1リッターで100km走るVW「XL1」登場|Volkswagen
Volkswagen XL1|フォルクスワーゲン XL1
100kmを1リッター以下で走るフォルクスワーゲンのプロダクションモデル
フォルクスワーゲンAGは、21世紀のクルマとして開発をすすめていた超低燃費車「XL1」のプロダクションモデルをついに公開した。
Text by HORIGUCHI Yoshihiro(OPENERS)
21世紀のクルマ
21世紀のはじまりにあたり、フォルクスワーゲンの当時の会長であったフェルディナンド・ピエヒ氏が、日常のユーティリティをもちつつ2人乗り、それで100kmを1リッター以下の燃料で走れる“リッター カー”を製品化する、というビジョンを打ち立てた。
それを実現すべく、当時の最新素材や空力設計をもちいた初のコンセプトカーは、早くも2002年に登場。実際にピエヒ会長みずからがハンドルを握って公道を200km以上テスト走行したというのも話題になった。それは、2007年にはさらに進んだ技術をもちいた「L1」に進化したものの、空気抵抗の処理上、2人乗りとはいっても前後に乗るタンデム式で、残念ながら日常の便に耐えられるかどうかは微妙なクルマだった。
そしてことし、2013年に登場したのが「XL1」。実は昨年のカタール モーターショーですでにお披露目されているが、今回はプロダクションモデルとして発表された。
公表された燃費は0.9ℓ/100km。日本式の表記でいえば、111km/ℓだ。CO2排出量は21g/kmに抑えられる。
コンパクトなボディサイズは全長3,888×全幅1,665×全高1,153mm。これは、ポロの全長(3,970mm)よりも短く、ボクスターの全高(1,282mm)よりも低いサイズだ。乗員は2名で、シートを前後方向に若干オフセットして空間を活用するのは、「スマート」やトヨタ「iQ」などとおなじ手法。荷室は120リットルを確保している。
車両重量はわずか795kg。そのうちカーボンモノコック構造をもつボディだけでは230kgしかない。ほかのおもな重量物は、バッテリーやエンジンなどが227kg、ギア類が153kg、105kgが電装類という内訳だ。
パワートレインは最高出力35kW(48ps)、最大トルク120Nmを発揮する0.8リッター直列2気筒ターボディーゼルエンジンと、最高出力20kW(27ps)、最大トルク140Nmを発揮する電気モーターのハイブリッド。0.8リッターTDIエンジンは、ゴルフなどにも搭載される1.6リッター直列4気筒TDIを由来とするものだ。これに7段デュアルクラッチ(DSG)が組みあわされ、動輪であるリアアクスル上に配置される。
いっぽう、フロントに搭載されるのは5.5kWhのリチウムイオンバッテリーで、家庭用コンセントプラグからも充電可能な機能をそなえる、プラグインハイブリッドだ。
ディーゼルエンジンにモーターが加勢するブーストモードでは最高出力51kW、最大トルク140Nmを発揮し、0-100km/h加速は12.7秒。最高速度は160km/hでリミッターが作動する。もちろん、モーターのみで動作するEVモードもそなえており、満充電であれば50kmの走行が可能だ。100km/hでの定速走行では、わずか6.5kW/8.4psしか必要とせず、モーター駆動であれば1kmあたり0.1kWhしか消費しない。
これはつまり、自宅で充電し市街地を抜けるまではゼロエミッションで走り、郊外ではエネルギー効率の高いディーゼルエンジンを使うという想定で設定されている。
安価なカーボン製造技術の開発
XL1は軽量化を実現するために、ボディシェルをふくめ、内外装の素材にはカーボン素材(CFRP)をふんだんに利用しており、その量は全体の重量の22.5パーセント、169kgにもおよんでいる。このほか、素材別でみると、アルミニウムなどの軽合金が22.5パーセント、鉄やステンレスが23.2パーセント、そのほかが繊維やプラスチック類という構成要素であり、軽量素材が非常に多用されている。
パーツでみると、フロントのダブルウィッシュボーン式、リヤのセミトレーリングリンク式サスペンションやダンパー、ブレーキキャリパーはアルミ製。アンチロールバーはCFRP製、ホイールはマグネシウム製、ブレーキディスクはカーボンセラミックをもちいるなど、徹底した軽量素材がはかられる。
フロントウィンドウは厚さ3.2mmのラミネート加工された薄型ガラス、サイドウィンドウにはポリカーボネイトを採用。サイドウィンドウの上半分はいわゆるはめ殺しであり、フレームで仕切られた下半分のみがわずかに開く。
ドアはAピラーとフロントウィンドウ上端あたりの2点のヒンジで支持され、斜め前方に開くウィングドアが採用される。
XL1で軽量化のために多くもちいられるCFRP(カーボンファイバー強化樹脂)は、RTM(Resin Transfer Moulding)法という、あたらしい製造方法によってもたらされている。従来のCFRPは、カーボン素材と樹脂素材を積層させて形成したのちに真空中で高温で樹脂を溶かしこむという複雑な手法がもちいられており、手作業で作成しなければならず、低コスト化が困難だった。RTM法は、積層したカーボンファイバーを型の中にいれ、型の中を真空にしつつ熱した樹脂を吹き込んで浸透させる。この方法によりオートメーション化が実現でき、これまでよりも安価にカーボンファイバー素材が手に入るようになった。
ボディシェルであるカーボンモノコックは、レーシングマシンに使われているように、万一の事故の際にも生存空間を確保できるという堅牢性をもつ。そのうえで、XL1では前後にアルミニウム製のフレームが取り付けられており、これが衝突時の衝撃を大きくやわらげる効果をもつ。また、サイドからの衝撃にたいしても、ドア内にアルミ製のインパクトビームが内蔵されており、安全性を確保している。
空力最優先で造形されたボディ
低燃費を実現したのは、もちろん軽量化だけではない。見た目にも後輪が覆い隠されているのが目をひくが、上からみたボディ形状も前が拡がり後ろにいくほどすぼまる流線型で、フォルクスワーゲンはこれを“ドルフィン ボディフォーム”と説明する。また、空気抵抗を極力減らすために、突起物となるドアミラーをなくし、かわりにボディサイドに設置されるカメラがその役割をはたす。車体の裏側は空力のために平らにカバーされ、リヤホイール部分にデュフューザーがそなわる。その結果、クルマ全体のCd値は0.189を達成している。
タイヤはミシュラン製の転がり係数の高いいわゆるエコタイヤで、フロントには115/80R15というとてつもなく細いサイズのタイヤが、動輪である後輪でも145/55R16というサイズのものが装備される。
エクステリアは、フロントはいまのフォルクスワーゲンのデザインキーを踏襲した、横基調のグリルからLEDヘッドライトにつながるものが採用される。ただしXL1の場合には、こここはたんなるデザインであり、本当の空冷用の吸気はフロント下部からおこなわれる。これも電動のルーバーを備え、空力に影響を与えないよう必要に応じて最低限の範囲で開閉するという徹底ぶりだ。
XL1はフォルクスワーゲンのオスナブリュックGmbHで製造される。ここはかつてカルマン社の工場だったところで、現在は「ゴルフ カブリオレ」や新型「ボクスター」を生産している拠点だ。この工場のなかで、ラインではなく1台ずつフレームに載せられ、まるで手造りのような状況で製造される。
今回の発表はプロダクションモデルではあるが、車両や生産設備の情報以外、デリバリー時期や金額など具体的な数値はまだあきらかになっていない。
Volkswagen XL1|フォルクスワーゲン XL1
ボディサイズ|全長 3,888 × 全幅 1,665 × 全高 1,153 mm
ホイールベース|2,224 mm
トランク容量(VDA値)|120 リットル
重量|795 kg
エンジン|800 cc 直列2気筒 ターボ ディーゼル
ボア×ストローク|81×80.5 mm
最高出力| 35 kW(48ps)
最大トルク|120 Nm
モーター出力|20kW(27ps)
モータートルク|140 Nm
システム最高出力|51kw
システム最大トルク|140Nm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ(7DSG)
駆動方式|RR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン アンチロールバー付
サスペンション 後|セミ トレーリング リンク
タイヤ 前/後|115/80R18 / 145/55R16
最高速度|160 km/h(リミッター作動)
0-100km/h加速|12.7 秒
燃費(NEDC値)|0.9 ℓ/100km
CO2排出量|21 g/km
燃料タンク容量|10 ℓ
バッテリー容量|5.5 kWh