マクラーレンMP4-12Cに試乗|McLaren
McLaren MP4-12C|マクラーレン MP4-12C
かつてないスーパースポーツをその手に!
試乗 マクラーレンMP4-12C
マクラーレンが量産スポーツカー市場参入への第1弾として発表した「MP4-12C」に、ついに試乗の機会を得た。イギリスはサリー州、ダンスフォールド飛行場のテストトラックから島下泰久氏のインプレション。
Text by SHIMASHITA Yasuhisa
フェラーリのライバルに、いざ乗り込む
F1の名門マクラーレンのロードカーといえば、有名なのは1991年に発表された、その名も「マクラーレンF1」だ。また、メルセデス・ベンツとのコラボレーションで開発、生産をおこなっていた「SLRマクラーレン」も、まだ記憶にあたらしい。
そんなマクラーレンが、ロードカー開発と製造を受け持つマクラーレン・オートモーティブの組織を一新して、量産スポーツカー市場へと参入する。その第1弾モデルとなるのが「MP4-12C」である。ひとくちに量産スポーツカーといってもセグメントはいくつもあるが、MP4-12Cが最大のライバルとして見据えているのは、フェラーリ「458 イタリア」だ。日本での価格は458イタリアの2,830万円にたいして、2,790万円とされる。
今回はこのMP4-12Cを、イギリスはサリー州のダンスフォールド飛行場のテストトラックと一般道で存分に試すことができた。ちなみにこのテストトラックは、あのイギリスの自動車番組「TopGear」で使われている所である。
あらためて至近距離で見たMP4-12Cは、おもったよりもコンパクトに感じる。実際、4,507mmの全長も1,909mmの全幅も、458イタリアよりわずかに小さいのだが、それは決して悪い意味でではないく、贅肉のないフォルムが、走りへの意欲をかきたてる。
タッチセンサーでディヘドラルドアを開け、太いサイドシルをまたいで室内へ。コクピットはやはりタイトだ。助手席との間隔が狭いのは、運動性能を重視して左右席間をギリギリまで詰めたせい。フロアにシフトレバーがないのも、ナビ画面が縦型なのも同様の理由だ。いっぽう、スカットルが低くウインドウ面積が広いため、視覚的には狭苦しさはない。斜め後方の視界も悪くないのは、この手のクルマでは例外的である。
キャビン背後に搭載されるエンジンはマクラーレン・オートモーティブ製となるV型8気筒3.8リッターツインターボで、最高出力600ps、最大トルク600Nmを発生する。過給ユニットが選ばれたのは、こちらもやはり小型軽量化につながることと燃費への配慮。ギアボックスは「SSG」と呼ばれる7段ツインクラッチタイプである。
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試乗 マクラーレンMP4-12C(2)
その完成度を探るべくギアをいれる
早速、走り出すことにする。シーソータイプのシフトパドルの右側を引いてギアを1速に送り込みアクセルを踏み込んでいくと、高出力のターボエンジンにもかかわらず、ピックアップは低速域から抜群。アクセル操作に忠実に発生するトルクのおかげで、日常的な速度域でもとても走らせやすい。
それでいて、さらにアクセルペダルを踏み込めば、まさにまわせばまわすほどにパワーが涌き出してきて、急速に勢いを増しながら8,500rpmという高回転域まで一気に到達するのだからたまらない。サウンドはカーンという甲高いものではなく、終始野太い低音で、そこは好みが分かれるかもしれないが、エンジン特性自体はスポーツカーの心臓として、非の打ちどころはないといっていい。
変速のダイレクト感も魅力だ。SSGにはプリコグと呼ばれる機能が搭載されていて、シフトダウンする少し手前でパドルを軽く引いておくとギアボックスが変速の準備にかかり、つづいて完全に引いた時には、まさに瞬時の変速をおこなうことができる。これが最高に気持ちいいのだ。
正直に言えば、ターボエンジンということでフィーリングには不安があった。しかし、これなら大満足。絶対的なパワーのみならずキレ味でも、スポーツ心臓への期待に十分応えるものになっていると断言したい。
しかしながらじつは、このパワートレイン以上に驚かされたのは、凄まじくハイレベルなシャシーの仕上がりであった。フットワークはもちろん、その乗り心地の良さには最初、呆気に取られてしまったほどだ。
ダンスフォールドの路面は結構荒れている。しかしボディがガチガチに硬く、それを土台にサスペンションがしなやかにストロークして、路面の起伏や凹凸をやり過ごしてしまうため、どんなにペースを上げてもコクピット内は平穏に保たれる。周辺の一般道でも印象は変わらず。路面の継ぎ目などを乗り越える時も、直接的な入力は完全に遮断されてしまう。
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試乗 マクラーレンMP4-12C(3)
例外的シャシーがもたらすもの
MP4-12Cの最大の特徴。それは、ボディの基本骨格にカーボンモノセルと呼ばれるCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)製シェルを使っていることだ。カーボンボディのスーパースポーツは、それこそSLRマクラーレンをはじめ、すでにいくつも例があるが、いずれも高価で生産台数の限られたものばかりであり、年産2千台の生産を目論む量産スポーツカーでは、いままでなかった。
そのメリットは軽く、高剛性ということ。458イタリアより全方位に少しずつ小さなサイズ、補機類の配置などをふくめて徹底的に合理化が追求された設計と相まって、MP4-12Cの車両重量はDIN表示で1,400kg台におさまっている。
それでいて、剛性感は圧倒的。サスペンションやエンジンなどが載る前後のアルミ製フレームをリジッド結合していることも相まって、今まで市販車では味わったことのないようなソリッド感だ。
サスペンションにも秘密がある。MP4-12Cの4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションには、じつはアンチロールバーは未装備。かわりに搭載されているのが4輪のダンパーを連関させて、車両姿勢を制御するプロアクティブ・シャシー・コントロールだ。路面からの入力をやんわりと受け流すいっぽうで、ロールやピッチングはしっかり抑えてくれるというわけである。
おかげでフットワークも感動モノ。ノーマル/スポーツ/トラックと用意されたモードを順に切り換えていくと、姿勢変化は確実に抑制されていく。それに軽量・高剛性のボディと、正確に動くサスペンションが相まって、コーナー進入時の挙動は、まさにおもいのままだ。その後の旋回姿勢も安定感は抜群。ミッドシップの優れた前後バランスにくわえて、プロアクティブ・シャシー・コントロールが、4輪を執拗に路面に押し付けてくれるおかげにちがいない。なにしろ、内輪で縁石を思い切り跨いでも、反対側のタイヤにはなにも影響が及ばないから、挙動の乱れは最小限に抑えられるのだ。
比類ない接地感と曖昧な動きを排したシャシーのおかげで、コントロール性も秀逸そのもの。狙ったラインに乗せるのが驚くほど容易だし、滑ろうがなにが起ころうが余裕をもって対処できる。
実際、ESCの介入を限定的にするトラックモードで、アクセルを深々と開けていけば、さすがにオーバーステア状態に入るのだが、それでも自然と、必要なだけのカウンターステアをあてながらクルマを前へ進めていくことができる。600psのミッドシップカーという響きから想像するシビアさとは、まるで無縁なのだ。
いかなる状況でもクルマを前に進めるトラクション性能の高さには、ブレーキステアの貢献も大きい。じつはMP4-12Cは機械式LSDは持たず、旋回時には内輪にブレーキをかける制御によって同様の効果を生んでいる。今や他社でも似たようなものが見られるが、このシステムはそもそもマクラーレンが98~99年にF1で使った技術である。
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試乗 マクラーレンMP4-12C(4)
マクラーレンのパッション
F1を想起させるといえば、ブレーキは急制動時にリアスポイラーを立ててダウンフォースを増やし、特に後輪の接地性を安定させる。いわばエアブレーキなのだが、空気抵抗で止めるのではなく、あくまでタイヤのグリップを最大限に使うことで制動力を高めているのが特徴的だ。
試乗が終わってふりかえってみると、強い印象を残しているのはエンジンよりもシャシーである。なによりまずエンジンのフェラーリにたいして、シャシーコンストラクターのマクラーレン。そんなF1で馴染みの図式はロードカーでも一緒である。
しかし、それは熱さが足りないという意味ではない。PRスタッフは、こんな風に表現していた。
「テクノロジーの追求、細部への徹底的な配慮など、私たちにはイタリアンブランドのそれとはちがった、マクラーレン流のパッションがあるんです」
実際、クルマ本体はもちろん、このMP4-12Cのみならず今後登場する予定の第2、第3のモデルの生産をおこなうために建設されたMPC(マクラーレン・プロダクション・センター)の、およそ自動車の工場とはおもえないような整然とした有り様を見ても、それは明らか。総帥ロン・デニス流の完璧主義が、すべてに貫かれている。これは情熱なければなし得ないことだろう。
圧倒的なクオリティや最先端のテクノロジーに魅せられ、凄まじいパフォーマンスに溺れるだけでなく、それを自らの手で御することに征服欲をかきたてられる人にとっては、MP4-12Cは最高の1台となるだろう。歓迎すべき、まったくあたしいスーパースポーツカーの誕生である。
McLaren MP4-12C|マクラーレン MP4-12C
ボディサイズ|全長4,509×全幅1,908×全高1,199mm
車輛重量|1,434kg
エンジン|3.8リッターV8ツインターボ
最高出力|600ps(441kW)/7,000rpm
最大トルク|600Nm/3,000-7,000rpm
0-100 km/h加速|3.3秒
トランスミッション|7段デュアルクラッチ
燃費|11.7ℓ/100km
CO2排出量|279g/km
価格|2,790万円