FIAT|フィアット|柴田文江 vs フィアット500(3) 動くものはデザイナーの自己表現の領域にある
Vol.2 柴田文江 vs フィアット500
Chapter3 動くものはデザイナーの自己表現の領域にある
工業デザイナーとしてクルマのエクステリアに挑みたいという柴田文江さん。カー・デザインの真髄とその期待に触れる、インタビュー三部作、いよいよ総論。
――代表的なお仕事にオムロンの電子体温計があります。ゆえに家庭的な製品に携わるイメージがありますが、クルマのデザインには興味がありますか?
チャンスがあるなら、ぜひエクステリアをやってみたいです。
――そのチャンスが巡ってきたとき、フィアット500のようなクルマならどういうアプローチをしますか?
私はデザイナーですから、できたらまったく新しいクルマをつくりたいと思います。
もちろんフィアット500のようなケースにも意義は感じます。そうですね、私なら過去のストーリーはまったく関係ないものとして試みるかもしれません。
ただ、やはりクルマは特殊です。動くものに対するデザインのアプローチは、究極的にはデザイナーの自己表現の領域にあると思うから。さらにクルマの場合、良いとされるものは基本的に高価ですよね。100万円では1000万円に勝てないというか、真のチャンピオンになれない現実的なヒエラルキーがあります。
――常に上を求めるというような、ある種の切迫感はあります
でも、だからこそその価値観を壊したい意欲は常にもっているんです。
これは個人的な例ですが、ずいぶん前に買ったジョージ・ジャンセンの時計を今も愛用しているんですね。当時の自分にはちょっと高価だったけど、デザインが大好きだった。それが私の腕時計のチャンピオン。腕時計の世界で言えば、まだまだ上はいくらでもいる。けれど自分にとって良いと思えるものを買うと、ひとは大きな満足感を覚えます。誰かが決めた金額による価値やヒエラルキーは、デザインの力でなら一気に越えられるんです。
――クルマの世界における類似例は、フィアット500のような小型車で時折生まれますね
最良のサンプルが「スマート」です。あれは旧来のクルマの枠からも飛び出しそうな存在でした。やっぱり暫定チャンピオンは飽きちゃうんですよね。そういう上下の関係をデザインで飛び越えたい。
ドライな視野をもちながらもひとが毎日楽しく暮らしたい願望を叶えるデザイナーとして。なおかつ私は女性なので、「これカワイイ」という感覚も大事にしたいです。
――その観点で、フィアット500は真のチャンピオンになれるクルマだと思いますか?
可能性は大いにあります。他のクルマにはないフィアット500だけの情景を見せてくれますから。