アウディ デザインの最前線 後篇|Audi
CAR / FEATURES
2015年4月2日

アウディ デザインの最前線 後篇|Audi

Audi|アウディ

クルマではない製品づくりからまなぶデザイン

アウディ デザインの最前線 後篇

アウディに招かれて筆者がたずねた同社の「コンセプト デザイン スタジオ ミュニック」は、新型車やコンセプトカーのデザインばかりを手がけているわけではない。時計、カバン、スキー、ピアノと、自動車とは何の関係のない工業製品も数多くデザインしている。その理由は何なのか? シンプルななかに力強い美しさを秘めた“アウディ デザイン”の数かずを眺めながら、彼らの意図を探ってみた。(前篇「ことなる2つが生み出すアウディ デザイン」はこちら

Text by OTANI Tatsuya

Photographs by AUDI AG.

リアルとヴァーチャルの混在

最初に紹介したいのは、映画「エンダーズ ゲーム」に登場する「アウディ フリート シャトル クワトロ」。これはOPENERSでも取り上げられたのでごぞんじの読者も多いだろうが、このSF映画のためにデザインされた「未来のクルマ」こそ、まさに「コンセプト デザイン スタジオ ミュニック」で生み出された作品なのである。


この“架空のモデル”はコンピューター グラフィックス上でしか存在しないため、どんな荒唐無稽なことだって実現できたはず。しかし、アウディのデザイナーたちは「いまから75年後の、アウディA7」をイメージして、このアウディ フリート シャトル クワトロをデザインした。


したがって、V8エンジンをフロントに搭載しているとか、クワトロの名前が付けられていることからもわかるとおり4輪駆動であるとか、デザイン作業にさいしては内部のメカニズムも考慮し、“ある程度”の現実性を折り込んだスタイリングとした。おもしろいのはホイールの造形で、見てわかるとおり冷却性の確保を念頭に置いたつくりになっている。これも内部の構造までしっかりかんがえたうえでデザインされたという。

Audi fleet shuttle quattro|アウディ フリート シャトル クワトロ 11

Audi fleet shuttle quattro|アウディ フリート シャトル クワトロ 13

いっぽうで、ボディパネルは空気抵抗を減少させるために前輪を覆うような形状となっているが、このままでは操舵ができないという根本的な問題を抱えている。もっとも、デザイナーたちはこの“欠点”に気づいていたが、それ以上にフロントホイールを覆った形状がユニークで好ましかったため、あえてそのまま残したという。


オースン・スコット・カードの原作で、ハリソン・フォードが主演する映画「エンダーズ ゲーム」は全米で2013年11月1日公開され、日本でも2014年1月にロードショーされる。


SF映画に登場する未来のクルマだけでなく、コンセプト デザイン スタジオ ミュニックは現実の製品もデザインしている。

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クルマではない製品づくりからまなぶデザイン

アウディ デザインの最前線 後篇 (2)

手掛けたデザインは多岐にわたる

たとえば、スキー。スポーツ用品メーカーとして名高いヘッド(HEAD)とのコラボレーションから生まれたこの“作品”は表面がカーボン地のブラック一色。そのテール部分には小さなシルバーのメタルプレートがはめ込まれていて、黒と銀の強烈なコントラストを生み出している。スキー板によくある大きなブランドロゴなどは一切なし。ただ、トップの部分に小さなフォーリングスが控えめに輝いているだけだ。

Audi × schedoni Luggage|アウディ × スケドーニ ラゲッジ 22

Bosendorfer Audi Model|ベーゼンドルファー アウディ モデル 25

フェラーリにレザーを提供していることで有名なイタリア・スケドーニ社とのコラボレーションから生まれた旅行用カバンもデザインはきわめてシンプル。直線的なエッジで構成されたその造形は、ミニマリズムの典型といっていい。ここでも強調されているのはレザーの素材感だけで、カラーはキャメル一色で模様はなし。フォーリングスは探さないと見つからないくらい小さい。


写真はあくまでもミニチュアだけれど、アウディはオーストリアのベーゼンドルファーと共同でコンサート用のグランドピアノを開発したこともある。これは、ピアノの“フタ”に相当する部分が優雅な曲線を描きながら床まで大きく伸び、脚の機能も果たすというもの。


シンプルだけれど力強い造形で、派手ではないが一度見たら絶対に忘れられないくらい個性的なスタイリングだ。しかも、音響面ではベーゼンドルファーの高い要求を満たしているというから驚く。

Erwinsattler Tableclock by Audi design|エルウィン サトラー テーブルクロック by アウディ デザイン 31

Audi Table Hockey|アウディ テーブル ホッケー 40

ミュンヘンの高級時計メーカーであるエルウィン サトラーのためにデザインした置き時計は、とてもクラシックなたたずまい。ただし、ガラスケースをささえるスペースフレームのような支柱はルテニウムという貴金属でコーティングされており、気品あるハイテク イメージが漂う。時計のメカニズムがガラス越しに見えるのも、テクノロジーを大切にするアウディのフィロソフィーを反映しているといえるかもしれない。

そのほかにもテーブル ホッケー ゲーム、会議用のテーブルなどもアウディ デザインチームは手がけているが、どの作品にも共通しているのはデザインがシンプルで、素材の良さ、作りの精巧さがダイレクトに伝わってくること。そのコンセプトは、外観こそことなるものの、どこか遠くでアウディの市販車とつうじているような気がしてならない。

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クルマではない製品づくりからまなぶデザイン

アウディ デザインの最前線 後篇 (3)

アウディ デザインをもたらす背景

なぜ、彼らはこのような作業をおこなっているのだろうか?


「コンセプト デザイン スタジオ ミュニック」のあるスタッフは、次のように語った。

「最大の理由は、このようなデザイン作業から“学びとる”ことにあります。自分たちがつくったことのないさまざまな分野の製品をデザインすることで、デザイナーとして学べることはたくさんあります。それらをいつか自動車のデザインにもフィードバックすることが、このプロジェクトの最大の狙いです」


「また『美しい』、『素晴らしい』とお客様におもっていただける製品をお届けすること。そして、お客様が『この製品はどこのものだろう?』とおもって調べていただいたときに、アウディがデザインしたとわかる。すると、アウディというブランドにたいするイメージがさらに向上するでしょう。だから、アウディのロゴは目立たなくていい。探していただいて見つかるくらいが、ちょうどいいのです」

Audi fleet shuttle quattro|アウディ フリート シャトル クワトロ 05

コンセプト デザイン スタジオ ミュニックはインゴルシュタットのデザイン部門とも密接に連携しており、彼らが得たアイデアやノウハウは順次、「アウディのクルマ」にも生かされているという。

前篇「ことなる2つが生み出すアウディ デザイン」はこちら

           
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