キャプチャーはExploreのステージにあたるクルマとして発表しました。
──“The Cycle of Life”というコンセプトの背後にある考えはどういうものですか。
デュポン クルマはひとを中心につくらなくてはならない、というものです。ヴァン・デン・アッカーは、ルノーのデザインのコアに、温かみ、シンプルさ、そして官能性を設定しました。それを、ソフトで、滑らかで、男性的で、クリアで、と表現できるラインとサーフェス(面)で表現しているのです。攻撃性やアグレッシブさは排除しています。
──それがルーテシアでありキャプチャーであるのですね。
デュポン キャプチャーを例にあげると、黒地に大きなルノーロゴを配したフロントフェイスは、ルーテシアなどと共通で、ブランドの一貫性を感じさせます。魅力的なスタイリングとともに高い機能性を追求したモデルです。パリ自動車ショーで発表した第3世代のトウィンゴにもおなじことがいえます。2代目のように、たんなるクルマでなく生活の伴侶と呼びたくなる存在感があると思います。そういうものをルノーのDNAとして大切にしていきたいと私たちは考えています。
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ブランドの一貫性の重要さ
──デザインには一貫性が必要ということですが、もうすこしお話ししてください。
デュポン コンペティターで上手にやっているのは、ドイツの自動車会社ですね。ブランドマネージメントを緻密にやっています。一貫性がないと強いブランドは構築できないという考えはおなじです。他業種だと、アップルがいい例です。リンゴのマークがなくても、外観をみてすぐアップルの製品だとわかるぐらい、強いデザインの一貫性をもっています。
──クルマはコンピューターよりもっと領域が広いかもしれません。
デュポン たしかにそうです。エクステリアだけでなくインテリアも一貫性に含めなくてはなりません。ハンドルのトリム、エア吹き出し口、ドアパネルといった部分も、デザインの一貫性を語るうえで大事です。さらに、広告、ウェブサイト、モーターショーのブースにいたるまで、顧客との接点のすべてに、ブランドの一貫したイメージを徹底させていくことが重要なのです。
──個人的な意見になりますが、歴史に残るルノーというと、すぐに思い浮かぶのは、まずルノー「4L」(61年)です。広い室内空間に取り外し可能なシートをもち、乗り心地を追求してサスペンションに使ったトーションバーを長くとるため、左右のホイールベースの長さをあえて変えていました。それから、ルノー「16」(65年発表)。スライド機構をもったリアシートをフロントシートとくっつけることで赤ちゃんのゆりかごにも大きな荷かごにもなりました。ルノー「5」(72年)は2ドアをあえて採用することで、ハッチバックにパーソナル化の概念をもちこみました。
デュポン そうですね。あと挙げるなら、エスパス(84年)、初代トゥインゴ(92年)、セニック(96年)でしょう。これらがいまもルノーのバックボーンになっているといえます。どれも人間中心に企画され、顧客のニーズを反映させた点でルノー デザインのDNAに組み込まれています。
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スタイリングとデザイン
──デザイン全般でいうと、なにが好きですか?
デュポン 建築が好きです。安藤忠雄、ノーマン フォスター、レム コールハウス、それにザハ ハディドが、すぐに思いつきます。私はいまソウルに住んでいますが、2014年に完成したばかりのザハ ハディドによる東大門デザインプラザにはかなり興味を惹かれています。それから、腕時計も好きだし、アップルの製品はどれも好きです。
──クルマはどうでしょう?
デュポン たくさんありすぎて(笑)。クルマが大好きだったから自動車デザイナーになったのですから。とくに好きなのは、60年代と70年代のクラシックスポーツカーです。なかでも、フェラーリ「250GTベルリネッタSWB」(59年)、ランボルギーニ「ミウラ」(66年)、メルセデス・ベンツ「300SL」(54年)、アルピーヌ「A110ベルリネット」(63年)、それに63年のシボレー「コルベット」が好きです。
──多くの自動車デザイナーはシトロエン「DS」がもっともすぐれたデザインだと言いますが。
デュポン もちろんです。いまでもたいへんすばらしいデザインです。スタイリングと製造方法とパッケージングと技術、どれをとってもラジカル、つまり大胆に時代を先んじていました。DSは自動車の歴史のなかでもっとも進んだクルマです。イノベーションがたくさん詰まっています。
──スタイリングとは見た目のことで、デザインとは生活をよりよくするための解決手段だとしたのは、デザイン評論家のビクター・パパネックでした。
デュポン よくわかります。いま挙げたクルマを、わけて評価することもできます。63年のコルベットは偉大なスタイリングの見本である。そしてシトロエンDSは偉大なデザインの見本である。私たちはつねに、いいデザインを提供していこうと思っています。