休日にレース観戦を楽しむという選択|Audi
Audi Super GT Fuji Round|アウディ スーパーGT 富士ラウンド
休日にレース観戦を楽しむという選択
アウディのレースへの取り組み
現在、日本一の観客動員数を誇る自動車レースである「スーパーGT」。この人気のレースで「R8 LMS」を走らせる2つのチームをサポートするアウディを取材した。そこではチームのサポートだけではなく、日本でのモータースポーツ全体を盛り上げようと、アウディがおこなう様々な取り組みを目にすることができた。自動車レースという「イベント」が、今、大きくかわりはじめている。
Text & Photographs by OTSUKI Takuma(OPENERS)Photographs by OKADA Kazuyuki(OPENERS)
国内最高峰のレースを戦う2台のR8
いわゆる「ハコ車レース」と呼ばれる、クローズドボディのレーシングカーが競いあう自動車レース。それが「スーパーGT」だ。
ドイツにおける「ドイツツーリングカー選手権(DTM)」や、FIA(国際自動車連盟)が管轄する「世界ツーリングカー選手権(WCTT)」などと同様に、競技車両はすべて、市販車をベースにして製作されているのが特徴。市販車をベース、モチーフにする、という点では、アメリカの「ナスカー(NASCAR)」もこれに近い存在か。
上記の各レースともに開催地域で絶大な人気を得ているという事実を見れば、日本における「スーパーGT」の人気もまあ頷けるというもの。日頃見慣れたクルマ、または名前をよく耳にするクルマが、サーキットで競いあうというのは、人気を得るためのひとつの要素なのかもしれない。
このレースでは、「GT300」というクラスに、ふたつのチームからアウディ「R8 LMS」が2台参戦している。それがゼッケン21をつけた「一ツ山レーシング」の「ZENT Audi R8 LMS ultra」と、ゼッケン30、「apr」の「IWASAKI apr R8」だ。
一ツ山レーシングは、今シーズンから戦闘力を増した最新型の2013年モデルを投入。いっぽうのaprは、より熟成を増した2012年モデルで富士の500キロをたたかう。
GT300クラスはさらにふたつのカテゴリーにわかれている
スーパーGTは現在、大きく分けると、「GT500クラス」と「GT300クラス」とにわかれている。性能のことなる2つのカテゴリーのレーシングカーが、おなじコースを同時に走るという珍しい「混走レース」となっている。互いのトップチーム同士であっても、1周ごとのラップタイムに数秒の差がでるため、すぐにGT500とGT300入り乱れての大乱戦となる。これがSUPER GTの魅力のひとつだ。
また、出走台数の多いGT300クラスでは、この中でさらに「JAF-GT規格」と「FIA-GT規格」という、ことなるふたつの規格のレース車両がエントリーしている。
JAF-GTの車両は改造範囲が広く設定されており、ボディやシャシーに大胆に手をくわえることができるうえ、「ABS」や「TCS」といった電子制御装置の使用が許されている、いうなれば「ハイテクマシン」。パワー的にはFIA-GTよりも低いため、直線スピードでは劣るものの、大胆な形状の空力ボディは強力なダウンフォースを発生し、コーナーリングスピードではFIA-GTを凌ぐ。また燃費がよく、タイヤも長持ちするため、長距離を走るレースでは終盤までコーナーリングが安定し、有利であるとも言われている。
いっぽうのFIA-GTはその名の通りFIAが定めている世界規格で作られているマシン。こちらは改造範囲が狭く、ボディやシャシーに大幅な改造を施すことができない。よって比較的、元の車両の原形を保っているものが多いのが見た目の特徴だ。エンジンパワーにかんしては格上のGT500クラスに匹敵する数値を記録するマシンもあり、直線スピードではJAF-GTを圧倒するものの、空力性能ではやや劣るため、コーナーリングスピードではおくれをとる場合がある。タイヤの摩耗が即、旋回性能に直結するため距離が長いレースの終盤に苦戦してしまう。
参戦する2台のアウディ R8は、ともにFIA-GT車両。レース距離500kmという長丁場のレースで、優位に立つJAF-GTのマシンたちを相手に、どのようにたたかうかが注目された。
Audi Super GT Fuji Round|アウディ スーパーGT 富士ラウンド
休日にレース観戦を楽しむという選択
アウディのレースへの取り組み(2)
レースを楽しみ、しかしそれだけに終始しない
今回のスーパーGTで、アウディは去年の10月に開催された「FIA 世界耐久選手権(WEC)」の時とおなじく、ピットビル内のクリスタルルームに「アウディホスピタリティ」を用意。アウディの顧客やメディアをレースに招待した。そこではドリンクやランチ、スイーツの提供がされたほか、当日決勝レースに臨む「チームapr」の岩崎 祐貴選手やファイルーズ・ファウジー選手をクリスタルルームに招いてのトークショー。また、レースがスタートしたあとも、プロドライバーによるレースの実況や解説など、来場したアウディファン、アウディユーザーをもてなすサービスがなされていた。
貴重な体験ができるというのもこのプログラムの魅力の一つ。アウディスタッフの案内による、各アウディチームの「ピットツアー」や、午後のスーパーGT出走直前におこなわれる「グリッドウォーク」がそうだ。スタッフ先導のもととはいえ、一般客は立ち入りが制限される区画を訪れ、ドライバーたちとの記念撮影や、チームのエンジニアやメカニックに直接話を聞くことができるのだ。
この日は大サービスとばかりに、ピットツアー中にマシンに手が届くほどの距離での、エンジンスタートのパフォーマンスまで披露してくれた。これまで聞いたことがないような凄まじいまでのエキゾーストノートに、ピットツアー参加者は大興奮。耳をふさぎ、驚きつつも、ただただ笑うしかないといった様子が印象的だった。ちなみにこの時のためか、アウディでは事前に招待者全員にイヤーマフ(耳栓)を配っていた。いたれり尽くせりである。
500kmという、耐久レースにも匹敵する距離を走るスーパーGT富士ラウンドでは、当日のメインイベントとなる決勝レースだけでも、トップのマシンがチェッカーを受けるのに3時間ほどの時間を要する。そもそも、スーパーGTの決勝レースのスタートが14時と遅い。朝から富士スピードウェイにやってきている多くの観客は9時間前後の時間をこのサーキットで過ごすことになるのだが、そういった観客たちを飽きさせないといった工夫が随所に凝らされている。
主に「サーキットにはレースそのものを見に来ている」というような、根っからの自動車レース好きの人々にとってうれしいのはサポートレースの存在だ。スーパーGTでは決勝レースの前に「GAZOO Racing Netz Cup Vitz Race」と「Porshe Carrera Cup Japan 2013」と言うふたつのレースが開催される。いわゆる「前座レース」と言うやつだ。
スーパーGTのフリー走行とウォームアップランも入れれば、ほぼすべての時間帯で、なにかしらのマシンがコース上を走っているような状態だ。これなら「レースをたくさん見たい」というファンも満足するはずだ。
もう少しライトに、自動車レースを「イベント」として楽しもうという人々にとって、楽しみのひとつになるのでは……というのは、メインスタンド裏に設置されるイベントスペースだろう。特設ステージや、昨今テレビなどでも取り上げられる「B級グルメ」に代表される食べ物の屋台、レースグッズを扱う売店、そして各自動車メーカーのブースなど、ジャンルはさまざまだ。これらを巡るのもなかなか楽しいだろう。レースのことがよくわからない人が足を運んでも、おそらくはここだけで1日楽しめるほどの規模だ。
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休日にレース観戦を楽しむという選択
アウディのレースへの取り組み(3)
今度はサーキットを試乗会場に
仮設テントやステージカーなどで比較的コンパクトなブースを作るメーカーが多いなか、アウディは、ここにスペースの端から端まである超大型ビジョンを備えた、ひときわ立派で、またひときわ目立つブースを構え、そのなかに「R8 GTスパイダー」や「RS4 アバント」などを展示。にぎわいを見せていた。
驚くべくはこのブースの裏手に、ずらりと試乗車を並べ、富士スピードウェイの周辺道路で実際にアウディのラインナップを実際に運転することができる“試乗会”までおこなっていた。前回のWECではサーキットのイベントスペースをショールームのように仕立てたアウディは、今回サーキットを試乗会場にしてしまったのだ。
注目度は高く、予約は早い段階で限定数に達し、決勝レースが中盤から終盤に差し掛かった頃には、すでに受付カウンターに申し込みが終了した旨を告げる札がかけられていた。これにはアウディの担当者も予想以上の反応に驚いたという。話をきいていて面白かったのは、家族連れが多く訪れたそうだが、まず奥さんがアウディに興味を示し、旦那さんを説得して試乗にこぎつける……というケースが多かったのだという。
女性もまた比較的多く、アウディを魅力的に感じているのだ。
この日、展示した車両のうち2台が「R8」(一台はGTスパイダー)というスーパーカーだったアウディのブースには終始子供の姿が多く見られたのも印象的。最初のうちこそ施錠されていたものの、午後に入り車内に乗り込んでよいとなると、我先にと子供たちが運転席に収まる姿に「ああ、子供たちは今も昔もやっぱりスーパーカーが好きなんだな」とおもってしまう。
こういう子供のころの経験はすごく大事なんだろうとおもう。この日この時、アウディR8のドライバーズシートに座ったときのことをこの子たちはずっとおぼえているんだろう。ひいてはそれが、子供から若者に成長した彼ら彼女らがクルマにあこがれるか、クルマをほしがるか、あるいは否か。そういう「分岐点のひとつ」になるわけだ。
子供が子供のうちに、憧れをもつための夢のクルマに触れあう事のできる機会を、こういうところに設けると言うのは、じつは結構大切なことなのかもしれない。どこかの誰かが、街でとおり過ぎるアウディを見かけたとき「そういえば子供の頃、家族と行ったレース場で……」と、思い出してくれる、そのときのために。
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アウディのレースへの取り組み(4)
客層がかわった? いや、客層が増えたのだ
サーキットに来て、まず気づくのは、前述のとおり子供連れの家族が多いこと。確かに昔から子供連れで観戦に来る家族もいたかもしれないが、ここ数年、レース観戦でサーキットを訪れる私が毎回おもうのはとにかく子供が多い。メインスタンド裏に位置するイベントスペースなどは遊園地もかくやの賑わいだ。
それとともに最近目立ってきたのが「痛車」と呼ばれる系統のレースマシンの参戦だ。ゲームやアニメのキャラクターが車体に大きく描いてあるクルマのことを概ね指す。レースマシンにおいてはゲーム会社やアニメ制作会社、あるいは出版社や代理店など、そのキャラクターを扱う会社がスポンサーにつくと、このようなデザインのマシンになることが多い。
こうしたマシンたちにもまた、多くのファンが付く。しかしそれは例えばマシンやメーカー、ドライバーたちに付く、旧来のレースファンとはやや趣のちがうファンたちだ。そう、彼ら彼女らはそのマシンに描かれたゲームやアニメのキャラクターたちのファンなのである。
そんな彼らもまた、サーキットに足を運んでチームを応援してくれる。以前のサーキットでは見かけることのなかったファン層だ。各チームのとりくみによって、あたらしいファンの獲得に成功した例だ。
そんな「痛車系チーム」の中に、「個人スポンサー」という、制度を採用したチームもある。とある人気キャラクターのファンの有志、ひとりひとりにチームを支えるスポンサーになってもらうというシステムだ。
「ファンと共に走るレーシングチーム」を合言葉にシーズンを戦うこのチームは、ひと口3,000円からスポンサーになれるという、手ごろな価格設定も相まって、昨シーズンには1万数千人規模の個人スポンサーを獲得することに成功している。
こうして「応援するチーム」が「ともに戦うチーム」となることで、よりファンとチームとの距離が縮まる。応援にも熱が入るし、そのチームが勝った時の嬉しさもひとしおだろう。そんなファンのおもいもあってか、たとえばこのチーム、実は速い。優勝経験があるばかりか、なんと2011年シーズンのシリーズチャンピオンだったりもする。今日日痛車も侮れないほどに速いのだ。これならファンも応援し甲斐があるだろう。
旧来のモータースポーツファンは、今でもかわらずサーキットに足を運び、レースの観戦を楽しんでいる。またそのいっぽうで、あらたなファンたちもまた、サーキットにやってきて、レースを「イベント」として楽しんでいる。どちらも正しいモータースポーツの楽しみかただ。その場所で間違いなく双方が共存している。従来とファン層がかわったのではない。従来のファンたちと共に、レースを楽しむあらたなファン層が「増えた」のだ。
日本のモータースポーツ人気は徐々にだが、息を吹き返しはじめている。
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休日にレース観戦を楽しむという選択
アウディのレースへの取り組み(5)
華やかなり! 決勝レースのスタート前
13時を過ぎると、いよいよスーパーGT決勝レースのスタート時間も近づいてきて、サーキット全体の雰囲気がかわりはじめる。プレスルームにいたカメラマンたちが臨戦態勢で撮影ポイントに向けて出発し、スタートの瞬間を見ようと、イベントスペースに行っていた観客たちが続々と正面スタンドに戻ってくる。
このタイミングでグリッドウォークの時間となる。ここでもまた、アウディのスタッフ先導のもと、招待客らは決勝グリッド。つまり本コースに立ち入ることを許される。
ウォームアップランを終え、臨戦態勢を整えたマシンたち。熾烈なバトルに挑んでいくドライバーの、精神集中した恐いまでの面持ち。そして華やかなレースクイーンの笑顔と。そのアンバランスさはもはや究極の域にある。その緊張感たるや並ではなく、それを感じるためにはこの場所に立つ以外、手段はない。ドライバーたちにカメラを向けるのを一瞬ためらってしまうくらいのある種の「壁」のようなものの存在を、確かに感じる。