ベントレー コンチネンタル GT V8に試乗|Bentley
Bentley Continental GT V8|ベントレー コンチネンタル GT V8
ベントレーにくわわったあたらしい魅力
ベントレー コンチネンタル GT V8に試乗
ベントレーファミリーのあらたな一員、「コンチネンタル GT V8」がついに日本にも上陸した。OPENERSではすでに、スペインでこのクルマをテストした島下泰久氏による試乗記を掲載ずみだが、今回は国内試乗会において、姉妹モデルたるW12気筒エンジンの「コンチネンタル GTC」も用意され、比較試乗もかなった。たんにW12モデルのコンパクト版ではなく、W12とはちがう性格をもち、従来のベントレーファン以外の自動車ファンにもうったえかける魅力をもつと謳う、新世代のV8ベントレー。果たして、その魅力とは? 大谷達也が紐解く。
Text by OTANI Tatsuya
Photographs by ARAKAWA Masayuki
排気量ではベントレーをはかれない!
ベントレー コンチネンタルに4.0リッターツインターボ V8エンジンが追加された。
これにより、コンチネンタルのパワープラントは6.0リッターツインターボ W12エンジンとV8の2タイプから選べるようになった。
さらにいえば、ベントレーには“伝統の排気量”6.75リットルのツインターボV8エンジンがミュルザンヌに用意されているので、“フライングB”を冠したエンジンは現在3タイプがラインナップされていることになる。
でも、この3機種の上下関係は、他メーカーほどシンプルじゃない。モデルラインナップから考えれば、ミュルザンヌに搭載される6.75リッターツインターボV8エンジンがトップ・オブ・ザ・レンジであることはあきらか。けれども、ミュルザンヌよりカジュアルかつスポーティなコンチネンタルに、シリンダーの数が4つも多いW12エンジンを搭載していることが事情を複雑にしている。しかも、W12の最高出力はミュルザンヌのV8を63psも上まわる575ps。本当に“偉い”のはどちらなのか、いよいよわからなくなってくる。
けれども、視点を最大トルクに移すと、3機種のポジショニングが浮き彫りになる。
6.75リッターツインターボV8 1,020Nm/1,750rpm
6.0リッターツインターボW12 700Nm/1,700rpm
4.0リッターツインターボV8 660Nm/1,700rpm
おそらく、ベントレーはシリンダーの数や最高出力ではなく、最大トルクでそのクラス分けをおこなっているのだろう。そのことは、エンジンの特性として最高出力以上に最大トルクを重視するベントレーの思想のあらわれともいえる。
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ベントレーにくわわったあたらしい魅力
ベントレー コンチネンタル GT V8に試乗(2)
W12と極めて近い雰囲気だが
話をあたらしい4.0リッターツインターボV8に戻そう。その最大トルクを6.0リッターツインターボW12と比較すると、わずか40Nmしか差がないことに気づく。排気量は50パーセントもちがうのに、最大トルクはわずか6パーセント差でしかないのだ。このことは、あたらしい4.0リッターツインターボV8の設計が優秀であると同時に、上下関係でくらべたとき、6.0リッターツインターボW12と4.0リッターツインターボV8が極めて近いポジションにあることを意味している。
そのことを証明するかのように、6.0リッターツインターボW12を搭載するコンチネンタルGTと4.0リッターツインターボV8を積むコンチネンタルGT V8の外観上のちがいは、ほとんどない。コンチネンタルGT V8では、フロントグリルがブラック仕上げとなり、チンスポイラー部のエアインテークがF1のフロントウィングを想起させるデザインに改められているものの、そうと知らなければ、公道ですれちがったときにW12かV8かを瞬時に見分けるのはむずかしい。
ましてや、エグゾーストのテールパイプが“8の字”形になっていたり、“フライングB”マークがW12の黒ではなく赤となっていたりすることも、オーナーでもなければ気がつかないはず。そもそもモデル名はW12が「コンチネンタルGT」でV8が「コンチネンタルGT V8」。おもわず「あらたにV8が登場したことをベントレーはあまり知られたくないのではないか?」なんて勘ぐりたくなるくらい、V8独自の演出は少ない。
Bentley Continental GT V8|ベントレー コンチネンタル GT V8
ベントレーにくわわったあたらしい魅力
ベントレー コンチネンタル GT V8に試乗(3)
なんと楽しいベントレーであることよ!
しかし、実際にステアリングを握れば、コンチネンタルGTとコンチネンタルGT V8のちがいははっきりとわかる。2台は、ことなる性格のエンジンにあわせて独自のサスペンション・チューニングを施すことで、1台のクルマとしての完成度を高めているのである。
たとえば、W12はどっしりとした重厚感溢れる乗り心地に仕上げられている。ステアリングの手応えも重めに仕上げられているようで、発進時のエンジンのレスポンスも、そうした味付けに沿ったものとなっている。
いっぽうのコンチネンタルGT V8は、はるかに軽快な印象を与える。まず、エンジンのピックアップがいい。たとえエンジン回転数が2,000rpmを割り込むようなボトムエンドでも、スロットルペダルを踏み込むとただちに豊富なトルクを生み出し、2.3tのボディを軽々と加速させていく。
この良好なレスポンスに助けられ、コンチネンタルGT V8は箱根のタイトなワインディングロードでも、まったくもどかしさを覚えなかった。
いや、もっと正直にいえば、楽しくて楽しくて仕方なかった。なにしろ、次から次へとあらわれるコーナーのひとつひとつで、シャシーのポテンシャルをフルに味わえるほどのスピードに乗せることができるのだ。フラットトルク型のエンジンと聞くと退屈なイメージを持ちがちだが、6,000rpmで507psを生み出すこの4.0リッターツインターボV8は完全に例外。アメリカンV8とはひと味ことなる、粒の揃ったエグゾーストサウンドを奏でながら、トップエンドを目指して鋭く回転を上げていくそのさまは、官能的といっていいほど魅力的なものだった。
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ベントレー コンチネンタル GT V8に試乗(4)
宝は持ち腐れない
もっとも、いくらパワーがあっても、サスペンションがそれを受け止めきれなければ宝の持ち腐れ。かえってフラストレーションの元になりかねないところだが、その点でも、コンチネンタルGT V8は嬉しい驚きをもたらしてくれたのである。
誤解のないように付け加えておくと、ベントレーはスポーツカーではなく、グランドツアラーだ。だから、サスペンションも極端に締め上げられてはいないし、コーナーで攻め込んでいけばそれなりにロールもする。けれども、それらがすべてほどよくまとめ上げられていて、結果としておもうままに操ることができるのだ。
おまけに、豊富なサスペンション ストロークのおかげで、うねった路面でもロードホールディングが失われる気配はない。しかも、4輪駆動システムを採用するコンチネンタルは、強大なパワーを与えても一定のハンドリング特性を保ってくれる。
このため、たとえ4輪がジワリとスライドをはじめても、どこかにすっ飛んでいってしまうような不安を抱かずに済む。むしろ、その軽いスライドを満喫しながら、箱根の山々を駆け巡ることができたのだ。
別格だ
結論を先に言ってしまおう。
私の知る限り、コンチネンタルGT V8は間違いなく「The Best Handling Bentley」である。
ベントレーが、もともと運転手付きで乗る、ショーファードリブン用ではなくドライバーズカーとして誕生したことはご存知のとおり。このため、その巨体にもかかわらず、フライングスパーやミュルザンヌがワインディングロードで軽快な身のこなしをしめすことは、これまでに何度も体験してきた。
けれども、コンチネンタルGT V8は別格だ。まるでもっとコンパクトなスポーティーサルーンのようにレスポンスのいいハンドリングを楽しめる。だから、W12モデルとの外観上の差、そしてネーミングの差がほとんどないことがもったいないとおもえるほど、2台がもたらす世界観はことなる。
私だったら、コンチネンタルGT V8とはせずに、さしずめコンチネンタルGT スポーツとネーミングしたことだろう。
Bentley Continental GT V8|ベントレー コンチネンタル GT V8
ボディサイズ|全長4,806×全幅2,227×全高1,404mm(ドアミラーふくむ)
ホイールベース|2,746mm
ホイールサイズ|20インチ
エンジン|4リッターツインターボV8型
最高出力|373kW(507ps)/6,000rpm
最大トルク|660Nm/1,700rpm
駆動方式|4輪駆動(駆動配分 フロント40:リヤ60)
トランスミッション|8段オートマチック パドルシフト付き
0-100km/h加速|4.8秒
最高速度|303km/h
航続可能距離|857km
燃費(EUドライブサイクル 混合値)|10.5ℓ/100km(約9.5ℓ/km)
CO2排出量|246g/km
重量|2,295kg
トランク容量|358リットル
価格|2,166万円