あなたのクルマ 見せてください 第7回 檜井保孝 × アバルト
第7回 檜井保孝 × アバルト 595 コンペティツィオーネ
これが“アバルトマジック”
レーシングドライバーの檜井保孝(ひのいやすたか)選手は、昨シーズン、アバルト「595 コンペティツィオーネ」を愛車とし、日本中のサーキットを駆け回った。1988年にFJ1600でデビューして以来、英国F3、全日本F3000(現在のスーパーフォーミュラ)、そしてSUPER GTを舞台にモータースポーツシーン活躍してきた彼が、日常のアシとしてアバルトを選んだ訳とは。その魅力に迫った。
Text by TAKEDA Hiromi
レーシングドライバーが乗る日常のクルマ
クルマにうるさいであろう現役のレーシングドライバーは、日頃どんなクルマに乗っているのか? それは、クルマ好きならば誰しも気になるところ。そんな好奇心を満たすべく、今回は一人のベテランレーサーに、「あなたのクルマ」を見せていただくことにしよう。
レーシングドライバーの名は、檜井保孝(ひのいやすたか)選手。1988年にFJ1600でデビューののち、国内および英国F3選手権、全日本F3000(現在のスーパーフォーミュラ)選手権へとステップアップ。全日本GT選手権でも活躍したのち、後身のSUPER GTでは“三船剛”の名前で「マッハ号」をドライブしたこともあった。そして2006年には、かのル マン24 時間レースにランボルギーニ「ムルシエラゴ」で参戦した経歴でも知られている。
現在では「フェラーリ・チャレンジ」オフィシャルインストラクターとして開発テストドライバーも担当するいっぽうで、日本国内におけるフェラーリF1デモランのドライバーも託されるほか、クルマの性能を分かりやすく語ることのできる卓越した解析能力から、コメンテーターとして数多くの自動車専門誌にも寄稿している人物なのだ。
そんな檜井選手の愛車は、可愛らしいなかに迫力も兼ね備えた漆黒のアバルト。昨年デビューした「595 コンペティツィオーネ」だ。
檜井選手は、一昨年からフィアット クライスラー ジャパン本社が主催する公式ドライビングスクール「アバルト ドライビング ファン スクール」の講師陣に名を連ねるとともに、昨2013シーズンは、アバルトがレース専用に開発したマシン「695アセットコルセ」とともにスーパー耐久選手権にフル参戦。さらに一シーズンに亘って、日本におけるアバルトの公式ブランドアンバサダーにも任命されている。
第7回 檜井保孝 × アバルト 595 コンペティツィオーネ
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わずか1年にして、マイレージは4万キロ
檜井選手の“愛車”ことアバルト595コンペティツィオーネに懸ける想いは生半可なものではなかったようで、彼はこのクルマを入手したことにより、実に10年近く、2世代に亘って愛用してきたW124系メルセデス・ベンツ「300E」を手放してしまったという。
件のメルセデスは、メカニック経験もある檜井選手が自らメンテナンスや簡単な修理まで行うほどの愛情を掛けてきたことから、ファンの間でもすっかりお馴染みとなっていた。
にもかかわらず、アバルトに心酔してしまった彼は、自身の分身とも化していたメルセデスを手放してまでも、少しでもアバルトと過ごす時間を増やすことを選んだのだ。
昨シーズンの檜井選手は、本拠である広島から遠く離れたスポーツランドSUGO(宮城県)を含め、スーパー耐久が開催される全国各地のサーキットにこのアバルトで赴いたのはもちろんのこと、自身が経営する広島市内のレースイベント企画会社「ファーストレスポンダー」への通勤や東京などへの出張、さらには日常のアシとしても最大限に活用。
その結果、納車からわずか1年にして、マイレージは既に4万キロを大幅に超えてしまったという。
第7回 檜井保孝 × アバルト 595 コンペティツィオーネ
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最高のパートナー
「コンペティツィオーネを名乗るクルマですから、一般道ではかなりハードですが、高速道路などの路面状況の良いところでは意外なほどに乗り心地が良いんです。でも、やっぱりこのクルマの持ち味が生かされるのは“本気モード”の時でしょう。サーキットやワインディングでも、この短いホイールベースと高い重心を感じさせない安定感を見せてくれますし、タイトコーナーになれば今度は小さなボディを生かしてクイックに曲がることもできます。
僕たちは、このクルマをベースとしたレーシングカーでスーパー耐久に参戦してますが、レース用に仕立てた695 アセットコルセも一般ユーザー向けのアバルトも、おなじキャラクターを持っていることが良く分かります。これが“アバルトマジック”なのかと、つくづく感心してしまうんですよ」と檜井選手。
昨年丸一年使用した595コンペティツィオーネ以外のアバルトには、どんな印象を持っているかについても、さらに伺ってみた。
「595 コンペティツィオーネには凄く満足してましたけど、マニュアルが選べるベーシック版のアバルト 500も、また別の魅力があるとおもいます。そして695 エディツィオーネ・マセラティ、あれはホントに欲しくなっちゃいましたねぇ。やっぱりアバルトってモデルを問わず、不思議な魔力があるクルマなんですよ」
レーシングドライバーのなかでも、クルマは仕事ないしは移動の道具と見なし、さしたるこだわりを持たないタイプと、仕事を超えた趣味としてクルマに接するタイプの双方が存在するが、檜井選手は明らかに後者に属する自動車愛好家と言えよう。
恐らく現代に創られている数あまたのクルマのなかでも、もっともエンスー的なキャラを持つアバルトは、そんな彼にとってもまさしく最高のパートナーたりえているのである。