アストンマーティンの現在とこれから|Aston Martin
Aston Martin|アストンマーティン
100周年を迎えたアストンマーティンについてあらためて聞く
アストンマーティン CCO マイケル・ヴァンダー・サンデ氏 インタビュー
アストンマーティン100周年を祝うべく、来日したアストンマーティンのチーフコマーシャルオフィサー マイケル・ヴァンダー・サンデ氏に、OPENERSは、あらためてアストンマーティンとはなにかを質問した。
Interview & Text by SUZUKI Fumihiko(OPENERS)
Live Photographs by OTSUKI Takuma(OPENERS)
つぎは200周年を
──サンデさんは、どういったお仕事をなされているのかをまずお聞かせください
わたしは、ワールドワイドでコマーシャル活動の全般を統括しています。クルマの販売、カスタマーサービス、ディーラーの管理、新車のローンチに関係したさまざまなこと、そして、お客様がアストンマーティンのクルマをたのしむためのお手伝い、これを統括するのがわたしの仕事です。
──日本は世界的に見て、どういう市場なのでしょう?
とても重要な場所です。もっともっと精力的な展開をおこないたい市場です。クルマが好きなかたがおおいですし、クルマのことをよく理解していらっしゃいます。そして、アストンマーティンが愛されている国です。だから、もっと多くのかたに、我々を知っていただきたい。
今年はとくに、アストンマーティンは100周年で、3つのニューモデルが登場します。この3モデル、「DB9」、「ヴァンキッシュ」、「ラピードS」は日本でも高く評価されるにちがいありませんから、日本での広報活動は重要です。イベントや、ニュースなどでの話題づくり、そして、日本のみなさんと、アストンマーティンのストーリーをシェアしていきたいです。
──たとえば、どんなことを企画してますか?
多少はヒミツもありますが……そうですね、企画の話をするまえに、すこし、質問への直接的な解答からそれたほうがいいかもしれません──
100周年という記念すべき年に、3つのニューモデルを投入。これは、これまでアストンマーティンにふれたことのない方や、しばらくとおざかっていた方にも訴えかけるものだとおもっています。
そもそも100周年を迎えられるブランドというのは、けっして多くはありません。我々にとってもエキサイティングです。100周年は、この100年をふりかえるというだけのものではありません。
次の100年に向けた取り組みも必要です。200周年がまっていますからね。アストンマーティンという、すばらしいブランドをしっかりと残していかないといけません。つまりアストンマーティンの過去、現在、未来にとってこの100周年は重要なのです。
この100年にはいくつかのステージがありましたが、アストンマーティンとはなにかといえば、それは世界でもっとも美しいGTスポーツカーのブランドであるということです。これは1950年代、60年代のDBシリーズにはじまり、最新の「DB9」にまでつながっている伝統です。
DB9はたんに、世界一美しいアストンマーティン、というだけではなく、DBファミリー、長い歴史をもつ、美しいスポーツカーの家系の最新の一員なのです。ですからDB9こそ、100周年にふさわしい、アストンマーティンの核心です。
Aston Martin|アストンマーティン
100周年を迎えたアストンマーティンについてあらためて聞く
アストンマーティン CCO マイケル・ヴァンダー・サンデ氏 インタビュー(2)
1,000のアストンマーティンがロンドンに集結する
イベントでいえばレース、たとえばニュルブルクリンク24時間やル・マン24時間レースには今年も出場します。アストンマーティンは、レースの世界でも強いですよ。
今年は、ル・マンに過去最大の5台のアストンマーティンが参戦します。期待していただきたいです。アストンマーティンのクルマは、バランスにすぐれ、すばらしく速く、そして、公道にもサーキットにも簡単に適応できてしまう。レースカーもロードカーとおなじように操縦できる。これは自慢です。レースに勝てばもっと自慢できますね。
ほかに、いま公表できる、大きなイベントですと、世界中から1,000台のアストンマーティンが7月にロンドンに集結します。日本、アメリカ、ヨーロッパと、自走してくるクルマも多くある予定です。
また、伝統のヒルクライム競技も主催する予定ですし、小さなイベントももちろん開催していきます。日本でもいくつか予定されていますので、期待してください。
しかし、こういったレース、ニュース、イベントよりも重要なのが、クルマです。
美しいクルマにフェイスリフトは要らない
さきほど、「DB9はアストンマーティンの核心」といいましたが、アストンマーティンらしいクリーンな形状、使い勝手がよく、運転しやすく、乗り心地がよく、かつ速い。これは約50年前から、DB2、DB3、DB4、DB5……とつづいた伝統です。
これまでのDBファミリーを一列にならべてみてください。いかにこのファミリーが合理的に変化していっているかがわかるはずです。
ですから今回のアップデートしたDB9も、見た目にはそれほど大きな変化はありません。
すでに美しいクルマを、もっと美しく変えるなどということはできないからです。クルマのマイナーチェンジをフェイスリフトといいますが、すでに美しい女性は、フェイスリフトなんかする必要はないでしょう? それとおなじです。今回は、あたらしいテクノロジーを投入しています。サスペンション、エンジンの改良、環境性能、安全性能の向上、そして、世界第一級のスポーツカーでいつづけるための走行の性能の向上です。この、あたらしいDB9が100周年にあたっての、ひとつめのアクティビティです。
ヴァンキッシュは夢のスーパーカー
つぎに、エキサイティングなヴァンキッシュ。10年前の初代ヴァンキッシュは、世界的に評価されましたが、とくに日本では好評を得ました。
今回のヴァンキッシュは究極のクルマ。ベストを望まれる方への、夢のクルマです。高級で、それに見合う高い価値があり、ハイテク。カーボンファイバーのボディ、あたらしいエンジン、あたらしいインテリア、ニューテクノロジー、570psの最高出力──ヴァンキッシュは、究極のアストンマーティンです。位置づけとしては、クラシカルで美しいDB9にたいして、アヴェンギャルド、あるいはエクストラヴァガント。でも美しいでしょう?
ラピードは第2世代へ
そして、先日のジュネーブモーターショーで発表したばかりなのが「ラピードS」。第2世代のラピードです。自信を感じさせるあたらしいデザインの大きなクルマ。実用的なスペースをもった4ドア車です。いっぽうで、最高出力550psのあたらしいエンジンがすばらしいパフォーマンスを実現し、3つのセッティングを選択できる電子制御のサスペンションが搭載されています。
しかし、テクノロジーを云々するだけではアストンマーティンとはいえません。
Aston Martin|アストンマーティン
100周年を迎えたアストンマーティンについてあらためて聞く
アストンマーティン CCO マイケル・ヴァンダー・サンデ氏 インタビュー(3)
クラフツマンシップこそアストンマーティンの誇り
アストンマーティンは手づくりの伝統をもつ、クラフツマンシップが生み出すクルマです。それを証明すべく、100周年を記念して400台の特別なエディションを現在製造中です。DB9、ヴァンキッシュ、ラピードS、ヴァンテージでそれぞれに100台づつ。
この記念エディションでは、ボディペイントが、ツートーンです。しかし、2つの色の明確な境界線があるのではなく、徐々に色がかわっていきます。難しく、時間のかかる塗装です。そして、かがやくシルバーのバッヂと、そのバッヂの、特殊な透過効果のあるエナメルの塗装。普通は平らな金属のバッヂなのですが、そこに一部透明のエナメルが塗られていて、その透明な塗面をとおしてバッヂをみると、ほんとうに美しいですよ。これは職人芸のなせるものです。
それから、わたしのボスのウルリック・ベッツが、年末に「CC100」というたった2台のコンセプトカーを発表します。
こういうことは将来にわたってもつづけていきたいです。あたらしいことに挑戦していきたいんです。いまあるものをより良くしていくだけでなく。
3年前には「One-77」というスーパーカーを、昨年はアストンマーティンとザガートのコラボレーション50周年を記念して「V12 ザガート」を発表しました。では来年は? 決まっていません。なにをやりましょうか? わたし自身も、今度は何をしようかと、楽しみなんです。
アストンマーティンの大きなアドバンテージは、独立したブランドだということです。何をやるのにも、大きなグループの一員という会社とはちがって、小回りがききます。そこは、我々が将来にたいして、大変ポジティブな理由にもなっています。
──将来といえば、いまやクルマはエコロジーへの配慮をいよいよ無視できません。環境にかんしてのアストンマーティンのヴィジョンはどういったものですか?
環境にかんする規制はどんどん厳しくなっていますから、我々もクルマの環境性能を改善していかなくてはなりません。お客様が望んでおられるのも、より環境性能が高く、同時にパフォーマンスも高いアストンマーティンです。
たしかに、環境性能と走行性能の両方をたかめるのは簡単なことではないですね。
しかし、我々のあたらしいV12エンジンは、可変バルブタイミング、ノックセンシング、精密なエンジンマネージメント、ホローカムシャフトをはじめとした様々な新技術の採用によって、10パーセントの出力向上、10パーセントのトルク向上を果たしながら、10パーセントのCO2排出量低減を実現しています。
もちろん、1リッターのガソリンで100km走るヴァンキッシュが明日いきなり完成します──などということはありませんし、そういうクルマを、いま、お客様も望んではいないでしょう。
しかし、むこう数年は、環境性能と運動性能の双方を高める技術のアテがあります。これは、やらなくてはいけないことですし、できる可能性のあることですから、我々はやるとお約束しましょう
Aston Martin|アストンマーティン
100周年を迎えたアストンマーティンについてあらためて聞く
アストンマーティン CCO マイケル・ヴァンダー・サンデ氏 インタビュー(4)
アストンマーティンのアイデンティティ
──繰り返しになってしまうかもしれませんが、では、最後に、今日のアストンマーティンのアイデンティティとはなにかを、あらためて教えてください
アストンマーティンとは、パワー、ビューティ、ソウルです。
パワーとはもちろんパワフルなエンジン。しかしそれだけではありません。パワフルな決断。クルマをうむにあたっての方向性の決断という、知的な面でパワフルであること。たとえば、運転がしやすいように、エンジンを前におき、ギアボックスを後ろにおく、理想的な50:50の重量バランスを維持すること、ヴァンキッシュでは大胆な軽量化技術を採用したことがそれです。パフォーマンスで、そしてインテリジェンスでパワフルであることが、まずアストンマーティンのアイデンティティです。
ビューティはシンプルです。我々のクルマは、つねに世界でいちばん美しいGTスポーツカーでなくてはなりません。我々がアストンマーティンの美しさで妥協をゆるせば、もうアストンマーティンは何もかもおしまい。それぐらい美しさは重要です。
ソウルは説明がむずかしい概念です。
我々がソウルといって、いいたいのは、クルマを超越したなにか。人とクルマとの情緒的な絆です。
お客様が、まるで、クルマが、クルマというよりむしろ、自分の家族の一員であるかのように感じること。これは言うのは簡単ですが、難しいことです。クルマには性格があって、その性格がお客様に愛されないと、人とクルマのあいだに絆は生まれません。
この3つがアストンマーティンのアイデンティティです。
究極のロードカーが必要ならばヴァンキッシュ。実用性の高いアストンマーティンがお好みならラピードS。アストンマーティンには色々なモデルがありますから、自身のライフスタイルにあわせて、お好みのアストンマーティンを選んでください。どのアストンマーティンも、いまいったパワー、ビューティ、ソウルの持ち主です。
──今回、DB9を運転する機会を持ち、実用性が高く、コンフォートで、とても運転しやすいから、リラックスしていられるのに、同時に胸が高鳴る、という体験をしました。率直で個人的な感想で恐縮ですが、ああ、クルマってこういうものだったな、このクルマと一緒に暮らしたいな、とおもいました
それが聞けてよかった。それこそが、我々の狙い、アストンマーティンの自動車デザインです。クリエイティブなドライバーとクルマとのつながりを実現しているのです。
最近では、ステアリングにかなりの力を注ぎました。ほかのほとんどのクルマよりも、アストンマーティンは、正確で、簡単で、運転している実感がつよいハンドリングだとおもいます。こういうところに我々の技術があらわれるのです。
またアストンマーティンには、クラシカルなクルマらしさがある。V12エンジンはやはりいまだに究極のエンジンです。サウンド、トルク、パワーカーブ、いずれにおいても自然吸気のV12エンジンに勝るエンジンはありません。我々はV12を可能なかぎりつくりつづけます。そして、理想的な50:50の前後重量配分のFR車であること。この駆動方式、重量バランスがもっとも気持ちがいいことに疑いはありません。
──本日はありがとうございました。