至高のスーパースポーツ マクラーレンP1はこうして生まれた|McLaren
McLaren P1|マクラーレン P1
至高のスーパースポーツ
マクラーレン P1はこうして生まれた
MP4-12Cを生み出し、スポーツカーブランドとしてあらたなる第一歩を踏み出したマクラーレンの、フラッグシップモデルとして登場した「P1」。ジュネーブショーでワールドプレミアを飾った至高のロードレーサーを生み出した男たちに、大谷達也氏がインタビューをおこなった。
Text by OTANI Tatsuya
Photographs from Geneva by MOCHIZUKI Hirohiko
なぜP1という名前に?
マクラーレンといえば、よくいえば几帳面で真面目、悪くいうと杓子定規で融通が利かない集団のようにおもえるが、フラッグシップモデル“P1”の発表に際して取材したプログラムディレクターのポール・マッケンジー、それにデザインディレクターを務めるフランク・ステファンソンのふたりは明るく豪快で、よく笑う。とにかく、同社のイメージを覆してくれるようなキャラクターの持ち主なのだ。
たとえば、マッケンジーにP1の名前の由来を聞くと、こんな答えが返ってくるという調子である──
「とにかく短い名前を探していた。マクラーレンが昔つくったF1ロードカーみたいに、簡単な名前を探していたんだよ。その点、P1は素晴らしい。もともとこれはレースでいうポジション1、つまり1番=優勝という意味なんだ。それと、かつてのF1ロードカーも開発中の社内コードはP1だった。だから、F1との関係もこれで表現できる。まあ、とにかく短い名前がいいとおもってね。P1は本当にいいよ。ガハハハハハハ……」
ひょっとすると、MP4-12Cにたいしてモデル名が長すぎるという声があったのだろうか?
「たしかに、MP4-12Cを長いという人もいるらしい。だからP1では短くしたんだけれども、P1はフラッグシップだから短くしたんで、今後の車名をすべて短くする必要はないと考えている。もっとも、MP4/12Cスパイダーはちょっと長すぎるから、我々は12Cスパイダーって呼んでるけどね。ガハハハハハハ……」
とまあ、万事がこの調子なのである。
すべてにおいてP1はベストを目指した
P1のプロトタイプを公開した昨年のパリサロンで、マクラーレンはP1について「公道においてもサーキットにおいてもベストなドライバーズカー」と説明した。もっとも、“ベストなドライバーズカー”では表現がややあいまいなので、マッケンジーにもう少し具体的に説明してもらうことにした。
「パフォーマンス、ドライバビリティ、コンフォート、全部だよ。そのすべてにおいてP1はベストを目指したんだ。もっとも、公道には公道用の、サーキットにはサーキット用のサスペンションが必要になる。そこで、我々は公道用にもサーキット用にもアジャストできるサスペンションを開発したんだ」
これがレースアクティブ シャシー コントロール(RCC)と呼ばれるもので、これはスイッチひとつでスプリングレート、ダンピングレート、車高をノーマル、スポーツ、トラック、レースの4段階に切り替えるシステム。といっても、エアサスペンションを用いるのではなく、通常のコイルスプリングとダンパーを基本としているところが目新しい。
このうち、ダンパーはMP4-12Cに搭載されたプロアクティブ シャシー コントロール(PCC)に近いもので、ダンピングレートの調整方法は基本的におなじ。
いっぽう、スプリングにはプログレッシブレートを用いることで、車高の調整がそのままスプリングレートの調整に結びつくようになっている。これにより、レースモードではスプリングレートがノーマルモードの300パーセント増しとなり、公道でもサーキットでも最高のパフォーマンスを発揮するという。
McLaren P1|マクラーレン P1
至高のスーパースポーツ
マクラーレン P1はこうして生まれた(2)
ロードカーを超えた動力性能
公道とサーキットで切り替わるのはサスペンションだけでなく、エアロダイナミクスも同様だ。マッケンジーが語る。
「P1にはアクティブなエアロダイナミクスを採用した。これも可変式システムの一種で、公道用のモードではリアウィングの高さはボディから最大120mmだが、レースモードを選ぶとこれが最大300mmになる。また、レースモードでは車高が下がるためにアンダーフロアと路面の間でグランドエフェクトが生じ、リアウィングのなどの効果とあわせて合計600kgものダウンフォースを発生するんだ」
この600kgというダウンフォースはル・マン24時間を戦うスポーツカー並みのレベルで、このため、コーナリング時の最大横Gはロードカーとしては驚異的な2Gに達するという(通常のロードカーはほぼすべて1G以下で、どんなに高性能なスポーツカーでも1.5Gに達することはないとされる)。
いっぽう、MP4-12C用3.8リッターV8ツインターボエンジンの過給圧を2.2barから2.4barに高めて737psを達成した最高出力は、IPAS(アイパス)と呼ばれる一種のハイブリッドシステムにより916psまで引き上げることができる。
「この電気モーターは素晴らしいスポーツドライビングを可能にするんだ」
とマッケンジー。
「ターボエンジンではよくターボラグが問題になるが、即座に立ち上がる電気モーターのトルクを利用すれば、これを解消することができるのさ」
そのほかにもステアリング上に取り付けられたIPASボタンを押すことで、ドライバーはいつでも260Nmの“エクストラトルク”を手に入れることができる。モーターがアシストできる時間はバッテリーの充電状態によるが、マッケンジーによれば「30秒かもしれないし、ことによると1分かもしれない」という。
また、バッテリーに充電したエネルギーを利用すれば、エンジンを停止させて完全なEV走行を行うこともできる。
「航続距離は10kmほどだが、この状態でも150km/hくらいまで出るんだ。ガハハハハ……。また、バッテリーは外部電源から充電するプラグインも可能で、満充電に必要な時間は2時間ほどだよ」
McLaren P1|マクラーレン P1
至高のスーパースポーツ
マクラーレン P1はこうして生まれた(3)
理由のないデザインは好きじゃない
このマッケンジーにならぶ、いや、おそらく彼を上まわる豪傑とおもえるのがデザイナーのステファンソンだった。なにしろ、彼の発言はとてもここでは書けないようなことばかり。そのなかで、ひとつだけ特別に披露したいエピソードがある。
実は、パリサロンで公開されたプロトタイプとジュネーブショーに登場したプロダクションモデルでは、前輪の直前にエアインテーク用のダクトがあるかないかだけで、それ以外のデザインはすべて共通とされている。
通常、スタイリング優先でデザインされたプロトタイプがそのまま量産化されることは滅多になく、その意味からいえばP1プロトタイプのデザインは大成功だったといえる。そこでステファンソンに「プロトタイプがそのままプロダクションモデルになったことに満足していますか?」と訊ねたところ、こんな答えが返ってきたのだ。
「マクラーレンでデザインを担当しているのは私を含めて3人だけ。だから、プロダクションカーとまったく関係ないプロトカーをわざわざデザインしている余裕はない。それに私は、実際に使われているテクノロジーが忠実に反映されたデザインが好きなんだ。だから、デザイン作業中は常にエンジニアたちとディスカッションしているし、パリで公開されたプロトタイプはすでに技術的な要求をすべて満たしていた。つまり、プロトタイプはあの状態からもはや変更する必要がなかったんだ」
醜い動物など存在しない
ステファンソンもインタビュー中に何度も爆笑していたが、その感性は繊細で、自然の美しさを何よりも大切にすると語っていた。
「私は樹木や葉、昆虫や動物などの絵に囲まれてデザイン作業をおこなう。それらは数十万年のときをかけて磨かれてきたもので、すべて美しい。そもそも醜い動物というものは、この世の中には存在しないんだ」
そんなステファンソンの座右の銘ともいえるのが、次の言葉である。「Form follows function(外観は機能に従う)とよくいうが、間違っている。本来はForm equals faunction(外観と機能は等価)でなければいけないんだ」
おなじジュネーブショーで登場した「ラ フェラーリ」やランボルギーニ「ヴェネーノ」にくらべて、ステファンソンの手がけたP1が地味に映るのは仕方ないところ。けれども、長い年月が過ぎ去ったとき、より美しいと素直におもえるのはP1のほうだと、私は密かに信じている。
McLaren P1|マクラーレン P1
ボディサイズ|全長4,588×全幅1,946×全高1,188(レースモード時1,138) mm
ホイールベース|2,670 mm
トレッド 前/後|1,658 / 1,604 mm
重量|1,395 kg
エンジン|3,799cc V型8気筒 ツインターボ
最高出力| 737 ps / 7,500 rpm
最大トルク|720 Nm / 4,000 rpm
モーター出力|179 ps
モータートルク|260 Nm
システム最高出力|916 ps
システム最大トルク|900Nm
トランスミッション|7段オートマチック(SSG)
駆動方式|MR
タイヤ 前/後|245/35ZR19 / 315/30ZR20
ブレーキ|カーボンセラミックディスク
最高速度|350km/h(電子制御による)
0-100km/h加速|3 秒以下
0-200km/h加速|7秒以下
0-300km/h加速|17秒以下
CO2排出量|200g/km以下
価格|86万6,000ポンド(約1億2,486万円)