BMW iという事件|BMW
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2015年1月14日

BMW iという事件|BMW

BMW i|ビー・エム・ダブリュー・アイ

創業100年目のターニングポイント

BMW iという事件

持続可能な次世代モビリティの実現を目指し、BMWがあらたに立ち上げた新サブブランド「BMW i」。創業100年に渡る歴史のなかでも、もっとも大きなチャレンジにBMWはどう挑もうとしているのか。日本市場にもiシリーズ第1号車となるコンパクトEV「i3」が上陸を果たし、本格的展開がスタートしたいま、あらためてその本質に迫りたい。

Text by OTANI Tatsuya

Mに匹敵するラブブランド

何度も何度も見せられたような気がするのに、それでもやっぱり関心が薄れない。なぜゆえ、BMW iはこれほど多くの注目を集めるのだろうか? 正直、EVそのものは決して珍しくない。カーボンコンポジットを使ったクルマだって、ないわけではない(もっとも500万円前後で買えるカーボンコンポジットボディは「i3」がはじめてだろう)。

それでもBMW iがある種の社会現象のようになっているのは、製品自体の先進性もさることながら、このプロジェクトにまつわる、さまざまな事象がニュースにあふれているからだろう。

BMW i3

BMW i8

まず、どちらかといえばハイパフォーマンスカーのイメージが強かったBMWが、最先端技術を駆使してエコカーを作り上げた点が目新しい。しかも、単発の商品を発売するだけでなく、BMW Mに匹敵するBMW iというサブブランドまで立ち上げ、EVやPHVを継続的に販売することを公言している。

これはBMWという自動車メーカーにとって大きなターニングポイントと呼ぶべき事件であり、またCO2排出量の抑制について自動車メーカーが負うべき責任の重さを再認識させるきっかけとなったともいえる。

もっとも、BMWとエコのイメージをうまく結びつけられないのは日本のファンというか私だけかもしれず、ウォールストリートジャーナルの発行元が選ぶダウ・ジョーンズ・サステイナビリティ・インデックスにおいて、BMWは自動車メーカーとして唯一8年連続で部門別のトップに輝いたほか、15年連続でサステイナブルな会社であると認められたという。

この指標は単に製品のサステイナビリティを評価するだけでなく、企業のガバナンス、コンプライアンス、さらには労働環境なども勘案されるため、自動車産業界で一般的に使われるサステイナビリティという言葉よりもやや幅広い意味をもつものの、BMWが社会的責任を果たそうとする意識の高い企業であることだけは、まちがいないだろう。

接続可能なモビリティに向けて、2011年の2月、BMW iというBMWのあたらしいブランドが誕生した

BMW i|ビー・エム・ダブリュー・アイ

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生産からリサイクルまで

いっぽう、単に走行中のCO2排出量が少ない製品を作るだけでなく、生産過程や廃棄の段階での環境負担を減らすよう心がけた点もBMW iの大きな特徴といえる。たとえば、「i3」や「i8」に使用されるカーボンファイバーの原料(PANプレカーサー)は広島県の三菱レイヨンで生産されたあと、アメリカ・ワシントン州モーゼスレイクのSGL ACF社工場にて焼成されて炭素繊維となる。

焼成とはつまり焼くことで、通常これには大量の電力を消費するが、モーゼスレイク工場は付近の水力発電所から電力の供給を受けるため、CO2を一切排出することなく炭素繊維を焼成できるようだ。ここで生産された炭素繊維は大西洋を渡ってドイツに運び込まれ、おなじくSGL ACF社のヴァッカースドルフ工場にてCFRP用レイヤーとして“編まれ”た後、BMWの工場に持ち込まれてカーボンボディに仕上げられるという過程を経る。

広島県の三菱レイヨンで生産される、カーボンファイバーの原料(PANプレカーサー)

PANプレカーサーから炭素繊維への加工

ちなみに、i3を生産するドイツ・ライプツィヒ工場の電力は、敷地内に建てられた4基の風力発電機(出力2.5メガワット)ですべてまかなわれるため、ここでもCO2排出量は実質的にゼロとなる。
通常、自動車産業は大規模なプレス機などはが不可欠な設備産業で、裏を返せば自前の施設をいかに効率的に活用するかが収益を左右するといわれてきた。CO2排出量の削減という要求が片方にあり、もう片方にアルミやカーボンによる自動車の軽量化というソリューションがありながら、そうした新素材の利用が遅々として進まなかったのは、既存の施設をできるだけ活用したいとする自動車メーカーの思惑が影響してきたからでもあった。

予備形成された炭素繊維のスタック

完成したCFRP製のボディコンポーネント

しかし、BMW iでは生産からリサイクルまでをすべて白紙から計画した。この、ほとんど無制限なまでの裁量権が、CO2排出量の最小化という目標の実現に大きく役立ったことはいうまでもない。

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BMWの日本人デザイナー

もうひとつBMW iで特徴的なのは、そうしたグリーンなイメージがデザインにうまく反映されていることにある。

一目でBMWとわかるいっぽうで、これまでのBMWとは一線を画したBMW iのデザイン言語には、BMWの日本人デザイナーである永島譲二氏がその作成に関わったようだ。

昨年6月に行なわれたBMWデザインプレゼンテーションにおいて、永島氏は「BMWは伝統的に、いかにも硬くて冷たそうなスチールから作られたことが見てとれるデザインとされてきましたが、この伝統に反するデザインを敢えて試みたところ、これがBMW iのデザインとして採用されました」との主旨の発言をしている。たしかにBMW i3もi8も、どこか軽やかで暖かみのあるデザインとなっているが、そこには前述した永島氏の意図が込められていたようだ。

オーガニックな雰囲気で包まれているi3のインテリア

インテリアに使用する材質に選ばれたケナフという植物

いっぽう、インテリアは一転してオーガニックな雰囲気で包まれている。ウッドは表面に塗るラッカーを極力減らして自然の風合いを際立たせているほか、バングラデッシュのモンスーン期に急速に成長するケナフという植物から作ったカーペットでダッシュボードの上面を覆うなど、ひと目見ただけで「このクルマはきっと環境に優しいにちがいない」という雰囲気を漂わせている。

聞けば、一般を対象とした事前のリサーチで「車内にいるときも環境に優しいクルマに乗っていることを実感したい」という要望が明らかになったため、このようなデザインが選ばれたようだ。

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i3の生産計画
こうして完成したi3は、1回の充電で130~160kmの走行が可能なほか、0-100km/h加速を7.2秒でこなすパフォーマンスを実現している。さらに、前後の重量配分を50:50に揃えたり、後輪駆動とするなど、BMWの伝統的なクルマ作りを踏襲。バッテリーをフロア下の低い位置に搭載することで重心高を下げることにも成功した。BMWの名に恥じない俊敏性を手に入れたという。

では、BMW i3は商業的に成功するだろうか? BMWにカーボンファイバーを納入するSGL ACF社は、先ごろ2015年初頭までに生産量を現状の3倍まで引き上げることを発表、これに必要な生産設備の建設に取りかかった。創業を開始してわずか1年半ほどで生産量を3倍に引き上げるとは驚きだが、それだけi3の販売が好調な証と見ていいだろう。ちなみに、i3は1日あたり100台ほどのペースで生産が続けられており、2014年5月の段階で約5,000台がラインオフしたという。

ライフモジュールとドライブモジュールの結合

出荷前の最終チェック

いっぽう、カーボンコンポジット製ボディのi3が499万円(消費税8パーセント込み。航続距離300kmのレンジエクステンダー付きは546万円)で販売されていることに対し、ライバルメーカーからは「iで利益が得られるはずがない」といった声も聞かれるが、BMWのクラウス・ドレーガー上級副社長はi8の国際試乗会において次のように語った。

「i3はしっかりとした粗利を上げています。ただし、これまでに投じた研究開発費まですべて回収できるかといわれれば、それは難しいかもしれません。けれども、私たちはBMW iがモビリティの未来のために必要であると考えて取り組んでいるのです」 つまり、i3やi8は単に新製品のひとつではなく、BMWの理念や今後の方向性を示したクルマなのである。

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BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
ボディサイズ|全長 4,010 × 全幅 1,775 × 全高 1,550 mm
ホイールベース|2,570 mm
トレッド(前/後)|1,575mm / 1,560 mm
最低地上高|110 mm
重量|1,260 kg
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池1個(96セル)
最高出力| 125 kW(170 ps)/5,200 rpm
最大トルク|250 Nm(25,5 kg)/100-4,800 rpm
駆動方式|RR
サスペンション(前/後)|ストラット / マルチリンク
ブレーキ(前/後)|ベンチレーテッドディスク
タイヤ(前/後)|155/70R19
0-100km/h加速|7.2 秒
最小回転半径|4.6 メートル
トランク容量|260-1,100リットル
最高速度|150 km/h
一充電走行距離(JC08)|229 km
価格|499万円

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3(レンジエクステンダー装着車)
ボディサイズ|全長 4,010 × 全幅 1,775 × 全高 1,550 mm
ホイールベース|2,570 mm
トレッド(前/後)|1,575mm / 1,540 mm
最低地上高|110 mm
重量|1,390 kg
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池1個(96セル)
最高出力(電気モーター)| 125 kW(170 ps)/5,200 rpm
最大トルク(電気モーター)|250 Nm(25,5 kg)/100-4,800 rpm
発電用エンジン|直列2気筒DOHC4バルブ
最高出力(発電用エンジン)| 28 kW(38 ps)/5,000 rpm
最大トルク(発電用エンジン)|56 Nm(5,7 kg)/4,500 rpm
駆動方式|RR
サスペンション(前/後)|ストラット / マルチリンク
ブレーキ(前/後)|ベンチレーテッドディスク
タイヤ(前/後)|155/70R19 / 175/60R19
0-100km/h加速|7.9 秒
最小回転半径|4.6 メートル
トランク容量|260-1,100リットル
最高速度|150 km/h
ハイブリッド燃費(JC08)|27.4 km/ℓ
充電電力使用時走行距離|196.1 km
価格|546万円

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